平成15年度 医学生物学概論 最終試験

 

[平成16年2月5日実施]


問題1.ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化反応の概要を述べよ。[10]

解答例)クエン酸回路を経て生成されたFADH2やNADHはミトコンドリア内膜にある電子伝達系に運ばれる。ここではまず水素化物イオン(H:)が取り出され、H:→プロトン+2eの反応が起こる。この電子は3種の呼吸酵素複合体、つまり、DADH脱水素酵素複合体、シトクロムb-c1複合体、シトクロム酸化酵素複合体や、ユビキチン、シトクロムcなどの可動型電子伝達体を決まった順番で移動していき、エネルギーを放出していく。この過程で、各呼吸酵素複合体ではマトリックス中の水からプロトンを取り出し、膜間部分に運び出す。こうしてできる内膜をはさんだプロトンによる膜電位や濃度勾配、つまり電気化学的勾配が生じる。この勾配に従ってプロトンが内膜上にあるATP合成酵素を通り抜けるのと共役してADPとPiからATPを合成する。最後にこのプロトンはO2と反応して水が生成する。


問題2.真核細胞の細胞膜断片にアダプチン、クラスリン、ダイナミンーGTPを加えると、クラスリン被膜小胞の出芽が観察できる。もし(A)アダプチン、(B)クラスリン、(C)ダイナミンをそれぞれ除いておいたら、どんなことが起こるだろうか。さらに(D)もし、細胞膜断片が原核細胞由来のものだとどうなるだろうか。各々の場合の結果を示す適切な選択肢を一つずつ選び、解答欄にその番号を記入せよ。(ただし同じ選択肢を複数回使う場合もありうる。)[10]

~選択肢~
1.クラスリン被膜ピット、クラスリン被膜小胞、いずれも形成される。
2.クラスリン被膜ピットは形成されるが、クラスリン被膜小胞は形成されない。
3.クラスリン被膜ピットは形成されないが、クラスリン被膜小胞は形成される。
4.クラスリン被膜ピットもクラスリン被膜小胞も形成されない。


(A)2 (B)4 (C)2 (D)4
下図参照、原核生物には飲食作用は無い。





問題3.次の図を参考にしながら中間径フラメントの構造について説明しなさい。次にこの構造が、他の代表的な細胞骨格の基本構造とどのような点で本質的に異なっているかを述べ、さらにその違いにはいかなる機能的意義が読み取れるかにつて自分なりの考えを述べなさい。[10]




解答例)アミノ末端の球状頭部、カルボキシル末端の球状尾部、中央の棒状領域からなる。2本の棒状領域は対になって巻きあい、コイル状のαへリックス構造をとる。この二重体が、非共有結合し四重体、さらにこれが両端や並列に非共有結合し(図1)さらによりあわさってロープ状の中間径フィラメントができあがる(図2)。中間径フィラメントは他の細胞骨格(微小管、アクチンフィラメント)と異なり、極性を持たない。この機能的意義は、安定した強固な構造をとることで特別細い神経軸索や機械的な力にさらされる筋細胞、上皮細胞において局所的にかかる力を分配し細胞を守る。




問題4.生物にとって、体細胞の通常の有糸分裂が、減数分裂の第一段階(減数分裂の第一分裂のところまで)と同じだと不都合なのはなぜか。その理由を説明しなさい。[10]


Essentialの問17-6と同じ問題
引用)減数分裂の第一分裂ののち、各娘細胞には二倍体量のDNAが含まれるが、実質的には各細胞は一倍体の染色体しか含まず(2コピーずつではあるが)、各種の染色体について相同染色体の一方だけを含んでいる(交差によってある程度の混在はある)。一対の母性、父性染色体上の多くの遺伝子はそれぞれ別の型になっており(9章)、これらの娘細胞は遺伝的に同一ではない。一方、有糸分裂を行う体細胞は、すべて遺伝的に同一である。減数分裂で生じる配偶子の役割は、有性生殖によって遺伝子を混ぜ合わせ、組み合わせを変えることであり、それには配偶子ごとに少しずつ遺伝的組成が異なっているほうが明らかに有利である。一方、体細胞の役割は同じ遺伝子を持つ細胞から生物体をつくり上げることなのである。




問題5.S期とM期の細胞を癒合すると、それぞれの核はどのようになるか考察しなさい。[10]





問題6.生涯のうちにヒトの体では約10の16乗回の細胞分裂が起こるのに、成人の体をつくる細胞の数は10の12乗個にすぎない。なぜこれらの数値が異なるのかについて説明しなさい。[10]


解答例)細胞には寿命が存在し、寿命を過ぎるとアポトーシスを行う。これは血球を脾臓のリンパ球が食べたり、骨細胞を破骨細胞が食べるなどにより行われる。
また、表皮etcにおいては細胞が角化して、核が消失すると剥がれ落ちやすくなる。こうして剥がれ落ちたのがあかである。以上のような機構により細胞の数は減少していく。


問題7.下の図は細胞内で並列して働く4種のシグナル伝達系をしめしたものである。図中( )に適する語を入れよ。[10]



(
Gタンパク) (アデニル酸シクラーゼ) (環状AMP(cAMP)) (IP3) 
(
Ca2+) (カルモジュリン) (ジアシルグリセロール) (アダプタータンパク) 
Rasを活性化させるタンパク質)(遺伝子調節タンパク)



問題8.次の文章で間違っている10箇所部分に下線を引き、訂正しなさい。なお、各訂正は最小範囲にとどめること。[10]

細胞膜はリン脂質の(→2)重膜であるため、多くの物質が細胞膜を通過できない。そのため、細胞内外の物質の移動や輸送に係わるタンパク質が細胞膜には存在する。受動的輸送に係わるものと能動的輸送に係わるものに大別できる。受動的輸送に係わるものの代表としてイオンチャネルが挙げられる。イオンチャネルは特定のイオンを選択的に通過させる。イオンの流れの駆動力は通過するイオンの細胞内外の濃度差と細胞内外の化学(→電位)勾配である。これらの差がつりあう方向にイオンはながれる。この関係はPiezzo(→ネルンストまたはゴールドマン)の式で表すことができる。イオンチャネルの中で、細胞内外の電位の変化によって開閉が制御されるものは電位依存性チャネルと呼ばれている。代表的なものは神経細胞や骨格筋細胞に多く存在している電位依存性Ca(→Na)チャネルである。このチャネルは、ある細胞内電位(閾値:threshold、約ー40(→-60)mV)をこえると開口する。さそり毒(→ふぐ毒)であるtetrodotoxinによってブロックされる。
受動的輸送にはトランスポーター(transporter)も重要はたらきをしている。小腸上皮細胞にとりこまれたグルコースを細胞外に運ぶグルコースエクスチェンジャーも受動的輸送担体である。
一方、能動的輸送としてADP(→ATP)の加水分解時に発生するエネルギーを利用するものが挙げられる。代表的なものとしてNa-Kポンプがある。細胞内にはNa(→K)イオンが多く、細胞外には(→Na)イオンが多い。イオンチャネル等を通してこれらのイオンの流出入が起こり、結果として細胞内イオン濃度が変化するが、これらをもとに戻すために濃度に逆らってイオンを輸送する。この担体によって輸送されるイオンの割合はNaイオン:Kイオン=2:3(→3:2)である。生体で生産されるエネルギーのかなりの部分はこのpumpを動かすために利用されている。

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