平成15年度「遺伝学」中間試験

(獲得)

平成15年12月16日(火)実施


1.下記の( )内に適当な用語・数字を入れて文章を完成しなさい。尚、括弧内に用語を挿入すべきものは(用  )、数字は(数  )としてある。[3×10=30点]
(1)ヒトゲノムは(数  )億塩基対のDNAから成る。
(2)3本のX染色体をもつ女性では、3本のうち(数  )本が不活化される。
(3)ヒトの交配は(用  )交配である。
(4)長い1世代、(用  )、変異遺伝子の致死効果などがヒトの遺伝を研究するときの制約である。
(5)変異アレルのヘテロ接合体なのにもかかわらず、野生型アレルからの遺伝子産物の形成を阻害する現象を(用  )という。
(6)遺伝医学で扱う対象サイズは大きい方から小さい方に向かって、分子遺伝学→メンデル遺伝学→(用  )→集団遺伝学である。
(7)染色体トリノミーではその染色体上の遺伝子量は(数  )倍である。
(8)遺伝学の理論的基盤は、メンデルの遺伝法則、(用  )、およびWatsonCrickのセントラルドグマ(中心教義)から成る。
(9)たとえ患者や家族が望まなくても、患者にとって最善と思われる医療を施す医師の態度を(用  )という。
(10)現代の生命倫理の4原則は、被害防止(nonmaleficence)、善行(beneficence)、正義(justice)、および(用  )である。

A.(1)30 (2)2 (3)選択(体格の似た人と結婚する傾向があるなど完全な任意交配とはいえない。) (4)少ない子供数 (5)優性阻害 (6)人類遺伝学 (7)1,5 (8)ダーウィンの進化論 (9)paternalism (10)患者の自主性(自律性)(autonomy
用語:
アレル:対立遺伝子
トリソミー:3倍体、21-トリソミーはダウン症
セントラルドグマ:DNAに含まれる遺伝情報が自らを鋳型として複製と転写を行い,転写産物であるRNAがリボソーム上でタンパク質に翻訳される,いわゆる遺伝情報の流れに関する分子生物学の基本原理のこと.




2.次の中から正しい文を3つ選びその番号を解答欄に記入しなさい。[3×5=15点]
(1)Hardy-Weinbergの法則においては、あるアレルの遺伝子頻度はホモ接合体の頻度にヘテロ接合体の頻度の半分を加えた値になる。
(2)Hardy-Weinbergの法則によれば、親の世代での遺伝子頻度が雌雄で0,8と0,2と異なる場合、子供の世代ではこの遺伝子頻度の雌雄比は4:1になる。
(3)選択交配は、近親交配に比べ、集団の遺伝的構成を変化させることが多い。
(4)親縁係数は、ある個体の持つ2個の相同遺伝子が、共通の祖先遺伝子に由来する確率である。
(5)集団サイズが小さくなると、その遺伝子構成は偶然的遺伝子頻度の浮動の影響を受けにくくなる。
(6)ある単一遺伝子病の原因となる変異が、ある集団で共通でない場合、瓶首効果の可能性が高い。
(7)致死的な遺伝子が集団内に高い頻度で維持されている場合があるが、これは雑種強勢で説明できる。
(8)アデニンからチミンへの変化をtransitionと呼ぶ。
(9)transitionよりtransversionの方が頻度が低い。
(10)1塩基置換ではシノニマス(synonymous)よりノンシノニマス(nonsynonymous)置換の方が置きやすい。
(11)ヒトのゲノム上のCA配列では突然変異が起きやすい。
(12)塩基の互変異性体でG:TやA:Cなどのプリン:ピリミジンのミスマッチが起きることがあるが、プリン同士のミスマッチが起きることはない。
(13)遺伝子変換では供与側の遺伝子の塩基配列が変化する。
(14)機能喪失変異では通常優性遺伝病となる。
(15)イントロン内の1塩基置換でスプライシングの異常が起きることはない。
(16)優性阻害変異では、遺伝子欠失よりも症状が重くなる。
(17)トリプレット病は分散型反復配列のリピート数の増加により起きる。


(1)○:(2)雌雄比は分からない。 (3)変化させやすい順に、近親>選択>任意 (4)近交係数の説明。 (5)逆。 (6) (7)雑種強勢→超優性(8)transversionと呼ぶ。(9)○(10)逆。そうでないと変異だらけになってしまう。(11)CG配列のが起きやすい。(12)(13)供与→受容(14)優性→劣勢(15)ない→ある。(16)ある→無い。(17)分散型→縦列型

用語:
Hardy-Weinberg
の法則:N人の個体からなる集団において、ある遺伝子座の2種類の対立遺伝子A1とA2の頻度をそれぞれpおよびqとする(p+q=1)。この座位において、任意交配が成立しているとすれば、次の世代では
A1A1=p^2 、A1A2=2pq 、A2A2=q^2 の関係が成り立つ。この関係は任意交配が続く限り幾世代重ねても不変である。
ホモ接合体:AAとかaaのこと。 ヘテロ接合体:Aaのこと。
親縁係数kinship coefficient: 集団の2個体I,Jで、個体I2対立遺伝子のうちの1つと、個体J2対立遺伝子の1つとが共通祖先Aの対立遺伝子から由来する確率である。 生物学的にはある祖先の遺伝子(同祖遺伝子)が減数分裂により厳密な複製が、個体I,Jに到達する確率である。 その経路には子孫の鎖があり、個体I,Jに至る子孫の数は必ずしも同じでない。
近交係数:1個体のある遺伝子座から2つの対立遺伝子を調べたとき、両者が同じ祖先の遺伝子に由来する確率。(親縁係数と違いに注意!)
雑種強勢:雑種が,総合的に,両親型よりも優れた生活力を示す場合を雑種強勢heterosisまたはhybrid vigourと呼ぶ。←→雑種弱勢
瓶首効果(ボトルネック効果):一時的に集団の個体数が減少すると、ヘテロ接合度(遺伝的異変)が減少し、他集団からの新固体の移住や、突然変異の蓄積などによって多様性が回復するまでに長い時間がかかる。個体数が元のレベルまで戻っても、ヘテロ接合度は低いままで推移することが多い。この様な現象を、瓶の首が細くなっている様子に例え、「ボトルネック(瓶首)効果」と呼ぶ。
transition
:プリン塩基(A,G)同士,あるいはピリミジン塩基(T,C)同士の置換 ←→transvertion:プリンとピリミジン間の置換
シノニマス置換:同義置換。アミノ酸に変化が無い。←→ノンシノニマス置換:非同義置換。(ミスセンス、ナンセンス塩基置換)
互変異性:ある有機化合物が互いに異性体である2つの異なる化学構造をとり,それらが容易に変換する現象を互変異性という.相対的な原子の位置が変わらず,電子の平均密度のみが変わる場合は,互変異性とは呼ばず共鳴resonanceという.


3.ある常染色体劣性遺伝病の罹患率が25万人に1人であった場合、保因者の頻度は何%か。また、この遺伝病の罹患率は、以下のような家系の両親、(A,B)の子(C)では、両親が近親関係にない場合の何倍になるか。それぞれについて、解答欄に記入しなさい。[5×2=10点]



A:優性遺伝子をA、劣性遺伝子をaとし、A,aの遺伝子頻度をそれぞれp、qとすると、罹患者はaa,保因者はAaとなる。aaの確率q^2=1/25万よりq=1/500 p=499/500 よって保因者の頻度は2pq=499/25万  0,1996
図より近交係数F=2・(1/2^7=1/64
よってaaの確率はq^2 + Fpq=(1/500)^2 + 1/64 × 499/500 × 1/500 = 563/500^2×64 ゆえに(563/500^2×64)/(1/25) = 8,8 倍

説明:こんな図がでてきたらこの式で。
標的人物から線をたどり、再び同一人物に帰ってくる経路を考えたとき、通過する人数をm、経路がn通りあるとすると、近交係数は F = n(1/2)^2 となる。AAの確率: p^2+Fpq 、Aaの確率:2pq-2Fpq 、aaの確率:q^2+Fpq となる。(下図参照。)




4.ある遺伝病の原因となる遺伝子の配列を決定し、健常人と患者の遺伝子配列とを比較したところ、遺伝子の非翻訳領域に下に示すような1塩基の置換が見られた(下線部)。この変異により起こる異常として最も可能性の高いものを次の中から選び、番号で答えなさい。[5点]

変異遺伝子の配列の一部:5'GGATTCTGCCTAACAAAAAACATTTATTTTTCA3'
正常遺伝子の配列の一部:5'GGATTCTGCCTAATAAAAAACATTTATTTTTCA3'

1)転写異常 2)スプライシング異常 3)ポリA付加異常 4)翻訳の異常

A: 3

5.主要組織適合抗原(MHC)につき、正しいものはどれか。以下の中から選んで、番号を解答欄に記入しなさい。[5点]

(1)ヒトでは第8番染色体上に存在する。
(2)その遺伝子領域は連鎖平衡にある。
(3)対立遺伝子排除を受ける。
(4)MHCの種類によって、ペプチドを収容する溝の構造が異なる。
(5)MHCクラス
分子の多型は主にα2、β2ドメインに存在する。

A:(1)8→6 (2)連鎖不平衡にある (3)TCRの特徴 (4)○ (5)β1にある。

16年度期末の4.の解説参照。

6.αβT細胞受容体(TCR)につき正しいものはどれか。下記の中から選んで、番号を解答欄に記入しなさい。[5点]

(1)TCRα遺伝子の場合N-region addition J-C junction におこる。
(2)遺伝子再構成を受ける。
(3)TCRα遺伝子は、TCRβ遺伝子より分化段階の早期に発現する
(4)自己反応性TCRは正の選択により除去される。
(5)その多様性は理論上10^5におよぶ。

A:(2)が○

16年度期末の4.の解説参照。

7.ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)とは、耐熱菌由来のDNAポリメラーゼを利用して、2個のプライマーにはさまれた鋳型DNAの一部を in vitro で増幅する実験技術である。この反応では、変性、プライマーと鋳型DNAのアニーリング、プライマーからのDNA鎖の伸長、の各ステップに適した温度のサイクルを繰り返す。今、ヒトゲノムDNAの一領域をPCR反応によって特異的に増幅しようとしたが、ゲル電気泳動で反応産物を調べたところ、期待した長さの産物以外に複数の短い副産物が観察された。より特異的な増幅反応を行うためには、以下のどの反応条件の変更が適切と思われるか。番号を解答欄に記入しなさい。[5点]

(1)プライマーの濃度をあげる。
(2)反応液中のマグネシウム濃度をあげる。
(3)DNAポリメラーゼの濃度をあげる。
(4)アニーリングの時間を長くする。
(5)アニーリングの温度を高くする。

A:(5)短い副産物は途中で切れたためである。温度を高くすると長さが短い副産物は2本鎖を形成できずに分解される。

用語:
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR):増幅したいDNA領域の2つの3′末端にそれぞれ相補的な2つのオリゴヌクレオチドプライマーを用意する.試料DNAを熟変性させ,次に温度を下げてプライマーとアニーリングさせた後,DNAポリメラーゼによりプライマーを伸長させる.この3つのステップからなる反応を繰り返して行うと,各サイクルの終わりで標的のDNA鎖のコピー数は倍加し,原理的にはn回のサイクル後には2n倍になる.
アニーリング:水溶液中で熱変性させ一本鎖化したDNAを相補鎖とともに融解温度以下まで徐冷すると,塩基間の水素結合が再構成され,二重らせん構造が復元する現象。その進行はDNAの塩基配列・組成,温度,時間,溶液のpH,イオン強度などの影響を受ける.


8.約4kbの環状(cirular)DNAをある制限酵素によって一箇所で切断して、線状(linear)DNAにした後、DNAligaseによって十分な時間再結合反応を行ったところ、ある割合で単量体環状DNA、多量体線状DNAおよび、多量体環状DNAが生じた。単量体環状DNAが生じる割合をより多くしたい場合には、以下のどの条件に変えてDNAligase反応を行えばよいか。最も適切なものを選択し、番号を解答欄に記入しなさい。[5点]

(1)DNAligaseの濃度を低くする。
(2)DNAligaseの濃度を高くする。
(3)DNAの濃度を低くする。
(4)DNAの濃度を高くする。
(5)反応温度を低くする。
(6)反応温度を高くする。

A:(3)濃度が高いほど多量体ができやすい。下図参照。



用語:DNAligase:DNAをつなげる。

9.Kleinfelter症候群の核型を記しなさい。[10点]

A:47XXY  48XXXY  48XXYY  49XXXXY  49XXXYY など。
用語:Kleinfelter症候群:X染色体が2個以上、Y染色体が1個以上が本質であり、臨床所見として, 1)矮小精巣, 2)無精子症, 3)性器発育の遅延, 4)女性化乳房,そして5)尿中ゴナドトロピン高値があげられるが、必ずしも典型的な症例を示すわけではない。


10.Crossing-Overについて知れることを記述しなさい。[10点]

乗り換え、又は交差(叉)のことで、相同染色体の相同な部位同士の間で染色体の切断と互い違いの再結合reassociationが起こり,それによって染色体の相対する部分が交換される現象.普通は減数分裂時に起こる相同染色体間の部分的交換をさすが,体細胞分裂時にも起こることがある.
ゲノム上で一つの連鎖群に属する遺伝情報群の組み合わせの変化をもたらし,子孫間のゲノム情報に多様性をもたらすという効果がある.染色体上の2点間で起こる乗換えの頻度は,その2点間の物理的距離と高い相関関係をもつが,必ずしも正確に比例するとは限らない.また乗換えは常に正確に相同部位で起こるとは限らず,ずれて起こることもあり,その結果遺伝子の重複(遺伝子重複)や欠失がもたらされる(不等交差unequal crossing over

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