平成16年度 「視器」 卒業試験

 

1.  (1)(5) 10

(1)緑内障の眼底所見で誤っているのはどれか?(視野検査のことだと思います)

 a.中心暗点  b.傍中心孤立暗点   c.弓状暗点  d.鼻側階段(鼻側欠損だったかも。)  e.鼻側穿破

<解答>a. これは黄斑部または視神経中心部の障害。

<解説>緑内障性視野変化の最初の徴候は視野感度の一般的な低下。視野変化の起こるときには既に網膜神経線維の50%が消失しているといわれる。初期緑内障で耳上側/耳下側の網膜神経線維障害がはっきりしてくると固視点を中心とする30°以内の鼻側側に様々な暗点が出現。緑内障における代表的な暗点を示す。

Seidel(ザイデル)暗点Mariotte blind spot(固視点より耳側15°)が上下方向に拡大する鎌形暗点。

傍中心(孤立)暗点Mariotte blind spotから傍中心領域に孤立して見られる。

Bjerrum(ブエルム)暗点(弓状暗点):傍中心暗点が鼻側に弓状に拡大。これは鼻側の水平縫合線で終わり、越えることはない(視神経線維障害は上下で非対称)Roenne(レンネ)の鼻側階段

 さらに進行すると、鼻側周辺の視野欠損と繋がる。上下方向に扇状の視野欠損となり鼻側半盲様になる。緑内障の周辺視野欠損の特徴は鼻上側/下側に起こりやすいということ。これは視神経乳頭の耳側の変化と一致。続いて鼻側視野欠損に加えて耳側も視野狭窄が始まる。緑内障では中心視野は最後まで残ることが多い(そのため末期まで自覚のない患者もいる)。中心視野が消失して耳側の視野が残り、最後はこれも消失して盲となる。

 

(4)正常眼圧緑内障で誤っているのはどれか。

a. 眼圧が22mmHgである。  b. わが国では、最も多い緑内障の病型である。

c. 治療の第一選択は眼圧下降である。 d. 確定診断には眼圧日内変動が必要である。 e. 高齢者に多い。

<解答>a.× 正常範囲は1021mmHg

<解説>b.○ 緑内障の半分以上が正常眼圧緑内障。

c.○ 治療は眼圧を正常眼圧ではなく健常眼圧(目の耐えられる眼圧)にコントロール。

d.○ 緑内障では眼圧の日内変動大なので、正常眼圧と診断するために日内変動が必要。

e.○ 40歳以降に増加を始め、6070歳代に最も多い。

 

(5)下垂体腺腫で認められる視野障害はどれか。

a.水平半盲   b.同名半盲   c.両耳側半盲   d.中心暗点   e.求心性視野狭窄

<解答>c. 腫瘍が上方に拡大すると直上にある視神経交叉部を圧迫するため。

 

2. (1)(5) 10

(1)正しいものを二つ選べ 選択肢はなし(二つ記入する)

a.糖尿病の初期から視力が低下する.    b.蛍光眼底造影検査が重要である

c.血糖コントロールで進行を阻止できる   d.単純糖尿病網膜症では治療に光凝固を用いる

e.進行すると緑内障や網膜剥離を引き起こす

<解答>b,e

a.× 視力低下の原因として、黄斑浮腫の発症(糖尿病黄斑症)・増殖性病変による硝子体出血や牽引性網膜剥離などがある。これらは全て病期が進んでから。次問題参照。

b.○ 蛍光眼底造影:(1)網脈絡膜の循環動態や網膜の血管構築 (2)動静脈及び毛細血管の局所の閉塞・毛細血管瘤・新生血管などの網膜血管病変 (3)網膜血管や網膜色素上皮にある血液網膜関門(blood-retinal barrier)の異常 (4)網膜色素上皮の萎縮・欠損などの異常を検索可能。

c.× 血管床閉塞などの組織変化を伴う病変は非可逆的であり、糖尿病のコントロールとは無関係に急性または慢性に進行する。

d.× 網膜の血管病変が軽度血管拡張や透過性亢進などの可逆的病変には、内科的治療により、出血/浮腫の吸収・硬性白斑の消退が期待できる。

e.○ 増殖網膜症の時期には牽引性網膜剥離や血管新生緑内障も起こることがある。

 

(2)糖尿病性網膜症の眼底所見として正しいものを選べ。

1.毛細血管瘤    2.硬性白斑    3.軟性白斑    4.新生血管

a.134    b.12    c.23    d.4のみ    e.14のすべて

<解答>e

<解説>以下は糖尿病性網膜症で見られる眼底の主要病変。

毛細血管瘤:糖尿病網膜症の最初に現れる眼底病変。原因は、血管の周皮細胞の減少による血管壁の脆弱化と内皮細胞の増殖。

網膜内出血:毛細血管瘤・毛細血管の破錠が原因。深層の出血は点状あるいは斑状を呈し、表層の出血は火炎状を呈することが多い。

軟性白斑:綿花状白斑のこと。主に後局部眼底に生じる。網膜神経線維層の細動脈、または毛細血管閉塞による局在性網膜乏血(神経線維の梗塞)。急性に発症し、3ヶ月以上かけて徐々に消失する。糖尿病性網膜症のほか、膠原病・高血圧性網膜症・網膜静脈閉塞症で見られる。

硬性白斑:血管外にでた滲出液の脂質が吸収されず、外網状層に貯留したもの。(1)網膜血管瘤などにより正常網膜に接して網膜浮腫がある場合(→持続的に透過性亢進と浮腫の再吸収があると境界部で脂質の沈着が生じやすい。糖尿病網膜症でしばしば。) (2)網膜浮腫の出現と再吸収の間に時間的にずれがある場合(腎性網膜症・視神経炎などで急性に網膜浮腫が生じ、寛解期に吸収される時に硬性白斑が生ずる。)

網膜内細小血管異常:血管床閉塞に隣接した部位に、網膜毛細血管の局所的な拡張と走行異常が見られる。

網膜浮腫:毛細血管瘤・毛細血管などの透過性亢進による漏出の結果生じる網膜全体の膨化。黄斑部の浮腫=嚢胞様黄斑浮腫(CME)は視力低下の大きな原因。

新生血管:進行した網膜症の視神経乳頭の表面や網膜面上に出現。網膜新生血管は初めは網膜内で発育、内境界膜を貫き、網膜表面に成長。

硝子体出血:新生血管が後部硝子体と癒着を生じた状態で硝子体剥離が起こり、新生血管が牽引され破錠する場合に起こる。この際牽引性網膜を生じる。

 

(3)裂孔原性網膜剥離の原因となるものを二つ選べ。

a.後部硝子体剥離    b.高眼圧    c.白内障    d.格子状変性    e.遠視

<解答>a,d

<解説>裂孔原性網膜剥離:網膜に生じた裂孔から液化した硝子体が網膜下に侵入・貯留するために生じる病態。裂孔の形成時に光視症や飛蚊症などの自覚症状を訴えることもあるが、多くは無症状。網膜裂孔には以下の2つの形態。

(1)加齢に伴うもの。硝子体の変性・凝縮により後部硝子体が網膜より剥離を起こすが、網膜硝子体癒着の強い部位で網膜が牽引され、網膜裂孔が形成される。

 (2)近視に伴うもの。眼軸延長・眼球容量増加に伴い神経線維の伸展が起こる。伸展により網膜は菲薄化(格子状変性と呼ばれる萎縮像)。変性内部は陥凹し、周辺部は硝子体と癒着しているため、変性内層では網膜円孔を生じやすく、その周辺も網膜裂孔を生じやすい。このような網膜円孔に伴う網膜剥離は2030歳代に多い。

 

(4)正しいものを選べ

1.網膜剥離はアトピー性皮膚炎に合併する。    2.網膜剥離は神経線維層内部での剥離である。

3.網膜剥離の手術後に複視を伴うことがある。4.網膜剥離の手術に硝子体手術をあわせて行うことがある。

(a)1,3,4 (b)1,2 (c)2,3 (d)4のみ (e)すべて正しい

<解答> a

 1.○ アトピ性皮膚炎の眼症状:アトピー性角結膜炎・円錐角膜・白内障・網膜剥離など。

 2.× 視細胞層と網膜色素上皮層との間に液体が貯留し、両者が分離した状態。

 3.○ 外眼筋の障害で複視になることもある。

 4.○ 滲出性網膜剥離:蛍光眼底造影や超音波などで原因疾患の鑑別をし、その疾患の治療。

   牽引性網膜剥離:糖尿病網膜症などによる硝子体内の増殖膜によるもの・未熟児網膜症によるものなど。硝子体切除術(下記参照)

裂孔原性網膜剥離:裂孔を発見し閉鎖。

光凝固・冷凍凝固・高周波電流による熱凝固(ジアテルミー)瘢痕組織の形成によって裂孔縁を癒着させる方法。

    網膜内陥術部分/輪状締結術。神経網膜を強膜に押し付ける。

    硝子体切除術網膜深部の裂孔・黄斑円孔などに対して。眼球の内側から収縮・虚脱した硝子体を除去。復位させた網膜部に光凝固を施行し裂孔を閉鎖。眼内はガス(SF6など)で満たす(術後2週間ほどで液体に置換される)

 

(5)網膜中心静脈閉塞症で正しいのはどれか。

1.原因として動脈硬化、高血圧が多い。  2.視神経乳頭を中心に放射状の出血を見る。

3.緑内障を合併することがある。  4.治療として網膜光凝固を行うことがある。

(a)1,3,4 (b)1,2 (c)2,3 (d)4のみ (e)すべて正しい

<解答> e   1.○ 2.○ 3.○ 4.○ 治療は光凝固、線溶療法、硝子体手術

<解説>

網膜静脈閉塞症の機序

 (1)動脈と外膜を共有し走行する部位(視神経乳頭内・動静脈交叉部)での、硬化した動脈からの圧迫による閉塞。増強因子として高血圧が関与。

 (2)慢性白血病・多血症などの血液粘稠性の亢進。

 (3)糖尿病・Behcet病・サルコイドーシスなどの血管壁の異常。

網膜中心静脈閉塞症について

 50歳以上の高血圧患者に好発。無痛性の片眼性の急激な視力低下。眼底には、視神経乳頭から放射状の火炎状出血。乳頭の充血・浮腫・網膜静脈の拡張蛇行・綿花状白斑が見られる。合併症として新生血管性緑内障は最も予後不良のもので重要。

原疾患の治療を行い、新鮮例では血栓溶解剤・抗凝固剤で出血の吸収を図る。しかし薬物療法の効果は少ない。新生血管緑内障の予防目的で、網膜を広範に凝固する汎光凝固術を行う(広範な血管床閉塞部位からの新生血管誘発因子を抑制)

 

3.ae10点)

黄斑変性に関する以下の文章中の(a)から(e)を埋めなさい。

(a)黄斑変性には少なくとも( )細胞の異常が関与している。

(b)本症の病態は( )新生血管である。  (c)( )まで至れば不可逆的である。

(d)本症の診断、治療方針決定には( )検査を行う。

(e)本症の治療には網膜光凝固、新生血管抜去、放射線療法、( )療法がある。

<解答>a網膜色素上皮 b脈絡膜 c d蛍光眼底造影 e光線力学

<解説>問題文が正確なのか不明。おそらく加齢性黄斑変性の話ではないかと。

 加齢性黄斑変性:原因不明。加齢に伴って発症する黄斑変性。血管新生を伴うものをwet type(滲出型)、新生血管を伴わないで網膜色素上皮の萎縮のみ示すものをdry type(萎縮型)という。前者は黄斑の加齢性変化に基づいて脈絡膜新生血管が発生し、出血・滲出を伴う。脈絡膜新生血管の検索は蛍光眼底造影法で行う。治療としては、なるべく早期に新生血管に光凝固を行い、閉塞。さらに硝子体手術で黄斑下の増殖血管膜を除去する手術を行う場合もある。また、最近では光線力学療法が欧米で本症の治療に用いられている。

必要かわかりませんが、QBに出題されていた黄斑変性として

 卵黄状黄斑変性:常染色体優性遺伝で、学童期頃に発症する。進行性で黄斑部所見は変化するが、黄斑部に卵黄状の黄白色調の滲出病変が認められる時期を経て、萎縮病変となる。

他の黄斑変性について

 錘体ジストロフィ:錐体細胞の変性が主体となる遺伝性疾患。進行性の視力低下・色覚異常。

 先天性網膜分離症20歳未満で診断されることが多く、進行性の視力障害を示すX連鎖劣性遺伝病。網膜表層の神経細胞層付近で網膜分離が生じ(蛍光造影で異常見られないこと多い)、特に黄斑部では放射状の襞形成を伴う。進行性でやがて黄斑部は萎縮。

 

4. 20点)

我が国の3大ぶどう膜炎とは、ベーチェット病、Vogt-小柳-原田病、サルコイドーシスに伴うぶどう膜炎をさす。このうちの1つを選び、病態、診断、治療について簡単に述べよ。

<解答・解説>

Behcet

病態:膠原病類似疾患のひとつで、全身性の小血管炎による多彩な病像を呈する。遺伝性素因でHLA-B51の保有率が高い(6070%)。男性若年発症で重症例多い。

主症状は口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍・皮膚症状・眼症状・外陰部潰瘍の4症状。

副症状は関節症状・消化器症状・副睾丸炎・血管炎症状・中枢神経症状。

以下眼症状を中心に(他症状については成書参照してください)

再発性のぶどう膜炎を起こす。前部/後部/汎ぶどう膜炎のどの型もとりうる。眼症状は男性患者の約8090%、女性患者の約70%にみられ、診断的な価値が高い。両眼性が約90%に見られる。

*前部ぶどう膜炎:非肉芽腫性虹彩炎であり、前房蓄膿がみられる。前房蓄膿の細胞成分は遊走した白血球であり、水平面を形成する。再発性前房蓄膿性虹彩炎と呼ばれる。合併症として、虹彩後癒着・虹彩萎縮・続発緑内障・併発白内障などがみられる。

中間部/後部ぶどう膜炎:網脈絡膜炎の形をとり、硝子体混濁がみられる。視神経乳頭の発赤,腫脹・網膜のびまん性浮腫・出血・滲出斑・網膜血管炎・血管白線化・嚢胞性黄斑浮腫などの多様な炎症症状が再発性にみられ、強い視力低下がみられる。蛍光眼底造影では、びまん性網膜毛細血管の拡張・透過性亢進・血管閉塞・血管新生などがみられる。再発性の網脈絡膜炎を繰り返すと、最終的には網脈絡膜萎縮・視神経萎縮・黄斑円孔などが起こり、網膜剥離・眼球癆などのため失明に至る。視力予後は女性のほうが良い。

診断:完全型主症状4つ全て。 不完全型3主症状、または眼症状と1つ主症状がみられる。但し、副症状2つで主症状1つとみなす(主2+副2でもBehcetと診断)

治療:眼症状の治療について。

ぶどう膜炎発作には消炎剤投与。

前部ぶどう膜炎に対しては消炎剤としてステロイド点眼薬。炎症が強いときには結膜下注射を用いる。散瞳薬も用いる。

後部ぶどう膜炎に対しては、発作期には消炎を目的にステロイド結膜下注射、あるいはテノン嚢下注射を用いる。

発作の抑制には白血球遊走を抑制するコルヒチン、免疫抑制薬であるシクロスポリンを用いる。コルヒチン・シクロスポリン併用で効果ない場合はステロイド薬併用を考えるが、ステロイド薬の全身投与が眼病変の悪化を及ぼす可能性があり、注意必要。

Vogt-小柳-原田病

病態:全身のメラノサイトに対する特異的自己免疫疾患。

症状:眼症状:両眼性急性汎ぶどう膜炎が見られる。急性期には前房内炎症細胞・乳頭浮腫・漿液性網膜剥離・網膜浮腫。回復期には色素脱失症状(夕焼け状眼底・角膜輪部色素脱失)が見られる。

全身症状:漿液性髄膜炎・平衡機能障害などの内耳症状(難聴・耳鳴り・めまいなど)・皮膚白斑・毛髪症状(白変・脱毛など)が見られる。

経過:

 前駆期:眼症状の出現の約1週間前に感冒様症状・頭痛・耳鳴り・めまい・微熱・嘔気・違和感・眼窩深部痛・眼痛などが前駆症状として見られる。これらに引き続いて、急激な視力低下を伴う眼症状が出現する。

 眼病期:眼症状は両眼同時発症が多く(63%)、片眼性発症も2週間以内に94%が両眼性になる。眼所見としてはほとんどが後部ぶどう膜炎で始まる。

  眼底後極部の脈絡膜炎による出性限局性の炎症性漿液性網膜剥離(全体の90%以上)・蛍光造影検査による脈絡膜からの多発性点状蛍光漏出が診断上重要。

  後部ぶどう膜炎の後、前部ぶどう膜炎(両眼に肉芽腫性虹彩毛様体炎)が起こる。全身的には髄膜炎・内耳機能障害がみられる。髄液検査により小リンパ球主体の増加は全体の)97%にみられ、診断上重要。

 回復期:発症後2ヶ月を過ぎて炎症は消退し始め、回復期に移行する。網膜下液が吸収され、80%の患者の視力が0.5以上に回復する。全身に色素脱失の症状が現れ、眼底は脈絡膜の色素脱失により眼底が赤く見える夕焼け状眼底となる。角膜輪部・毛髪・皮膚に色素脱失の症状がみられる。合併症として遷延化した虹彩毛様体炎・併発白内障・続発緑内障などがみられる症例では、視力予後が不良になる例もある。

診断:多彩な臨床症状の組み合わせによって診断。

 主症状として、(1)急性両眼性びまん性ぶどう膜炎 (2)蛍光眼底造影による限局性網膜剥離 (3)漿液性髄膜炎 が挙げられる。

治療:メラノサイトに対する自己免疫反応を抑制するために、ステロイド薬の大量投与による全身治療を行う。炎症の遅延が見られた場合、ステロイドの離脱が困難な場合には免疫抑制剤投与を考慮する。また、眼局所治療として、散瞳薬・ステロイドの点眼/眼局所注射を行い、炎症の鎮静化を図る。

 

サルコイドーシス

病態:サルコイドーシスは非乾酪性類細胞肉芽腫を特徴とする原因不明の全身性炎症性疾患である。

所見:

全身病変year noteなど参照してください。

 眼所見:ぶどう膜炎・網膜炎がみられる。

  前眼部所見(前部ぶどう膜炎):肉芽腫性病変としては、豚脂様角膜後面沈着物・虹彩結節がみられ、虹彩炎に引き続いて虹彩後癒着が起こりやすく、前後房の房水循環が障害され膨隆虹彩となり、続発性閉塞隅角緑内障を引き起こすことがある。また、隅角結節により線維柱帯を通しての房水の流出が障害され、続発性開放隅角緑内障が起きることもある。虹彩毛様体炎による細胞浸潤が硝子体に浸潤すると、雪玉様・真珠の首飾り様の硝子体混濁がみられる。

  眼底所見(後部ぶどう膜炎):網膜血管周囲炎(静脈の白鞘形成)・網脈絡膜滲出斑(ろうそくのしずく様)・網脈絡膜結節・網膜硝子体結節などがみられる。蛍光眼底造影によると、網膜血管からの透過性亢進がみられる。

症状:ぶどう膜炎による軽度の毛様充血・霧視・羞明・視力低下などがみられる。

診断:

治療:サルコイドーシスの治療の基本は消炎。

   前部ぶどう膜炎に対しては、散瞳薬・ステロイド薬の点眼。後部ぶどう膜炎に対しては、ステロイド薬の後部テノン嚢下注射・球後注射を行う。重篤な炎症では、ステロイドの内服を考慮。適応となる病態は、重篤な肉芽腫性ぶどう膜炎・視神経乳頭肉芽腫・硝子体混濁・黄斑浮腫など。治療効果の指標として血清ACE活性が用いられる。

 

5.5点)

代表的な眼内悪性腫瘍を2つ挙げ、発症年齢、頻度、腫瘍の色調を答えよ。

<解答>

網膜芽細胞腫発症はだいたい1~2歳で、5歳以上は稀。発生頻度は1.52万人に1人。色調は白色調。

脈絡膜悪性黒色腫発症はだいたい5060歳代で、発生頻度は0.25/100万人で、白人の7/100万人と比べると少ない。色調は褐色~黒褐色。

<解説>上記は問題様式に沿っただけのもの。以下補足。

 網膜芽細胞腫

  概念:未分化な網膜細胞に起因する眼内悪性腫瘍。遺伝性(13番長腕のRb遺伝子)と散発性の両方あり。白色瞳孔(腫瘍そのもの、または網膜剥離が水晶体の後方近くに存在する)がきっかけで発見されることが多い。

 症状:腫瘍が網膜内に限局している時期では、検眼鏡で白色隆起を確認。進行すると眼圧が上昇して角膜浮腫や結膜充血を呈することもある。

 眼外への転移には、視神経から頭蓋内に広がる経路と、脈絡膜浸潤から強膜を貫通する血管に沿って眼窩に広がる経路がある。転移すると他の悪性腫瘍と同様、生命予後不良。

 診断:腫瘍が網膜に限局している時期では眼底検査で容易に診断可。進行と共に網膜剥離や硝子体出血で眼底観察不可能となる。超音波診断やCTMRIが有用。実質性の腫瘤を確認。また石灰化をきたすこともあり、診断の補助となる。両眼性のことあるので、他眼の詳細な検査も必要。

 病理像としては、未分化型と分化型があり、後者はロゼット(腫瘍細胞の先端が内側を向いて菊花状に配列)を形成。網膜芽細胞腫が神経上皮性であるための特徴的所見。

 治療:片眼性では腫瘍が大きくなっていることが多く、眼球を摘出する。両眼性の場合、より進行した方の眼球を摘出、他眼は保存的治療(光化学療法・抗腫瘍化学療法・放射線療法など)。眼組織は一般的に放射線感受性が高いので、腫瘍部位を選択的に照射。

脈絡膜悪性黒色腫

概念:眼内では脈絡膜が好発部位で、成人の代表的な原発性眼部悪性腫瘍。脈絡膜悪性黒色腫は、ほぼ片眼性。眼底検査で網膜下に存在する褐色から黒褐色の円盤状腫瘤を確認。憎大すると網膜剥離を併発。腫瘍がBruch膜を破るとその部を茎としたキノコ状の増大を示す。

 症状:腫瘤が黄斑部に及ぶと視力低下。続発性の網膜剥離で視野欠損。

 診断:網膜剥離が高度なら、網膜後方の腫瘤が確認できない。超音波検査・CTMRIが有用。

 鑑別:脈絡膜の転移性悪性腫瘍。男性では肺癌、女性では乳癌が多い。転移性腫瘍は白色調、早期から網膜剥離を伴うことなどが鑑別点となる。

 治療:腫瘍が小さければ光凝固や光化学療法。放射性感受性は低いので適応はない。腫瘍が大きい場合・眼底が透過できない場合、眼球摘出。

 

7. (1)(5)5

(1) 反復性角膜びらんで正しいのはどれか?

 1 両眼性である。 2 外傷が誘因となる。 3 起床時に発症する。 4 血管侵入を生ずる。

a 1,3,4  b 1,2  c 2,3  d 4  e 14全て

<解答> c

<解説>再発性角膜上皮剥離、または再発性角膜びらんのこと。

原因:角膜上皮の接着不良。

診断:症状があるときには上皮が剥離しているので容易。寛解期には角膜染色で角膜の一部に接着不良の所見が見られることあり。

治療:再発時には抗生剤入りの眼軟膏を用い、安静にする。圧迫ぎみに眼帯を当てる。また、治療用のソフトコンタクトを短期間使用。痛みが消失した後は、ヒアルロン酸Na点眼後、低濃度Steroid点眼液を使用。就寝前には抗生剤眼軟膏を用いる。日常の注意点として起床時はゆっくり開眼するようにする。

 レーザー治療を行うこともある。但し、術後瘢痕を残すため、瞳孔領に病変がある場合は手術不可。

(2)角膜・結膜の感染防御機構に役立つ涙液成分はどれか。

1)分泌型IgA  2)ムチン  3)補体  4)リゾチーム

(a)1,3,4 (b)1,2 (c)2,3 (d)4のみ (e)すべて正しい

<解答> e

<解説>涙液層について

(1)油層:眼瞼瞼板のマイボーム腺から分泌。涙液の蒸散を防ぐ。

(2)水層:油性膜の下に本来の涙液の層がある。水が主成分で、電解質・アルブミン・免疫グロブリン・グルコース・リゾチームなどを含む。

(3)ムチン層:涙液層の最内層は、結膜の杯細胞などから分泌される粘液層。角膜上皮の表面は疎水性であるが、粘液が存在することによって涙液が角膜上に一様に広がることができる。

 

(3)Stevens-Johnson症候群でみられる眼所見はどれか。

1.眼球癒着  2.角膜潰瘍  3.角膜新生血管  4.涙液減少

a 123    b 12    c 23    d 4    e 1-4すべて

<解答> e

<解説>Stevens-Johnson症候群

多形滲出性紅斑の形での皮膚病変があり、粘膜が侵される急性疾患。薬剤・感染などにより誘発される。高熱・関節痛などの全身症状も呈する。治療は副腎皮質ステロイドの全身/局所投与。感染疑いの場合、抗ウイルス薬も投与。疾患全般に関してはyear note参照。

眼症状に関して。眼瞼は腫脹し、両側性に偽膜性結膜炎を見る。病変が強いと、眼球癒着や眼球乾燥症を起こす。

瘢痕性角結膜上皮症:Steavens-Johnson症候群や眼類天疱瘡では結膜上皮のみならず角膜上皮にも障害が及び、角膜に血管を伴った結膜上皮が侵入する。杯細胞が消失していることから上皮の分化異常が関与していると考えられる。

 

(5)Sjogren症候群の涙腺病理でみられるのはどれか?

  1 リンパ球浸潤  2 形質細胞浸潤  3 腺実質萎縮  4 導管上皮増殖

 a 1,3,4  b 1,2  c 2,3  d 4  e 14全て

<解答>e

<解説>原因不明。自己免疫学的機序が示唆される。外分泌腺(特に唾液腺と涙腺)に多数の炎症細胞の浸潤が見られる。病初期には細胞浸潤の主体はCD4+Thであるが徐々にBcell浸潤が増加。その結果腺房破壊と線維化をきたし分泌能低下。

 組織学的には、唾液腺や涙腺などの外分泌腺に慢性炎症が認められる。腺房は萎縮し、線維化、硝子化、脂肪組織へ置換される。また導管上皮は増殖することがある。(病理学第6版より)

 

8.ヒト正常角膜の断面を図示し、各層の名称を記せ。(5点)

<解答>

角膜上皮細胞:体表外胚葉由来。重層扁平上皮でV1脳神経終末が多数分布(角膜反射の求進路)。角膜上皮細胞のstem cellが角膜輪部の上皮基底細胞にあると言われている。

Bowman膜:上皮層直下の無構造の薄い膜。胎生期の角膜上皮が産生した組織といわれている。再生能はない。

角膜実質:神経堤由来の間葉。角膜の9割の厚さを占める。層状構造をなし、コラーゲン線維が規則正しく配列している。層状構造の間に角膜実質細胞があり、角膜が傷害されると活性化されて線維芽細胞となり、新たにコラーゲン線維を生成。しかしもともと存在したコラーゲン線維とは異なり、走行も規則的ではないので混濁を生じる。

Descemet膜:角膜内皮細胞の基底膜。円錐角膜が進行すると破れ、急激に角膜混濁が生じることがある。再生能を有する。

角膜内皮細胞:神経堤由来の間葉。内皮細胞は、(1)水分を吸って膨張しようとする角膜実質から水を前房へ汲み出すポンプ機能と、(2)房水から水の動きをコントロールする機能を有する。内皮の機能障害により、角膜に浮腫が生じて視力が低下する。ヒトの角膜内皮細胞は細胞分裂しないので、いったん脱落すると再生しない。

 

9.単純ヘルペス角膜炎の治療について述べよ。(10点)

<解答/解説>記述は治療のみでよい。

樹枝状角膜炎(上皮型角膜ヘルペス)

 概念:角膜上皮を侵すと小水疱形成後、破れて上皮欠損。これらの病巣は多発性で、通常融合あるいは連続して樹枝状を呈する。大きくなると地図状潰瘍。潰瘍自体は数週間~数ヶ月かけて自然治癒すること多いが、混濁や変形から治癒後に視力障害残すこともまれではない。

 症状:異物感・羞明・流涙。有痛性知覚麻痺も認める。フルオロセイン染色で細隙灯で観察下、樹枝状/地図状潰瘍認める。

 治療:IDU(イドクスウリジン)点眼・アシクロビル軟膏。ステロイドは禁忌。

円板状角膜炎(実質型角膜ヘルペス)

 概念:角膜実質に感染実質に浮腫混濁。ウイルス感染後の抗原抗体反応が原因。

 症状:症状は上皮型に同じ。重症化すると眼球内部に進展し、深部角膜炎(Descemet膜や角膜内皮細胞の障害)から角膜ぶどう膜炎に至る。

 治療:実質型は免疫反応が本態。ステロイド点眼、程度によっては全身投与。しかし、

上皮型の混在を否定できないため、アシクロビルなどの抗ウイルス薬の投与も必須。

 

10.

(2)白内障を最も続発しやすい疾患を2つ選べ

1 緑内障  2 ぶどう膜炎  3 黄性白斑  4 糖尿病網膜症  5 角膜白斑

<解答> 1,2   3番は推測も難。黄斑変性とする。

<解説>併発白内障:原因としてぶどう膜炎が最も多く、緑内障・網膜疾患・眼内腫瘍などがある。(標準眼科)

    併発白内障:長期にわたるぶどう膜炎・網膜剥離などの眼内病変に伴って、水晶体の栄養障害をもたらし白内障を発症することがある。(現代の眼科学)

   水晶体の栄養は房水が担っており、房水の性状の変化をもたらす病態を選べばよい。

 

(3)白内障を最も来しやすい薬剤を一つ選べ

1 ニューキノロン系抗生物質 2 アミノ配糖体系抗生物質 3ステロイド 4 降圧薬 5 高脂血症薬

<解答>3. ステロイド白内障は糖尿病性とともに後嚢下白内障の代表的なもの。

 

 

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