分子細胞生化学 平成14年度本試験

平成14年9月3日実施、試験時間は90分。解答用紙はB4白紙。裏面、2枚目も使用可。
傾向については、おなじみの問題があまりでなかったこと(3くらい)、用語説明問題が目新しいこと、が特筆すべきことでしょうか。


次の6問のうち4問について答えなさい。

1.動物細胞の細胞小器官を挙げ、それぞれの機能について簡単に述べなさい。
 核、ミトコンドリア、小胞体、リソソーム、リボソーム、ペルオキシソーム、ゴルジ装置など
 機能については省略

2.細胞内タンパク質の分解機構と分解産物であるアミノ酸からアンモニア及び尿素ができるまでを述べなさい。
タンパク質は合成された後、絶えず同時に分解されている。これを代謝回転といい、タンパク質では窒素の生体内への取り込みと生体外への排泄を考えれば、合成と分解のバランスを知ることができる。これを窒素平衡といい、(取り込まれたN)―(排泄されたN)と表す。
タンパク質の分解を触媒する酵素はプロテアーゼであるが、リソソームには酸性側に最適pHを持つ各種のプロテアーゼが存在する。これらのプロテアーゼは自食胞(細胞内タンパク質)、または異物食胞(細胞外からのタンパク質)によってリソソームに取り込まれるタンパク質を分解している。リソソーム系のタンパク質分解は主に寿命の長いタンパク質の分解に関わり、半減期の短いタンパク質の分解には細胞質のプロテアーゼが関与すると考えられている。細胞質のプロテアーゼには、ATPを必要とし、ユビキチンと呼ばれる小型のタンパク質が分解されるタンパク質に共有結合で多数結合した後に分解を行うプロテアソームがある。
分解産物のアミノ酸の分解は一般にアミノ基の離脱から開始する。アミノ基の離脱は(1)アミノ基転移反応、(2)酸化的脱アミノ反応、(3)非酸化的脱アミノ反応のいずれかによっておこる。また、アミノ基は加水分解反応でアンモニアとなる。
(1)アミノ基転移反応
ビタミンB6に由来するPLPを補酵素とするアミノ酸転移酵素によって触媒される。アラニン、アスパラギン酸などのアミノ基離脱をつかさどる。アミノ基転移酵素があり、そのほとんどはアミノ基受容体として2−オキソグルタル酸を使い、アミノ基は生成物であるグルタミン酸に集められる。
(2)酸化的脱アミノ反応
a.グルタミン酸デヒドロゲナーゼ
ミトコンドリアマトリックスに存在するグルタミン酸デヒドロゲナーゼにより、グルタミン酸から2−オキソグルタル酸とアンモニアを生じる。(1)と連続して働くと多くのアミノ酸のアミノ基をアンモニアとして遊離する結果となる。
b.グリシン開裂酵素
本来グリシンシンターゼと呼ばれるが、ほ乳類では逆反応(グリシンの分解)を触媒する。グリシンからアンモニア、二酸化炭素、5,10-メチレンFH4、NADH+を生じる。
(3)非酸化的脱アミド反応
a.セリンデヒドラターゼ
セリンはPLPを補酵素とするセリンデヒドラターゼによって分解すると考えられている。セリン←→ピルビン酸+水
b.ヒスチダーゼ
ヒスチジン←→ウロカニン酸+アンモニア
(4)脱アミド反応
グルタミナーゼ:グルタミン←→グルタミン酸+アンモニア
アスパラギナーゼ:アスパラギン←→アスパラギン酸+アンモニア

 アンモニア排泄には(1)アンモニア排泄性、(2)尿素排泄性、(3)尿酸排泄性がある。アンモニア排泄性は大量の水が必要となり、尿素排泄性は溶媒となる水が必要である。

3.代謝調節にはどのような機構がありますか。それぞれについて説明しなさい。
 (1)酵素タンパク質の量的変化:時間のかかる変動幅の大きい調節
 (2)酵素活性の質的変化:応答の早い変動幅の小さい調節
 (1)ある代謝産物が体内で増加すると、その代謝に関連する酵素タンパク質が量的に増加することがあり、この現象を酵素誘導という。量的変化は合成、分解の両方で調節されている。合成はmRNAを増減させる転写レベルの調節と翻訳レベルの調節とがある。分解はユビキチン/プロテアソーム系などの種々の加水分解酵素によって行われる。
 (2)a.基質および生成物の濃度による調節
 近平衡段階の酵素は、基質、生成物の濃度変化に鋭敏に反応して、反応速度が大きく変わる。非平衡段階の酵素のうち、基質によって飽和されていない酵素は、反応速度が基質濃度に比例して変化する。これらの反応では、基質や生成物の濃度変化で反応速度が速やかに変化するため、全体の定常状態の速度変化に順応しやすいが、自らが定常状態の速度を形成することはできない。
 b.アロステリック制御→可逆的結合
 酵素の活性部位とは別の部位に結合して酵素活性を変化させる因子をアロステリック因子という。細胞のエネルギーバランスの調節や代謝産物の過剰産生を抑制するフィードバック阻害に関与する。アロステリック因子によって調節されるアロステリック酵素の多くは基質濃度−反応曲線がS字形を示し、あるレベル以上の基質濃度の変化で活性が大きく変化する。
 c.酵素の修飾による調節
 共有結合や限定分解などの化学修飾によっても修飾される。もっともよく見られるのは、リン酸化/脱リン酸化による調節で、特異的な酵素(プロテインキナーゼ、ホスホプロテインホスファターゼ)によって、標的となる酵素の特定のアミノ酸がリン酸化/脱リン酸化される。

4.ケトン体の生成と分解について述べなさい。
 脂肪酸の酸化で生じたアセチルCoAの一部は肝臓のミトコンドリアでケトン体と呼ばれる一連の物質に変換される。
 2×アセチルCoA→アセトアセチルCoA→(HMG-CoAシンターゼ触媒)→HMG-CoA→アセト酢酸→アセトン、3−ヒドロキシ酪酸(アセト酢酸、アセトン、3−ヒドロキシ酪酸をケトン体と呼ぶ)
 ケトン体は末梢組織、特に心臓や骨格筋によりエネルギー源として利用される。飢餓状態などにより血中グルコース濃度が低い場合、糖尿病のようにグルコースの利用が効果的に行われていない場合に重要なエネルギー源となる。肝臓におけるケトン体の産生が組織による利用を上回ると血中のケトン体濃度が上昇してケトーシスが起こる。ケトーシスが高度になると血液のpHが低下してケトアシドーシスが起こる。高度の糖尿病患者はアセトン特有の芳香がする。

5.プリンヌクレオチドのde novoおよびsalvage合成について述べ、痛風の原因について説明しなさい。
 de novo…アミノ酸や二酸化炭素などから新たにプリン、ピリミジン塩基を合成する。
 salvage…分解代謝途上の塩基を再利用する。
 de novo合成
(1)PRPPに由来するリボース5−リン酸の1位の炭素にグルタミンのアミド窒素が転移
(2)グリシンと縮合
(3)N10-ホルミルFH4からのホルミル基の転移
(4)グルタミンのアミド基の結合
(5)開裂
(6)二酸化炭素の固定
(7)アスパラギン酸のアミノ酸の転移
(8)ホルミル基の転移
(9)脱水開環により、イノシン酸(IMP)を生じる。(ここまでに5個のATP)
(10)IMPからAMPとGMPが合成される。

salvage合成
 分解代謝系でヌクレオシド、ヌクレオチドは塩基になるが、塩基は再びヌクレオチドに再利用される。プリン塩基とPRPPからプリンヌクレオチドを合成する経路をsalvage経路という。
 アデニン+PRPP←→AMP+PPi
 ヒポキサンチン+PRPP←→IMP+PPi
グアニン+PRPP←→GMP+PPi

痛風
 HGPRTの部分欠損は痛風となる。血中の尿酸値が上昇し、拇趾などの小関節に尿酸ナトリウム塩が析出し、炎症を起こす。HGPRTの活性低下はヒポキサンチン、キサンチンをsalvage経由で再利用できず、分解系に行き、尿酸の合成が増加することによる。痛風は尿酸の合成亢進、腎臓からの排泄低下によって起こる。

6.次の生化学的用語について簡単に説明しなさい。
  (1)自殺基質 (2)シッフ塩基 (3)アノマー異性体 (4)補欠分子族 (5)Km値(酵素反応における)

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