代謝生化学実習レポート3 ヘモグロビン

平成14年5月7日実施

1.序論
ヘモグロビン(hemoglobin,Hb)はヘム(ferro-protoporphyrin\)とタンパク部分であるグロビン(globin)からなる複合タンパクであり、グロビンは通常4本のサブユニットからなっている。
A.ヘモグロビン誘導体の吸収スペクトル
ヘモグロビン、およびその誘導体はそれぞれ固有の可視部吸収を示し、分光学的に測定できる。臨床医学的にもメトヘモグロビン症、一酸化炭素中毒などの際、ヘモグロビンの鑑別に用いられることもある。
B.胎児ヘモグロビン(fetal hemoglobin,HbF)と成人ヘモグロビン(adult hemoglobin,HbA)の分離と性質
出生時、HbFは末梢血液の60〜90%を占める。出生後だんだんと流血中から減少し、4ヶ月後には痕跡的に存在するのみで、HbAにとってかわられる。サラセミア(Thalasemia)などの疾患においてはHbFが異常に多く合成され続ける。
@)CM-セファデックスによるHbAとHbFの分離
 HbFとHbAとはタンパク部分であるグロビンのアミノ酸残基が異なる。そのなかでネットチャージに関与するアミノ酸残基ではヒスチジン残基が異なっているから、イオン交換クロマトグラフィーにより分離できる。CM-セファデックスは一価の陽イオン交換体であり、carboxymethyl(CM)基がデキストランゲルに導入されたものである。
 CM-セファデックスのpK'は約4である。一方一酸化炭素ヘモグロビンの等電点は約pH7である。
A)アルカリ変性試験
 胎児ヘモグロビンは成人ヘモグロビンと比較して、非常にアルカリに対し抵抗性がある。ヘモグロビンにアルカリを加えるとヘム部はアルカリヘモクロモーゲンおよび、それが空気中の酸素により酸化されたアルカリヘミクロモーゲンの混合物に変化する。したがって吸収の変化によりアルカリ変性の程度を知ることができる。

2.実験
A.酸素ヘモグロビンと一酸化炭素ヘモグロビンの色を比較した後、酸素ヘモグロビン、一酸化炭素ヘモグロビンにそれぞれフェリシアン化カリウム(10mM)、ジチオナイト(粉末のままごく微量)を加え、それぞれを観察する。
 以下に示す五種類のヘモグロビンの、450〜650nmまでの吸光度を10nmごとに測定しグラフを作成する。
 (ただしピーク付近については5nmおき。)
(1) 酸素ヘモグロビン
(2) 一酸化炭素ヘモグロビン
(3) 酸素ヘモグロビンにジチオナイトを微量入れたもの
(4) 酸性メトヘモグロビン
(5) アルカリ性メトヘモグロビン
  このグラフから5種類のヘモグロビン誘導体の分光学的特徴を観察する。
B.(@)あらかじめ脱脂綿を詰めたカラムに0.05Mリン酸ソーダ緩衝液を3cmほど入れ、CM-セファデックス懸濁物をカラムに約3cmの高さにつめる。
CM用臍帯血1.5mlを加え、(吸着層が一様になるように注意して液をのせる。)0.05Mリン酸ソーダ緩衝液7.5mlで洗浄する。(流出する溶液は試験管3本に取る。)
ただちに60mM塩化ナトリウムを含むリン酸ソーダ緩衝液(pH6.0)を合計36ml加え、3mlずつ12本の試験管に分取する。
次に300mM塩化ナトリウムを含むリン酸ソーダ緩衝液(pH6.0)を12ml加え、試験管4本にとる。
各試験管の540nmでの吸光度を測定する。第二の山の中から吸光度がもっとも高い試験管を選び、第1の山からその吸光度の値に最も近いものを選ぶ。この2本の試験管を次のアルカリ変性試験の試料とする。
 (A) アルカリ変性試験
 上記の二つのヘモグロビン溶液2mlずつに水1.0mlを加え、418nmの吸光度を測定する。
 1NNaOH0.1mlをそれぞれの試験管に入れ、よく混ぜてから、直後と1,2,3,4,5分後に418nmにおける吸光度を測定する。

3.結果
 実験Aの結果
肉眼観察
(1) 酸素ヘモグロビンと一酸化炭素ヘモグロビンの比較。
→ 共に赤橙色。ただし一酸化炭素ヘモグロビンの赤みの方が強い。
(2) 酸素ヘモグロビンにフェリシアン化カリウムを加える。
→ すぐに溶液が薄黄色になり、赤褐色の沈殿が生じた。
(3) 酸素ヘモグロビンにジチオナイトを加える。
→ 溶液が薄黄色になった。
(4) 一酸化炭素ヘモグロビンにフェリシアン化カリウムを加える。
→ はじめ変化は見られなかったが、しばらくすると溶液が薄黄色になった。
(5) 一酸化炭素ヘモグロビンにジチオナイトを加える。
→ わずかに溶液の赤みが増した。
吸光度測定   ( )内の番号は上記「実験」の項に対応。グラフは省略。

波長(nm)
480
490
495
500
505
510
515
520
525
530
(1)
0.409
0.389
0.377
0.367
0.360
0.358
0.378
0.489
(2)
0.522
0.516
0.516
0.513
0.522
0.536
0.582
0.715
(3)
0.263
0.271
0.295
0.315
0.345
0.365
0.397
0.472
(4)
0.270
0.297
0.306
0.310
0.308
0.296
0.280
0.263
0.247
0.234
(5)
0.313
0.290
0.276
0.263
0.253
0.247
0.250
0.259
0.275
0.298

 

波長(nm)
535
540
545
550
555
560
565
570
575
580
(1)
0.552
0.582
0.560
0.487
0.416
0.385
0.403
0.470
0.543
0.500
(2)
0.771
0.782
0.731
0.661
0.616
0.624
0.664
0.697
0.643
0.514
(3)
0.517
0.583
0.634
0.683
0.696
0.678
0.648
0.598
0.537
0.484
(4)
0.219
0.205
0.186
0.164
0.146
0.136
0.129
0.127
0.123
0.121
(5)
0.319
0.329
0.323
0.301
0.278
0.268
0.271
0.283
0.293
0.290

 

波長(nm)
585
590
600
610
620
625
630
635
640
650
(1)
0.353
0.220
0.126
0.106
0.107
0.108
0.091
0.060
(2)
0.369
0.263
0.178
0.154
0.151
0.150
0.127
0.088
(3)
0.432
0.368
0.227
0.159
0.139
0.125
0.105
0.094
(4)
0.115
0.108
0.100
0.105
0.124
0.132
0.136
0.131
0.116
0.066
(5)
0. 273
0.252
0.218
0.164
0.106
0.087
0.007
0.059
0.048
0.033

 

 実験B-(@)の結果 グラフは省略。

試験管No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
吸光度
0.01
0.016
0.01
0.093
0.057
0.414
0.36
0.293
0.219
0.16
試験管No.
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
吸光度
0.114
0.084
0.063
0.045
0.037
0.033
0.193
0.083
0.036
0.018


以上の結果から、アルカリ変性試験にはHbAが極大値をとった17と、HbFの中で17と最も近い吸光度を示した9の試験管を用いることを決めた。

 実験B-(A)の結果 グラフは省略。

経過時間 滴下前 滴下直後 1分後 2分後 3分後 4分後 5分後
試験管No.9
1.533
1.493
1.470
1.453
1.439
1.428
1.419
試験管No.17
1.195
1.155
1.110
1.081
1.058
1.043
1.024


4.設問・考察
A.(1)酸素ヘモグロビンの鉄の原子価は2価である。

(2)実験Aにおいてフェリシアン化カリウムは酸化剤として働くため、(2)、(4)では酸素ヘモグロビン、一酸化炭素ヘモグロビン共に酸化され、鉄の原子価は+Vになって、酸素、一酸化炭素を離したメトヘモグロビンになっている。またジチオナイトは還元剤として働く。(3)では酸素ヘモグロビンは反応し、酸素が離れるが、(5)においては、一酸化炭素はジチオナイトの還元性(脱酸素性)に対して反応を示さない。

(3)鉄の原子量は55.85であるから、ウマのヘモグロビンには1molにつき223.4gの鉄が含まれている。
これ(223.4g)が0.335%なのだから、ウマのヘモグロビンは1molが223.4/0.00335=66686.56gである。よって、ウマヘモグロビンの分子量は 。

(4) 6.67×10^4g(1mol)のヘモグロビンは最大1.34×10^-3×6.67×10^4=89.36リットル、すなわち
(22.4で割って)4.0molの酸素と結合する。つまり、4molの鉄に対し、最大4molの酸素分子が結合するのだから、ヘモグロビンの鉄と酸素の間の化学量的関係は1:1である。

B.(@-1)一酸化炭素ヘモグロビンは酸素ヘモグロビンと比較して、結合が安定しており、光による解離が
起こりにくく、吸光光度法を用いた定量に適しているため。

(@-2)クロマトグラフィーとは混合物を分別・同定する技法の一つである。適当な固定層と展開剤を用いて、その中で気体または液体の試料を移動させると、各成分の吸着性や分配係数の差異による移動速度に差があるため分離されることを利用する。
 イオン交換とは、解離している交換体に溶液のイオンが近づくときに、同符号のイオンの間で起こる交換反応である。すなわち、二種類以上のイオンが存在するとき、それらが競合し、交換体に対する親和力の強い方が交換体と結合する。この親和力の差異によって生じる移動速度の違いによって分離を行うのがイオン交換クロマトグラフィーである。
 今回の実験では、緩衝液のpHは6.0で、HbCOの等電点pH=7.0、CM-セファデックスのpK=4.0であるので、HbCOは正、CM-セファデックスは負に帯電しており、HbCOはCM-セファデックスに吸着されている。NaClを含む緩衝液を加えると、 基に対し、Hbとナトリウムイオンが競合し、ナトリウムイオンがある濃度を超えると、Hbとナトリウムイオンが交換される。HbAとHbFを比較すると、等電点の値はHbAの方が大きいので、HbAのほうがHbFよりも強く正に帯電している。そのためHbFのほうが先に流出してくる。よって60mMのNaClでHbFが、300mMのNaClでHbAが流出することを利用して、HbFとHbAを分離できる。
 DEAE-セファデックスでは、DEAE基のpKは9.5なので、pHが6.0のときは正に帯電しており、HbCOもまた正に帯電しているので、吸着させることはできない。DEAE-セファデックスは、pH=7.0から9.5と条件を変えればHbCOが負に帯電することになり、HbCOを吸着する。

(@-3)グラフ2上にある二つの山の面積比がすなわちHbFとHbAの割合である。
   (No.4のデータは値が飛び出しており不自然である。そのためグラフを描く際には除外した。)
 1〜20の試験管は全て3mlずつ滴下液を採取したものであるので、吸光度から濃度に換算し、それを採取液中の物質量に換算する、という手段をとらず、吸光度の合計値を比較しても割合は変わらない。
 HbFが流出したのは主に試験管No.5〜16であり、HbAはNo.17〜20であるとすると、前者の吸光度の合計は1.879、後者は0.330である。よって、HbF:HbA=1:0.179 となる。

(A)変性曲線は2枚目のグラフ用紙のNo.3に示した。
序論にも述べたとおり、本来であればアルカリを加えると、HbAのヘム部がアルカリヘモクロモーゲン及びそれが空気中の酸素により酸化されたアルカリヘミクロモーゲンの混合物に変化する。従ってHbAの吸収は低下するが、HbFはアルカリに対し抵抗性があり、少なくともHbAほどには吸収が低下しないはずである。
 今回の実験では、HbF にも吸光度の低下が見られたが、グラフにも示したとおり、HbAの方がHbFよりも低下幅が大きいことが伺われる結果とはなった。


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