統合生理学実習レポート V.筋紡錘の機能

実施日 平成14年10月25日(金)

1.目的
   カエル縫工筋の筋紡錘から求心性活動電位を記録し、負荷重量と発火頻度の関係から筋紡錘の情報交換(伸長刺激→伸長受容器からの神経発火)の特性とその生理学的意義を理解する。

2.実験
(1) 食用ガエルの縫工筋を摘出し、チャンバー内に置き、Ringer液を添加して実験を行った。
(2) 負荷がない時の活動電位の自然発火を観察し、自発発火の特性を考察した。
(3) 負荷量を徐々に増やした時の、負荷量と発火頻度の最大値(相動性成分)の関係を両対数グラフにプロットし、筋紡錘の一次終末における情報変換特性を考察した。
(4) それと同時に、負荷量と発火頻度の安定値(持続性成分)の関係を片対数グラフにプロットし、筋紡錘の二次終末における情報変換特性を考察した。
(5) 同じ負荷量で負荷スピードを変化させた時の発火パターンを、相動性成分と持続性成分に注目して比較検討した。

3. 結果
 今回の実験では計器の調子が悪く、測定が途中までしかできなかったため、同時に実験を行ったもう一方の班の結果をあわせて掲載し、グラフ、考察はそれによって行った。

負荷量(g)
0
2
4
6
8
10
12
最大発火頻度(回)
6
10
46
86
93
120
129
安定発火頻度(回)
4.1
6.7
16.2
26.2
42.3
47.3
53
最大発火頻度(回)
79
116
安定発火頻度(回)
25.6
40.6


 0gから12gまで測定し、10g、8gと測定した段階で不具合が生じた。

 以下はもう一方の班の結果。実験(3)と(4)について。

負荷量(g)  
0
2
4
6
8
10
12
14
1回目上昇 最大発火頻度(回)
33
70
182
235
281
322
311
安定発火頻度(回)
29
47.5
88.4
124.9
142.1
157.8
163.5
1回目下降 最大発火頻度(回)
25
32
41
98
108
196
236
安定発火頻度(回)
16.6
23.4
28.9
48.1
66.1
103.7
128.5
2回目上昇 最大発火頻度(回)
35
65
126
143
201
228
203
安定発火頻度(回)
22.1
32.4
45.2
64.7
85.6
84
109.5

 実験(5)について。負荷量は6g。

負荷スピード
ゆっくり
中くらい
速く
最大発火頻度(回)
64
68
135
安定発火頻度(回)
32
31.1
45.4

実験のグラフは省略。

4. 考察
 上昇、下降、上昇と実験を進めた(3)、(4)について。
 特に相動性成分について下降曲線の順応が顕著に確認された。同じ重さのものを持つにも、その前にそれより重いものを持てば軽く感じるし、軽いものを持てば重く感じる、という経験が裏付けられた。2回目上昇の曲線が後半鈍っているのは筋肉の疲労のためであろうと考えられる。筋の疲労は乳酸の蓄積によって起こる。今回の実験ではRinger液を環流させるなどして酸素を供給しなかったため、筋細胞は十分な酸素が得られず、嫌気性呼吸を行った結果、乳酸が生じたと考えられる。
 また、〜6g程度まではStevense、Adrianの両法則を満たすほぼ直線上のグラフが得られたと言える。
 実験(5)について。
 負荷をかける速度を変えることによって変わるのは、はじめに負荷が増える加速度のみであり、安定時の負荷は変化しない。そのため、相動性成分が増加し、持続性成分は変化のないことが予想された。実験結果は、ほぼこれに矛盾しないものと言うことができるが、もし、これを厳密に行う場合には、負荷のかけ方を考え直す必要がある。今回の実験で行った負荷のかけ方では、負荷をかけるスピードがそれを行う者の主観によって決められるためである。
 この実験からは、相動性成分は瞬間の変化を、持続性成分は文字通り持続性の変化を感受する、ということが言えそうである。
 Weberの法則について。
 感覚の最小強度が生ずるのに必要な最小の刺激量差と基準刺激量の比は一定である、という法則。この時の比をWeber比という。
 筋紡錘1次終末における情報変換特性(Stevenseのべき法則)について。
 感覚の強さと刺激強度との間にべき関数が成り立つことを示す。様々な強度の刺激を不規則な順序で与え、被験者に任意の数値でその強度を評価させる、という実験を行い、刺激強度と得られた感覚とを両対数目盛上にとると、直線が得られ、勾配からべき数が求められる。べき数は痛覚などで1を超え、刺激強度の増加と共に感覚が加速度的に増す。聴覚、触・圧覚ではべき数が1未満であり、感覚の強さの強度は逆に減速される。視覚による長さの評価においてはべき数が1となる。Stevenseのべき法則はほとんどすべての感覚について適用されるが、感覚の強さの感じ方は個人差が大きい。
 今回の実験においては、直線でなく、S字上の曲線が得られたが、これは、Stevenseのべき法則が成立しないと言うわけではなく、グラフの端にあたる部分の刺激強度は、その生体のその部位において(今回はカエルの縫工筋)刺激強度を判別する意味のない強度、ということになる。(決してかからないような大きさの負荷について、その大きさを判別する必要はない)
作成したグラフの中央部分の直線はStevenseのべき法則に従う。
Adrianの対数法則について。
受容器に適当刺激が加えられる時、そえは種々の過程を経て一連の神経インパルスを引き起こすが、この際の刺激強度Iとスパイク頻度Fとの関係は、
F=a+blogI の式に従う。これをAdrianの法則という。

5. 設問
@受容器電位(起動電位)と活動電位の違いを説明しなさい。
 受容器で発生する連続性、脱分極性の電位変化を受容器電位、もしくは起動電位といい、これは感覚受容器によって物理、化学的エネルギーが電気的エネルギーに変換されているものである。
これが閾値を超えると全か無かの法則に従って、それ以上のどんな大きさの刺激に対しても一定の振幅を持つ活動電位が発生する。また、それ以下のどんな大きさの刺激に対しても、活動電位は全く発生しない。また、活動電位には不応期が存在するという特徴もある。これは、活動電位の発生した細胞に同じ強さの刺激を与えても、再び活動電位は発生しない、ということで、最大の刺激に対しても活動電位が発生しない絶対不応期と、より強い刺激を与えれば発生する相対不応期とがある。
 すなわち、受容器電位はアナログ性、活動電位はデジタル性の電位と言い換えることもできる。

A筋紡錘の一次終末と二次終末の情報変換特性の違いを説明し、生体が二種類の伸長受容器を備えているメリットを考えなさい。
 一次終末は動的な変化に反応する終末で、Ia群線維からできており、相動性成分の伝導、すなわち筋紡錘が緊張したという瞬間の変化の情報入力に関与し、Stevenseのべき法則に従う。これはなめらかな運動を行うのに不可欠である。これに対して、二次終末は静的な変化に反応する。II群線維でできており、持続性成分の伝導、すなわち筋紡錘が緊張状態にあるという持続的変化の情報入力に関与し、Adrianの対数法則に従う。
 このように、二種類の受容器を持つことにより、物理的、化学的変化と時間という側面とを巧みに合わせて感覚入力を行うことができている。

B錘外筋収縮時に観察される筋紡錘と腱紡錘からの求心性発火パターンの違いを、錘外筋と伸長受容器の機能的な位置関係から説明しなさい。
 筋紡錘と腱紡錘の機能的位置関係の大きな違いは、筋紡錘が錘外筋と並列に配列しているのに対して、腱紡錘が錘外筋と直列に配列している、ということである。錘外筋が収縮すると、直列に配列する腱紡錘が伸長して発火し、錘外筋が弛緩すると並列に配列する筋紡錘が伸長して発火するのである。
 これに対し、外力によって筋が引き延ばされた場合(膝蓋腱反射など)は、共に伸展し、発火する。

C伸長受容器が関与する代表的な単シナプス反射である「膝蓋腱反射」の反射経路とその意義を説明しなさい。
 膝蓋腱反射は、筋の伸長を刺激として受容し、その筋を収縮させる反射である、伸長反射の代表例である。伸長反射は筋紡錘で筋の伸長が受容され、筋長を一定にする方向に働くため、姿勢を維持するのに役立つ。そのため、抗重力筋、すなわち伸筋によく発達している。
 伸長反射は哺乳動物では唯一の単シナプス反射であり、筋紡錘からのIa群線維がその筋に最大の興奮をもたらす。伸長反射では協力筋も同様に収縮し、拮抗筋は弛緩する。(相反性抑制)
 伸長反射の反射経路であるが、まず、外部からの伸長刺激は筋紡錘によって受容される。(この場合大腿四頭筋の筋紡錘)これにより受容器電位が発生し、閾値を超えれば活動電位が生ずる。これがIa群線維によって伝達され、脊髄後角から入力、脊髄前角でα運動ニューロンにシナプス結合し、同名筋、協力筋の受動的収縮をもたらす。さらにインパルスは、抑制の介在ニューロンを介して拮抗筋のα運動ニューロンを抑制する。
D伸長受容器の機能が傷害される代表的な疾患であるパーキンソン氏病の(1)腱反射亢進、(2)振戦、(3)固縮、が起こる機序を説明しなさい。
 一部の筋を緊張させると、全身のγ系が緊張し、敏感になる。(膝蓋腱反射などの腱反射が亢進)
中脳、黒質緻密部にあるドーパミン産生ニューロンの障害によるドーパミン減少性の疾患で、持続的なγ系の緊張亢進が起こるのがパーキンソン氏病である。ドーパミンは新線状体に作用し、抑制性の神経伝達物質、GABAを放出させる。これが視床や脳幹に作用すると反射に対する抑制的作用が起こる。
この病気では、(1)まずγ系の緊張により腱反射が亢進するが、(2)症状が進むと伸筋と屈筋で交互に伸長反射が起こるために、無意識的なふるえである振戦が起こる。(3)さらに、これが常時起こるようになると、伸筋も屈筋も緊張したままとなり、固縮が起こる。パーキンソン氏病の徴候の一つ、無動症の状態である。

E外界からの刺激情報量と感覚量の関係を表した「Weberの法則」と、受容器への物理・化学的な負荷量と受容器からの求心性活動電位の発火頻度との関係を表した「Adrianの法則」の相似性から、感覚量の程度が末梢受容器における情報変換特性に依存していることがわかる。そこで、外界情報が最終的に感覚として認知されるまでのステップを外界情報→末梢受容器による情報変換(定性と定量)→求心性繊維→感覚中枢→感覚の認知、に分類し、各々の部位で発生する具体的な感覚障害の例を挙げなさい。
 肢を切断するなどした際に、肢の切断面などに刺激が加えられると、もうない肢に痛みを感じる、「幻肢痛」が生じる。これは、感覚路のどの部分が刺激されても、その刺激は感覚受容器のある場所への刺激として意識されるために起こる。インパルスの発生源で、インパルス発生を抑制すれば消失する。
 痛覚情報は脊髄視床路を通るが、視床が傷害されると、体に何の異常もないのに痛みを感じる「視床痛」が生じる。身体に異常はないため、通常の鎮痛剤は効果がなく、抗てんかん薬などで視床の活動を抑制する必要がある。
 感覚障害とは言えないが、関連痛についても述べる。
 内臓疾患で痛みを体表でも感ずることを関連痛という。侵害受容器からの求心性線維は脊髄後角のニューロンプールに終わるが、皮膚と内臓のプールは隣接しており、両方から収束のあるニューロンがある。中枢は、体性領域の痛みを内臓痛よりもはるかによく学習しているため、痛みは体性領域に投射されて、関連痛を生じる。そのため、関連痛の起こる臓器と皮膚の関係は一定しており、発生学的に同じ体節に由来する体表部位で関連痛は起こる。
 経路別の障害の例については視覚を例としてあげる。
・ 外界情報→末梢受容器による情報変換
近視、遠視、乱視、色盲(末梢受容器の機能不全や欠落などによる)
・ 末梢受容器による情報変換→求心性線維
視野欠損(求心性線維の切断など)
・ 求心性線維→感覚中枢
視野欠損(半盲症等)(同じく。神経線維の切断などによる。)
・ 感覚中枢→感覚の認知
視覚失認

参考文献 生理学テキスト(大地陸男著、文光堂)
     標準生理学(本郷利憲ら編集、医学書院)

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