平成13年度 細胞・システム生理学 最終試験

平成14年3月4日実施

1. 酸素、二酸化炭素、ナトリウムイオン、カリウムイオン、水、グルコースの人工リン脂質二重膜に対する透過性を述べ、生体膜はどのような機構で、これらの物質を移動させるのか説明せよ。

 人工皮質二重膜に対する透過性は一般に、脂溶性が高い(非極性が高い)ほど、分子が小さいほど大きくなる。酸素や二酸化炭素は非極性で小分子であるため比較的透過しやすいが、小分子であるが極性を持つ水は酸素や二酸化炭素よりも透過性が低い。これに対し、極性を持つ大型の分子であるグルコースや電荷を持つイオンNa+、K+はほとんど膜を通らない。特にイオンの透過性は低く、水の10^9分のである。
 生体膜は、自由に膜を透過できないグルコースやNa+、K+も特殊なタンパク質で透過させる。グルコースは腸上皮細胞に見られるように、頂上部の膜でNaイオンの駆動力を利用したシンポート系で細胞内に取り込み、基底部で運搬体タンパクによって濃度勾配に従って細胞外へ送り出すNa+、K+透過性の変化は活動電位の発生に必須であり、その場合Na+やK+は電位依存性のチャネルを通過する。また、ATPの加水分解によるエネルギーを利用して細胞内Na+やK+などのイオン環境を維持する。この時1分子のATPを消費して3つのNa+を細胞外へ、2つのK+を細胞内へ輸送する(Na+−K+ATPアーゼ)。


2. シナプス前抑制のメカニズムについて2つ列挙し、それぞれについて伝達物質放出のどの課程をどのように抑制するのか具体的に書きなさい。

Presynaptic inhibition
 1 GABAb抑制
 2 シャント効果(GABAa受容体を介する)

活動電位の伝播
 @膜電位依存性Na+チャネル開口
 A神経終末(膜)の脱分極(V=IR)
 B膜電位依存性Ca2+チャネル開口
 C神経終末内Ca2+上昇
 D終末内Ca2+依存性カスケードの活性化(CaMKU→シナプシンの切断など)

GABAによるPresynaptic inhibitionとしては、
@GABAbによるG蛋白を介するCa2+チャネルの活性化抑制によって終末内へのCa2+流入量減少。
AGABAa受容体Cl-チャネル開口による膜抵抗減少によって、NaチャネルからのNa+流入による電流(I)が発生しても、Rが大きく減少するため、終末が十分に脱分極せず膜電位依存性Ca2+チャネル活性が抑制され細胞外から終末内へのCa2+流入が減るため。


3.次の1)〜3)の骨格筋についての問いに答えなさい。
1)生体内において収縮速度の速い筋の代表として眼輪筋、遅い筋として肛門括約筋があります。その違いを各筋を支配する運動神経細胞の特徴という観点から記述しなさい。

 ・収縮の速い筋の支配運動細胞(速筋=白筋)
@相動性(plasic)α運動ニューロンと呼ばれる。
A後過分極の持続時間が長いため高頻度の発火が可能。
B高頻度発火を筋に伝えるため反回抑制が少ない(弱い)。
C錐体路系による支配が強い。

 ・収縮の遅い筋支配運動細胞(遅筋=赤筋)
  @持続性(緊張性、tonic)α運動ニューロンと呼ばれる。
A後過分極の持続時間が短いため、発火頻度が遅い。
B一定の頻度発火を筋に伝えるため反回抑制が強い。
C錐体外路系による支配が強い。

2)魚の切り身を見たらよくわかりますが白身と赤身があります。@この色の違いは何に起因するのか、Aこれら両筋肉の機能の差はどうなっているのか記述しなさい。

ミオグロビン含有量
ATP産生
疲労
収縮速度
赤筋
多い
酸化的解糖能が高い
(安定したATP供給可能)
しにくい
遅い
白筋
少ない
酸化的解糖能が低い
しやすい
速い

3)神経標本を浸した細胞外液中にカドミウムイオン(Cd2+)を投与して神経のみを刺激しました。このとき骨格筋の収縮はどうなりますか。その主な理由を書きなさい。

収縮しない(収縮は弱まる)
理由)運動神経終末に存在する膜電位依存性Ca2+チャネルの活性が抑えられるため、一部または全部の神経筋接合部において伝達がブロックされるか放出されるアセチルコリンの量が減少し、筋細胞に活動電位を起こさせるために十分な大きさの終板電位が発生しない終板が出現してくるため。


4.単一単位平滑筋と複合単位平滑筋についてそれぞれの特徴を述べよ。

単一単位平滑筋:膀胱、小血管と腸管。神経支配とは全く関係のない活動電位を持つ自律性活動(ペースメーカー)あり。ギャップ結合で相互に連絡。
複合単位平滑筋:気管、大血管、輸精管と瞳孔筋。固有の自発活性を示さない。(外からの神経支配に依存)。


5.ヒト骨髄における赤血球造血調節機序について述べなさい。

血液酸素濃度が低下すると腎間質細胞からエリスロポイエチン(EPO)が産生され、骨髄の造血幹細胞から分化した赤芽球系前駆細胞表面に存在するEPO受容体に結合し、そのシグナルが核に伝達され、赤芽球系細胞の分化・増殖を促す。


6.心筋が収縮する際に先だって発生する活動電位を図示し、この活動電位の形成にあずかるNa、Ca、Kイオンの心筋細胞膜を横切る動きを図示せよ。


7.有効循環血液量(血管内血流量)が減少し、腎を流れる血液量が低下したら、JG細胞からレニンが分泌された。このレニン分泌反応が、循環血液量の低下を回復させるメカニズムをキーワードを用いて説明しなさい。文中のキーワードには下線を施すこと。
(キーワード)糸球体に入る輸出細動脈、水、Na+再吸収、副腎皮質の顆粒細胞、飲水

 レニンは酵素であり、血中でアンジオテンシノーゲン(レニン基質)に作用する結果、アンジオテンシンTが生成する。アンジオテンシンTは、主に肺循環系における血管内皮細胞に存在するアンジオテンシン転換酵素の作用によりアンジオテンシンUに転換される。腎に対するアンジオテンシンUの作用は、(a)輸出細動脈を収縮させ、GFRを増加させる結果、尿細管周囲毛細管の静水圧の低下(血管から水を押し出す圧力が低下)、尿細管周囲毛細血管を流れる血漿の蛋白濃度の上昇(膠質浸透圧の上昇:血管内に水を引き込む力の増加)をもたらし、これら2つは近位尿細管における水、Na+再吸収に有利に働く(輸入細動脈を収縮させる作用は、拡張効果のあるプロスタグランジン生成により拮抗されるので、輸出細動脈のみが選択的に収縮する、とされている)。(b)直接、近位尿細管に働いて、Na+、水再吸収を増加させる。(c)副腎皮質の顆粒細胞におけるアルドステロンの合成、分泌を増加させる。アルドステロンは、遠位尿細管におけるNa+、水再吸収を増加させる。
 これらの結果、尿量は減少し、体液量は増加する方向に変化する。さらに、アンジオテンシンUは、血液−脳関門のない領域から中枢神経内に入ると、のどの渇きの感覚を引き起こし、水を飲む行動を起こさせ、体液量を増加させる。


8.肺機能を評価する上で、肺胞気と動脈血の酸素分圧の差を検討することは重要な要素である。動脈血の酸素分圧は動脈血を採取して実測できる。一方、理想的な肺胞気は存在せず、肺胞気式を用いて平均肺胞気の酸素分圧を算出する。下記の肺胞気式を導け。


9.強酸(塩酸)が胃内に分泌されるにもかかわらず、胃粘膜は侵襲を受けないが、この胃粘膜の保護機構について、以下のキーワードを用いて解説せよ。なお解説文中には、使用したキーワードに下線を施すこと。
(キーワード)粘液、胃粘膜血流、細胞回転、重炭酸イオン、酸の逆拡散、脂質バリアー、表面張力、プロスタグランジン、サイトプロテクション、細胞増殖帯

 胃粘膜の保護機構に関しては、種々の仮説が提案されているが、現在では、以下のように考えられている。まず、胃粘膜の表面は、粘液が覆い、その粘液層下には表面上皮細胞から分泌された重炭酸イオンが蓄積している。従って、粘膜の上部には一種のアルカリ性の緩衝層が存在し、分泌された塩酸はこの粘液・重炭酸層にて中和されている。胃腔内のpHが1.0〜2.0であるとき、粘液層下の表層上皮細胞表面でのpHは約6.0〜7.0であり、ほぼ中性であることが証明されている。つまり、粘液内ではpH勾配が存在し、粘膜上皮細胞は胃酸による傷害作用を受けない。また、粘膜表面には、脂質成分からなす脂質バリアーが存在し、水溶性である塩酸は粘膜上皮細胞には接触しにくいことも証明されている。この脂質性のために、塩酸液は高い表面張力を保持し、球系を維持するために、粘膜層に近接する部分が少ないことになる。つまり、塩酸液は粘膜からはじかれた存在となっている。粘液・重炭酸イオンバリアーと脂質バリアーのために、分泌された胃酸は胃粘膜内に逆拡散できず、その浸食作用は最小限に止められている。また仮にバリアーが一部破壊された場合、例えば、エタノール、アスピリンの服用などの場合、粘膜内に胃酸が逆拡散しても、胃内を還流する豊富な胃粘膜血流に取り込まれて中和されて、無毒化される。
 胃粘膜の上部3分の1の部分に、細胞増殖帯と呼ばれるところがあり、ここから胃腺部の種々な細胞が増殖・分化する。一部は上皮細胞となり、粘膜上部に移動し、一方壁細胞、主細胞、内分泌細胞は下方に移動する。この増殖帯での分裂速度は速く、つまり、細胞回転は急速であり、表面上皮細胞は、3〜4日での生存期間で胃内腔に脱落、排除される。このため、胃酸により細胞が少々障害を受けても、その細胞はただちに、胃腔内に排除されるために胃粘膜の傷害としては残らないことになる。つまり、粘膜表面は常に正常細胞に覆われていることになる。
 胃粘膜では、食物やアルコール分の摂取により内因性プロスタグランジン類の産生が刺激され、胃粘液や重炭酸イオン分泌の亢進、胃粘膜血流の増大、脂質バリアーの強化など、その作用を発揮する。また、外因的に投与した各種プロスタグランジンは、各種の粘膜壊死物により発生する胃粘膜傷害を強力に阻止する作用を有している。このプロスタグランジンの胃粘膜細胞保護作用をサイトプロテクションと呼ぶ。


10.男女両者のゴナドトロピンの生理作用について書きなさい。

ゴナドトロピン
卵胞刺激ホルモン(FSH)…卵胞の成長を刺激
黄体化ホルモン(LH)…卵胞の黄体化、排卵の誘起

女性 教科書参照

男性 LH:主にライディッヒ細胞に作用
      ライディッヒ細胞の成熟促進
      アンドロゲン放出促進
FSH:主にセルトリ細胞に作用
   セルトリ細胞の成熟促進
   インヒビン放出促進
   アンドロゲン結合蛋白放出促進


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