平成14年度 細胞・システム生理学 後期試験

平成14年12月13日実施、試験時間は120分。解答用紙は4枚。番号を記入して、1にT〜V、2にW〜Y、3にZと[、4に\と]。問題用紙、解答用紙ともに大きさはA4で、解答は裏面も使用可。

【T−T】胃排出の促進と抑制に関与する受容体に関して(@〜I)の中に適当な語句を記入せよ。
・食物による(@胃拡張)が受容体を刺激し排出を(A促進)する。
・近位十二指腸の(B酸)を感受する受容体は排出を(C抑制)する。
・十二指腸の(D浸透圧)を感受する受容体は排出を(E抑制)する。
・空腸の(F脂肪)を感受する受容体は排出を(G抑制)する。
・十二指腸から空腸全体に分布する(HL−トリプトファン)の受容体は排出を(I抑制)する。

【I−U】次の@〜Sに適当な語句を記入せよ。但し、DHIは以下の語句から選択しなさい。
[語句:高い、低い、内、外、脱分極、過分極]

血糖値を下げる唯一のホルモンは(@インスリン)である。(@)は膵島に存在するβ細胞から分泌されるが、(@)分泌の量も重要な生理的刺激物質はグルコースである。(@)はその前駆物質である(Aプロインスリン)からプロセシングを受けることによって、(BCペプチド)とともに産生されるが、それぞれが等モル分泌されることから、(B)はβ細胞からの(@)分泌能力の指標として、しばしば臨床で測定される。それでは、グルコースはどのような機序で(@)分泌を促進するのだろうか?現在最も広く受け入れられている考え方は代謝説である。すなわち、血糖値が高くなるとグルコースはβ細胞の膜上にあるグルコーストランスポーター(CGLUT2)を介して細胞内に取り込まれる。(C)はグルコースに対する親和性が(D低い)ため、高い血糖値に応じて細胞内にグルコースが取り込まれるという特性を有している。取り込まれたグルコースは細胞内で代謝されて(EATP)が産生されるが、それによる細胞内(E)レベルの上昇が分泌を引き起こすというのが代謝説の考え方である。(E)の作用部位として様々な標的が考えられるが、その一つとして(FATP感受性カリウム)チャネルがある。細胞のカリウムイオンの平衡電位は約(G-90)mVであるが、β細胞の静止膜電位は-70mV前後であるため、非興奮時においては、カリウムイオンは(H外)向きに流れている。従って、細胞内(E)が上昇するとこの(F)チャネルが閉じるために細胞膜は(I脱分極)し、その結果(J電位依存性Ca)チャネルが開くために細胞外から(KCa)イオンが細胞内に流入し、(@)の開口放出が惹起される。

【U】モルモットの小腸から約1cmの腸管を摘出し、マグヌス装置を用いて腸管の収縮・弛緩運動に与える薬物の効果を観察したところ、アセチルコリン(ACh)の投与で腸管が強力に収縮した。このAChによる収縮はテトロドトキシンでは抑制されなかったが、アトロピンで著明に抑制された。一方、ニコチンを投与するとAChと同様に腸管を強力に収縮させたが、ニコチンによる腸管の収縮は、アトロピンだけでなくテトロドトキシンでも抑制された。ニコチンが腸管を収縮させるメカニズムについて、上記の結果をもとに考察しなさい。
《解答例》
平滑筋はムスカリン受容体を有するので、AChによりムスカリン受容体が活性化されると、収縮がおこる。このときテトロドトキシンが無効なので、平滑筋のAChによる収縮にTTX感受性電位依存性Naチャネルは無関係であることが示唆される。一方、ニコチンの場合、ニコチン応答がアトロピンで抑制されたので、ニコチンが内在性のACh遊離を惹起して、そのAChが平滑筋を収縮させると考えられる。ニコチンの応答はTTXで抑制されたが、TTX自体はAChによる平滑筋の収縮には影響しないので、TTXはAChの遊離を阻害したと考えられる。結諭として、腸管には腸神経系があるので、この神経細胞の細胞体にニコチン受容体があり、これが活性化されることにより、活動電位が起こって神経終末部に伝導して、終末部からAChが放出されたと考えられる。

【V】毎日インスリン注射を行っている糖尿病の人が、発熱して食事もとれなかったので、インスリン注射を中止したら、だんだんと無気力になり、嗜眠状態になってきた。この人の血糖値は、正常よりもかなり高く(600mg/dl)、血漿Na+濃度は正常より低く、尿中にケトン体を証明した。
次の設問に答えなさい。
(1)この人の尿量はどうなっているだろうか(近位尿細管における水、Na+再吸収の特徴を考慮すること)。
(2)血漿Na+濃度が低い原因として何が考えられるか(高い血糖値は、血漿浸透圧を上昇させることを考慮すること)。
(3)無気力、嗜眠状態になった原因として中枢神経ニューロンの変化が考えられるが、それはどのような変化であろうか。
(4)この人の血漿pHは、どうなっているだろうか。
《解答例》
(1)糸球体ろ液の糖の濃度が高すぎて、再吸収閾値を越えるので、糖のかなりは管内尿に残るので、浸透圧利尿を引き起こし多尿になる。
(2)血漿浸透圧が細胞内浸透圧よりも高くなるので、相対的に浸透圧の低い細胞内から水が細胞外に移動する結果、細胞外液量が増加する。血漿Na+の絶対量は変化せず、水の量が増加するので血漿Na+濃度が低くなる(他には、ケトン体はNa塩として尿に排泄されるので、これも一部は関与するだろう)。
(3)(2)の変化が中枢神経ニューロンに起き(細胞内脱水)、意識の異常がもたらされたと考えられる。
(4)尿中にケトン体が排泄されているので、血漿内にケトン体が過剰に存在していることがわかる。ケトン体は、プロトンを放出する酸性物質であるので、代謝性アシドーシスを引き起こす。

【W】以下の文章の(@〜D)に下から適切な語句を選択しなさい。
[語句:心筋梗塞、アルファー、低下、トコロフ音、肘動脈、ショック、ラムダ、心雑音、脳梗塞、大腿動脈、シグマ、上昇、頚動脈、ガンマー、コロトコフ音]
《解答》
1.血圧の測定には通常(@肘動脈)を用いる。
2.血圧の異常低値をともなった全身性の循環虚脱のことを(Aショック)という。
3.血圧の間接測定法では、一般に聴診器を用いて(Bコロトコフ音)を指標にする。
4.血管の直径が数百ミクロン以下の微小循環レベルでは血液の血漿成分と血球成分の分離が起こるため、予想に反して血液の見かけ上の粘度は(C低下)する。この現象を(Dシグマ)効果という。

【X】次の記述は伝達物質やホルモンが受容体に結合した後、どの様な反応が起きてeffectorを活性化するかについて述べたものである。(@〜D)に適当な語句を入れよ。
《解答》
a)通常、G蛋白のαsubunitのGTP/GDP結合部位にはGDPが結合しており、GDP結合型αsubunitとβγ複合体は三量体を構成し、形質膜の受容体とカップルしている。
b)伝達物質やホルモンが受容体に結合すると、αsubunitがGDPを放出してGTPを結合する。これを(@GDP/GTP交換)反応と呼ぶ。
c)GTP結合型G蛋白はαsubunitとβγ複合体に解離する。これをG蛋白が(A活性化)したという。
d)GTP結合型αsubunitや(Bβγ複合体)はその型に応じて種々のeffector enzymesと相互作用して応答を発生することが出来る。
e)αsubunitのGTPaseによりGTPが(C加水分解)されてGDPになるとGDP結合型αsubunitとβγ複合体が再び結合し不活性化して応答が終結する。
f)1個の活性型αsubunitは一旦活性化すると次々と沢山の(Deffector enzyme)分子を活性化出来る。

【Y】心室筋の活動電位の特徴について、下記5つのキーワードと、図を用いて簡明に説明せよ。
説明中のキーワードには、下線を引け。
キーワード:内向き整流性K電流、遅延整流性K電流、Na電流、L型Ca電流、再分極
《解答例》
心室筋の活動電位の特徴は持続時間が長いこと(300msec)である。Na電流で興奮が発生する。L型Ca電流で持続的なプラトーと呼ばれる脱分極相が形成される。脱分極によって遅延整流性K電流が増大して再分極が始まり、再分極の最終相では内向き整流性K電流が流れて静止電位に戻る。

【Z】(1)次の言薬をすべてつかって適当な文章をつくりなさい。
FSH、LH-RH、LHサージ、プロゲステロン、卵管膨大部、エストロゲン、黄体、基礎体温
(2)胎児における循環の特徴を挙げなさい。
《解答例》
(1)視床下部からのLH-RH投射を介して下垂体前葉からゴナドトロピンの放出が起こる。その1つでもあるFSHは細胞の成熟と顆粒細胞からのエストロゲン分泌を促進する。排卵直前にはLHサージと呼ばれる一過性のLHの上昇が見られる。排卵後は卵巣の顆粒細胞は黄体に変化しプロゲステロンを放出する。このプロゲステロンが基礎体温を上昇させる。排卵された卵は卵管膨大部で精子と受精する。
(2)さい帯動脈、静脈の存在
左右心房中隔における卵円孔の存在、肺動脈と下大動脈間のボタロー管の存在
心房における卵円孔とボタロー管の存在によって胎盤からさい帯静脈を介して循環してきた酸素飽和度の高い血液の大部分が肺循環を介さずに全身に流れる。

【[】以下の心臓を用いたa)とb)の2つの実験に関してそれぞれの問いに答えなさい。
a)神経支配のない心臓の心拍数と心拍出量を測定したところ、大静脈からの流入量を一定に保ちながら、大動脈の血圧を上げても心拍数および1回心拍出量には変化が見られなかった。さらに、動脈血圧を一定に保ちながら静脈圧を1.5倍に上げると、心拍数を変えずに拡張期容積が大きくなり、1回心拍出量が1.5倍に増加した。この実験結果からどのようなことがわかるか説明しなさい。
b)拍動しているカエルの洞房間を糸で縛ると洞はそのまま拍動を続けるが、房は一時停止する。しばらくすると心房は独自のリズムで拍動を開始する。さらに、房室間を縛ると心室は心房とも異なるリズムで拍動することが観察された。この様な実験を何と呼ぶか、また、この実験からわかる心臓の歩調取りについて説明しなさい。
《解答例》
a)心臓の一回心拍出量は動脈血圧(駆出抵抗)には関係なく、流入量によって決まり、流入量は静脈圧の高いほど多いから、一回心拍出量は静脈圧の高いほど多い。すなわち、心室への流入量が多く、拡張期終期容積(つまり心室筋線維の長さ)が大きいときには、大きな張力を発生することによって増大した流入量を駆出することができる。(フランク−スターリングの心臓の法則)
b)スタニウスの結紮実験。洞・心房・心室はおのおの自動性すなわち歩調取りを有しており、それぞれの固有のリズムは異なっているが、通常は洞房結節だけが単一の歩調取りとして働いている。これは洞房結節のリズムが最も早いからと考えられる。

【\】Hbの酸素解離曲線を描き、それに影響する因子について述べなさい。
《解答》
教科書参照

【]】悪性高熟は、手術時などに、ある種の麻酔薬を投与した時に筋硬直と高熟を惹起し死にいたることもある病気です。骨格筋細胞内リアノジン受容体の遺伝的異常が一つの主な原因です。
(1) 骨格筋の実習で使ったリアノジン受容体に作用する薬は何ですか。
(2)(1)の薬はどのような作用を骨格筋にひきおこすのか、その理由とともに5行以内でかきなさい。
(3)「悪性高熱におちいった患者さんの筋収縮をおさえるために、まずニコチン様アセチルコリン受容体阻害薬を投与した。」この治療法は適切ですか。その理由も簡単に述べなさい。
(4)筋収縮−弛緩におけるATPが関連する機構を書きなさい(図示しても可)。
《解答例》
(1)カフェイン
(2)Ca2+−induced Ca2+ re1easeを惹起するライアノジン(リアノジン)受容体のカルシウムに対する感受性を増加させる。通常の細胞内カルシウム濃度でもライアノジン受容体が開口し、筋小胞体からCa2+放出を引き起こし筋は収縮する。
(3)ACh受容体をブロックしてもその下流に位置する機構の異常活性化であるので収縮を止めることはできないので適切な治療法ではない。
(4)・主なATPの作用(使用)部位
細胞膜と筋小胞体膜におけるCa2+ポンプ(ATPase)
・ミオシンヘッド(教科書参照)


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