平成14年度 細胞・システム生理学 前期試験

平成14年9月17日実施、試験時間は120分。解答用紙は4枚。番号を記入して、1にT〜V、2にW〜Y、3にZと[、4に\と]。問題用紙、解答用紙ともに大きさはA4で、解答は裏面も使用可。

以下の解答(例)は翌日掲示されたもの。

【T】赤血球破壊から、ヘモグロビンが代謝されて尿や大便中に排泄されるまでの過程を説明しなさい。

大便の色の基本は胆汁色素である直接ビリルビンが…
尿の色は直接ビリルビンが腸内細菌でウロビリノーゲンになりそれが再吸収されて血中から 腎臓に至って排泄されることによって…
直接ビリルビンは脾臓で赤血球が破壊されてできた間接ビリルビンが肝臓でグルクロン酸抱合されてできる。
などなど。あとは教科書参照


【U】以下の文章の(@)〜(I)を適切な語句で埋めなさい。同じ語句は何回でも使用してよいものとする。
<設問>
血圧の測定には(@)と(A)がある。血圧の異常低値をともなった全身性の循環障害もしくは循環虚脱を (B)という。(C)には血液の喪失による(D)、細菌感染時の菌毒素による(E)、循環中枢の心臓のポンプ 失調による(F)などがある。(G)の時には、全身の循環不全がおこり、脳血流が低下するため意識レベルは(H)し、腎血流量低下により尿量は(I)する。
<語句>
増加、低下、上昇、減少、中間法、間接法、直接法、高血圧症、コンプライアンス、脱水症、ショック、
アナフィラキシーショック、立ちくらみ、微小循環障害、敗血症性ショック、出血性ショック

@、A 直接法、間接法  B ショック  C ショック  D 出血性ショック
E 敗血症性ショック  F 心原性ショック  G ショック  H 低下  I 減少


【V】生理機能は、ホメオスタシスを基本とするが、特定の場合は正のフィードバックが用いられる。 これを説明し、具体例を2つ示しなさい。

ある事象の判断、あるタイミングの決定、或いは特定の場所(空間の位置)の決定を行う必要が ある場合、正のフィードバックを用いることにより、生体は判断決定し確実に実行することができる。
具体例 ・活性電位ホジキンサイクル
      ・LHサージ
      ・細胞分裂におけるサイクリン依存性キナーゼ(Cdk)
 

【W】次の(@)〜(I)に適切な語句を記入しなさい。
正確なGFR測定に用いるイヌリンクリアランスは、臨床的には(@)クリアランスで代用する。
グルコース再吸収の行われるのは、ネフロンの(A)である。
過剰なKイオンの尿中排泄は、(B)からのKイオンの分泌に依存する。
レニン分泌が増加すると、細胞外液量は(C)する。
細胞外液中で最も浸透圧活性の高いのは、(D)イオンである。
血漿浸透圧が高くなると、(E)ホルモンの分泌が増加して尿量が減少する。
健康な人では尿の浸透圧は、理論的には血漿の約(F)倍まで上昇しうる。
尿中のNH4Clは、酸塩基異常である(G)が続くと濃度が高くなる。
血漿pH7.10の人の血漿〔HCO3-〕/0.03Paco2の比は、(H)である。
CO2から生成されたH+を緩衝するのは、(I)である。

@ クレアチニン  A 近位尿細管  B 遠位尿細管  C 増加  D Na
E 抗利尿  F 4  G アシドーシス  H 10  I デオキシヘモグロビン


【X】若い女性が情動性のストレスを受け、呼吸がはげしくなり、手足が震えけいれんまで引き起こした。
(a)急性に起きた血漿の酸塩基平衡の異常を説明しなさい。
(b)血漿pH変化を少なくする方向に働く二次的変化(代償)がどのように起こるかを説明しなさい。
 (参考)ヘンダーソン-ハッセルバルヒの式、トルソーのサイン、クボステックのサイン、HCO3-再吸収

(a)過剰喚起により血中の炭酸ガス分圧が低下したため、ヘンダーソン-ハッセルバルヒの式に したがって、血漿pHが上昇した(呼吸性アルカローシル)。血漿プロトンの低下により血漿蛋白に結合するカルシウムイオンが多くなるため、血漿遊離カルシウムイオン濃度が低下して、けいれん(テタニー)を起こした。
(b)ヘンダーソン-ハッセルバルヒの式の分母が低下したので、二次的に分子のHCO3-濃度も低下する。すなわち、アルカローシルでは、腎臓からのプロトン分泌が少なくなるために、 ろ液内のHCO3-の尿細管による再吸収が減少して尿中に排泄される。


【Y】G蛋白とカップルしている受容体が刺激された後G蛋白にどのような反応が引き起こされるか?図を使って説明せよ。またGiやGoでこの反応を阻害するために用いる毒素があるがこの名前も挙げよ。

三量体G蛋白はαサブユニットとβγサブユニットが結合した状態で形質膜内側にアンカーされる。 受容体刺激で受容体に起きたconformational changeにより、G蛋白のαサブユニットに結合しているGDPが遊離され、代わりにGTPが結合する。GTPが結合したαサブユニットはβγサブユニットから解離してαサブユニット、βγサブユニットがそれぞれの効果器となる酵素やイオンチャネルに作用してこれらを活性化できるようになる。これをG蛋白が活性化したという。αサブユニットにGTPが結合している限り、活性化したG蛋白はいつまでも効果器分子を次々と活性化できる。しかし、G蛋白のαサ ブユニットにはGTPase活性があるのでαサブユニットに結合しているGTPはまもなくGDPに分解される。GDPが結合したαサブユニットはβγサブユニットと再び会合してG蛋白は元の状態に戻る。
毒素名:百日咳毒素(NADのADP−riboseをαサブユニットのCysに結合させる。


【Z】正常な心臓における興奮の発生と伝達について、図を用いて簡明に説明せよ。その際、必ず、房室(田原)結節の生理学的重要性に言及せよ。

心拍数は@洞房結節細胞の自発的興奮の頻度で決まる。この興奮はA心房筋に伝播し、また心房内結節間伝導路を通ってB房室結節に達し、CHis束、Dプルキンエ繊維を経由して、E心室全体に伝播する。房室結節の伝導速度は0.03m/secで、His束、プルキンエ繊維の2-5m/secや心室筋の1m/secより遅い。房室結節細胞での伝導の遅れによって心房の興奮と心室の興奮の間に0.12-0.20secの遅れを生じる。この遅れは、収縮した心房から弛緩した心室に血液を送り出すことを可能にする。


【[】(1)神経細胞における活動電位を図示し、その形状をもとに活動電位の発生機序を説明せよ。
   (2)活動電位の特徴を3つ挙げ、その特徴を説明せよ。

(1)
1)活動電位は膜に対するイオン透過性の変化によって生じる。静止時には細胞膜は主にKイオンの透過性があるために、Kイオンの平衡電位近くに静止電位を有する。
2)活動電位発生時には、Naイオンの透過性が一過性に上昇して静止時のKイオン透過性を遙かに上回るため、膜電位は0mVを超えてNaの平衡電位に近づく。
3)Naイオン透過性が減少すると同時にKイオンの透過性が著しく一過性に上昇するために、 再分極し後過分極を形成する。骨格筋などではKイオンの透過性の上昇が異なり、ゆっくりと 静止電位に戻り後脱分極を生じる。
これらのイオンの透過性上昇は、電位依存性Naチャネルと電位依存性Kチャネルの開孔に よって生じる。どちらのチャネルも脱分極によって開孔するが、Naチャネルは開孔のタイミングが はやく、すぐに不活性化して閉じる。Kチャネルは遅れて開孔し、過分極によって閉じる。 わずか数ミリ秒で起こるこれらのチャネルの開閉のずれによってダイナミックな膜電位変化が生じる。
(2)
1)全か無かの法則
活動電位を発生させる時に、刺激が弱いと発生しないが、ある閾値に達すると一定の振幅を持つ活動電位が発生し、さらに刺激を強くしても活動電位の大きさが変わらないこと。
2)不応期
活動電位の発生時あるいはその直後に次の刺激を加えても、活動電位が発生しない時期。最大の刺激を与えても発生しない絶対不応期と、活動電位の再分極相で強い刺激に対しては活動電位を発生できる相対不応期がある。
3)両方向性伝導(その他、跳躍伝導など)
神経繊維の一点を刺激すると活動電位はその点から発生し、両方向に伝導する。


【\】インスリン分泌について次の問に答えよ。
1) 膵臓のランゲルハンス島から分泌される物質を4つあげなさい。
2) インスリン分泌機構について以下の言葉を使って簡潔な文をつくりなさい。
  グルコース、経口摂取、GluT2、ATP、インクレチン、K+チャネル、カルシウム、Cペプチド

1) インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン、pancreatic polypeptide
2) グルコースは膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞膜上のグルコーストランスポータータイプ2(GluT2)によって細胞内に運ばれ、細胞内でATPが産生され、細胞膜上に存在するATP感受性K+チャネルが開口する。その結果、β細胞は脱分極し、膜電位依存性カルシウムチャネルが開口して、細胞内カルシウムが上昇してインシュリン分泌が起こる。このインシュリン分泌に関して、グルコースを経口摂取すると、血中グルコース上昇による調節ばかりでなく、消化管から内分泌される総称インクレチンと呼ばれるホルモン群によっても調節をうける。実際に生体内で分泌されるインスリン量はインスリン合成時につくられるCペプチドによって推測する。


【]】
1.次の言葉を使って適切な文章を作りなさい。
 膜電位依存性カルシウムチャネル(N型、P/Q型)、シナプシン、カルモジュリン、ニコチン様受容体、
 ラージカチオンチャネル、αブンガロトキシン、微小終板電位、終板電位、内向き電流、活動電位
2.骨格筋細胞収縮−弛緩におけるATPの役割を簡潔に説明しなさい。

1.運動神経細胞に発生した活動電位は運動神経軸索を伝わり、骨格筋に入力する神経終末膜上の膜電位依存性カルシウムチャネル(N型、P/Q型)を活性化し、神経終末内のカルシウムイオンを上昇させ、カルモジュリンを活性化させる。その結果、シナプス小胞と骨格蛋白とをつないでいた、シナプシンを切断し、小胞がシナプス間隙に開口し、アセチルコリンが放出される。アセチルコリンは筋細胞膜上のαブンガロトキシンによってブロックされるニコチン様(アセチルコリン)受容体と結合し、内蔵するラージカチオンチャネルが開口する。その結果、筋細胞に内向き電流が発生し、細胞は脱分極する。この脱分極を終板電位とよぶ。終板電位の最小単位は個々のシナプス小胞によって引き起こされる微小終板電位である。終板電位が閾値に達すると活動電位が筋細胞に発生する。
2.
1)ATPおよびその分解によるミオシンヘッドの構造変化
2)筋小胞体膜および筋細胞膜上に存在するカルシウムポンプを活性化し、上昇した細胞内カルシウムイオンを除去して、筋を弛緩させる。


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