細胞システム生理学実習レポート X.骨格筋の収縮

実施日 平成14年10月15日(火)

1. 目的
神経−筋接合部における効果器としての骨格筋の特性と、その運動神経による支配様式を理解する。

2. 方法
 アフリカツメガエルの腹直筋を摘出し、実験に使用する。
(1) 様々な刺激持続時間(0.2、2、20、200msec)の単発刺激において各々刺激電圧を変化させ、それぞれの閾値を求めた。刺激間隔は1sec。横軸に刺激持続時間、縦軸に閾値をとり、強さ−時間曲線を作成した。
(2) シリンジを用いて、種々の濃度のACh溶液を0.2mlずつとり、実験用チェンバー(20ml)に投与して、レクチコーダー上で収縮の度合いを観察する。AChはスタンダード液で100倍希釈され、最終濃度はそれぞれ、10mM、1mM、100μM、10μMとなった。(AChは薄い濃度から実験を行い、濃度を変える時はチェンバー内をスタンダード液で洗浄した。)これらの結果から、横軸にACh濃度、縦軸に骨格筋収縮の度合いをとり、AChによる骨格筋収縮の濃度応答曲線を片対数グラフに描いた。
(3) 20msecの刺激持続時間、ある刺激電圧で引き起こされる筋収縮の大きさを対照とした。刺激を一旦止め、0.1mMのd-ツボクラリン溶液0.4mlをチェンバー内に投与して10分ほど待った。その後、再び同じ持続時間、刺激電圧で刺激を加え、対照と比較することによって筋収縮へのd-ツボクラリンの効果を観察した。続いて(2)で求めたEC50に最も近い濃度のACh(1mM)を投与し、筋収縮へのd-ツボクラリンの効果を観察した。
(4) 刺激間隔を1sec、900msec、800msec、…、100msec、90msec、…と減少させてゆき、単収縮の加重、不完全強縮、完全強縮が生じるか観察した。
(5) 100mMカフェイン溶液を0.2mlとり、チェンバーに投与した。1mMのカフェインによる骨格筋収縮を観察した。収縮が弱かったため、さらに数回、0.2mlずつ追加した。

3. 結果
(1)

刺激持続時間(msec)
0.2
2
20
200
閾値(V)

(2)、(3)

ACh濃度(M)
10μM
100μM
1mM
10mM
骨格筋収縮度(mm)
11
24
ツボクラリン投与後
13
14

注:収縮度は針の振れ幅であるが、相対値である。グラフは省略。

(4)
時間的加重において、単収縮の加重の典型的なものは観察できなかったが、刺激間隔を100msec以下にすると典型的な不完全強縮がみられた。さらに刺激間隔を短くしていくと、50msecではほぼ完全な強縮が見られた。さらに間隔を短くすれば完全強縮の典型的筋電図が観察できるのではないかと思う。

(5)
カフェインを何度か投与すると、非常にゆっくりとではあるが、カフェイン拘縮が観察された。


4. 考察
 神経―筋接合部において、神経末端から伝達物質としてAChが放出される。放出されたAChは骨格筋線維の終板膜にあるニコチン様ACh受容体に受容される。すると、受容体内にあるイオンチャネルが開き、細胞外から細胞内へナトリウムイオン、カルシウムイオンが流入し、膜が脱分極すると更に周囲の膜電位依存性ナトリウムイオンチャネルが開き、膜電位が閾値に達すると活動電位が発生する。
 活動電位が発生すると、T管膜上のL型カルシウムイオンチャネルの形が変わり、これとつながっている筋小胞体のリアノジン受容体が開く。すると、筋小胞体からカルシウムイオンが放出され、トロポニンとカルシウムイオンとの結合が引き金となって筋フィラメントの滑走が起こり、筋収縮が起こるのである。
 実験(1)においては、外部から細胞膜に電気刺激を与えることで直接活動電位を起こし、それによって筋収縮を起こした。今回行った実験では満足のいく結果が得られたとは言えず、結果からグラフを書くこともできなかった。しかし理論的には、閾値に達する刺激の強度とパルスの持続時間の関係は直角双曲線になる。十分に長い時間電流を流した際の閾値を基電流といい、このときの時間を利用時という。また、強さ−時間曲線において、基電流の2倍にあたる強度の時の持続時間を時値という。閾値をi、持続時間をtとすると、曲線は次のWeissの実験式で表される。
 i=a+b/t
 この式では、aが基電流を、b/aは時値をそれぞれ与える。時値は組織ごとにほぼ一定であって、興奮性の指標となる。時値が小さいほど興奮性が高い。一般に骨格筋の時値は0.25〜1msecほどとされている。
 今回の実験で、良い結果が得られなかった原因についてであるが、レクチコーダーの調子が悪かったことが影響したのではないかと考えられる。また、机などに振動が与えられると、それが波形に現れる可能性があるため、その影響があって、閾値を実際よりも低く測定してしまったことも考えられる。
 実験(2)では、外部からAChを与え、AChがニコチン様ACh受容体に受容されることで、活動電位を引き起こし、筋収縮を起こした。AChの濃度が小さすぎるとAChが全体に行き渡らず、その分イオンチャネルの開孔数も少なくなり、従って膜電位依存性ナトリウムチャネルもあまり開かないため、膜電位が閾値に達しない。そのため活動電位は発生しない。
初めのうちはAChの濃度にほぼ比例して、筋の収縮の大きさも増していくが、AChが多くなると、AChが結合する受容体の数は有限であるため、次第に筋収縮度の上昇格は鈍り、やがて頭打ちとなる。この関係を今回のように濃度を対数軸にとってグラフ化すると、Sの文字を横に引き延ばしたような形になる。今回の実験では4種類の濃度でしか実験を行わなかったため、どこで頭打ちになるか判断するには至らなかった。これを特定するためには、もっと多くの濃度で実験を行う必要がある。
 通常は1回の神経刺激で約60小胞分の内容が放出される。1個が放出の単位で、100〜1000分子のAChを含む。1回の神経インパルスで放出されるACh量は筋の活動電位発生に要する量の約10倍である。
 実験(3)ではd-ツボクラリンを投与し、電気刺激、AChそれぞれによる筋収縮への影響を調べた。アセチルコリンレセプターブロッカーであるd-ツボクラリンはACh受容体に競合的に結合し、AChが受容体に結合するのを阻害する。
 電気刺激による筋収縮では、電気刺激で直接活動電位を引き起こしているので、d-ツボクラリンを投与しても変化はないはずである。(これは実験結果にも明らかである)
 AChによる筋収縮ではd-ツボクラリンのためにAChがACh受容体に結合できず、d-ツボクラリンを投与していない時より筋収縮が小さくなるはずである。(これについては実験でははっきりしなかった。10mMのAChを投与した際には収縮幅は14mmと、確かにツボクラリン抜きの24mmより小さくなっているが、1mMでは逆に13mmと、ツボクラリンを投与しなかった時の11mmを上回ってしまった。計器類の不具合が多かったためそのせいか、とも思われるが、原因ははっきりしない。)
 実験(4)では刺激間隔を短くしていき、加重、強縮について調べた。1回の刺激による収縮を単収縮というが、ある間隔で2度刺激すると収縮が重なり、単収縮より大きな収縮が生ずる。これを加重という。(ただしこの時、活動電位は加重していない)反復刺激では加重で張力が次第に増大し、刺激の期間中収縮が持続する。これを強縮という。刺激頻度が低く、収縮曲線に波があるものを不完全強縮といい、収縮が完全に融合し、動揺のないものを完全強縮という。完全強縮に必要な刺激頻度のうち、最小のものを臨界融合頻度という。
 実験(5)ではカフェインが骨格筋収縮にもたらす影響を調べた。カフェインは脱分極を介さず、直接筋小胞体のリアノジン受容体のチャネルを開口させるので、カフェインを投与すると筋小胞体からカルシウムイオンが放出され、筋収縮が引き起こされる。

5. 設問
@強さ−時間曲線が描けなかったため、時値は算出不能。
活動電位発生に必要な刺激の強さと時間の関係については、ほぼ反比例する。これは、刺激が強ければ、その刺激によって一気に多くのイオンチャネルが開き、素早く活動電位が起きるが、刺激が弱ければ、はじめから開くイオンチャネルは少なく、早く開いたイオンチャネルによっておこる電流によって脱分極が加速し、従って開孔するイオンチャネルが増え、活動電位が発生する。(そのため時間がかかり、途中で刺激が終われば活動電位は発生しない)ということを表している。
また、刺激がいくら大きくても、活動電位が発生するまでに一定の時間が必要なのは、開いたチャネルをイオンが通り、活動電位発生水準まで脱分極するまでの時間があるためである。刺激時間がどんなに長くてもある一定の強度より小さな刺激では活動電位が発生しないのは、その程度の刺激では、最も開孔しやすいイオンチャネル群を開孔させるにも至らないため、と考えられる。

AAChの場合、「投与→拡散→受容体に結合→ナトリウムイオンチャネル開孔→脱分極→L型カルシウムイオンチャネル開孔→筋小胞体からのカルシウムイオン放出」という一連の過程を経る必要があるが、電気刺激では「刺激→活動電位発生→L型カルシウムイオンチャネル開孔→筋小胞体からのカルシウムイオン放出」という過程のみを経る。またカフェインの場合の過程は、「投与→拡散→筋小胞体からのカルシウムイオン放出」である。そのため、収縮を引き起こすまでの時間はACh>電気刺激>カフェイン、となることが予想される。
 今回の実験ではAChと電気刺激の関係については納得できる結果が得られた。カフェインの拘縮は予想に反し、非常にゆっくりとしたものであったが、この実験は全体の最後に行われたため、筋肉の疲労も影響を与えたのではないかと考えられる。

B骨格筋は筋線維の集合であるが、筋線維には様々な閾値を持ったものがあり、弱い電気刺激では一部の筋線維しか興奮(収縮)せず、刺激が大きくなるに従って興奮する筋線維の数が増えるため、電気刺激の強度増加に従って収縮の大きさは増加する。
 しかし、強縮の実験でも明らかなとおり、筋はある一定の収縮度以上には収縮しない。この時、全ての筋線維が収縮を起こしているものと考えられる。

Cd-ツボクラリンが競合的阻害剤であることを考えると、まずd-ツボクラリン濃度≫ACh濃度の時、ACh受容体のほとんどはd-ツボクラリンと結合しているため、AChはほとんど結合できず、効果を発揮できない。ACh濃度を増やしていくと、次第にd-ツボクラリンの阻害効果は薄れ、d-ツボクラリン濃度≪ACh濃度となるとd-ツボクラリンの影響はほとんど無視できるようになる。
 そのため、d-ツボクラリン存在下における骨格筋収縮の濃度応答曲線は、本来の濃度応答曲線のS字型を右に平行移動したような形になり、筋収縮の最大幅は変化しないことが予想される。

D通常行われる運動(重いものを持ち上げる)などはすべて完全強縮である。
 非完全強縮については、適当な資料を見つけられなかったが、痙攣や振戦などのように、ふるえを伴うような運動は非完全強縮によって起こっているのではないかと考えた。
 単収縮の加重には、屈曲反射のような多シナプス反射がある。多シナプス反射では受容器と効果器の間にいくつものシナプスが介在し、様々な回路が形成されているため、受容器で発生した興奮が効果器である筋に伝わる時間に差が生じる。そのため、効果器では時間差刺激が時間的加重を起こすのである。

参考文献 生理学テキスト(大地陸男著、文光堂)
     標準生理学(本郷利憲ら編集、医学書院)

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