細胞システム生理学実習レポート Y.シナプス

実施日 平成14年10月15日(火)

1.目的
ラット海馬CA1錐体細胞へ投射するGABA作動性神経終末部からのGABA放出をホールセルパッチクランプ法にて観察し、シナプス前神経終末部のGABAa受容体とシナプス後細胞のGABAb受容体の生理学的役割を把握し、シナプス伝達の活動様式を理解する。

2. 実験
(1) シナプス・ブートン標本を作製し、ホールセルパッチクランプ法を適用し、膜電位固定化(-60mV)にて自発性GABA放出を観察した。
(2) GABAb受容体作動薬(バクロフェン)を投与し、GABA放出がどのように変化するか観察した。
(3) 高濃度KCl溶液(15mM)を投与し、GABA放出がどのように変化するか観察する。

3. 結果
実験(2)ではGABA放出の減少が、実験(3)ではGABA放出の増加が観察された。

4. 考察
 GABAb受容体作動薬(バクロフェン)を投与することにより、GABA放出が減少する機序については設問Bに、高濃度KCl溶液の投与によって、GABA放出が増加する機序については設問Cに詳述。

5. 設問
@実験に用いたスタンダード液(細胞外液に相当)には161mMの塩化物イオンが、細胞内液には43mMの塩化物イオンが含まれていることから、生体内の絶対温度を310(K)として計算すると、塩化物イオンの理論的平衡電位は約-35mVである。

A膜電位を-60mVに固定すると、塩化物イオンの理論的平衡電位は-35mVであるので、GABAa受容体の活性化により塩化物イオンチャネルが開くと、塩化物イオンは細胞内から細胞外へ流出し、内向きの電流が流れることが予想される。

B結果にも記したとおり、GABAの放出は抑制された。その機序には3通りがある。(図は省略)
 1つはGABAb受容体の活性化によりカルシウムイオンチャネルの開孔が抑制されるというもので、カルシウムイオンの細胞内への流入が減少する結果、それを引き金として起こるGABA放出小胞の開口分泌も抑制される。
 2つ目はカリウムイオンチャネルの開孔が促進され、カリウムイオンが細胞外へ流出することにより過分極が起こるというものであり、これも脱分極によって引き起こされるカルシウムイオンチャネルの開孔を抑制する。以下の機序は上記と同じである。
 3つ目はGABAb受容体の活性化がアデニル酸シクラーゼ活性を抑制するものである。アデニル酸シクラーゼはcAMPを増やし、cAMPはAキナーゼを活性させる。Aキナーゼがカリウムイオンチャネルをリン酸化するとカリウムイオン電流が減少し、脱分極が引き起こされる。これらの過程を抑制することにより、脱分極しにくくしてカルシウムイオンチャネルの開孔を抑制するのである。

C結果にも記したとおり、GABAの放出は促進された。その機序は以下のように考えられる。
 細胞外のカリウムイオン濃度が増えると、前述のネルンストの式より、カリウムイオンの平衡電位は上昇する。カリウムイオンの透過性は高いため、通常の膜電位はカリウムイオンの平衡電位によって決定されている。すなわち、細胞外カリウムイオン濃度の上昇は膜電位の上昇(=脱分極)を意味する。
 設問Bでも述べたように、脱分極が起きるとカルシウムイオンチャネルの開孔が促進され、流入したカルシウムイオンが引き金となってGABA放出小胞の開口分泌が起こる。

参考文献 生理学テキスト(大地陸男著、文光堂)
     標準生理学(本郷利憲ら編集、医学書院)

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