細胞システム生理学実習レポート
Z.循環に関する実験

実施日 平成14年10月21日(月)

この実験に関しては、嘘でもいいから実験結果に適合するような考察を論理的に書いた方が、「手技が未熟なため」系の考察よりずっと評価は高い、とのことで、散々詭弁を弄しています。しかも各班で投与した薬剤は異なる、設問も異なる、などの事情により、ほとんど参考にはならないと思いますが。

1. 目的
心臓の興奮、特に収縮の特性、自動能の発現部位とその伝播の順序を観察する。
また、各種イオンと薬剤が心収縮に及ぼす影響を見る。

2. 実験(実験順序に従って記す。)
(1) 食用カエルの心臓を摘出し、実験に用いた。
(2) 八木式心臓灌流法を用いてRinger液を循環させながら実験を行った。
(3) 以下の薬品を入れる前後には、拍動数、振幅を記録し、比較対照とした。
(4) Ringer液を低カルシウムイオン溶液に変えて反応を見た。
(5) Ringer液を元に戻してからアセチルコリン(100nM)を投与した。
(6) 洗浄後アトロピン(10nM)を投与した。
(7) 洗浄後、静脈洞と房、室の位置を確認し、拍動数を測定した後、静脈洞と心房の間を結紮して(Stanniusの第一結紮)拍動の様子を観察した。
(8) 房、室の境(冠状溝)で結紮し(Stanniusの第二結紮)、拍動の様子を観察した。
 以下の実験は別のカエルの心臓を用いて行った。
(1) カニューレ内の液面を徐々に上げてゆき、変化を見た。
(2) 液面を元に戻し、ノルアドレナリン(100nM)を投与した。
(3) 洗浄後、カフェイン(1mM)を投与して様子を観察した。
(4) 洗浄してから、ビキュキュリンを投与して様子を見た。
(5) さらに洗浄し、GABA(100μM)を投与した。
(6) 洗浄し、Ringer液を抜いて、高カリウムイオン溶液(15mM)に変えて変化を観察した。
(7) 液を通常のRinger液に戻し、テトロドトキシン(100nM)を加えて様子を見た。
(8) 蘇生後、前述したStanniusの結紮実験を再度行った。

3. 結果
(1) 実験に用いた薬剤とそれを用いた際の結果について

分類 薬品名 主な作用 心拍数 振幅
細胞外膜の
チャネルに
直接作用
ACh ムスカリン、ニコチン両受容体に結合、活性化 微減 減少
アトロピン ムスカリン受容体を競合阻害 大幅増加 増加
NA アドレナリン受容体に結合、活性化 変化なし 微増
細胞外膜の
チャネルに
間接作用
Low Ca Ca流入が減る(Caチャネル阻害と類似効果) 微増 大幅減少
High K 静止電位上昇(脱分極を起こさせる) 急減後、心停止
TTX Na電流を不可逆的、非競合的に阻害 心停止
GABA GABA受容体に結合、活性化 微増 変化なし
Bic GABAa受容体を競合的に阻害 変化なし 微増
細胞内部 Caf 筋小胞体からのCa放出を促進 増加 変化なし
その他 液面上昇 液圧(生体なら血圧)上昇 微増 減少

(2) Stanniusの結紮実験について
 今回の実験では2回の結紮実験を行ったが、共に心臓が弱っており、特に後半はテトロドトキシン投与後ということもあってか、結紮を行うとほとんど拍動しなくなった。
 前半の実験での結果は以下。(1分あたり、測定は30秒行い2倍した。)

  静脈洞の拍動数 心房拍動数 心室拍動数
第一結紮後
ほぼ0
44
44
第二結紮後
ほぼ0
46
ほぼ0

4. 考察
 アセチルコリンを投与した場合。
 アセチルコリンがムスカリン受容体(M2)と結合すると、抑制性のGTP結合蛋白質が活性化され、アデニル酸シクラーゼを抑制してcAMPが減少する。また、促進性のGkタンパク質も活性化され、細胞膜のカリウムイオンチャネルを開き、膜電位の再分極を促進、過分極方向の変化を起こさせる。
 これが洞房結節に作用すれば、興奮しにくくなり、活動電位の頻度が減少して心拍数が減る。また、筋細胞においても電位変化が鈍るので、収縮力(振幅)も小さくなる。
 心臓を支配する副交感神経である迷走神経が刺激されると、以上のような機序による心拍数、振幅減少が起きるものと思われる。
 アトロピンを投与した場合。
 アトロピンはアセチルコリンがムスカリン受容体に結合するのを競合的に阻害する。つまり、アトロピンは(アトロピン濃度の方がアセチルコリン濃度より大きい状況下で)上述のようなアセチルコリンの影響を排除する。そのため、心拍数、振幅共に増加した。
 ノルアドレナリンを投与した場合。
 細胞膜にあるβアドレナリン受容体を刺激し、Gsタンパク質を活性化する。このタンパク質は、アデニル酸シクラーゼを活性化、細胞内cAMP濃度を上昇させる。これにより、タンパクキナーゼが活性化し、細胞膜のチャネルタンパクをリン酸化、内向きのカルシウム電流を増加させる。これにより、CICRが促進され、筋の収縮(振幅)が増加したと考えられる。
 ノルアドレナリンは交感神経節後線維終末から放出される伝達物質で、心臓には促進性に働く。
 Ringer液を低カルシウムイオン溶液に変えた場合。
 そもそもはじめに興奮を起こす洞房結節がカルシウム電流によって活動電位を起こす性質を持つため、収縮が起こらなくなったり、著しく弱くなったりすることが予想された。実験結果は予想通りのもので、振幅の大幅減少が見られた。また、心拍数が微増している。これは、15秒間の測定時間で1回、という誤差とも考えられる微妙な差であったが、流入量が減らないにもかかわらず振幅が減り、1回当たりの拍出量が減るために、それを代償するために心拍数が増えたのではないか、とも考えられる。
 Ringer液を高カリウムイオン溶液に変えた場合。
 Nernstの式より、静止電位が脱分極の方向へ変化する。これにより、再分極がしにくくなり、続く活動電位発生も起こりにくくなるために、心拍数が急減し、その後止まってしまったのではないかと考えられる。
 テトロドトキシンを加えた場合。
 ナトリウム電流が不可逆的に阻害されるので、カルシウム電流により活動電位の起こる結節性細胞以外の心筋細胞は興奮が起こらない、もしくは極めて起こりにくくなり、振幅が大幅減少して、ついには心停止状態になった。
 ビキュキュリンを投与した場合とGABAを投与した場合については一緒に述べる。
 ビキュキュリンはGABAa受容体を競合的に阻害する。GABAa受容体が活性化すると塩化物イオンが流入し、活動電位は発生しにくくなるため、これが心臓に存在すればビキュキュリンが阻害することにより、心拍数や振幅が増加するはずである。また、GABAを加えれば、逆に心拍数や振幅が減少するはずである。
 結果は、ビキュキュリンでは振幅が微増、GABAでは心拍数が微増で、いずれも誤差とも考えられる程度であった上、2つの結果の間に整合性は見られない。そのため、心臓にはGABAa受容体はほとんど存在しないのではないかと考えた。
カフェインを投与した場合。
 カフェインは直接筋小胞体に作用し、そのカルシウムイオン放出を促す。洞房結節の活動電位発生には無関係なはずなので、収縮は増加、心拍数は不変であると考えたが、結果は逆で、心拍数が増加し、振幅は変化しなかった。
 仮に、洞房結節内にもカルシウムイオンストアがあり、筋収縮ではなく活動電位の発生を助けていると考えると、「カフェインにより洞房結節の興奮が促進される→心拍数が増す→液量(液圧)は不変なので、1回あたりの拍出量は減る→カフェインにより筋収縮が促進されても、Starlingの心臓法則により、拡張終期心室容積が小さくなるので振幅は大きくならない」と考えられる。
 液面を上昇させた場合。
 これは血圧が上がったことに相当する。血圧が上昇すると、拡張終期心室容積が大きくなり、生理的範囲内ではStarlingの心臓法則に従い心臓の収縮が大きくなることが予想されたが、予想に反して収縮幅は落ちていった。
 この実験を行った時には心臓が弱っており、何もしなくても次第に振幅が小さくなっていっていたので、もう1度実験を行ってみなければ、確信は得られない。ただ、生理的な液圧の範囲を超えれば、筋節長が伸びすぎて逆に収縮力が弱まるので、液圧上昇により振幅が減る。
 次にStanniusの結紮実験について。
 第一結紮を行うと静脈洞の拍動が、第2結紮を行うと心室の拍動がほとんどなくなってしまった。(文献などによれば、静脈洞はほぼ心拍数を保ち、心房が約2分の1、心室が約4分の1のペースで別々に拍動するようになる。)これは、実験のため摘出され、様々な薬剤を投与されて弱った心臓が結紮の衝撃によって拍動を止めた、とも考えられるし、そもそも摘出段階において、静脈洞が傷つき、その拍動能力を失っていた、とも考えられる。(つまり心臓を規則的に動かしていたのは、心房の自発的興奮であった、ということ。)薬剤投与実験の時の平時心拍数は48前後であり、結紮後の心房拍数と似通っていることから、後者の可能性の方が高いのではないか、と考えた。

5. 設問
@心筋は骨格筋とは異なる収縮の特徴を示す。心筋の性質と特徴の特徴を関連付けて調べよ。
 骨格筋の筋小胞体(カルシウムイオンストア)にあるチャネルは、細胞膜にあるジヒドロピリン受容体と結合しているものがあり、ジヒドロピリン受容体が脱分極を感知すると、このチャネルが開く。これにより、筋小胞体からカルシウムイオンが流出する。また、流出したカルシウムイオンに刺激されて開くチャネルもある。このためこれを、広義のカルシウム誘発性カルシウム放出(CICR)という。
 これに対し心筋には細胞膜に膜電位依存性カルシウムイオンチャネルがあり、脱分極がある程度進むとこれが開いて細胞内にカルシウムイオンが流入する。このカルシウムイオンが、筋小胞体の表面にあるリアノジン受容体に作用すると受容体が開き、中からカルシウムイオンが流出する。これを狭義のCICRという。

A代償性休止について調べよ。
 普通の拍動ペースより早く期外収縮が起こった場合に、その分その後の休止が長くなること。
 収縮開始直前から、収縮が最大になるまでの時期はどのような刺激にも反応がない。(絶対不応期)しかし、弛緩期では、刺激の強さ次第で、正常な収縮の周期とは無関係に収縮が起こる。(相対不応期)この収縮を期外収縮といい、その後は、本来収縮が生じる時期に収縮が起こらない。これが代償性休止である。代償性休止は、ペースメーカーから心室に向かう興奮と、電気刺激による興奮伝導系を逆行した興奮が衝突するためか、あるいは、期外収縮により心室が絶対不応期に入ってしまうために生じる。

B心臓の収縮と活動電位の関係を調べて図示せよ。
 心臓の活動電位は洞房結節で自発的に発生する。(心臓の自動性、房室結節は心臓全体の歩調取りである。)この興奮は心房筋に伝播し、心房筋を収縮させると同時に、心房内結節間伝導路を通って房室結節に達する。ここでは興奮伝導速度は極めて遅く、他の部位の100分の1ほどである。(血液の心房から心室への流入時間として必要)さらに興奮は、His束を経由して心室全体に伝播、心室筋を興奮させる。
 心筋の活動電位には、持続が長いという特徴もある。活動電位の持続時間は骨格筋や神経線維の100倍は長く、それに伴って不応期も長い。また、活動電位の立ち上がりは、ナトリウム電流で興奮が発生する固有心筋、プルキンエ線維で急峻、カルシウム電流で興奮が発生する結節性の細胞ではゆるやかである。

CFrank-Starlingの法則とは何か調べよ。
 筋は長さ−張力関係に従って、収縮開始時の筋長によって発生張力を調整している。これを心臓に当てはめたものがStarlingの心臓法則である。心室では、収縮開始時の心筋長=拡張終期心室容積であり、それが心筋の収縮の大きさを決める。
 「心室が収縮により発生するエネルギーは、心室拡張終期容積に依存して決まり、生理的範囲内では、後者が増えるに従って前者も増加する。」というのが当初のこの法則の定義である。
 心室内に入ってくる血液量が増加し、心室壁がのばされて心筋静止長および筋節長が増すと、心筋の収縮張力が大きくなって心室収縮が強くなり、1回の拍出量が増す。これにより、心臓は流入量と拍出量のバランスを自己調節している。
 また、心拍数が変わった時も、Starlingの心臓法則に基づき、心臓の流入量と拍出量のバランスがとられる。(例:心拍数が下がると拡張期が長くなり、心室の1回流入量も大きくなる。すると、拡張終期の筋長も大きくなり、1回拍出量が増える。心拍数減少の際は逆。)
 このような、Starlingの心臓法則に基づき、心臓流入量と流出量のバランスをとるという自己調節能のメカニズムが、Frank-Starlingの機構である。

追加の設問
@ノルアドレナリンの効果が現れるのに時間がかかったのはなぜか。
 ノルアドレナリンはアドレナリン受容体に結合して作用を起こすが、アドレナリン受容体はいずれもイオンチャネル型受容体ではなく、G蛋白共役型であり、受容体に結合してから一連の反応系が起こり、その結果として効果が現れるために、時間がかかるのではないかと考えられる。

A仮にヒトでStannius結紮をしたら、心電図はどうなるか。(特に第二結紮)
 Stanniusの第一結紮をした場合。通常の心臓でペースメーカーとして働いている静脈洞の規則的興奮が他の部位に伝わらなくなる。このため、洞房結節の興奮を引き金にしておこる心房内興奮伝播が不規則になるか、起こらなくなるため、それに対応するP波は消失、または不規則となる。
 ただ、房室結節細胞やプルキンエ線維にも自発的興奮性がある(ふだんは閾に達する前に興奮が伝導してくるので潜在的)ため、洞房結節の興奮が伝播しなくても心筋は収縮する。
 しかし、当然その後の規則的で力強い心室収縮も起こらないことが予想され、収縮が弱まる場合は山の小さなQRS波が生じる。また、それぞれに全く統制のない興奮が起こる場合は、細動が起こる。
 Stanniusの第二結紮をした状態にあたるのが房室結節で伝導ブロックが生じる房室ブロックである。この病気には程度があるが、初期の第一度では心電図のPR間隔の延長のみが生じ、伝導が遮断されることはない。(房室間の興奮伝導の遅れを示す。)第二度になると、2,3回のP波に1回しかQRS波とT波が起こらなくなる。また、第三度の完全房室ブロックになると、不規則に房室伝導が起こり、心房と心室が独立して興奮、収縮を行っている状態となる。絶対不整脈を呈し、P波:QRS波+T波が1:1対応をしなくなる。房室ブロックは心筋梗塞の場合によく見られる。
 房室間の興奮伝導は特殊構造になっており、伝達速度がおよそ100分の1と遅い上、ここでの伝導障害が起こりやすい。


参考文献 生理学テキスト(大地陸男著、文光堂)
     標準生理学(本郷利憲ら編集、医学書院)

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