放射線読書感想レポート

放射線基礎医学の冬休みの課題。課題内容は以下。

下記の課題図書のいずれかを通読し、指定された章の中からレポート対象の章を選び、A4サイズの用紙数枚程度にまとめて提出。学籍番号、氏名、本のタイトルと章を明記した表紙を作り、参考文献はレポート末にまとめて。
(1)人はなぜ放射線に弱いか(講談社ブルーバックス)第2章、第3章、第4章のいずれか。
(2)放射線と健康(岩波新書)第4章、第5章、第6章のいずれか。
いずれも、最後に自分の考え、感想を合わせて記述。

以下は「放射線と健康」第5章のまとめと感想。ひどいできなので他山の石、ということで掲載します。

1.遺伝線量という考え
 放射線はショウジョウバエ、植物をはじめとする生物に突然変異を引き起こすことが分かった。そして、ショウジョウバエの実験では、X線量と突然変異の発生率との間には正比例の関係があるとされた。これは、X線がゼロにならない限り、突然変異もゼロにならないことを意味し、遺伝影響ではしきい値が存在しないということを示している。またこれは、線量が同じであれば、低線量率で分割照射しても、一度に照射しても同数の突然変異が発生する、ということを示すという点でも重要である。つまりショウジョウバエに関して言えば、「遺伝影響の大きさは各々が浴びた放射線量と浴びた人数の積によって決まる。」と言えるのである。
アメリカが初めて原爆の爆発実験を行って以来、地球上には核爆発による放射性核種が散布されるようになった。これらは微量のようにも考えられるが、浴びる人数が極端に多い上、常に放射線を出しているという点で重大である。そこで、これら放射性フォールアウトや、自然放射線を含む電離放射線が主に遺伝に与える影響について、盛んな調査が行われることとなった。
 これらの調査は、「遺伝線量」という線量に基づいて議論がなされた。これは、ショウジョウバエの実験結果が人間にも当てはまるとし、突然変異発生率は「子供を作るまでに生殖腺が受けた総線量に比例」し、「線量率には全く影響されない」。という仮定(しきい値なし直線(LNT)仮説)に基づくものであった。そして、遺伝線量はいくらまでなら許容できるか、ということが議論の対象になったのである。
 この考えは、職業で放射線を扱う人、一般の人、そして未来の人をも包み込んだ、統一的体系によってリスクを管理しようとするものであり、以下のような特徴があった。1.「遺伝線量」という集団に対するリスクの指標を用い、数量化した。2.その遺伝線量により、リスクを総量規制した。3.その前提に、前述の、突然変異発生率は「子供を作るまでに生殖腺が受けた総線量に比例」し、「線量率には全く影響されない」。という仮定を用いた。(この仮説は、放射線をいつ、誰が、どこで浴びたか、ということには影響されないので、総量規制をしやすくした。)

2.遺伝影響は見つからなかった
 遺伝線量算出の前提となるLNT仮説は、大量飼育が可能、世代交代がはやい、突然変異を定量的に測定できる、という実験上の有利さがあったショウジョウバエの実験から導かれたものであった。しかし、(人間により近い)マウスで同様の実験が行われ始めると、この仮定の妥当性について疑問が呈されるようになった。その皮切りはマウスでは(オスでもメスでも)線量率を下げると突然変異率も下がる、という実験結果であり、さらに数年後、照射後受精までの時間間隔が長くなると、突然変異率が下がる、という実験結果も示された。(オスの場合には、成熟精子は精原細胞よりずっと放射線の影響を受けやすいこと、精子は次々と精原細胞から作られ、射精されて置き換わっていくこと、を考慮すると納得がいく。)
 人に関しても、放射線を扱う仕事に携わる人の子供についての研究が様々に行われたが、突然変異率の増加は証明されていない。また、被爆二世の調査でも、有意差はないとされている。(こうした研究の成果により、遺伝線量は廃止され、後述の確率的影響という新たな概念が登場した。)
 しかし、人では見つからないものの、放射線の遺伝への影響は動物では見つかるのだから、人でもあるはず、と考え、それを起こす線量を推定しようとする研究もなされている。その中で多く使われるのが倍加線量で、自然に生じている突然変異と同じだけの突然変異を起こす放射線量のことである。
 この倍加線量は、ショウジョウバエのデータからの推量、マウスのデータからの推量、被爆者のデータからの推量、などその時代の研究状況に対応して様々に推量が行われたが、その値は上昇(遺伝影響の見積もりとしては減少)の傾向にあり、放射線影響は遺伝よりがん、という傾向が強まっている。

3.がんも遺伝子の病気
 放射線影響の議論の主体が遺伝からがんへと移るのに大きく寄与したものは、被爆者のデータであった。被爆者では、白血病以外にも、食道、胃、泌尿器、肺、甲状腺などのがんによる死亡の増加が認められたのである。
 白血病は被爆後数年で(非被爆者より)増加し始め、7年後にはピークに達して、「最も確率の高い結末」とされたが、やがてその死亡率はほぼもとの水準にまで戻り、逆に10数年を過ぎてから増え始めた固形がん死亡数は白血病の10倍とも推定されるほどになった。(がんにしろ遺伝障害にしろ、放射線による遺伝子の変化が発端である、という考えから、この推定にはLNT仮説が用いられた。)
 LNT仮説が提唱されたのは「生殖細胞のDNA変化は遺伝障害に、体細胞のDNA変化はがんにつながる。」「化学物質、放射線、紫外線などはDNAに突然変異を起こさせる。」という考え方が確立された時代であり、これらの考え方はLNT仮説成立に大きな影響を与えたといえる。
放射線が発見され、それによって皮膚がんが起こることが知られて以来、皮膚がん発生にしきい値があることは長い間常識であった。そのため科学者は、放射線発がんにしきい値が存在する可能性を考えていたが、しきい値がないと仮定することによって危険を過小評価することがない、と考えた。またしきい値のないことを支持する論文も発表された。

4.確率的影響
 遺伝障害もがんも遺伝子によるものであり、LNT仮説が当てはまりそうである、という考えから、遺伝障害とがんを一緒にした確率的影響という概念が作られ、同時にその軸足は遺伝障害からがんへと移されていった。確率的影響は次のように定義される。「その重篤度ではなくその影響の起こる確率がしきい値のない線量の関数とみなされる影響。」つまり、LNT仮説が当てはめられると考えられる影響が「確率的影響」とされ、それには遺伝障害とがんが含まれ、発がんは低線量の放射線防護では最重要である、とされたのである。これ以外の影響は非確率的影響(のちに確定的影響)と呼ばれた。ただし、「確率的影響」は子孫と社会の問題である遺伝障害と、被爆した個人の問題であるがんとの違いを目立たなくしてしまった。
 放射線によってがん死はどの程度増えるか。この推定にも広島、長崎のデータが用いられた。放射線による遺伝的影響を測る単位が遺伝線量であったのに対し、確率的影響を測る物差しには実効線量が用いられた。(単位はシーベルト)遺伝線量は集団に関して意味を持つのに対し、実効線量は個人に関して意味を持つ。しかし、実効線量は確定的影響には使えない。
 確率的影響においては、線量をゼロにしない限りリスクもゼロにはならないから、ある程度の線量(リスク)は容認せざるを得ない。その許容限度の標準値として、「線量限度」という数値が決められている。この数値は確率的影響を議論する際の値であり、確定的影響を議論する際のしきい値とは似て非なるものである。(ただし、勧告された線量限度の数値は、世界標準として成り立つ、とは考えにくい。リスクの中心であるがんの位置づけは、がん死が極めて多い先進国と、少ない発展途上国では全く違うし、「我慢する限度」であるから、人それぞれ、という面も大きいからである。)

5.比較的大量の放射線を浴びた人たちの調査
 LNT仮説によれば、放射線によるリスクは決してゼロにはならないから、放射線を仕事に用いる人々や、自然放射線の多い地域に住む人々には、そのリスクがどの程度であるかが心配される。このリスクを調査するのにも、被爆者のデータが用いられるが、被爆者のデータから得られた直線を、線量がその1000分の1ほどでしかない場合にまでのばして当てはめることへは異論もある。そのため、比較的大量の放射線を浴びた人たち(放射線を仕事として使う人たち、自然放射線の多い地域に暮らす人たち)に関する研究が行われてきた。しかしそのような研究では、いずれも、放射線が固形がんを増やしている、とする証拠は得られていないようである。
さらに議論の対象となったのが屋内ラドンである。ラドンはラジウムを親として自然に発生する物質で、それ自体に電荷はないが、崩壊してできる子孫の核種は電荷を持ち、空気中の小さなほこりにくっついて肺に吸い込まれる。そしてこれらの核種が肺にアルファ波を照射するのである。アルファ波はほとんど飛ばないので、ラドンによって影響があるのは肺のみと考えられている。そして、ラドンが高濃度になるウラン鉱山などでは、抗夫に肺がんの増加が起こっている。
屋内ラドンについては、抗夫のデータにLNT仮説を当てはめて屋内ラドンは肺がんを増やす、とする議論がある一方で、一般家庭のラドン濃度を測り、それと肺がん死亡率との関係を調べる、という調査では、そのような証拠は出ず、逆にラドンが肺がんを減らしている、との主張もなされている。

6.放射線に対する適応応答
 低線量の放射線に関しては、発想を逆転させた実験も行われた。厚い鉛で囲いを作ったり、地下深くに洞穴を作ったりして、自然放射線を遮断した環境下でゾウリムシを飼い、その増殖力を対照(通常の条件下)と比較したのである。いずれの実験においても、増殖率の低下もしくは世代時間の増加がみられ、増殖力の低下が確認された。
 さらにこの結果を進めて、「放射線ホルミシス」という言葉も提唱された。ホルミシスは「小さいストレスは刺激し、過剰なストレスは抑制する。」といった考え方で、放射線ホルミシスは発生、成長、生殖機能、免疫、発がんなど生命現象のいろいろな局面で見られると主張された。
 この原理をDNA損傷、突然変異発生の段階に絞って考えると以下のようになる。遺伝子には日々損傷が生じるが、日常の代謝によって起きる損傷は多くが一本鎖切断、もしくは塩基損傷で、起きる場所は全体に比較的均一である。それに対し、放射線による損傷は二本鎖切断の割合が高く、起きる場所は局部的である。
一本鎖切断、塩基損傷は修復可能性が極めて高いが、二本鎖切断は修復されにくい。しかし、日常の代謝によって起きる損傷は、放射線による損傷より桁外れに多いため、全体を考えた際により多く遺伝子に損傷を与えているのは、代謝による損傷の方である。修復不可能な傷を遺伝子に抱えると、細胞は自殺(アポトーシス)を起こす。
 放射線ホルミシスの考え方は、少量の放射線を浴びた際、DNA損傷修復機能や、アポトーシスの機能が強化される、という考えによって説明される。この考えを裏打ちする証拠についても、ラットの大脳皮質に放射線を照射する実験などによって得られている。

7.感想
 今回「放射線と健康」を読んで、この章をまとめようと考えたのは、放射線ホルミシスのという考えに強い興味を抱いたためである。100年以上前から、放射線は皮膚がんを起こすということが知られはじめ、さらにその後、白血病や固形がんを起こすことも知られた。そのように、有害さが強調され続けてきた放射線について、微量であれば生体に好影響を与えるという考えは、斬新なものに思われたのである。
しかし、その歴史において生命はずっと(場所や時期による程度の違いはあれ)放射線を浴び続けてきたのであり、少量の放射線が害をなさない、というのはむしろ当然であるのかもしれない。
 また、毒物学では「少量の毒物は刺激的である」とも言われてきたそうで、薬品などは「少量で刺激的な」量を用いることによって、その効果を表す、という。これと同じことが放射線でも言える、とする論評は他にも多いようである。(発がん率の減少、放射線治療効果の上昇など)とはいえ、こういった現象を否定する研究もあり、まだ結論が出せる段階ではないというのが現状であろう。
 いずれにしても、生命をおびやかす存在である放射線が、また少量では生体機能の活性化をもたらすのではないか、という考えをもとに、様々な研究がなされていることは大いに興味を引かれることである。

参考文献
 インターネット

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