放射線基礎医学実習レポート(1)放射線物理学

実施日 平成15年1月31日(金)

(1)GM計数管[計数管の電圧・計数率特性(プラトー曲線)]
1. 目的
 β線源の放射線をGM計数管で測定しようとする時、GM計数管の線源からのβ線に対しての計数効率が分かっていなければ放射能の絶対測定はできない。そこで、計数効率に関与する因子についての知識と、その因子の大きさを決定する方法を習得する。

2. 序論
 GM計数管は、直径0.05〜0.2mm程度の陽極心線と、この心線を中心とした同心の陰極円筒からなっている。心線と円筒との間に加える電圧(GM管電圧)が1,000Vを超えたあたりで、電圧が変わっても計数率がほぼ一定の領域がある。
 この領域の電圧では、入射窓から入った放射線(電離粒子)が、管内でイオン化を行った場合、陰イオン(電子)が電極に引かれて走って行く間に、途中のガス分子を次々にイオン化するに十分の強さの電場であるために、最初にできたイオンが少数であってもねずみ算式にイオン化が起こり、いわゆる「電子なだれ」となり、信号として取り出すのに十分な電気量が電極に集められる。従って、この領域では、最初に生じたイオン数が多くても少なくても、ほぼ一定の大きさの信号を取り出すことができる。
 この領域をGM管領域といい、1,000Vより上の方で200〜300Vの範囲にわたるが、この間は電圧が変わっても計数率はほぼ一定である。この計数率一定の範囲を水平域(Plateau)という。
 しかし、Plateauにおいても、電圧が高くなると多重計数の現象が起こって、完全に水平ではなく、わずかな傾斜(slope)を示す。水平域が広く、傾斜が小さいほど優れたGM計数管である。傾斜の程度を示すには、水平域の100Vの変化に対する計数率の変化を、水平域の中央部の計数率に百分率で示す。

3. 実験
(1) 電源ダイヤルが最低になっていることを確かめ、電源を入れた。
(2) 電圧ダイヤルをそのままにしてテストパルスを計数、回路をチェックした。
(3600cpm±1%なら正常) → 3,600cpmちょうどであったので、正常と判断し、実験を続けた。
(3) 管電圧を1200Vあたりまで上げ、線源(90Sr点状線源、密封線源でβ線のみを放出)を、測定棚の位置を上下させながら3000cpm位の計数率になるところにセットした。 → 上から4段目(3,066cpm)にセットした。
(4) 管電圧を一旦下げた後、徐々に上げて開始電圧 を求めた。
(5) 開始電圧のあたりから約60Vおきに計数率を測定した。(1目盛が125Vであったので、その半分ずつ)水平曲線の精度をよくするために、計数の統計的変動による相対誤差が1%以下になるような測定時間を取り、1分あたりの計数率(cpm)に換算した。
(6) 計数率が著しく上昇してきたところで測定を中止し、電圧を下げた。

※補
測定時間をt分、その時の計数値をNカウントとすれば、標準偏差S.D.と計数率cpmは、cpm=N/t、S.D.=±√(N/t^2) のように表せる。 また、相対誤差はS.D./cpm×100=√(N/t^2)×t/N×100=1/√N×100(%)と表されるので、Nが10,000を超えれば、相対誤差を1%以下にすることができる。

4. 結果

管電圧(V) 測定時間(分) 計数値 計数率(cpm) ±S.D. 相対誤差(%)
1000 1 0 0
1030 1 0 0
1060 1 1088 1088 33 3
1090 4 12497 3124 27.9 0.89
1130 4 12643 3161 28.1 0.89
1190 4 12880 3220 28.4 0.88
1250 4 12443 3111 27.9 0.9
1310 4 12714 3179 28.2 0.89
1380 4 15743 3936 31.4 0.8

 実験の結果は以上のようになった。電圧設定をあまり細かくすることができないため、およその値になるが、この結果から、開始電圧が1040〜1050Vほどであること、プラトーの範囲が1090〜1310Vほどであることがわかった。この結果をもとに描いたプラトー曲線を別紙グラフに示す。
 また、このGM計数管の傾斜であるが、水平域の範囲を直線とみなして最小二乗法を用いると、計数率の変化は100Vあたり9.2である。よって、傾斜は(水平域の中央を1200V、計数率3160として、)3160±0.29%と算出できる。

※補
プラトー曲線から水平域(すなわち使用適正域)の範囲を定め、その開始点から水平域の範囲の4分の1〜3分の1ほどの点で、読みやすい目盛りを定めて、それをそのGM計数管の使用電圧とする。今回の実習では、プラトーの範囲が1090〜1310Vであったから、1090+(1310-1090)×1/4=1145であり、これに最も近く目盛りのある点として、1130Vを使用電圧に選択した。

5. 考察
 ここではGM計数管について述べる。
 GM計数管はガイガーとミュラーが開発したもので(GMは両者の頭文字である)、放射線によって電離されてできた電子の数を計測することができる。装置は、気密な空洞から空気を抜き取り、少量のアルゴンなどの気体を注入した筒と、その中の心線とからなる。心線には正の電圧がかけられ、筒はアースされている。この装置の中に放射線が入射すると、その途中でアルゴン分子を電離する。ここで発生する電子は筒内の高電圧によって心線に向けて加速される。すると、この加速された電子がさらに別のアルゴン分子を電離する。このような過程を経て、はじめ1つであった電子がねずみ算式に増え、約10^7倍に増幅(ガス増幅)され、1つのパルス電流としてスケーラでカウントされる。これらの過程の所要時間はおよそ10^-15秒であるので、3000cpm程度(1回あたり0.02秒)の計測であれば、同時入射による過小評価のおそれはほぼ無視できる。
 以上で分かるようにGM計数管は電離した電子数をカウントするもので、放射線の種類やそのエネルギーの分析には用いられない。これをするのはスペクトロメーターである。


(2)計数の統計的変動
1. 目的
 自然放射線を計数器によって計数し、あわせて放射線計測の測定精度の評価を行う。

2. 序論
(1)放射性同位元素の一つの試料について、適当なカウンターで計数するとき、ある一定時間の繰り返し測定を行うと、n1,n2,n3,…,nkという計数値が得られるが、これらの値は必ずしも同一ではなく、ある一定値の周りにばらつきをもつ。これは放射性同位元素の壊変が確率的な現象で、時間的にat randomに起こっているために生じる統計的な揺らぎのためである。その性質はPoisson分布に従う。平均値がmのPoisson分布である時、nカウントの計数が得られる確率P(n)は、P(n)=(m^n)×(e^-m)/n! …@ で与えられる。また平均値mと標準偏差σは次の関係にある。
 m=Σni×P(ni)       …A
 σ^2=Σ(ni-m)^2×P(ni)=m …B
 σ=√m          …C
 従って、その平均値が分かるとばらつきの程度を示す標準偏差σは一意的に定まる。
(2)平均値mが大きくなり20を超えると、計数値の分布はGauss分布(正規分布)に近づく。正規分布の中央値から±σの範囲内にある確率は全体の68%に相当する。
 一回の計数値nの測定精度は、それを母集団の平均値の推計値とし、その平方根√nを標準偏差として、統計的な誤差の目安とする。つまり、n±√n …D は測定値nが真の値に±√n程度の誤差で一致している確率が68%程度であることを示す。ただし、k回繰り返し測定の平均値nに対してはその誤差は正規分布の性質からn±√(n/k) …E である。
(3)単位時間あたりの計数を計数率といい、1秒あたりの計数(cps)とか1分あたりの計数(cpm)で表す。いま一回だけt分間計数してnカウントが得られたとする。計数率をcpm単位で表すとする。実際に計数した数はnであるからσは√nである。よって、(n±√n)/t=n/t±√n/t(cpm) …F となる。
 また、t分間の計数をk回繰り返し測定した場合は、平均値をnとすると、E式よりn/t±(√n/k)/t(cpm) …Gとなる。
(4)back ground(B.G.)を含む資料を測定する場合は全計数率からB.G.の計数率を引いて正味の計数率を出すのが普通である。いま全計数を測ってt1分でm1カウント、B.G.を測ってt2分でm2カウントを得たとすると、正味の計数率はm1/t1-m2/t2±√{m1/(t1)^2+m2/(t2)^2}(cpm) …H で表される。
 また、全計数をk1回繰り返し測定して平均値m1、B.G.をk2回繰り返し測定して平均値m2が得られたとすると、試料の正味の計数率は、m1/t1-m2/t2±√{(m1/k1)/(t1)^2+(m2/k2)/(t2)^2}(cpm) …I となる。

3. 実験
(1) GM計数装置を使用し、正常に動作する状態で自然計数(B.G.)を一定の時間(10〜20s、今回の実習は12秒で行った。)、100回の繰り返し測定を行った。
(2) 得られた計数値から頻度分布を作成し、平均値から推定されるPoisson分布と比較した。さらにグラフを描いた。
(3) 理論と実測の分布の適合度を検定し、考察した。
(4) 自然計数をcpm単位で求め、統計的誤差を計算した。

4. 結果

計数値 頻度数 頻度(%) ポアソン分布理論値(%)
0 0 0 0.29
1 4 4 1.68
2 4 4 4.93
3 6 6 9.61
4 12 12 14.05
5 25 25 16.44
6 12 12 16.03
7 17 17 13.4
8 8 8 9.8
9 3 3 6.37
10 3 3 3.73
11 4 4 1.98
12 0 0 0.97
13 2 2 0.43
14 0 0 0.18
合計  100   実測平均値5.85 平均値 5.85


以下にχ2乗検定を用いて行った検定結果を示す。
計数値 観測値 理論値 差(観測―理論) 差の2乗 差の2乗/理論値

計数値 観測値 理論値 差(観測―理論) 差の2乗 差の2乗/理論値
2以下 8 6.9 1.1 1.21 0.1754
3 6 9.61 -3.61 13.0321 1.3561
4 12 14.05 -2.05 4.2025 0.2991
5 25 16.44 8.56 73.2736 4.457
6 12 16.03 -4.03 16.2409 1.0131
7 17 13.4 3.6 12.96 0.9672
8 8 9.8 -1.8 3.24 0.3306
9 3 6.37 -3.37 11.3569 1.7829
10以上 9 7.40 1.60 2.56 0.3459
合計 100 100     10.7273(=χ2乗)

 理論値が5に満たない2以下、10以上については1つのカテゴリにまとめた。
カテゴリ数は9であるから、自由度は7である。
 「簡約統計学」から取った自由度7における適合度は、χ^2=10のとき0.18857、11のとき0.13861であるから、按分して、χ^2=10.7273のとき、0.1522である。この適合度は、棄却域として設定した0.05( =14.0671)を上回るものであり、実験結果がポアソン分布に従う、とした仮定は棄却されなかった。

 次に、自然計数をcpm単位で求め、統計的誤差を計算した。
 これは2.序論(3)で述べた内容(G式)に数値を代入するだけであるから、結果だけを記す。
 n=5.85、t=0.2、k=100を代入して、 29.3±1.2cpm という結果が得られた。

5. 考察
 今回測定を行った自然放射線について述べる。
 自然放射線には様々なものがある。まず、宇宙からやってくる宇宙線である。宇宙からは様々な物質の原子核(すなわち放射線)が降り注いでいる。しかし、地球の磁場を突破し、大気中に突入してくるものの大半は水素の原子核(陽子)である。これらは大気中の原子核と反応し、最終的にはパイ中間子、ミュー中間子、陽電子、電子、陽子、中性子、ニュートリノなどとなって地表に降り注ぐ。
 宇宙線の強さは標高1,500mごとに約2倍になり、また、北極、南極では、赤道での値よりも30%ほど多いという。地球全体の平均では年間約0.39ミリシーベルト、日本では約28〜30ミリシーベルトである。
 また、地表からも放射線は出ている。地中のウランやトリウムから出る放射線によるもので、これらの放射線は地球全体の平均で年間0.48ミリシーベルトとされる。
 しかし、これらはあくまでも平均であり、標高の高い場所や、地中の放射性元素が多い場所に暮らす人々の浴びる線量は5倍〜20倍にもなりうる。また、岩石の中には自然の放射性核種を多く含むものがあり、これらを家の建築に用いていれば、当然その屋内の線量率は高くなる。
 人体が浴びる自然放射線の主役はラドンである。ラドンは、ウラン系の放射性核種の気体でラジウムが直接の親であり、地中にはごく微量のラジウムが存在するため、そこから生じたラドンが空気中にしみ出してくるのである。ラドン自体に電荷はないが、崩壊してできる子孫の核種は電荷を持ち、空気中の小さなほこりにくっついて肺に吸い込まれる。そしてこれらの核種が肺にα波を照射するのである。(α線は飛程が短いので、他の器官への被曝は問題にならない。)

 続いて、今回検定に用いたχ^2検定について述べる。
χ^2検定は、設定した仮定と実際の比較を行い、その差が「有意であるかどうか」を検定する、「有意性検定」のひとつである。まず有意性検定の一般論として、次のことを認識しておく必要がある。それは、『有意性検定は、仮説の下で期待する結果が「生じなかった」ことを根拠として、仮説を棄却、否定することが主な内容である。』ということである。(=背理法)つまり、あくまでも棄却されることが中心で、仮説が棄却されなかったといって積極的に指示されたわけではなく、単に結果が仮説と「矛盾はしない」ことが示されただけなのである。(もっとも、今回のようにある理論式と実際が一致するかどうかの判定は、仮説を理論式とせざるを得ない。そのため、検定の結論も、「矛盾しない」とできるにとどまることになる。)
 χ^2 とは、実測値と期待値の差を2乗し(差そのものでは、正のものと負のものがあって相殺されてしまう)、それを期待値で割ってから、総計を求めたもので、実測値と期待値とのずれの大きさを表しているといえる。
※ 期待値で割るのは、期待値が10のときに実測値が13で差が3になる場合と、期待値が100のときに実測値が103で差が3になる場合とでは、同じ3の差でも当然その重みが違ってくるからである。
 χ^2 を算出して、その値がどの程度なら期待値は実測値と一致する、あるいはしない、と判断するか、が次の問題となる。この判定には、χ^2 がどのような分布をするかが重要であり、それは自由度、eなどを用いた式で表される。
 そして、その式の表す曲線の下の面積を1とした時、χ^2 値に相当する点から立てた垂線の右側の面積を適合度と呼ぶ。適合度は、 χ^2を算出する際に立てた仮説を棄却した場合に犯す誤りの確率である。つまり、χ^2 が大、適合度が小ならば仮説を棄却しても誤りは小であり、逆に χ^2が小、適合度が大ならば、仮説を棄却することの誤りは大となる。
 通常は、あらかじめ誤りの程度(=有意水準、5%、1%など)を前提としておき、それと実際の 値を比較することによって、仮説を棄却するかどうかを決定する。5%、1%などは、随分低い数値とも思われるが、これについて考えてみた。
 有意性検定の理論には、「仮説が正しくても、出そうもない棄却域がたまたま出てしまい、従って、仮説を棄却してしまう。」ということがあり得る。この可能性は設定した有意水準(今回は0.05、5%)に等しい。これを「第一種の誤り」といい、有意性検定の考え方そのものに必然的に伴うものであり、0にすることは不可能である。
 また逆に、「仮説が誤っているのに、たまたま棄却域に入らなかったために、仮説を棄却しない。」という誤りも生じうる。これを「第二種の誤り」といい、「第一種の誤り」と同様、0にすることは不可能である。
 さらに、「第一種の誤り」を減らすべく棄却域を小さくすれば、当然であるが「第二種の誤り」を犯す可能性は高まる。つまり、これら2つの誤りを共に減らすことはできない。
そこで、(ここからは文献などの根拠に薄い自分の考えであるが、)これらの誤りを犯す可能性のバランスを見て、棄却域は設定されているのではないか、と考えた。

※補1  検定使用上の注意点(過去の経験と理論より導かれたもの)
・ 少なくとも例数が50以上となること(今回は100例で行った)
・ 理論度数の少ないカテゴリは、隣接するカテゴリと併合し、5以上にすること。

※補2 自由度について
 「自由に動ける変数の数」という意味である。
 例えば「コインをn回投げた」時、「表の出た回数」という変数は自由に決められる。しかしそれを決めれば自動的に「裏の出た回数」は決まるから、自由度は1である。同様に、「サイコロをn回投げた」時、自由度は5となる。(6つのカテゴリで、最後はnから引いて自動的に決まるため。)
 自由度は、カテゴリ数−1を基本とし、推定をするとその数だけ減る。
 今回の場合、理論値を求めるために「実測平均」という推定値を用いている。つまり自由度は「カテゴリ数−2」となるのである。これは、平均値(5.85)と総例数(100)があらかじめ決まっていれば、2つのカテゴリを残した時点で、残りの2つは計算により求められる、ということを考えれば納得できる。

参考文献
 人は放射線になぜ弱いか 第3版  近藤宗平著 講談社ブルーバックス(1998)
 放射線と健康 舘野之男著  岩波新書(2001)
 基礎統計学T 統計学入門  東京大学教養学部統計学教室編 東京大学出版会(1991)
 簡約統計学  水島治夫著  南江堂(1981)

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