臨床検査医学 平成13年度本試験

以下9問から5問を選び解答せよ。
1. フェニルケトン尿症とフェーリング
1)  どのような生化学的根拠をもって、どのような負荷試験を行ったか?
患者の尿にFeCl3を添加するとolive-green発色が見られたことなどから、フェニルピルビン酸の存在を確かめ、フェニルアラニンの代謝異常だと推測した。そこで病気の人と健康人それぞれにフェニルアラニンを与えてそれを確かめようとした。

2) なぜ最初の実験に失敗したか?
L型、D型二つの型のフェニルアラニンを投与したために、体内で代謝されないD型がフェニルピルビン酸になり、健康人でも代謝に異常があるという結果になったため。

3) どのような解決策をとったか?
あらかじめL型、D型を分け、L型のフェニルアラニンを用いて負荷試験を行った。

4) フェニルケトン尿症の検査の一つ、ガスリー法の原理を説明せよ。
ガスリー法では新生児の血液をしみこませたろ紙を培地上にのせて培養し、阻止円ができれば陽性、できなければ陰性というものである。フェニルアラニン、フェニルピルビン酸の存在下では生育しないようなバクテリアが培地上にぬってあるためにこのような検査を行うことができる。

2. 講義で扱った「Defective Protein Folding as a Basis of Human Disease」を読んだものと考えて、次の問に答えよ。
1) レビューの「蛋白質の構造異常と疾患」について、鎌状赤血球貧血症と違う点を述べよ。
鎌状赤血球貧血症はタンパクの一次構造異常が直接的にHbの高次構造異常‐機能異常を引き起こしているのに対し、Cystic fibrosisではCFTRの一次構造が正常であるにもかかわらず、高次構造が異常なために機能異常を引き起こしている。

2) シャペロンとは?
細胞内環境の中でリボソームで合成されたポリペプチド鎖の正しいfoldingを手助けしているタンパクのこと。

3) Cystic FibrosisはCFTRの508番目のフェニルアラニンが欠損(ΔF508)したために起きる。その機序を説明せよ。
508番目のフェニルアラニンの欠損は正しいfoldingを阻害する。正しくfoldingされなかったCFTRは凝集を起こしたり、分解されたりして細胞膜へ移送されない。このために、細胞膜表面に発現するCFTR分子が足りずに種々の病態を呈す。
(なお、欠損のあるCFTRでも正しくfoldingされさえすれば、正常に機能を発揮する。以下はシャペロンについての分かりやすいサイトです。参考にしてみてください。)
http://www.res.titech.ac.jp/~seibutu/main.html

4) Toxic Foldsについて具体例を挙げて説明せよ。
細胞にとって傷害的であるような安定した折りたたみのことをtoxic foldsという。スクレイピーのPrP(sc)においては、その一次構造はPrP(c)と変わらないが、二次構造においてPrP(c)ではα-herixである領域がPrP(sc)ではβ-sheetとなっていたりする。このようにtoxic foldsではタンパクが、安定ではあるが細胞にとって傷害性のある立体構造をとり、それが病気の原因になる。

3. 臨床検査の遺伝子検査について
(1) 検体を採取する上で注意すべき点を簡潔に述べなさい
・他のDNAの混入を防ぐ
・抗凝固剤にヘパリンを用いない(ヘパリンはポリメラーゼを阻害する)
・ ヌクレアーゼの混入がないようにする

(2) PCRを利用した検査を行なう上で最も注意すべき点を簡潔に述べなさい
・細菌感染の遺伝子検査を行う際、生菌と死菌の区別がつかない
・遺伝子検査であるのでインフォームドコンセント、個人情報の管理をしっかりする

4. ProteinC/ProteinS系は凝固制御系に重要な働きをしており、この機能異常は血栓発症の危険因子の1つである
(1) ProteinC/ProteinSはどのような役割を果たしているか
ProteinC(PC)は活性化されると、proteinS(PS)、リン脂質、Caとともに[a、Xaを分解し活性を阻止する。また、プラスミノーゲンアクチベータインヒビタも阻害し、線溶系を促進する。すなわちPC/PSは凝固制御の働きを持つ。

(2) 凝固系が活性化されると、ProteinC/ProteinSによる凝固制御系が必然的に活性化されるが、この見事な連携でProteinS/ProteinCが活性化される機序を簡潔に述べよ
トロンビンは血管内皮表面のトロンボモジュリンと結合し、トロンビン−トロンボモジュリン複合体をなるとフィブリノーゲンをフィブリンにする凝固活性を失う。複合体はPCを活性化させPC/PSによる凝固制御系を活性化する。

5. ポジショナルクローニングについて、遺伝子多型マーカー(RFLP,STRP,SNP)、連鎖解析、連鎖不平衡を説明した後、その用語を使用し説明せよ。
遺伝子多型マーカー:遺伝的解析法において、遺伝子領域を狭めていくために用いられるもので具体的には次のようなものがある。
・ RFLP(制限酵素断片長)・・・多数の人の染色体DNAを種々の制限酵素で切断すると、その断片長において多型が見られる。
・ STR(短縦列繰り返し配列多型)・・・マイクロサテライトマーカーとも呼ばれ、1〜4コの塩基からなる同一の配列が縦列にいくつも繰り返し存在しているもの。そのリピート数で多くの対立遺伝子を特徴づける。
・ SNP(Single Nucleotide polymorphism)・・・点突然変異による一塩基置換で現れる多型。
連鎖解析:ある特定の多型が家系を遺伝していくことを追跡すること。
連鎖不平衡:同一染色体上の遺伝子座の複数の遺伝子間で、各々の遺伝子頻度から予想される以上に頻度が高い連鎖のこと。
ポジショナルクローニング・・・ある染色体の位置以外はまったく未知である遺伝子について、その遺伝子をクローン化する方法で、候補領域を狭めていくため、連鎖不平衡を起こしている遺伝子多型マーカーを利用して連鎖解析を行う。

6. インスリン分泌の低下とミトコンドリア異常について、グルコキナーゼが異常をきたした場合について述べよ。
インスリンの分泌は,β細胞のグルコースの取り込みと,グルコースの異化で生じるATPが必須である。したがって酸化的リン酸化に携わるミトコンドリアの異常はATP生成能が低下するため,インスリンの分泌の低下をもたらす。グルコキナーゼはヘキソキナーゼの一種で肝臓に存在する。他のヘキソキナーゼと異なりグルコースとの親和性が低く,生成物(グルコース-6-リン酸)の阻害を受けないため,摂食後などの高血糖時に積極的にグルコースを処理し血糖値を下げるのに適している。したがってインスリン分泌低下状態でグルコキナーゼが異常となると常時高血糖の状態となり,糖尿病を招く。

7. フラタキシン、ミトコンドリア機能異常症とフリードリヒ失調症の関係について、活性酸素・鉄代謝・鉄硫黄蛋白の用語を使用しながら説明せよ。
フラタキシンは鉄のホメオスタシスにかかわるミトコンドリアタンパクである(遺伝子はゲノムDNAに存在)。フラタキシン遺伝子のGAA反復配列が伸張すると、フラタキシンの産生量が低下する。フラタキシン遺伝子によりコードされている鉄輸送体の欠失によるミトコンドリアの鉄沈着が起こり、活性酸素量が増加、鉄硫黄蛋白が失活し、ATPの産生が低下し、フリードリヒ失調症に陥る。

8. ミトコンドリア機能異常による活性酸素増大と心機能低下について、酸化的リン酸化・心筋肥大・細胞内情報伝達・ミトコンドリアDNA・鉄硫黄蛋白の語句を使用しながら説明せよ。
ミトコンドリアは酸化的リン酸化によりエネルギーであるATPを供給するが,その過程で活性酸素が発生する。活性酸素が正常に処理されないとミトコンドリアDNAの障害および鉄硫黄蛋白の活性抑制すなわちATP産生能の抑制を起こす。 ATP産生低下は心機能低下を招く。また活性酸素は成長因子の細胞内情報伝達の働きもあり,細胞の成長・増殖に関与している。心機能低下状態では成長因子が増加するため心筋肥大を起こし,活性酸素発生量がさらに増大し,ミトコンドリアの障害そしてさらなる心機能の低下,という悪循環を招く。

9. 赤血球によって組織に酸素を運搬すると、過剰な酸素が供給されることはなく過剰な酸素による組織障害は起こらない。なぜそのような事が起こらないのか50字以内で説明せよ。
CA,Hb,バンド3による酸素供給システムが働き,炭酸ガス量によって供給される酸素量が定まるから。(49字)

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