臨床薬理学 平成14年度本試験

1.いずれかを選んで論述せよ。(6点)
a. 臨床薬効評価における3つのバイアス(偏り)を挙げ、それをコントロールする科学的方法について説明せよ。
(解答)
1)病状の自然寛解・悪化による個体内変動。比較試験を行う。
2)年齢・性別など個体の特性及び病態の特性による個体間変動。無作為化比較試験を行う。
3)心理的・主観的評価の偏りによる評価変動。二重盲検法を行う。

b. ヘルシンキ宣言に則って臨床試験を実施するために必要不可欠な3つの条件を挙げ、説明せよ。
(解答)
1)正確なプロトコル作成と記録の保存による、研究の科学性及び信頼性の確保。
2)インフォームドコンセント
3)IRB(治験審査委員会)等、第三者的委員会による審査と承認。

2.次の薬物のいずれかを選び、それによる薬害事件について述べよ。(6点)
a. キノホルム  b. サリドマイド  c. ソリブジン
(解答)
a. キノホルム
1900年から製造・販売された殺菌薬で、戦後日本では普通の胃腸症状に多用された。SMONと呼ばれる腹部症状を伴う神経障害を副作用としたが、1970年までSMONの原因がウイルスと考えられていたため、SMONの病原微生物を殺す目的でキノホルムの使用が継続され、日本の薬害史上最多の被害者を出すこととなった。

b. サリドマイド
1957年、西ドイツで発売された鎮痛・鎮静剤で、妊娠初期に服用すると胎児に四肢短縮等の奇形が発生した。アメリカでは販売が承認されなかった一方、日本では1958年から1962年まで発売され、西ドイツについで世界第2位の数の被害者を出した。生殖毒性のデータが不十分のまま発売が許可されたことが最大の問題で、以後、薬物の催奇形性に関する研究が促された。

c. ソリブジン
1993年に発売された帯状疱疹の内服治療薬だが、フルオロウラシル系抗腫瘍薬との併用で15名の死亡例を含む重篤な副作用が現れた。薬務行政、医薬品開発、製薬企業の姿勢、医薬品情報の提供の仕方、医師・薬剤師の教育、医薬分業など多くの領域に問題を提起した薬害事件である。

3.次の組み合わせで起こりうる薬物相互作用について述べよ。(各3点)
a. グリベンクラミドとベザフィブラート
(解答)アルブミン結合部位における競合により、遊離型グリベンクラミドが増加し、低血糖を誘発する。

b. ニトログリセリンとクエン酸シルデナフィル
(解答)ニトログリセンのグアニル酸シクラーゼ活性の亢進と、クエン酸シルデナフィルのホスホジエステラーゼ阻害により、血管平滑筋細胞内cGMP濃度が上昇し、併用すると急激な血圧低下・循環不全を招く。

4.高血圧症の治療に用いるアンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬について、それぞれの作用機序と特徴を述べよ。(6点)
(解答)
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は、血管壁のアンジオテンシンU(AU)産生を阻害することで、AUがもつ血管平滑筋収縮作用を抑制する(昇圧作用の抑制)。それと同時に、ACEと同一であるグラジキニン分解酵素キニナーゼUを阻害することで、ブラジキニン、さらにはPGやNOの増量をきたし、血管拡張作用を促進する(降圧作用の促進)。ブラジキニンの増加に関連して、副作用として空咳が高頻度に見られる。
アンジオテンシンU受容体拮抗薬は、AT1受容体シグナルを特異的に阻害して、ACE阻害薬と同様のAUによる昇圧作用を抑制するが、キニナーゼUやAT2受容体シグナルは阻害しない。AT2は増加したAUにより活性化されるので、NOの遊離が促進し血管平滑筋は弛緩する。またACE阻害薬と異なり、キマーゼにより産生されるAUの作用も抑制する。ブラジキニンの増加がないため、ACE阻害薬で見られる空咳等の副作用は見られない。

5.免疫系におけるサイトカインの役割について述べよ。(6点)
(解答)サイトカインは、免疫系において、マクロファージによる抗原認識から、Tリンパ球の助けによってBリンパ球からの抗体産生にいたる各段階の経路に働いて、細胞間の情報伝達や刺激、抑制の両方向に作用を及ぼす。(さらに詳細はtext p.199の図等により説明してください)

6.次の抗腫瘍薬の作用機序について述べよ。(6点)
a. アルキル化薬
(解答)体内で強い電子親和性を示し、DNAをアルキル化し共有結合を形成することによってDNAに重篤な損傷を引き起こす。これにより正常なDNAの複製を阻害し細胞死させる抗腫瘍薬である。

b. 代謝拮抗薬
(解答)代謝拮抗薬は核酸や蛋白合成過程で生成される代謝物と類似の構造を持つ低分子化合物であり、正常な代謝物と見誤られて細胞に取り込まれ、核酸合成にかかわる酵素を阻害したり、核酸に組み込まれて誤った情報を作り出しDNA合成を阻害する。

c. 抗腫瘍性抗生物質
(解答)DNAらせんと結合し、DNA合成の抑制、DNA鎖の切断などの作用をもつ。さらに酵素反応によるフリーラジカル中間体を生成して、細胞を傷害する作用も抗腫瘍効果に関与する。

7.ナトリウムチャンネルに対する局所麻酔薬の2つの作用様式(tonic inhibition と phasic inhibition)について説明せよ。(6点)
(解答)tonic inhibitionとは、ナトリウムチャネルの静止状態への一定の抑制である。phasic inhibitionとは開口状態のナトリウムチャネルの抑制で、細胞膜を介して細胞内に取り込まれた局所麻酔薬が開口状態のナトリウムチャネルのαサブユニットのWドメインS6の疎水性アミノ酸と相互作用することにより、Na+の流入を阻害する。

8.次の言葉や略号について簡単に説明せよ。(各3点)
a. 初回通過効果
(解答)消化管で吸収された薬物が、消化管粘膜上皮における代謝、肝臓における代謝・排泄による消失を経て、体循環系に入るまでに除去されること。

b. 生体利用率
(解答)投与した薬物のうち全身循環血中に到達する薬物の割合。

c. 血液脳関門
(解答)脳の毛細血管の血管内皮は大半が無窓型のため、小分子でも水溶性の薬はほとんど脳内へ移行せず、脂溶性の高い薬しか移行しない。したがって水溶性の薬は中枢神経系の副作用を有しない。

d. 遺伝的多型性
(解答)多数の対立遺伝子が存在すること。生体の代謝酵素をコードする遺伝子には多型性があり、それによって活性や発現量が変動し、薬物代謝に影響を及ぼす要因となる。

e. TDM
(解答)therapeutic drug monitoringの略。血漿薬物濃度を測定し、生体内半減期、除去速度定数などを計算し、その結果からその個人に適切な投与量・投与方法を設計し、至適な血漿中濃度を維持させること。

f. プラセボ
(解答)比較試験(特に二重盲検比較試験)の対照薬として用いる有効成分を含まない薬で、通常は、乳糖・澱粉・生理食塩水などが用いられる。外見では被験薬と区別できない。

g. GCP
(解答)good clinical practiceの略。ヘルシンキ宣言に則って臨床試験(治験)を実施するためのルール。わが国では1998年より「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」として新GCPが義務付けられている。

h. CRC
(解答)clinical research coordinatorの略で治験コーディネーターの意。治験実施設備において、治験責任医師または治験分担医師の指示のもとに、治験の進行を支援するスタッフ。

i. 服薬コンプライアンス
(解答)医師から処方された薬剤を患者が指示通りに服用すること。

j. EBM
(解答)evidence based medicineの略。個々の患者の診療についての意志決定において現在ある最良の証拠を良心的、公明にかつ思慮深く用いること。

9.それぞれの問いの答えをひとつずつ選び、A〜Eに○をつけよ。(各2点)
1. アゴニストとアンタゴニストの組み合わせで誤っているものはどれか。
A. モルヒネ ― ナロルフィン
B. アセチルコリン ― アトロピン
C. ノルエピネフリン ― メタンフェタミン
D. ヒスタミン ― ジフェンヒドラミン
E. アドレナリン ― アテノロール
(解答)C

2. ニフェジピンの効果を増強する可能性が高いものはどれか。
A. セントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)
B. グレープフルーツジュース
C. リファンピシン
D. フェノバルビタール
E. 喫煙
(解答)B

3. 弱酸性薬物の尿中排泄が最も増加するのはどれか。
A. 尿がアルカリ性のとき
B. 尿が中性のとき
C. 尿が酸性のとき
D. 尿のpHが薬物のpKaに等しいとき
E. 血漿のpHが薬物のpKaに等しいとき
(解答)A

4. 薬物アレルギーについて誤っているものはどれか。
A. 多くは抗原抗体反応である
B. 少数の人だけに起こる
C. 用量依存性である
D. 薬物を再投与すると症状が現れる
E. 発疹・浮腫・ショックなどが出現する
(解答)C

5. 気管支喘息の既往がある患者に投与すべきではない薬物はどれか。
A. カルシウム拮抗薬
B. 抗ヒスタミン薬
C. α遮断薬
D. β遮断薬
E. 抗コリン薬
(解答)D

6. 薬物の催奇形性が最も現れやすい時期はどれか。
A. 妊娠3週末まで
B. 妊娠4週〜7週末
C. 妊娠8週〜15週末
D. 妊娠16週〜23週末
E. 妊娠24週以後
(解答)B

7. 小児の薬物動態について正しいものはどれか。
A. 新生児はグルクロン酸抱合能が未発達である
B. 細胞外液量の割合は年齢とともに増加する
C. 核黄疸は抱合型ビリルビンによる
D. 細胞外液量と体表面積は相関しない
E. 薬物投与量は年齢で決めるのが最もよい
(解答)A

8. 高齢者の薬物療法について誤っているものはどれか。
A. 薬の数は最小限にする
B. 他科の処方に注意する
C. 用量は少なめから始める
D. 対症療法薬はなるべく早期に中止する
E. できるだけ食後3分割投与にする
(解答)E

9. モルヒネの作用で誤っているものを一つ選べ。
A. 止瀉作用
B. 鎮咳作用
C. 制吐作用
D. 呼吸抑制作用
E. 縮瞳作用
(解答)C

10. ニトログリセリン錠について正しいのはどれか。
A. 安静時狭心症には効かない
B. 耐性は起こりにくい
C. 細胞内サイクリックAMPの上昇を介して作用する
D. 飲み込むと効かない
E. 噛むと爆発の危険があるので舌下で溶かす
(解答)D

11. 糖質コルチコイドの作用について誤っているものはどれか。
A. 肝で糖新生を促す
B. 抗炎症作用を示す
C. 赤血球や好中球の増加作用がある
D. 免疫抑制作用がある
E. 血糖低下作用がある
(解答)E

12. 非ステロイド性抗炎症薬について正しいものを選べ。
A. 坐剤は消化管潰瘍の副作用がない
B. アスピリンはピリン系解熱鎮痛薬ではない
C. 長期投与で癌の発生率が高くなる
D. ニューキノロン系抗菌薬との併用で中枢神経系の抑制を起こすことがある
E. 易感染性を引き起こす
(解答)B

13. 化学療法薬とその作用機序の組み合わせのうち正しいものはどれか。
A. ペニシリン系抗生物質 ― 核酸合成阻害
B. マクロライド系抗生物質 ― 蛋白合成阻害
C. スルフォンアミド系抗菌薬(サルファ薬) ― 蛋白合成阻害
D. キノロン系(ピリドンカルボン酸系)抗菌薬 ― 細胞壁合成阻害
E. メトトレキサート ― 葉酸合成阻害
(解答)B

14. 次の抗腫瘍薬と副作用のうち誤った組み合わせはどれか。
A. フルオロウラシル ― 間質性肺炎
B. シスプラチン ― 聴力障害
C. ビンカアルカロイド ― 神経障害
D. ブレオマイシン ― 皮膚の肥厚硬化
E. ダウノルビシン ― 心筋障害
(解答)D?

もどる

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送