臨床薬理学実習前レポート 第3回
(神経−筋伝達)

評価はBでした。

1. 神経筋接合部の構造と刺激伝達について
(1) 骨格筋における神経筋伝達
 脊髄や脳幹の運動ニューロンの軸策である運動神経は、骨格筋に興奮を伝達し筋収縮をもたらす。神経線維と筋線維の間には、シナプスの一種である神経筋接合部がある。
 運動神経線維は細い神経終末となり、骨格筋線維にある終板に接合して終わる。終板の膜は他の膜に比べて厚く、横方向に一定の間隔でひだ状に陥凹がある。ひだの入り口に対して神経終末側の膜に活性化部位があり、伝達物質であるアセチルコリンを含むシナプス小胞が集合している。神経筋接合部のシナプス小胞の直径は40〜60nmである。シナプス前末端と終板膜の間には、シナプス間隙と呼ばれる約50nmの隙間がある。終板はニューロンのシナプス後膜に相当する。ここにはアセチルコリン受容体やアセチルコリンエステラーゼが密に存在する。
 神経線維を伝導してきた活動電位はシナプス前末端の電位依存性カルシウムチャネルを開口させてカルシウム電流を生じる。カルシウム電流は末端内のカルシウム濃度を上昇させる。伝達物質の放出に関係するカルシウムチャネルはN型である。カルシウムは末端からシナプス小胞のアセチルコリンを開口分泌(エキソサイトーシス)で細胞外に放出させる。放出された伝達物質はシナプス間隙を拡散し、終板にあるアセチルコリン受容体に結合して、受容体にあるチャネルを開口する。このアセチルコリン受容体は、ニコチンが結合しチャネル開口をもたらすので、ニコチン受容体と呼ばれる。正常では1回の神経刺激、すなわち1回の興奮では約60個の小胞分のアセチルコリンが放出されて筋線維に作用する。小胞1個は、細胞ごとにほぼ一定の1,000〜10,000分子のアセチルコリンを含む。シナプス小胞から放出されたアセチルコリンは、受容体に作用した後、シナプス後膜やシナプス間隙にあるアセチルコリンエステラーゼで分解される。分解で生じたコリンと酢酸はシナプス前末端に取り込まれる。シナプス前末端ではこれらを材料としてアセチルコリンが再合成されてシナプス小胞に貯蔵される。
 アセチルコリン受容体のチャネルが開口すると陽イオンのナトリウム、カリウム、カルシウムがシナプス電流として流れて、終板電位(EPP)が発生する。シナプス前末端に活動電位が到達してから終板電位が発生するまでには0.5msecの遅延がある。これをシナプス遅延という。シナプス遅延は主に伝達物質の放出、拡散に要する時間である。終板電位は終板近傍では急峻に上昇し、ゆっくり減衰する。シナプス電流の流入は1〜2msecで終了しており、終板電位の遅い減衰は細胞膜の抵抗と容量で決まる受動的性質による。膜時定数が大きいほど遅い。さらに終板電位は終板から記録部位が離れるに従い、細胞のケーブル的性質に従い振幅が減少し、時間経過が緩やかになる。中枢のシナプスと異なり、神経筋伝達には統合作用はなく、単なるリレー型の伝達である。終板電位は大きな脱分極であり、一発で十分に活動電位を発生させることができる。1回の神経インパルスで放出されるアセチルコリン量は筋の活動電位発生に要する量の約10倍とされる。
 電位記録の振幅度を上げると、不規則な約1mVの微少な電位が記録される。これは微小終板電位である。微小終板電位は1個のシナプス小胞からのアセチルコリン放出で発生するので、終板電位の最小単位である。実験的に細胞外のカルシウム濃度を低下させたり、細胞外のマグネシウム濃度を増加させたりするとカルシウム流入が減り、シナプス小胞の放出数が低下して、神経刺激で誘発された微小終板電位が記録できる。

(2) 平滑筋の神経筋伝達
 平滑筋は自律神経の節後神経線維で支配されている。神経線維は多数に分岐し、筋線維に沿って走り、筋細胞膜に溝を作っている。神経線維には多数の膨隆が数珠のように連なる。膨隆にはシナプス小胞があってシナプス前末端として機能する。交感神経の膨隆のシナプス小胞は有芯でノルアドレナリンを含む。副交感神経の膨隆のシナプス小胞はアセチルコリンを含む。1本の神経線維の興奮によって伝達物質は軸策上の多数の部位から複数の筋細胞に対して放出される。平滑筋の種類により、交感、副交感神経の興奮によりシナプスで生じる反応は異なる。興奮性の反応が生じる場合は脱分極性の興奮性接合部電位(EJP)が発生する。平滑筋のシナプス間隙は離れており、伝達物質の拡散に時間がかかるため、興奮性接合部電位は終板電位より時間経過は遅い。また振幅も小さいために活動電位を発火させるには加重が必要である。交感神経は内臓平滑筋では抑制性に働くが、ここでは過分極性の抑制性接合部電位(IJP)が発生する。

(3) 心筋の自律神経による制御
心筋でも平滑筋と同様に、自律神経の節後神経線維が多数の膨隆を介して通りすがりに心筋を制御する。心筋は興奮や収縮を自動的に行っており、神経は調節的に作用する。自律神経は自動性と収縮性の両者を調節する。副交感神経からのアセチルコリンは全体として抑制的、交感神経からのノルアドレナリンは全体として促進的である。いずれの場合も受容体は膜7回貫通性でGTP結合タンパク質に連関している。アセチルコリンはカリウム電流を発生し心拍数を減少する。ノルアドレナリンはカルシウム電流を増大し張力を増し、また心拍数を増大する。


2. 神経筋接合部作用薬の作用部位と作用機序について
神経筋接合部興奮薬
 運動神経終末に作用してアセチルコリン遊離を促す薬
   臨床応用されていない。グアニジンなど。
 コリンエステラーゼ阻害作用と終板に対する直接作用の両作用を持つ薬
    ネオスチグミン…徐神経した筋においても筋の攣縮を起こす
    エドロホニウム…作用の持続が短い。重症筋無力症の診断など。
    アンベノニウム…作用持続が長い。ムスカリン様作用が弱い。重症筋無力症の治療など。

 神経筋接合部遮断薬
 ・競合性遮断薬…遊離されたアセチルコリンと競り合って終板のニコチン受容体を占有し、
         アセチルコリンによって生じる終板電位の大きさを減少して筋への伝達を遮断。
   外科手術時の麻酔の補助薬:骨格筋の弛緩により手術操作を容易にする。
   整形外科手術:骨折の整復や脱臼の補正に用いる。
   検査:喉頭鏡、気管支鏡、食道鏡などを挿入する場合に用いる。
     ツボクラリン…現在臨床にはほとんど用いられない。南アメリカの原住民の矢毒として使われてい
たクラーレから単離、結晶化されたアルカロイド。蛇毒のα-ブンガロトキシンは
ツボクラリン同様、アセチルコリン受容体に結合してアセチルコリンの結合を遮断
するが、ツボクラリンとは異なり、結合は毒を洗い去っても残り不可逆的である。
     パンクロニウム…ツボクラリンの5倍の効力を持ち、持続時間も長い。
     ベクロニウム…パンクロニウムと同等の効力をもつ。臨床に頻用。
 ・脱分極性遮断薬…ツボクラリンの化学構造を基礎にして開発、合成された。デカメトニウムとスキサメト
ニウムがあるが、現在臨床的にはスキサメトニウムが用いられている。作用発現が速く、
作用持続時間が短いので、緊急時の気管内挿管などの操作のために用いられている。


神経筋接合部に関連する疾患など
※ 重症筋無力症
患者は筋運動が困難で、疲労しやすい。この疾患は自己免疫疾患の一つで、シナプス後膜のアセチルコリン受容体が自己抗体で破壊されて少なくなり発症する。放出されるアセチルコリン量は正常であるが終板電位は小さく、活動電位発生の域に達しにくい。この症状はアセチルコリンエステラーゼ抑制剤でアセチルコリンの分解を抑制するとある程度改善される。

※ コリンエステラーゼ阻害薬
アセチルコリンを分解する酵素のアセチルコリンエステラーゼは、エゼリンおよびサクシニルコリンによって抑制される。これらはアセチルコリンエステラーゼ抑制剤と呼ばれる。抑制によってアセチルコリンが持続的に作用するので終板電位の大きさが増し、持続時間も長くなる。これによって筋のけいれんが起こり強直性の麻痺を生じる。アセチルコリンエステラーゼ抑制剤は除草剤や化学兵器となる。サリンはこの型の毒物の一種で、アセチルコリンエステラーゼを不可逆的に抑制する。

※ アセチルコリンの分泌の抑制
 症状が重症筋無力症に似た疾患にLambert-Eaton症候群がある。この場合の原因は神経線維側にあり、カルシウムチャネルに対する自己抗体によってカルシウム流入が減り、アセチルコリンの放出が減少している。また、食物中のボツリヌス毒素によるボツリヌス中毒は生命に危険のある食中毒である。ボツリヌス毒素がアセチルコリンの放出を抑制し筋麻痺が生じる。重症では呼吸麻痺で死に至る。少量のボツリヌス毒素の筋肉への注射が治療に用いられることもある。脳性の四肢麻痺小児では痙縮性の筋運動障害が起こった場合、患児の筋肉に毒素を注射するとアセチルコリンの放出の抑制よって症状が改善され、起立や歩行が可能になることもある。同様な収縮の抑制により、慢性緊張性頭痛にも有効である。


参考文献
 生理学テキスト 第4版  大地陸男著  文光堂(2003)
 NEW薬理学 改訂第4版  田中千賀子・加藤隆一編集  南江堂(2002)

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