実施日 平成15年5月21日(水)
評価はA-でした。
1. 目的・方法
カフェインには中枢興奮作用がある。この作用について検証するため、二重盲検法を用いてカフェイン摂取前後の脈拍、暗算能力を比較する。
(1) 2日間カフェインを摂取せずに以下の作業を行った。
(2) 脈拍測定1回、暗算3回を1クールとし、これを4回繰り返した。
(3) コーヒー(カフェイン+orカフェイン−)を飲み、カフェインの有無を予想した。
(4) 脈拍測定1回、暗算3回を1クールとし、これを4回繰り返した。
(5) 暗算の正解数を数え、1クールごとに中央値を出した。
(6) 脈拍、暗算正解数についてコーヒー飲用前後の差を計算した後、カフェインの有無を評価した。
2. 結果(C班のものに基づく)
A)予想(+/−)とカフェイン(+/−)との間に関連はあるか。(Fisher test)
予想(+/−)とカフェイン(+/−)とは独立であると仮定すると、周辺度数を固定した時、起こりうる事象とその確率は以下のようになる。
(ただし、確率の算出は実習書に従った。)
事象 | P0 | P1 | P2 | P3 | P4 | P5 | P6 | P7 | P8 |
確率 | 0.00037 | 0.01185 | 0.09675 | 0.29025 | 0.36282 | 0.1935 | 0.04146 | 0.00296 | 0.00004 |
今回の結果P4よりも偏りの大きな事象の起きる確率はP4+P5+P6+P7+P8=0.60078>0.05
であるから、「予想(+/−)とカフェイン(+/−)は独立である。」という仮説に従った場合に、今回の結果以上に偏った分布になる確率は0.60078であり、危険率5パーセントで仮説は棄却されない。
すなわち、予想(+/−)とカフェイン(+/−)とは独立である。(二重盲検は成立する。)
B)概括評価(+/−)とカフェイン(+/−)との間に関連はあるか。(Fisher test)
上記と同様に独立であると仮定する。
事象 | P2 | P3 | P4 | P5 | P6 | P7 | P8 |
確率 | 0.00226 | 0.04072 | 0.20362 | 0.38009 | 0.28507 | 0.08145 | 0.00679 |
今回の結果P7よりも偏りの大きな事象の起きる確率は、P7+P8=0.08824>0.05
であるから、「概括評価(+/−)とカフェイン(+/−)は独立である。」という仮説に従った場合に、今回の結果以上に偏った分布になる確率は0.08824であり、危険率5パーセントで仮説は棄却されない。
すなわち、概括評価(+/−)とカフェイン(+/−)とは独立である。
C)コーヒー飲用前後の脈拍の変化について、カフェイン(+/−)の2群の差をt検定で比較する。
まず、母集団のカフェイン(+/−)の平均値に差はないと仮定する。
例数 | 平均値 | 偏差平方和 | 自由度(n) | |
カフェイン(+) | 8 | -1.25 | 9.5 | 15 |
カフェイン(−) | 9 | -1.889 | 22.889 |
(ただし、自由度は全例数−2。)
tを、実習書に基づいて算出すると、t=0.8950となる。これは自由度15におけるt0よりも絶対値が小さいため、仮説は棄却されない。つまり、カフェイン(+/−)の平均値に差はない。
D)コーヒー飲用前後の暗算正解数変化について、カフェイン(+/−)の2群の差をt検定で比較する。
まず、母集団のカフェイン(+/−)の平均値に差はないと仮定する。
例数 | 平均値 | 偏差平方和 | 自由度(n) | |
カフェイン(+) | 8 | 7 | 68 | 15 |
カフェイン(−) | 9 | 2.444 | 112.222 |
上記と同様にtを算出すると、t=2.6752となる。これは自由度15におけるt0よりも絶対値が大きいため、仮説は棄却される。つまり、カフェイン(+/−)の平均値には有意差がある。
3. 考察
カフェインはテオフィリン、テオブロミンなどとともにキサンチンのメチル誘導体であり、大脳皮質および延髄の興奮により、中枢神経および循環機能の亢進を起こす。
これらの機序としては、(1)ホスホジエステラーゼを阻害し、cAMPを増加させる結果、これをセカンドメッセンジャーとするホルモン受容体やβアドレナリン受容体などアデニル酸シクラーゼと共役する伝達物質受容体の機能が亢進する。(2)アデノシン受容体に非特異的に拮抗作用する。(3)細胞内貯蔵カルシウムの遊離を促進する。があげられる。
これらメチルキサンチンは種類によって作用の強さが異なる。中枢興奮、骨格筋興奮、胃液分泌促進などではカフェインが最大、テオブロミンが最小であるのに対し、心筋興奮、平滑筋弛緩、利尿の作用はテオフィリンが最大、カフェインが最小である。
(1) まず、フィッシャー試験の結果から、今回の実習で二重盲検法が成立していることが確認された。また、概括評価もカフェインの有無とは独立であった。続いて行われた試験では、カフェインには心拍数を有意に変化させる作用はないが、暗算能力には有効に作用する。という結論が得られた。心筋に対する作用は比較的弱く、中枢興奮作用が比較的強いカフェインの特性によるのではないかと考えられる。
(2) 独立性の検定についてはχ二乗検定が行われるのが一般的であるが、要素に期待値5以下のものがある場合には適さないので、フィッシャーの正確確率検定を用いる。この検定も、基本的には他の検定と同じく、仮定を立て、それが棄却されるか否かによって判定を行う。
フィッシャーの検定では、それ以上に偏りの大きい事象の起こる確率の総和を求め、これを棄却率(5%)と比較するのである。総和が棄却域を下回ることは、仮定を採用すると実際に起きた事象よりも偏りの大きい事象が5%以下の確率でしか起こらないことを指し、この場合仮説は棄却されるのである。
4. 感想
個人的には、はじめに「カフェインは入っていない。」と予想したところ、脈拍は減少、暗算能力も微増程度で、概括評価でも「カフェインは入っていない。」と評価した。しかし、実際にはカフェインが入っており、プラセボー効果によるものだろうか、と考えさせられた。概括評価の正答率が予想していたよりも悪く、そのことに驚いたが、これにもプラセボー効果の影響があるのか、など、できれば調べてみたいと思った。
実習は実際に自分たちを治験の受験者に見立てて行う形式が、わかりやすくてよいと思う。
参考文献
生理学テキスト 第4版 大地陸男著 文光堂(2003)
NEW薬理学 改訂第4版 田中千賀子・加藤隆一編集 南江堂(2002)
基礎統計学T・統計学入門 東京大学教養部統計学教室編 東京大学出版会(1991)
各班の結果
A班(自由度はn=15においてt=2.131)
予想
|
概括評価
|
|||||||||
+
|
−
|
計
|
+
|
−
|
計
|
|||||
Caf
|
+
|
4
|
4
|
8
|
Caf
|
+
|
5
|
3
|
8
|
|
−
|
1
|
8
|
9
|
−
|
3
|
6
|
9
|
|||
計
|
5
|
12
|
17
|
計
|
8
|
9
|
17
|
脈拍 | 暗算 | ||
Caf+ | Caf− | Caf+ | Caf− |
0 |
2
-3 -2 0 0 -3 -3 -2 -4 |
10
7 2 8 8 17 10 3 |
6
5 12 3 2 4 4 -2 -4 |
X=-3.13 | Y=-1.67 | X=8.13 | Y=3.33 |
N=8 | N=9 | N=8 | N=9 |
B班(自由度はn=16においてt=2.120)
予想
|
概括評価
|
|||||||||
+
|
−
|
計
|
+
|
−
|
計
|
|||||
Caf
|
+
|
6
|
3
|
9
|
Caf
|
+
|
5
|
4
|
9
|
|
−
|
3
|
6
|
9
|
−
|
5
|
4
|
9
|
|||
計
|
9
|
9
|
18
|
計
|
10
|
8
|
18
|
脈拍 | 暗算 | ||
Caf+ | Caf− | Caf+ | Caf− |
0 |
0
0 1 -1 -1 0 -3 1 -4 |
-2
17 9 5 9 1 1 4 12 |
10
-2 -2 11 4 16 5 2 2 |
X=-0.67 | Y=-0.78 | X=6,22 | Y=5.11 |
N=9 | N=9 | N=9 | N=9 |
C班(自由度はn=15においてt=2.131)
予想
|
概括評価
|
|||||||||
+
|
−
|
計
|
+
|
−
|
計
|
|||||
Caf
|
+
|
4
|
4
|
8
|
Caf
|
+
|
7
|
1
|
8
|
|
−
|
4
|
5
|
9
|
−
|
4
|
5
|
9
|
|||
計
|
8
|
9
|
17
|
計
|
11
|
6
|
17
|
脈拍 | 暗算 | ||
Caf+ | Caf− | Caf+ | Caf− |
-1 |
-3
-2 -3 -4 -1 0 0 -4 0 |
9
9 4 9 2 11 4 8 |
2
9 2 3 4 -4 4 4 -2 |
X=-1.25 | Y=-1.89 | X=7,00 | Y=2.44 |
N=8 | N=9 | N=8 | N=9 |
D班(自由度はn=13においてt=2.160)
予想
|
概括評価
|
|||||||||
+
|
−
|
計
|
+
|
−
|
計
|
|||||
Caf
|
+
|
3
|
5
|
8
|
Caf
|
+
|
3
|
5
|
8
|
|
−
|
3
|
4
|
7
|
−
|
1
|
6
|
7
|
|||
計
|
6
|
9
|
15
|
計
|
4
|
11
|
15
|
脈拍 | 暗算 | ||
Caf+ | Caf− | Caf+ | Caf− |
-4 |
-4
-1 0 -4 0 0 -2 |
4
4 0 -19 25 0 17 3 |
2
0 -2 5 0 -1 15 |
X=-3.50 | Y=-1.57 | X=4.25 | Y=2.71 |
N=8 | N=7 | N=8 | N=7 |
E班(自由度はn=14においてt=2.145)
予想
|
概括評価
|
|||||||||
+
|
−
|
計
|
+
|
−
|
計
|
|||||
Caf
|
+
|
1
|
7
|
8
|
Caf
|
+
|
4
|
4
|
8
|
|
−
|
3
|
5
|
8
|
−
|
3
|
5
|
8
|
|||
計
|
4
|
12
|
16
|
計
|
7
|
9
|
16
|
脈拍 | 暗算 | ||
Caf+ | Caf− | Caf+ | Caf− |
-1 |
0
-3 -5 -2 -3 1 0 -6 |
5
24 13 4 1 6 8 9 |
4
4 1 9 7 10 5 7 |
X=-3.00 | Y=-2.25 | X=8.75 | Y=5.88 |
N=8 | N=8 | N=8 | N=8 |
F班(自由度はn=13においてt=2.160)
予想
|
概括評価
|
|||||||||
+
|
−
|
計
|
+
|
−
|
計
|
|||||
Caf
|
+
|
5
|
2
|
7
|
Caf
|
+
|
5
|
2
|
7
|
|
−
|
4
|
4
|
8
|
−
|
3
|
5
|
8
|
|||
計
|
9
|
6
|
15
|
計
|
8
|
7
|
15
|
脈拍 | 暗算 | ||
Caf+ | Caf− | Caf+ | Caf− |
-2 |
-1
4 1 -2 -3 -6 -7 -5 |
6
5 7 6 2 6 9 |
3
4 2 0 3 3 -2 7 |
X=-2.29 | Y=-2.38 | X=5.86 | Y=2.50 |
N=7 | N=8 | N=7 | N=8 |
まとめ(自由度はn=96においてt=1.985)
予想
|
概括評価
|
|||||||||
+
|
−
|
計
|
+
|
−
|
計
|
|||||
Caf
|
+
|
23
|
25
|
48
|
Caf
|
+
|
29
|
19
|
48
|
|
−
|
18
|
32
|
50
|
−
|
19
|
31
|
50
|
|||
計
|
41
|
57
|
98
|
計
|
48
|
50
|
98
|
脈拍
|
暗算
|
||||
変化 | Caf+(人) | Caf−(人) | 変化 | Caf+(人) | Caf−(人) |
-7
|
1
|
1
|
-19
|
1
|
0
|
-6
|
2
|
2
|
-4
|
0
|
2
|
-5
|
1
|
2
|
-3
|
0
|
0
|
-4
|
12
|
6
|
-2
|
1
|
6
|
-3
|
5
|
9
|
-1
|
0
|
1
|
-2
|
11
|
6
|
0
|
2
|
3
|
-1
|
8
|
5
|
1
|
3
|
1
|
0
|
4
|
13
|
2
|
3
|
7
|
1
|
3
|
4
|
3
|
2
|
5
|
2
|
0
|
1
|
4
|
6
|
9
|
3
|
0
|
0
|
5
|
3
|
4
|
4
|
0
|
1
|
6
|
4
|
1
|
5
|
1
|
0
|
7
|
2
|
3
|
8
|
4
|
0
|
|||
9
|
7
|
2
|
|||
10
|
2
|
2
|
|||
11
|
1
|
1
|
|||
12
|
1
|
1
|
|||
13
|
1
|
0
|
|||
14
|
0
|
0
|
|||
15
|
0
|
1
|
|||
16
|
0
|
1
|
|||
17
|
3
|
0
|
|||
24
|
1
|
0
|
|||
|
25
|
1
|
0
|
||
X=-2.271 | Y=-1.740 | X=6.708 | Y=3.680 | ||
N=48 | N=50 | N=48 | N=50 |
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