免疫学 平成15年度本試験

平成15年10月1日実施(120分)
問題用紙1枚、解答用紙1枚(白紙、裏表使用可)いずれもB4
受験者102人中20人不合格

1.アレルギーをT〜W型に分類し、それぞれの発症機序および代表的疾患例を述べよ。
T型…肥満細胞上にFc部分で結合している抗体が抗原と反応したことにより、肥満細胞からヒスタミン・ ロイコトリエンなどのメディエーターが放出されて起こす組織傷害。気管支喘息・蕁麻疹・アナフィラキシーショックがある。
U型…細胞表面物質・組織構成物質に向けられた抗体がそれに反応することによる組織傷害。その抗体に よって誘導される補体やK細胞、好中球、マクロファージの作用が関係する。重症筋無力症や新生児溶血性黄疸がある。
V型…抗原分子同士が抗体によって結び付けられてできた集塊(免疫複合体)による組織傷害。免疫複合体により補体が活性化されたり、好中球から傷害物質が放出されることによる。糸球体腎炎や血清病がある。
W型…抗体によらず、T細胞と抗原との反応による組織傷害。T細胞からのリンホカイン放出やキラーT細胞の作用による。接触性皮膚炎や移植片対宿主反応がある。


2.免疫グロブリンの各サブセットの構造的特徴および機能について述べよ。
 免疫グロブリンは重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)のそれぞれ2分子からなる。免疫グロブリンはFab領域とFc領域に分かれている。Fab領域の、特にV領域で抗原に結合することができる。このV領域はB細胞の成熟の過程で体細胞超突然変異が起きる領域であり、非常に多様性に富むため、おそらく地球上に存在するほぼすべての有機分子と結合できる抗体がB細胞から作られることとなる。またFc領域は定常 領域ともよばれ、その抗体の機能を一任している。α、δ、ε、γ、μ鎖はそれぞれIgA,IgD,IgE,IgG,IgMのFc領域であり、B細胞が活性化されて抗体をつくりだす過程で、Fc領域の遺伝子のクラススイッチがおこり、病原因子の排除に有効な抗体がつくられることとなる。


3.胸腺におけるT細胞の選択機構を二つに分類してそれぞれの特徴を述べなさい。
 胸腺においてなされるT細胞の選択はpositive selectionとnegative selectionの二つがある。Positive selectionは胸腺の皮質上皮細胞表面に提示されている自己MHCと抗原分子の複合体を認識するT細胞が選択されて生き残る。このときMHC classTと結合したものはCD8陽性のキラーT細胞になり、MHC classUと結合したものはCD4陽性のヘルパーT細胞となる。Negative selectionは皮質〜髄質境界領域に存在する胸腺樹状細胞のMHCに提示されている自己抗原を認識しないものが選択されて生き残る。


4.感染防御機構を感染の経過にそって3つに分類して、それぞれに関与する免疫担当細胞をあげてその特徴を説明しなさい。
(1)自然免疫・・・細菌、ウイルスなどの病原微生物の侵入、感染の早期に働く、あらかじめ備わった免疫補体やマクロファージ、NK細胞が担う。持続する免疫にはつながらないが、この後の適応免疫を誘導する役割を持つ。
(2)体液性免疫・・B細胞が担当する感染防御機構であり、抗体は体細胞超突然変異やクラススイッチなどを起こし、あらゆる有害な抗原分子と結合して、抗原をオプソニン化できる。オプソニン化された抗原はマクロファージや補体系により、貪食・破壊される。
(3)細胞性免疫・・キラー、ヘルパーT細胞が担当する感染防御機構であり、抗原提示細胞のMHCに提示された内因性・外因性抗原(多くの場合、ウイルスペプチド)をT細胞はコレセプターとともにTCRで認識すると活性化する。ヘルパーT細胞はMHCTに提示された抗原を認識すると、活性化されサイトカインを放出してCTLを活性化し、ウイルス感染細胞をパーフォリンを放出することで、またアポトーシスを起こさせることで死滅させる。 


5.正しく組み合わせを下記よりえらべ。
@MHCbのマウスの骨髄細胞を移入した放射線照射MHCaマウスに抗原を投与してもT細胞が応答しないのはMHCの骨髄由来の抗原提示細胞がないからである。
AMHCa×bのマウスの骨髄細胞を放射線照射したMHCbマウスに移入して分化してきたT細胞はMHCaで提示された抗原のみならず、MHCbで提示された抗原も認識するようになる。
BMHCbのマウスの骨髄細胞を移入した放射纏照射MHCaマウスにMHCbのマウスを皮膚移植したところ、皮膚は生着された。
CMHCbのマウスの骨髄細胞を移入した放射線照射MHCaマウスにMHCaのマウスを皮膚移植したところ、皮膚は生着された。

a(1、2、3)  b(1、2、4)  c(1、3、4)  d(2、3、4)  e(1〜4)

 (答)b


6.CD4ヘルパーT細胞には現在Th1とTh2がよく知られている。それぞれのヘルパーT細胞の分化に必要なサイトカインは何か。またそれぞれのT細胞から放出される代表的なサイトカインは何か。またTh1/Th2の感染防御における役割を簡潔に答えなさい。
 Th1の分化にはIL-12が必要であり、これはIL-4やIL-10で抑制される。またTh2の分化にはIL-4が必要であり、IFN-γで抑制される。Th1からはIL-2、TNFβ、IFN-γが放出され、Th2からはIL-4,IL-5、IL-10が放出される。
 TNFβやIFN-γはマクロファージを活性化してMHCの発現を増強させ、T細胞への抗原提示の効率をあげる。IL-2はTh細胞の自己増殖にかかわるだけでなく、キラーT細胞も増殖させるのでTh1は細胞性免疫に関係した感染防御機構だといえる。
 一方、IL-4はB細胞に対する増殖因子であるとともに、B細胞に働いてIgEをつくるようにクラススイッチさせることができる。また、IL-5も同様に、IgAをつくるようにクラススイッチさせるサイトカインである。
 IL-10はTh1への分化を抑制してTh2へ仕向けるので、Th2は体液性免疫に関係した感染防御機構だと言える。


7.マクロファージが病原体で刺激されると活性化されて炎症性サイトカインを放出する。このとき放出される代表的なサイトカインを3つあげ、それぞれの役割を簡潔に記せ(2−3行)。
 TNFα
 炎症時にマクロファージから放出されると血管内皮細胞に働いて内皮細胞間隙を広げ、他の炎症細胞の血管透過性を亢進して炎症反応を強める働きがある。

 IL-12
  ヘルパーT細胞に働いてTh1への分化を促進させる。また、先天免疫系ではNK細胞に働いてIFN-γの産生を増強させ、そのIFN-γでマクロファージは感作・増殖することになる。

 IL-6
  B、Tリンパ球を活性化させるサイトカインであり、また形質細胞の抗体産生も増殖させる。また、補体系の活性化にも関与している。


8.次の( )内に適切な用語を解答欄に記入せよ。
主要組織適合抗原(MHC)は、抗原ペプチドを(@)に提示することで免疫応答を惹起する。MHCはクラスT分子とクラスU分子に大別される。クラスT分子は、細胞内に侵入したウィルス等の内在性抗原を主に提示するが、その隙ユビキチン化された蛋白抗原は(A)で分解され、エネルギー依存的に(B)を介して輸送されクラスT分子へとローディングされる。一方、クラスU分子は細菌等の外来性抗原を主に提示する。MHCクラスU分子は(C)と会合した形で、小胞体からゴルジ体を経て、エンドゾームヘと運搬される。この過程で(C)は分解され、CLIPと呼ばれるペプチドフラグメントとしてクラスU分子のペプチド結合溝を占拠しているが、これは(D)によって除去され、最終的に細胞内にとりこまれた外来抗原由来のペプチドがMHCクラスU分子と結合することになる。
 @T細胞 Aプロテアソーム BTAP Cインバリアント鎖 DHLA−DM


9.次のうち正しいものには○、間違っているものには×を記せ。
(1)樹状細胞はナイーブT細胞を活性化することができる (○)
(2)成熟樹状細胞は未熟樹状細胞より貪食能が強い (×)(逆)
(3)成熟樹状細胞は未熟樹状細胞に比べ、B7ファミリー分子の発現が高い (○)
(4)形質細胞様樹状細胞はウイルス感染により多量のTNFα/βを彦生する (○)
(5)樹状細胞は死細胞を貪食して効率よくMHCクラスT分子にそれ由来の抗原ペプチドを提示できる。(×)(クラスU)


10.下記の文章はアポトーシスのシグナル伝達系について述べたものである。カッコ内に入る語句を書きなさい。
アポトーシスのシグナル伝達系は(1)依存性経路と(1)非依存性経路に大別される。
(1)依存性経路は増殖因子の欠乏やDNA障害によって引き起こされるアポトーシスに関与する。例えば増殖因子であるIL-3に生存を依存するような細胞では、IL-3レセプターからのシグナルがBH3-onlyタンパク質である(2)のリン酸化を引き起こす。リン酸化された(2)は14-3-3に結合して細胞質内に捕捉されるため、(1)への移行が妨げられる。つまりIL-3という生存シグナルが存在する条件下ではアポトーシスが起こらないように制御されている。
しかしIL-3が欠損すると(2)は(1)へ移行し、(3)等の抗アポトーシス分子の機能を阻害する。その結果、(1)内部に存在する(4)が細胞質に放出され、これは(5)に結合することによって、さらに(6)の活性化を誘導する。この(6)はさらに下流の(7)を切断・活性化し、種々のタンパク質(基質)を切断することによって最終的にアポトーシスを引き起こす。この基質の代表例は(8)である。通常(8)は(9)と結合してその活性を阻害しているが、一旦(7)が活性化されると(8)が分解され、(9)が活性化される。その結果、DNAは(10)単位で切断され、電気泳動上約(11)bpのラダーが形成される。
(1)非依存性経路はFasや(12)レセプターから伝達されるアポトーシスのシグナルに関与する。Fasの場合は、そのリガンドであるFas-Lと結合すると3量体化されて活性化され、その細胞内にある(13)ドメインにFADDの(13)ドメインが結合する。FADDは(13)ドメイン以外に(14)ドメインを持っており、これが(15)の(14)ドメインに結合することによって(15)の活性化を引き起こす。(15)の活性化は下流の(7)の活性化に至る。それ以後は(1)依存性経路の場合と同じである。

(1)ミトコンドリア (2)チロシンキナーゼ(3)Bcl-2(4)シトクロームc(5)Apaf-1(6)caspase9 (7)caspase3(8)ICAD(9)CAD(10)ヌクレオソーム(11)146(12)TNF(13)death(14)DE(15)caspase8


11.次の事柄に密接に関係する語句を下段の(A)から(I)の中から選んで括弧内に記入しなさい(必ずしも一つとは限らない。ただし、誤った余計な語句を記入した場合は滅点、アルファベットで記入しなさい)。

イ.無ガンマグロブリン血症(Bruton型)             (B)
ロ.即時型アレルギー                       (D)
ハ.X染色体連鎖型重症複合免疫不:全症(X-SCID)    (I)
ニ.体細胞超突然変異                      (F)(H)
ホ.Di George症候群                        (A)
ヘ.自己免疫性糸球体腎炎                   (G)
ト.抗原受容体遺伝子の再構成                 (E)
チ.高IgM血症                           (C)(H)

語句:
(A)胸腺移植 (B)Btk(チロシンキナーゼ) (C)CD40L (D)IgE (E)RAG1/RAG2
(F)胚中心 (G)免疫複合体 (H)AID (I)Commonγ鎖

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