免疫学 平成15年度追試験

平成16年2月27日実施(120分)
問題用紙1枚(A4)、解答用紙1枚(B4、白紙、裏表使用可)

1.胸腺におけるT細胞の選択機構を2つに分類してそれぞれの特徴を述べよ(15年本試3番)
胸腺においてなされるT細胞の選択はpositive selectionとnegative selectionの二つがある。Positive selectionは胸腺の皮質上皮細胞表面に提示されている自己MHCと抗原分子の複合体を認識するT細胞が選択されて生き残る。このときMHC classTと結合したものはCD8陽性のキラーT細胞になり、MHC classUと結合したものはCD4陽性のヘルパーT細胞となる。Negative selectionは皮質〜髄質境界領域に存在する胸腺樹状細胞のMHCに提示されている自己抗原を認識しないものが選択されて生き残る。

2.感染防御機構を感染の経過に沿って3つに分類して、それぞれに関与する免疫担当細胞を挙げてその特徴を説明せよ(15年本試4番)
・自然免疫
自然免疫とはInnate immunityであり、あらかじめ揃っている免疫で異物に迅速に反応するけれども長続きせず、記憶が残らない生体防御機構と定義される。食細胞が関わる。

・早期誘導免疫
自然免疫のなかで、感染数時間後に誘導される応答を早期誘導反応(primitive response)と呼んで、食細胞を中心とした典型的な自然免疫と区別することもある。早期誘導反応には、急性期反応蛋白であるマンノース結合蛋白/セリンプロテアーゼ複合体で活性化される補体や、炎症性サイトカインやケモカインで血管外遊走を誘導された好中球やマクロファージ、さらにナチュラルキラー(NK)細胞、γδ型T細胞レセプター(TCR)T細胞、NK陽性T(NKT)細胞、上皮間Tリンパ球、CD5陽性B細胞などが関与する。食細胞等による本来の自然免疫と適応免疫との橋渡し的役割を担うと考えられる。

・後期適応免疫
後期適応免疫は獲得免疫とも呼ばれ、抗原特異的Tリンパ球とBリンパ球よって誘導される。クローン増殖によってエフェクター細胞に分化する必要があるために機能するまでに数日かかる。メモリーT、B細胞への変化によって持続性の感染防御機構を担うことができる。

3.アレルギーT〜W系に分類して、その発症機序及び代表的疾患例を述べよ(15年本試1番)
T型…肥満細胞上にFc部分で結合している抗体が抗原と反応したことにより、肥満細胞からヒスタミン・ ロイコトリエンなどのメディエーターが放出されて起こす組織傷害。気管支喘息・蕁麻疹・アナフィラキシーショックがある。

U型…細胞表面物質・組織構成物質に向けられた抗体がそれに反応することによる組織傷害。その抗体に よって誘導される補体やK細胞、好中球、マクロファージの作用が関係する。重症筋無力症や新生児溶血性黄疸がある。

V型…抗原分子同士が抗体によって結びつけられてできた集塊(免疫複合体)による組織傷害。免疫複合体により補体が活性化されたり、好中球から傷害物質が放出されることによる。糸球体腎炎や血清病がある。

W型…抗体によらず、T細胞と抗原との反応による組織傷害。T細胞からのリンホカイン放出やキラーT細胞の作用による。接触性皮膚炎や移植片対宿主反応がある。

4.補体の生物学的機能を述べよ
補体とは抗体の働きを補う蛋白である。
・活性化の経路には以下の3通りがある。
(1) 古典的経路:抗体が抗原に結合することにより活性化される経路
C1sの活性化→C4の分解→C2の分解→C4b,2b(C3転換酵素)
(2) レクチン経路:血清中のレクチンが細菌やウイルス上のマンノースを含む糖タンパクや等差に結合することによって誘導される経路
MBL・MASPの活性化→C4の分解→C2の分解→C4b,2b(C3転換酵素)
(3) 第2経路:自然に活性化されている補体系因子が病原体表面と結合することによって誘起される経路
C3bがB因子と結合→D因子によるBの限定分解→C3b,Bb(C3転換酵素)
→C3転換酵素→C3a,C3bの生成
・活性化された補体の役割には具体的に以下のようなものがある。
1. C4a、C3a、C5a→ペプチド性炎症伝達物質、貪食細胞の動員
2. C3b→貪食細胞上の補体レセプターへの結合→オプソニン化、免疫複合体除去
3. 補体最終成分C5b、C6、C7、C8、C9→膜侵襲複合体(MAC)による病原菌・細胞の融解
(C5転換酵素→C5b→C5b,6,7複合体→C7で膜に結合→C8が結合し膜へ挿入→C9が結合して重合→膜に穴を開ける)

5 ハプテンキャリアーシステムについて説明せよ
薬剤などのように、それだけではそれに対する抗体を作らせる能力はないが、蛋白などと結合したことにより,その能力を持つようになるものをハプテンという。
抗体と結合することはできるが、抗体を作らせることができない物質であって、低分子の化学物質にそのようなものが多い。低分子のものは、すぐに体外に排泄されてしまったり、食細胞によって消化されてしまったり、B細胞の働きを十分に導き出すことができないためと考えられている。つまり、ハプテンに対応するB細胞は存在するが、それに対応するT細胞が欠けるため抗体産生が生じないと考えられる。ハプテンと結合してそれに対する抗体を作らせる能力を与えるような蛋白などをキャリアーという。キャリアーにハプテンが結合すると、その結合物にはT細胞が反応でき、ヘルパーとして働いてB細胞を抗体産生に向かわせる。

6.自已免疫病の発症機序を説明せよ
免疫現象が生体の正常な組織に向けられ、組織障害を起こすものを自己免疫病という。機序としてはいくつか仮設が考えられているが、実際はそのいくつかが絡まりあって成因となっていると考えられている。主なものにT細胞トレランスの破綻があり、その機序具体的に挙げる。
・クローン除去機構の障害
アポトーシス関連分子の異常:Fas抗原異常(lpr変異、lpr^cg変異)、Fasリガンド異常gld変異)、可溶性Fas抗原の異常増加、Bc1-2蛋自の増加
免疫抑制剤:シクロスポリン、FK506
移植片対宿主反応:骨髄移植、臓器移植、輸血
・自己抗原存在形態の変化
自己抗原の量的・質的変化、外来抗原との分子相同性、隔絶抗原の遊離
ノンプロAPCのプロ化
ウイルス感染やサイトカインによるB7関連分子などの発現亢進
・アナジー状態の解除
局所的な高濃度IL-2産生による自己反応性の回復(T細胞の不応状態からの回復)
・抑制機構の障害
調節性T細胞の機能低下による自己反応性T細胞の持続的活性化

7.免疫グロブリン遺伝子の再構成機序を説明せよ
免疫グロブリンはH鎖の可変部とL鎖の可変部とで抗原結合部を形成する。再構成はそれぞれの遺伝子を結びつけるにあたって、両者の間に介在する部分を切りとることによっている。
これはRAG-1,RAG-2遺伝子の支配するrecombinaseによりDNA鎖を当の遺伝子の存在する前ないし後の部分で切断して介在部を除去し、断端を一部endonuc1easeで除き、そこにTdTで塩基を付加しDNApolymeraseとDNAligaseで介在部を除いた前後のDNAを再結合させて修復することによる。V、D、Jの結合に際し結合部に新たな塩基が挿入されることによる多様性も加わる。その付加部分をN領域という。このことによる多様性は10^11近くあるとされ、組み合せの多様性と合わせると10^17もの莫大な種類の抗体を作る潜在能力が存在することになる。さらに、B細胞が対応抗原と反応して細胞増殖をすると、この免疫グロブリン遺伝子可変領域に突然変異(somatic hypermutation)が発生し、一層多様性を増すことになる。このことは抗原との親和性がより強い抗体を生み出すことに役立っている。再構成をおこす前の遺伝子(胎芽型DNA)は転写されないが、再構成後はV領域遺伝子51側のプロモーターとJ領域遺伝子31側のエンハンサーとの両方が含まれた活性化遺伝子となるので転写可能になる。
L鎖については,まず定常領域がκの遺伝子である染色体上の方のV-J再編成が試みられ、κ型のL鎖を作ろうとするのであるが、それに失敗した場合は、他の染色体上の遺伝子を利用し、定常領域遺伝子がλ型のものに結びついたV-J再編成を行いλ型のL鎖を作る。

8.CD4+T細胞のTH1およびTH2機能及び相互の制御機構を説明せよ
Th1の分化にはIL-12が必要であり、これはIL-4やIL-10で抑制される。またTh2の分化にはIL-4が必要であり、IFN-γで抑制される。Th1からはIL-2、TNFβ、IFN-γが放出され、Th2からはIL-4,IL-5、IL-6、IL-10、IL-13が放出される。
TNFβやIFN-γはマクロファージを活性化してMHCの発現を増強させ、T細胞への抗原提示の効率をあげる。また、IL-2によってTh細胞の自己増殖にかかわるだけでなく、キラーT細胞も増殖させ、同時にIFN-γによってTh2への分化を抑制するので、Th1は細胞性免疫に関係した感染防御機構だといえる。
一方、IL-4はB細胞に対する増殖因子であるとともに、B細胞に働いてIgEをつくるようにクラススイッチさせることができる。また、IL-5も同様に、IgAをつくるようにクラススイッチさせるサイトカインである。
IL-10はTh1への分化を抑制してTh2へ仕向けるので、Th2は体液性免疫に関係した感染防御機構だと言える。

もどる

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送