寄生虫学 平成13年度本試験

1.アフリカのタンザニアで重症交通外傷による敗血症を起こしていたので、抗生剤、抗真菌剤を投与して様態が落ち着いた。しかし帰国後、再発熱、頭痛が生じ、CRP上昇、DIC、腎機能障害が見られる寄生虫感染であることが分かった。(20点)
(1)すぐに考えられる寄生虫病名は何か?
(2)その寄生虫の検査法(方法、材料)
(3)顕微鏡で見られる輪状体と生殖母体をかけ。(←ちょっと日本語が足りない)
(4)対処法と治療法を書け。

* 1)熱帯熱マラリア:三日熱マラリアと卵形マラリア原虫は若い赤血球を好み、四日熱マラリア原虫は老赤血球を好むのに対し、熱帯熱マラリア原虫は老若を問わず攻撃するので破壊される赤血球が多くなり、感染した赤血球が凝固して脳や腎臓など重要臓器の細血管を閉塞しその組織の酸素欠乏・変性・壊死などを起こす。そのため熱帯熱マラリアは腎障害、DIC、全身出血などマラリアの中で症状が最も重いため悪性マラリアと呼ばれる。
2)末梢血の塗抹標本をギムザ染色して鏡検する。
  3)図説人体寄生虫学p.61や実習のスケッチ参照
4)赤内型原虫をファンシダール錠、クロロキン、硫酸キニーネのいずれかを内服して殺滅する。薬剤耐性を獲得した熱帯熱マラリアでは抗生物質や前述の薬を併用する。予防法としてはハマダラカの活動時間帯に素肌を出さない、予防内服(流行地を訪れる際赤内型を殺す薬を服用して現地での発病を抑え、帰国後発病した場合は前述の根治療法を実施する)を行うなど。

2.左のA〜Eに関連する言葉を、右のa〜eと線で結べ。(10点)
A.チクレロ潰瘍            a.ガンビアトリパノソーマ
B.ウィンターボトム症候群       b.バンクロフト糸状虫
C.乳糜尿               c.オンコセルカ
D.河川盲目症             d.シャーガス病
E.ロマーニャ徴候           e.リーシュマニア

*A-e:チクレロ潰瘍は皮膚リーシュマニアの別名でゴム園で働く労働者に外耳の潰瘍が多く見られることから使われるようになった言葉である(チクレとはゴムの木のこと)。
 B-a:ツェツェバエの刺咬によりガンビアトリパノソーマが感染し、中期の病状に肝脾腫、リンパ節、特に項部リンパ節腫大を特徴とするウィンターボトム徴候が見られる。
 C-b:バンクロフト糸状虫感染症の主症状の一つに乳糜尿がある。主症状としては急性の熱発作、慢性期の陰嚢水腫、象皮病、乳糜尿がある。
 D-c:回旋糸状虫による感染症をオンコセルカ症または河川盲目症という。通常成虫は皮下のいわゆるオンコセルカ腫瘤のなかにとぐろを巻いて寄生している。そのため成虫そのものはたいした障害を起こさないが、産出された仔虫(ミクロフィラリア)が皮膚、眼球に侵入・集積し病害をもたらす。
 E-d:クルーズ・トリパノソーマの侵入部分は媒介昆虫であるサシガメが好んで吸血する眼瞼部分が多く、眼瞼浮腫(特に片側性)初期症状として出現する頻度が高い。これは、ロマーニャ徴候とよばれ、シャーガス病の初期診断に役立つ。

3.次の用語を簡単に説明せよ。(20点)
(1)パラテニック・ホスト
(2)保虫宿主 reservoir host
(3)迷入
(4)宿主特異性
(5)幼生生殖
1) 待機宿主。中間宿主と終宿主との間に介在する宿主で寄生虫幼虫はその発育上の必要性からみて必ずしもこの宿主体内にとどまる必要はないが、宿主の食物連鎖の関係で感染する宿主。終宿主動物がこれを摂食すれば感染する点では第2中間宿主と同じレベルである。
2) ある寄生虫がヒト以外にも固有宿主をもつ場合、この動物を保虫宿主という。ヒトの生息環境内における他の感染源として重要である。
3) 本来の寄生部位で発育が進み、成熟後に他部位に移動する状況。回虫成虫が虫垂や胆道に入る例などがある。
4) 寄生虫は一般に宿主特異性が高く、固有宿主以外には限られた種にしか感染しない。非固有宿主に感染しても成熟しえないか死滅する。ヒトが固有宿主ではない寄生虫がヒトに感染にした場合には主として幼虫形で体内を移行し、幼虫移行症を引き起こす。
5) 吸虫類の多くがその幼生期に第1中間宿主である貝体内で無性的に増殖すること。例えばウェステルマン肺吸虫ではその第1中間宿主のカワニナの中で1匹のミラシジウムから2000匹のセルカリアに分裂増殖する。

4.次の選択肢の中から正しいものを丸で囲め。(20点)
1.糞線虫に感染している人の糞便には、通常(単細胞虫卵、ラブジチス型幼虫、ミクロフィラリア)である。
2.コラシジウムは、(線虫卵、吸虫卵、条虫卵)を水中で培養した時に虫卵から孵化して出てくるものである。
3.旋毛虫はヒトに感染すると、幼虫は小腸上部で成虫となり、そこで交尾して雌成虫は多数の(虫卵、幼虫)を排出し、それは(糞便と共に体外に排出される、筋肉中に被嚢する)。
4.住血吸虫のセルカリアは、(経皮的、経口的、経胎盤的)に感染する。
5.ニューモシスティスカリニ肺炎の患者の肺を生検し、スタンプ標本を作ってギムザ染色すると、(オオシスト、嚢子内小体、シゾント)が青く染まって見える。
6.ライム病の病原体は(細菌、ウィルス、原虫)であり、マダニ類により媒介される。
7.一般的にマラリアを伝搬する媒介蚊は(イエカ属、ハマダラカ属、ヤブカ属)である。
8.恙虫病の病原体はリケッチアであるが、その媒介者であるダニの幼虫の足は(3対、4対、5対)である。
9.オンコセルカ腫瘤を切断すると、(ミクロフィラリア、ミラシジウム、六鉤幼虫)が見られる。
*1.ラブジチス型幼虫  2.条虫卵  3.幼虫、筋肉内に被嚢する  4.経皮的  5.嚢子内小体  6.細菌  7.ハマダラカ属  8.3対  9.ミクロフィラリア

5.最近北海道全体で、条虫症の一種である多包条虫症の患者が多数見られるようになった。多包条虫は成虫とならず幼生生殖をし、その病態の影響は甚大である。(20点)
(1)多包条虫の生活史を書け(終宿主、中間宿主、ヒトへの感染経路を含めて)
(2)ヒトへの病態(感染から発症まで、体内増殖、転移など)を説明せよ。
(3)この病気の予後は不良である。予防法について知るところを述べよ。
(1) 外界に排泄された虫卵が何らかのルートで中間宿主であるノネズミなどに摂食されると、六鉤幼虫は大部分が肝臓で包虫となり、分裂増殖する。ノネズミは終宿主であるキタキツネに捕食され、ヒトへの感染はキタキツネ、キツネの皮との接触や糞便中の虫卵が口に入ることによって起こる。
(2) ヒトが虫卵を摂取すると六鉤幼虫が腸壁に侵入し、門脈系により肝に定着して増殖する。またこれが壊れて原頭節が血流によって他臓器(肺、脳、腎、骨など)に運ばれ増殖することもある。肝包虫症では10年前後の潜伏期を経た後肝腫大が著明になり、肝機能障害を起こすようになる。その後、全身状態が悪化し、浮腫、高度黄疸、多くは悪液質に陥り、肝性昏睡で死亡する。
(3) キタキツネやネズミとの接触を避けて感染を防ぐ。あるいは集団検便をして早期発見に努めるなど。

6.日本住血吸虫は雌雄異体であり、常に雄が雌を抱くような形で門脈・腸管腔静脈内に寄生虫として感染する。雌は腸静脈内に産卵するが、成虫による病害より、虫卵による病害の方が程度がひどい。(10点)
(1)肝臓における病害を軽症から重症まで説明せよ。
(2)血管中に排泄された虫卵がどのようにして糞便中に排泄されるかを説明せよ。
(1) 軽症はまず虫卵が細動脈を塞栓することによって起こる。塞栓した虫卵の周囲には炎症細胞浸潤が起こり、肉芽腫(虫卵結節という)が形成されて肝臓は腫大する。重症になると虫卵結節を中心に組織の繊維化が起こり、肝硬変へと移行して肝機能の低下をきたす。
(2) 産卵部位周辺の粘膜は壊死に陥り、潰瘍が形成されて腸管壁が脱落して粘血便などとして糞便中に排泄される。

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