寄生虫学 平成15年度本試験

平成15年9月25日実施 120分

受験者102人中16人不合格。

試験は問題用紙と解答用紙が一緒。B4で4枚。
(1枚目)
1. 包虫症(エキノコッカス症)は北海道全域でみられ、毎年患者が報告されている。次の問いに答えよ。(10点)
(1)北海道でみられる包虫症の病原虫(成虫)の和名を記せ。
(2)北海道における最も重要な本虫の固有宿主(終宿主)を1つ記せ。
(3)北海道における本虫の中間宿主は何か。生活史の中で重要な役割を果たすものを1つ記せ。
(4)ヒトはどのようにして包虫症に感染するか。
(5)単包虫症と多包虫症の病理像(特に包虫の成長過程)の差を記せ。

解答:
(1) 多包条虫
(2) キタキツネ
(3) エゾヤチネズミ
(4) キタキツネ、イヌとの接触、キツネの皮との接触、汚染された飲み水(雪、氷)、イチゴ、キノコなどの野生植物から起こる。
(5) 単包条虫の原頭節は母胞嚢の包虫液中に包虫砂として浮遊しているが、多包条虫の胞嚢は壊れて原頭節が血流によって他臓器に運ばれることもある。そのため多包虫症では末期になると浸潤・転移が起こる。肺に転移すると、咳、痰、血痰などを発し、時に包虫を喀出する。脳に転移すると痙攣など種々の神経症状を起こす。

2. 次の文はマラリアについての記述である。下の語群から適当な語句を選び、その記号を( )内に記入せよ。( )内の番号が同じものは同じ語句が入るものとする。(22点)
ヒトに寄生するマラリア原虫には(1)原虫、(2)原虫、(3)原虫、(4)原虫の4種類がある。いずれも媒介蚊(5)属の刺咬により感染するが、最近(6)による感染も増えつつある。蚊の吸血の際にヒトに侵入した(7)はまず(8)に侵入し、(9)により分裂・増殖を繰り返した後、血流中に出て赤血球に侵入する。
(1)と(2)では(7)の一部は発育を開始せず(8)内に長期間止まる。このような原虫を(10)と言い、(11)の原因となる。熱発作の周期の原因となる赤血球内の(9)の周期は(1)と(2)では(12)時間、(3)では(13)時間である。(4)の(9)の時聞は(14)と不規則であるので熱型も不規則となり、マラリア流行地以外で発症した場合に見落とされやすい。(4)の経過はきわめて悪性で、(15)、(16)、(17)、(18)などの毛細管に感染赤血球が凝固、閉塞することによる各種合併症を引き起こし、早期に治療を開始しないと死亡することも多い。診断は(19)の(20)を作製し、(21)を施して感染赤血球を検出する。現在(4)に関してはほとんどの流行地において薬剤耐性株が出現し、以前効果的であった(22)は使用することができない状況である。

a.塗沫標本、b.脳、c.卵形マラリア、d.輸血、e.12-36、f.メロゾイト、g.切片標本、h.クルーズマラリア、i.ギムザ染色、j.熱帯熱マラリア、k.ヤブカ、l.スポロゾイト、m.肝細胞、n.イエカ、o.24、p.腎臓、q.シゾゴニー、r.再発、s.48、t.肺、u.四日熱マラリア、v.72、w.クロロキン、x.肝生検、y.ヒプノゾイト、z.36-48、aa.三日熱マラリア、bb.肝臓、cc.ハマダラカ、dd.末梢血

解答:(1)aa.三日熱マラリア (2)c.卵形マラリア (3)u.四日熱マラリア (4)j.熱帯熱マラリア (5)cc.ハマダラカ (6)d.輸血 (7)l.スポロゾイト (8)m.肝細胞 (9)q.シゾゴニー (10)y.ヒプノゾイト (11)r.再発 (12)s.48 (13)v.72 (14)z.36-48 (15)b.脳 (16)p.腎臓 (17)t.肺 (18)bb.肝臓 (19)dd.末梢血 (20)a.塗沫標本 (21)i.ギムザ染色 (22)w.クロロキン

(2枚目)
3. 次の語について簡単に説明せよ。(18点)
(1)中間宿主:寄生虫がその幼虫期を過ごす宿主、あるいは無性生殖の起こる宿主である。2種の中間宿主を必ず経なければならない場合、最初のものを第一中間宿主、次を第二中間宿主をいう。
(2)固有宿主(終宿主):寄生成虫が棲む宿主または有性生殖が起こる宿主のこと。
(3)延長宿主(延長中間宿主、待機宿主):寄生虫幼虫はその発育上の必要性から見てこの宿主体内にとどまる必要はないが、宿主の食物連鎖の関係で感染する中間宿主を指す。終宿主動物がこれを接触すれば感染する点では第二中間宿主と同じレベルである。
(4)保虫宿主:ある寄生虫がヒト以外にも固有宿主をもつ場合、この動物を保虫宿主という。ヒトの生息環境内における他の感染源として重要である。
(5)伝播者(媒介者):寄生虫の感染型を伝播する動物を指し、ことに昆虫の場合によく用いられる名称
(6)異所寄生:本来の寄生部位以外に定着し、そこで発育を続けている。肺吸虫における脳内や皮膚寄生に例を見る。

4. 住血吸虫および住血吸虫症について以下の問いに答えよ。(12点)
(1)日本住血吸虫の日本での第一中間宿主を和名で記せ。
   宮入貝

(2)住血吸虫のヒトに感染する病原虫は生活史のどの段階の幼虫か。
   セルカリア

(3)そのヒトヘの感染方法を記せ。
   ヒトが宮入貝の生息する川や湖に接触するとき皮膚から感染する。

(4)日本住血吸虫の成虫はヒトのどの部分に寄生しているか。
   門脈系統の諸静脈

(5) 慢性期の日本住血吸虫において最も病変の著しいのはどの臓器か。
   肝臓

(6) 最も普通に用いられる住血吸虫症の治療薬の名を記せ。
   プラジカンテル

(3枚目)
5. 以下は人体寄生蠕虫卵の説明である。該当する寄生蠕虫の種類を下の語群の中から選び、その記号を記せ。(20点)
(1)小蓋を持ち、長径約65μの卵円形である。1個の卵細胞と多数の卵黄細胞が存在し、淡水中でコラシジウムに発育する。
(2)糞便中にはほとんど含まれず、セロファンテープによる肛囲検査により検出される。無色で柿の種状である。検出された虫卵は通常感染幼虫を包蔵している。
(3)薄い卵殻を持ち、新鮮便中にみられるものは4分裂期のものである。本虫卵は比重が小さいので浮遊法による集卵法にて検出する。
(4)大型(長径約90μ)、楕円形で小蓋は認められない。とっくり型のミラシジウムがすでに形成されている。卵殻の側面に小突起がある。
(5)卵殻は非常に薄く、糞便中のものはほとんど取れている。しかし本虫卵は通常糞便に出てくることは少ない。幼虫被殻(仔虫殻)は円形で厚く一見卵殻のようにみえる。幼虫被殻の中にはすでに六鉤幼虫ができている。
(6)特有な蛋白膜が最外層を覆い、その内側に厚い卵殻があり、中には新鮮便の場合は受精した1個の卵細胞を有す。
(7)長径80-90μと大きく、比較的顕著な小蓋がみられる。前半に最大幅があり、後半はやや尖り卵殻が肥厚する。ミラシジウムはみられず数個の卵黄細胞と1個の卵細胞が存在する。
(8)球形で直径約70μと大きく、卵殻は強固である。幼虫被殻(仔虫殻)は球形でフィラメントはない。幼虫被殻の中には六鉤幼虫ができている。
(9)長径約30μの小型の虫卵で、小蓋の縁の部分が突出し陣笠様形態を呈す。卵殻の表面にはメロンの皮様紋理がみられる。中にミラシジウムができている。
(10)厚い卵殻を有し、卵の前端と後端には特徴的な栓子を有し、レモン型を呈す。色は黄褐色ないし赤褐色である。

a.回虫、b.蟯虫、c.鉤虫、d.糞線虫、e.有棘顎口虫、f.鞭虫、g.旋毛虫、h.肝吸虫、i.横川吸虫、j.ウェステルマン肺吸虫、k.肝蛭、1.日本住血吸虫、m.日本海裂頭条虫、n.無鉤条虫、o.小形条虫、p.縮小条虫

解答:(1)m.日本海裂頭条虫 (2)b.蟯虫 (3)c.鉤虫 (4)1.日本住血吸虫 (5)n.無鉤条虫 (6)a.回虫 (7)j.ウェステルマン肺吸虫 (8)p.縮小条虫 (9)h.肝吸虫 (10)f.鞭虫

(4枚目)
6. 次の問いに答えよ。(18点)
(1)先天性トキソプラズマ症と後天性トキソプラズマ症について発症の機序を記せ。特にどのような場合に発症のリスクが高まるかを考えよ。
先天性トキソプラズマ症:妊娠中の母体が本虫の初感染を受けると、母体は無症状に経過するが、急増虫体が胎盤を通って胎児に移行して発症する。
後天性トキソプラズマ症:生後ヒトが本虫に感染して抗体陽性となってもほとんどの場合無症状(不顕性感染)に経過する。しかし、強毒株に多量感染したときや免疫能の低下が見られるときは全身の諸臓器細胞内でのタキゾイトの増殖が見られ、発熱、頭痛、関節痛、発疹のほか、肝障害、心筋炎、肺炎、髄膜炎などの病巣症状を発現する。
特にAIDS患者などの免疫能力が低下した患者に日和見感染として発症しやすい。

(2)糞線虫の自家感染について説明し、他疾患、特にステロイド剤などの免疫抑制剤を使用する際の注意事項を記せ。
成虫から生じた幼虫が腸管内で発育してR型幼虫となり外界に出ずに腸壁に侵入したり、肛門付近の皮膚上でR型幼虫になり皮膚に侵入したりしてF型幼虫へ発育しそのまま寄生世代雌成虫へ発育する場合を自家感染という。
他疾患、特にステロイド剤などの免疫抑制剤を使用する際は免疫抑制により自家感染が続いたり、重感染により症状が重症化し死亡に至ることもあるので注意を要する。

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