病理学 平成10年度本試験

病理病態学(1病理)
1. 滲出性炎症を病理学的に分類し、それぞれを説明せよ。(10点)
 平成13年度の2を参照。

2. 局所虚血の発生機序と転帰について述べよ。(10点)
 局所に流入する血液が著しく減少した状態。動脈に狭窄を起こすようなものは全て原因となりうる。たとえば、動脈硬化による管腔の狭小化、血栓の形成、腫瘍などによる外部からの圧迫など。虚血を起こした部位は、動脈血の減少のため蒼白となり、温度は低下し、体積もやや縮小している。虚血が持続した場合その部位では、軽度の時には組織や臓器の萎縮や臓器の変性を生じ、高度の時には壊死を生ずることになる。終動脈の完全閉鎖が急激に起こり灌流区域に貧血性の壊死が起こることを梗塞という。

3. 【 】の中に下記の用語の中から最も適当な言葉の記号を記入し、文章を完成させよ。(全体で5点)
(1) Creuzfeld-Jakob diseaseとは人の大脳皮質の【1.r.神経細胞の変性・壊死】を来たし、精神、知能、運動機能異常をきたす遅発性、進行性疾患で6ヶ月から2年程度で死亡する疾患で、大脳組織をマウスの【2.c.視床】内に接種することにより、マウスに同様の神経病を発症させうる。現在【3.o.プリオン】と言う【4.l.核酸】を含まないタンパク質が病原物質として注目されている。
(2) 巨細胞封入体症は、【5.i.ヘルペスウイルス】属の代表的ウイルスによる感染症で、世界各地に見られ成人の40〜100%の人が抗体を持っている。密な接触、性行為、輸血などにより感染する。感染により特殊な細胞障害を示し、細胞が巨大化する。50%以上が無症状であるが、免疫抑制治療、【6.u.抗ガン剤】治療などにより致死的【7.w.顕性】感染症を引き起こす。重篤な細胞病変を惹起し、細胞は25〜40μmとなり、巨大な核内、および核周囲のperinuclear capと呼ばれる細胞質内封入体を形成する。封入体はPAS陽性、【8.n.Feulgen】反応陽性で、電顕でウイルスカプシドが証明される。侵入門戸としては接触、経気道、性行為感染、輸血などが挙げられている。病変の好発臓器は、管、腎、肺、脳、消化管の上皮細胞で、多数のウイルス粒子が存在するときは、線維が細胞、血管内皮細胞にも感染する。成人の感染は胃腸管疾患患者(潰瘍性大腸炎、クローン病など)や免疫抑制患者に【9.a.日和見感染】として見られる。
<用語群>
a.日和見感染  b.腹腔  c.視床  d.黒質  e.呼吸器  f.消化器  g.唾液腺  h.皮膚 i.ヘルペスウイルス  j.レトロウイルス  k.アデノウイルス  l.核酸  m.RNA  n.Feulgen o.プリオン  p.Parkinson病様症状  q.グリア結節  r.神経細胞の変性・壊死  s.海綿状変化 t.血管脳関門  u.抗ガン剤  v.不顕性  w.顕性  x.垂直

4.下記の事項を説明せよ。(各2点)
1)血管壁細胞に与える炎症性サイトカインの影響
(effect of inflammatory cytokines on vascular wall cells)
Mφから分泌されるIL-1やTNFαは種々の細胞に働いて、他のサイトカイン、接着性細胞表面分子、細胞成長因子、あるいはプロスタグランディン等の因子を誘発することによって、白血球と血管内皮細胞の接着を起こし、炎症反応の開始のかぎとなる。

2)自己免疲疾患の成立機序(pathogenesis of autoimmune diseases)
a.Th細胞バイパス機構…B細胞のレセプターに対応した抗原決定基であるハプテン部を残してそれ以外のキャリアー部が、たとえば薬物、微生物などによって修飾されると、Th細胞は非自己として認識し、B細胞を活性化して自己抗体を産生する(自己抗原の修飾)。病原体の中には自己成分と共通した抗原決定基を持つものがあり、キャリアー部の違いにより異なったTh細胞に働いてB細胞による抗体産生を引き起こす(交叉反応)。
b.Ts細胞の機能不全…Ts細胞の重要な機能として自己抗原に対する免疫応答の抑制による自己寛容の維持があり、その減少または機能低下により自己抗体産生が起こる。
c.隔絶抗原…出生後に完成される目の水晶体や精子などはリンパ系細胞と接触したことがなく、寛容が成立していない。

3)NO(nitrogen oxide)
血管内皮細胞から血管平滑筋地緩因子として放出され、平滑筋細胞の細胞質グアニル酸シクラーゼを活性化し、cGMP(Gキナーゼ)の作用でCa2+の流入を抑え、平滑筋を弛緩させる

4)白血球・血管内皮細胞接着の多段階モデル
(multi-step model of leukocyte-endothelial cell adhesion)
最初の段階では血管内皮細胞表面にP-セレクチン、E-セレクチンが発現し、白血球上のLewisXという糖鎖構造を認識する。これらの相互作用により、白血球は内皮細胞と可逆的な接着を行い、結果的にローリングという現象を内皮細胞上で示すようになる。
第二の段階では内皮細胞のICAM-1と白血球上に発現するインテグリンLFA-1の相互作用により、強く接着してローリングが止まる。
第三の段階では、白血球は内皮細胞をくぐり抜けて血管外に移動する。そして基底膜を分解するタンパク融解酵素の助けのもとに基底膜に穴をあける(血管外遊出)。
第四の段階では、走化生能力を持つサイトカインであるケモカインが働いて、白血球は組織へと移行する

5)乾性壊疽(dry gangrane)
壊死巣が乾燥してくると起こり、Raynaud病などで乾燥し緑黄色から褐色などの色調を呈し、健常部と分界されている。

形態機能病理学(2病理)
1.腺種と腺癌の病理学的鑑別、特に胃を例にとり欧米と日本との見方の違いを述べよ。(7点)
腺腫は腺上皮由来の良性腫瘍のことで、粘膜表面はポリープ状に増殖した異型腺管で覆われる。上皮を構成する細胞は異型性が低く、その配列および極性は比較的保たれ、核は基底膜側に位置した状態で増殖する(膨張性増殖)。一方腺癌は腺上皮由来の悪性腫瘍で、腺管構造を保つもの(高分化腺癌)から腺管構造がみられないもの(低分化腺癌)まであるが、細胞の異型性は強く核の形状は不整で、細胞の配列は乱れ、基底膜を破壊して増殖している(浸潤性増殖)像がみられる。後半は分かりません。

2.次の事項について略述せよ。(各4点)
1)ヤ一ヌス
二重体(重複奇形)のうち2個体が頭部および胸部で癒合したものを頭胸結合体というが、なかでも顔が前面と後面の両方にある二対称性頭胸結合体をヤーヌス体という。ローマ神話に登場する頭の前後に顔を持った守護神の名に由来する。

2)Pericryptal fibroblast
大腸粘膜上皮の基底膜下に沿って存在する紡錘形の細胞をいう。Adenoma由来の癌にはPCFが多く存在し、do novo carcinomaにはPCFが少ないというデータから癌の発生由来が特定できると考えられている。

3)癌抑制遺伝子
癌形質の発現を抑える働きをする遺伝子を癌抑制遺伝子という。RB遺伝子やp53遺伝子などが知られており、それらの遺伝子産物は細胞周期や転写などの制御に関わるタンパク質で、これらの失活が細胞増殖のブレーキに異常をきたし、発癌へのステップを進ませると考えられている。

4)腹膜播種
体腔表層に達した癌が直接腔内に散らばり、新しい癌巣を形成する転移の様式を播種といい、特に腹腔に転移するものを腹膜播種という。例えば胃癌からの播種により卵巣に転移するKrukenberg腫瘍がある。

5)腫瘍における宿主反応
腫瘍免疫の機構は病原体などの外来抗原に対する免疫機構と同じように機能すると考えられている。すなわち癌細胞が発する癌抗原に対し体液性免疫、細胞性免疫が機能する。しかしながら癌細胞はこうした免疫監視機構から免れる機構を有しており、必ずしも癌細胞が排除されるとは限らない。組織学的にみた腫瘍に対する間質反応にはリンパ球浸潤を特徴とする滲出性間質反応と、結合組織とくに線維芽細胞の増殖を特徴とする増殖性間質反応がある。
また所属リンパ節においても宿主反応が起こり、洞組織球症、濾胞性過形成など様々な症状を示す。

6)消化管アミロイドーシス
アミロイドタンパクが血管、組織の細胞間隙に沈着した状態をアミロイドーシスという。消化管では十二指腸で好発し、AAタンパクが粘膜固有層の血管周囲に沈着すると吸収障害を起こす。また固有筋層にALタンパクが沈着すると運動障害により便秘症状をみる。

7)消耗性萎縮
悪性腫瘍や慢性疾患あるいは飢餓状態で栄養吸収が低下することにより生ずる全身性の萎縮。まず脂肪組織、骨格筋が萎縮し、引き続き心・肝・脾が萎縮していく。脳や骨に萎縮はみられない。

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