薬理学 平成15年度 本試験

平成15年9月17日実施

受験者100人中15人不合格。

問題用紙は解答用紙と共通。A4で8枚。
(1〜2枚目)
1. 次の2組の文章には1(a.正、b.正)2(a.正、b.誤)3(a.誤、b.正)4(a.誤、b.誤)がある。  正解の番号を解答欄に記入せよ。
(A) 薬物の生体膜透過について
a. 電解質の薬物ではイオン型であることが重要である
b. 方程式pH=pKa+log[A-]/[HA]は薬物溶液のpHにおける弱酸性薬物の解離程度を示す
解答・・・3
a. 電解質の薬物の生体膜透過は非イオン型。ただし血中から組織への移行はイオン型。

(B) 薬物のpKa(イオン化定数)について
a. pKaが3.5の酸性薬物では口腔内より胃内での吸収が高い
b. pKaが6以下の塩基性薬物では口腔内より胃内での吸収が高い
解答・・・2
b. 塩基性薬物pH=pKa+log[HA] / [A-] より、pH>pKaになる口腔内の方が吸収が高い

(C) 血液脳関門について
a. 脂溶性の高い薬物だけが脳組織へ移行できる
b. 血液脳関門においては血流→脳組織、脳組織→血流へのどちらの方向への移行も同様に困難である
解答・・・1

(D) 薬物の生体内変化について
a. それぞれの基質に対して特異性の高い酵素によって行われる
b. 薬物の第二相性生体内変換に関して肝ミクロソーム酵素は関与しない
解答・・・3
a. 高い→低い
b. 第二相性生体内変化は各種抱合。肝ミクロソーム酵素(CYP)の関与は第一相性

(E) 薬物受容体について
a. 細胞膜に存在する薬物受容体の大半はGタンパク共役型受容体で単量体または多量体であり、細胞膜を7回貫通し、C末端側を細胞外に出し、N末端側は細胞内に存在する
b. ニコチン性アセチルコリン受容体はイオンチャネル内蔵型受容体であり4TM型である
解答・・・3
a. C末端は細胞内、N末端は細胞外

(F) 三量体Gタンパク質の役割
a. アゴニスト〜受容体〜Gタンパク質の三者複合体が形成され、Gタンパクのコンホメーションが変化し、GDPが結合部位より離れGTPが同じ部位に結合する
b. 百日咳毒素及びコレラ毒素はGタンパク質をターゲットとし、前者はGi、後者はGsをADPリボシル化する
解答・・・1

(G) 細胞内情報伝達系について
a. 発ガンプロモーター、ホルボールエステルはDGの構造類似体としてC-キナーゼを活性化する
b. ホスホリパーゼA2の主産物はアラキドン酸であり、アラキドン酸はシクロオキシゲナーゼによってプロスタグランディン類に、リボキシゲナーゼによりロイコトリエン類に代謝される
解答・・・1

(H) 筋細胞とカルシウムイオン
a. 骨格筋のトロポニンIはリン酸化されてもあまり機能が変化しないが、心筋のトロポニンIがリン酸化されると収縮系のCaイオン感受性が増加する
b. Caイオンによる平滑筋の収縮蛋白系の活性化機構は横紋筋とは全く異なり、ミオシン軽鎖のリン酸化による
解答・・・3
a. 心筋のトロポニンTがリン酸化されるとCaイオン感受性は低下する。短時間で収縮弛緩を完了できる。

(I) 生理活性物質について
a. 副腎皮質からのカテコラミン遊離は、交感神経節前線維の興奮によりアセチルコリンが分泌され、クロム親和性のムスカリン受容体と結合し、この際生じるCaイオンの流入による開口分泌によって発現する
b. アドレナリン作動性神経終末には自己受容体(autoreceptor)があり、遊離されたカテコラミン自身により遊離が促進される
解答・・・3
a. 副腎皮質→副腎髄質。ムスカリン受容体→ニコチン受容体。

(J) 生理活性物質について
a. ヒスタミンを静注すると血圧低下とともに頻脈があらわれる
b. 肥満細胞からのヒスタミン遊離で最も重要なものは抗原刺激によるもので、肥満細胞膜のIgG受容体を介して起こる
解答・・・2
b. 肥満細胞といえば、IgE

2. B項中の物質のうち、A項の中枢伝達物質の働きに最も影響を及ぼすものを選び、その記号を解答欄に記入せよ。
A項
1. GABA(γ-aminobutyric acid)→D
2. L-glutamate→A
3. dopamine→C
4. 5-hydroxytryptamine→C
5. noradrenaline→D
B項
1. A:taurine B:haloperidol C:morphin D:phenobarbital E:reserpine
2. A:kainate B:bicuculline C:picrotoxin D:phenylephrine E:marotiline
3. A:atropine B:desipramine C:amphetamine D:phenobarbital E:ketamine
4. A:aspirin B:nitrazepam C:LSD D:lidocaine E:aspartate
5. A:isoflurane B:carvamazepine C:bromocriptine D:imipramine E:desipramine

(3枚目)
3. B項中の物質のうち、A項の疾患の治療に最も適した薬物を選び、その記号を解答欄に記入せよ。
A項
1. パーキンソン症候群→B
2. 躁鬱病→A
3. 小発作→A
4. 大発作→D
5. 神経症→B
B項
1. A:diazepam B:biperiden C:dantrolene D:amobarbital E:reserpine
2. A:imipramine B:clonazepam C:haloperidol D:phencyclidine E:trifluoperazine
3. A:ethosuximide B:bicuculline C:carbamazepine D:phenobarbital E:hydantoin
4. A:ethosuximide B:hydantoin C:nytrazepam D:primidone E:pentylentetrazol
5. A:tremorine B:diazepam C:cocaine D:amantadine E:primidone

4. 次の記述のかっこの中に適当な語句を記入せよ。
GABA{γ-aminobutyric acid}は脳内の種々の部位において抑制性アミノ酸伝達物質として働いている。機能的にはシナプス後膜の( Cl− )チャネル透過性の増大を引き起こす。( GABAa )受容体と、神経終末において( Ca2+ )イオン流入を抑制したりシナプス後膜の( K+ )チャネルの透過性を増大する( GABAb )受容体に大別される。
L-glutamateに対するイオンチャネル型受容体はAMPAなどのアゴニストにより活性化され、早いEPSPを引き起こすタイプと、( NMDA )などのアゴニストにより活性化されるタイプに大別される。前者のタイプと後者のタイプの大きな相違点は( Ca2+ )イオンに対する透過性の違いである。また後者のタイプは通常細胞外の( Mg2+ )イオンによってその働きが抑制されており、その抑制が外れるためには膜の( 脱分極 )が必要である。L-glutamateに対する受容体は、上記のイオンチャネル型に加えて、( 代謝 )型受容体によっても調節されている。

(4枚目)
5. 副腎皮質ステロイド剤の副作用を5つ挙げなさい。
・ 感染症の増悪(感染防御機能を低下するため)
・ 消化性潰瘍(胃酸分泌亢進などのため)
・ 骨粗鬆症(骨芽細胞抑制、カルシウム排泄増加、吸収低下による)
・ 視床下部、下垂体、副腎皮質系機能の抑制(ACTH分泌抑制)
・ 水電解質代謝異常(浮腫、高血圧等)
・ ほかに動脈硬化症、精神症状、糖尿病など

6. 電位依存性Ca2+チャネルについて
(1) チャネルを通って細胞内に入ったCa2+の役割を5つ挙げよ。
・ Excitation-Contraction Coupling(興奮と収縮)
・ Excitation-Secretion Coupling(膵液、唾液、神経伝達物質の放出)
・ 繊毛運動
・ 発光
・ 各種イオンチャネルの細胞内Ca2+による賦活
・ 細胞内での物質の合成、卵分割など
・ 神経突起の進展
・ 軸策輸送
・ 発火パターンの形成  など
 
(2) 電位依存性Ca2+チャネルの阻害薬を以下より1つ選びその記号を記入せよ。
 T型( d )  L型( i )  N型( g )  P型( a )  R型( f )
 (a)クモ毒(オメガアガトキシン) (b)TTX (c)バリウム(Ba2+) (d)フルナリジン (e)BAY-K  (f)カドミウム(Cd2+) (g)貝毒(オメガコノトキシン) (h)テトラエチルアンモニウム(TEA+)  (i)ジヒドロピリジン(ニフェジピン) (j)ハチ毒(アパミン)

(5枚目)
7. 内分泌疾患に関連する以下の問いに答えなさい。
(1) 視床下部―下垂体系ホルモンに関連する下記の薬物が使用される疾患名を挙げなさい。
 bromocriptine…乳汁漏出症、プロラクチン産生腫瘍、末端肥大症、パーキンソン症候群
遺伝子組換え型growth hormone注射薬
…下垂体性低身長症、ターナー症候群、慢性腎不全、軟骨異栄養症
 vasopressin…尿崩症の鑑別診断、中枢性・下垂体性尿崩症の治療
 clomiphene…無排卵症(中枢性性腺機能低下症)

(2) 抗甲状腺薬として最もよく使用されるmethimazole、propylthiouracilに共通する作用機序を述べなさい。
 甲状腺ペルオキシダーゼを阻害し、チログロブリンのヨウ素化を抑制する。

(3) 経口糖尿病治療薬のglibenclamideは食事療法が不十分な場合には肥満を来しやすく、一方bufforminは肥満を伴う糖尿病にも使用しやすい。それぞれの理由を述べなさい。

(4) 次の合成副腎皮質ホルモン薬を薬効の弱い順に並べなさい。
 prednizolone、hydrocortisone、dexamethasone

hydrocortisone<prednizolone<dexamethasone

(5) くる病、骨軟化症に対して活性型ビタミンDが有効である理由を、骨再構築の過程を述べて説明しなさい。
【解答例】
 骨再構築は、osteoclastによる骨吸収とosteoblastによる骨形成を通じた骨組織の動的平衡の維持である。骨形成の過程では、osteoblastが生成したT型コラーゲンにCa2+やPiがハイドロキシアパタイトとして沈着する。活性型ビタミンDは骨吸収や腸のCa2+やPi吸収を促進による血中のCa2+濃度・Pi濃度の上昇を通じて、Ca2+やPiの骨組織への沈着を促進する作用がある。血中Ca2+濃度はPTHも上昇させるが、血中Pi濃度を上昇させる作用を持つのは活性型ビタミンDのみであるため、ビタミンD欠乏に起因するくる病や骨軟化症では活性型ビタミンDの投与が有効となる。

(6枚目)
8. プリン代謝および高尿酸血症の治療について、正しいものには○を、誤っているものには×をつけなさい。
(○)尿酸を最終代謝物とするプリン体はほとんど体内のアミノ酸などの代謝に由来し、食物中の成分はプリン体源としては重要ではない。
(○)痛風発作の治療に使用するcolchicineは主として前兆期に使用し、明らかな発作の出現後には第一選択とはならない。
→colchicineは好中球遊走を抑制する。発作時の第一選択はNSAIDs、それがダメならステロイド。
(×)痛風発作時には尿酸値を下げることが補助療法として有効である。
→痛風発作時に血清尿酸値を変動させると、発作の増悪をきたす。
(○)日本で現在処方可能な尿酸産生過剰型の高尿酸血症に対する唯一の治療薬はallopurinolである。
(×)allopurinolはurate oxidaseの阻害によって尿酸産生を抑制する。
→xanthine oxidaseの競合阻害薬。
(○)尿酸排泄促進薬のbenzbromaroneは尿細管における尿酸の再吸収を阻害する。
(×)尿酸排泄促進薬を使用する場合、尿路結石形成の防止のため尿のpHを5以下に保つ必要がある。
→尿のアルカリ化(pH>6.0)及び、多量の水分摂取が必要。

9. ホルモンによる女性の性周期と関連づけながら低用量ピルの薬理的効果について述べなさい。
【解答例】
月経期に下垂体から分泌されるFSHは卵胞発育を促進し、性周期は増殖期となる。エストロゲンは卵胞から分泌されるので卵胞の発育につれてエストロゲンは増加する。またエストロゲンは、視床下部のGnRH分泌の制御や下垂体へ直接作用することにより、FSH分泌を抑制しLH分泌を亢進する。エストロゲンの分泌亢進はLHサージを惹起して、LHにより排卵が誘発される一方、黄体が形成されて性周期は分泌期へと移行する。黄体からはエストロゲンだけでなくプロゲステロンが分泌される。プロゲステロンはLH分泌を抑制し、子宮内膜を肥厚させる作用を持つ。この時に着床がなければ黄体は白体となってエストロゲン・プロゲステロンの分泌が減少していき、次の月経期を迎えることになる。
さて、低用量ピルはエストロゲンとプロゲステロンの合剤である。エストロゲンは、FSHの分泌を抑制することで卵胞発育を阻害する。一方プロゲステロンは、LHの分泌を抑制することで排卵誘発を阻害する。これらの機序により避妊作用を発現する。

(7枚目)
10. 次の語句を関連づけて簡潔に説明しなさい。
(1) Starling則、急性心不全と慢性心不全、強心配当体、cAMP増加薬
【解答例】
Starling則とは、「心室収縮力は生理的範囲では、心室拡張期終期容積、言い換えれば右房圧に依存する」というものであり、これに基づいて描かれる心拍出量曲線と、静脈還流量曲線の交点において右房圧と心拍出量が定まる。急性心不全と慢性心不全の病態生理もこれに基づいて説明することができる。急性心不全では心拍出量曲線が下方にシフトして心拍出量が減少するが、静脈還流量曲線の上昇すなわち右房圧を上昇させることにより心拍出量を正常のレベルに回復させようという代償機構が働く。しかし慢性心不全では病態の進行により心収縮力が著しく低下しているため、代償機構によっても心拍出量が回復せず、心拍出量曲線がさらに低下する。生理的範囲を越えるとStarling則は成り立たず、右房圧が上昇しても心拍出量が減少する下降脚が現れるので、非代償性心不全となり病状は更に悪化することになる。
心不全治療薬は外因性に心収縮力を増強させることにより、心拍出量曲線を上方にシフトさせて右房圧の減少と心拍出量の回復を図るものである。ジゴキシンのような強心配糖体は心筋のNa+−K+ ATPaseの抑制、すなわち細胞外へのNa+流出を抑制を介して、Na+−Ca2+ exchangeをNa+流出Ca2+流入に働かせて、細胞内Ca2+濃度を上昇させることにより、心筋収縮力を増強させる。また、ドブタミン等cAMP増加薬は、アドレナリンβ1受容体を刺激してcAMPを増加させることを介して、筋小胞体のCa2+取り込み促進と貯留増加をもたらし、以後の心筋収縮時の筋小胞体Ca2+放出を増加させて心収縮力を増強させる。

(2) DAD(delayed after-depolarization)、Ca overload、triggered activity
【解答例】
 DADは先行する活動電位の再分極が終了した後の第4相で生じる膜電位振動である。これは、交感神経過緊張やジギタリス中毒などにより、細胞内ストアへのCa overloadによって引き起こされ、Caの自発的誘発が生じ、Ca依存性非特異的カチオンチャネルが活性されることによる。DADが閾値をこえればtriggered activityとなり不整脈を引き起こすことになる。

(3) EAD(early after-depolarization)、チャネル異常、家族性QT延長症候群、薬物誘発性不整脈
【解答例】
EADは、活動電位持続時間(APD)の延長によって、先行する活動電位の再分極の途中(第2相または第3相)から生じる振動性の膜電位変化であり、DADと並ぶtriggered activityである。EADを引き起こす先天性疾患としては、遺伝的にK+ channelのチャネル異常をきたしている家族性QT延長症候群が挙げられる。これは、遅延整流型外向きK+電流の減少からAPD延長が起こり、EADを引き起こすものである。また続発性のものとしては、クラスV群抗不整脈薬、三環系抗うつ薬等によって、膜電位依存性K+ channelが抑制される薬物誘発性不整脈が挙げられる。

(4) 実効不応期、再入(re-enty)、頻脈性不整脈の治療
【解答例】
刺激をしても活動電位は発生しないか、発生しても伝播しない時期を、実効不応期(ERP)という。頻脈性不整脈の病因のひとつに再入(re-entry)がある。2つ以上の伝導路がありかつその途中に一方向ブロックが存在する時、1回の興奮に対して主伝導路からの興奮で実効不応期に入っても、副伝導路からの興奮が伝播したときには実効不応期を脱しているために再度心筋が興奮するというのが、このre-entryの機序である。したがって頻脈性不整脈の治療には、Ca2+ channel阻害薬、Na+ channel阻害薬で不活性化からの回復を遅延させたり、K+ channel阻害薬によってAPDを延長させるなどしてERPを延長させることが有効となる。

(8枚目)
11.
(1) 心不全の治療においてCa感受性増強薬が他の強心薬より優れている点を述べなさい。また、既に臨床で使用されているCa感受性増強薬の名前を挙げなさい。
【解答例】
強心配糖体やcAMP増加薬は、いずれもCa2+の細胞外からの能動輸送を必要とする。しかし、Ca感受性増強薬は、Ca2+の細胞内transportに要するエネルギーを必要としないので、心筋細胞内のCa overloadによる心筋の疲弊や不整脈の発生の危険性が少ない点で、強心配糖体やcAMP増加薬に比して優れているといえる。臨床的には、トロポニンCのCa感受性を増強させるピモベンダンが用いられている。

(2) 抗不整脈薬の頻度依存性チャネル抑制効果について簡潔に説明し、リドカインを例にとって、どのような臨床的(抗不整脈)効果がどのような機序によってもたらされるか述べなさい。
【解答例】
Na+ channel拮抗薬であるクラスT群抗不整脈薬は、Na+ channelが活性または不活性の時にNa+ channelに結合し、静止時に解離する。頻度依存性チャネル抑制効果とは、心筋細胞が短い間隔で興奮を繰り返すと薬物はチャネルから解離しにくくなり、Na+電流抑制状態が持続し、活動電位の立ち上がり速度が次第に低下することを言う。この解離の速さでクラスT群薬はTa、Tb、Tcの3つに分類される。
チャネルからの解離がもっとも速いクラスTb群であるリドカインは、Na+ channelの抑制すなわち活動電位の立ち上がり速度を抑制し、心室性の異常な自動興奮を抑制する。また心臓全体では伝導速度が低下するので、虚血部では両方向性ブロックとなり、リエントリーを抑制することにもなる。

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