薬理学実習レポート 第1回
(向精神薬、抗てんかん薬)

実施日 平成15年6月2日(月)

評価はC。平均的評価と思われます。

1. 結果と結果に基づく考察

  Open field法 Catalepsy 最大電撃痙攣試験
生食 Chlor. Meth. 生食 Biperid. 薬剤 反応(TF、TE、CL、Coma、回復の順、各2匹)
1班 39→11 32→3 34→62 −→35 −→30 Control +++++ +++++
Phenytoin −−−− −−−−
40→28 45→1 37→42 −→62 −→− Phenobarbital −−−− −−−−
Diazepam −−−− −−−−
2班 77→21 55→3 68→74 −→90 −→− Control +++++ +++−+
Phenytoin −−+−+ −−+−+
42→10 32→1 59→109 −→30 −→− Phenobarbital −−−− −−−−
Diazepam +++++ 死亡
3班 44→34 46→6 43→61 −→48 −→62 Control +++++ +−+−+
Phenytoin −−−− −−−−
38→26 30→8 56→104 −→53 −→− Phenobarbital −−−− −−−−
Diazepam +++++ +++++

 まずOpen field法について。薬剤投与前に行った実験では、いずれのマウスも、程度の差はあるものの活発に探索行動を行っている。しかし、薬剤投与後は、生理食塩水を投与したものについても、行動の減少が見られた。これは、15分前に行った薬剤投与前の実験の記憶が残っており、マウスの探索行動が減少したということを示唆していると考えられる。
 Chlorpromazineを投与したマウスでは、著明な(生理食塩水で行ったマウスよりも大きな)行動の減少が見られた。このため、Chlorpromazineには中枢、もしくは末梢性の鎮静作用があると考えられる。
 Methamphetamineを投与したマウスでは、その行動性が顕著に上昇した。また、その行動は、せわしなく動き続け、同じ2本の線の間を十数回も往復するなど、「探索」と思われるようなものではなかった。Methamphetamineには、Chlorpromazineとは逆に、興奮性の作用があると考えられる。
 以上の実験は、3班とも全く同じような結果が得られ、再現性の高いものであると言える。

 続いてCatalepsy試験について。生理食塩水とhaloperidolを投与したマウスでは、薬剤投与前いずれもCatalepsy陰性であったのに、投与15分後には全て陽性に転じている。また、生理食塩水のかわりにBiperidenを投与したマウスでは、その多くが投与後もCatalepsy陰性を示した。このため、HaloperidolにはParkinson病様症状を引き起こす作用が、Biperidenにはそれに拮抗する作用があることが予想される。

 最後に最大電撃痙攣試験について。マウスに電撃刺激を与えると、Control(生食投与)では強直性屈曲、強直性伸展、間代性痙攣、痙攣後昏睡などの痙攣諸症状が見られた後回復する。しかし、今回用いた3種の薬剤(Phenytoin、Phenobarbital、Diazepam)を投与すると、電撃刺激を与えても痙攣が起きにくくなった。
3種のうちPhenobarbitalは最も強力で、3班の6匹のマウスいずれでも、全く痙攣反応は見られなかった。また、Phenytoinを投与したマウスも、一部に間代性痙攣が見られた他は、痙攣反応は起こらなかった。Diazepamを投与した5匹のマウスでは、うち3匹に痙攣症状が生じた。しかし、投与後20分で刺激を与えるべきところを、この3匹には60〜80分後に刺激を与えたために、そのような結果になった可能性がある。
2. 結果と理論(用いた薬物の分子薬理学的機序)に基づく考察
Chlorpromazine…α1、D2、H1、5-HT2およびムスカリン受容体遮断作用がある。臨床用途は抗精神病薬、鎮静薬、制吐薬、麻酔前投与薬など幅広い。今回は中枢鎮静薬として用いられたためその薬理機序のみを述べる。中枢鎮静剤としてはα1、D2遮断作用が重要であり、D2受容体の遮断により、間脳の諸機能を抑制する。このため、少量では鎮静作用をもたらし、大量では睡眠を引き起こす。運動量が減退した実験の結果はこの機序に基づくと考えられる。

Methamphetamine(ヒロポン、覚醒剤)…アドレナリン作用薬で中枢興奮薬である。ノルエピネフリンおよびドパミン遊離の促進と、再取り込み抑制により、シナプスにおけるカテコールアミンの濃度を上昇させ、中枢興奮作用や抗鬱作用をもたらす。末梢交感神経に作用が現れるよりも低濃度で、中枢に作用が起こる。動物では運動量の増加、振戦など、ヒトでは疲労感の減退、多幸感が現れる。今回の実験結果(運動量の増加)は理論通りのものであった。

Haloperidol…強いドパミンD2受容体遮断作用を持つため、これを投与したマウスがParkinson病様症状を呈するものと考えられる。また、同時に5-HT2受容体親和作用も持ち、抗精神病作用、強力な制吐作用などを持つ。

Biperiden…抗ムスカリン様薬で中枢作用が強く、末梢作用はアトロピンより弱い。Parkinson病ではドパミンが減少しているため、相対的に線条体アセチルコリン神経の機能亢進状態となっている。この線条体ムスカリン受容体が錐体外路症状に関与しているため、これを遮断する抗ムスカリン薬がParkinson病に有効である。重症ではドパミン系薬の効果が大きいが、現在でも初期治療、軽症Parkinson病には広く用いられる。haloperidolによるParkinson病様症状を緩和したのは以上のような機序による。

Phenytoin…てんかんは辺縁系に多シナプス性のニューロン閉鎖回路網が形成され、ここに異常放電が起こることが原因とされている。PhenytoinはNa+,K+-ATPase活性、cAMP産生、タンパクリン酸化反応などに修飾を加え、Na+流入および樹状突起へのCa2+流入を抑制し、膜を安定化する(活動電位を発生しにくくする)結果、けいれんを抑制すると考えられている。また、高位中枢のシナプスにおける反復刺激後の伝達増強作用(反復刺激後増強)の抑制、小脳の興奮による抑制系の賦活作用の結果による大脳皮質の活動抑制などの働きもあるとされる。(半減期:24〜40時間)

Phenobalbital…GABAa受容体5サブユニットの第2膜貫通部位は、チャネル孔に面し、Cl-チャネルを形成している。その領域のバリン残基はピクロトキシン結合部位であり、ここにPhenobalbitalを代表とするバルビツール酸誘導体が結合する。この結合により、Cl-チャネルは開口し、Cl-イオンの流入が促進される。すると、抑制性ニューロンであるGABAニューロンの機能が亢進し、痙攣を抑制すると考えられる。

Diazepam…ベンゾジアゼピン誘導体で、ベンゾジアゼピン受容体と呼ばれるシナプス膜の特定の部位に結合する。すると、GABAのGABAa受容体への結合が増大、受容体の機能が亢進し、痙攣が抑制される。速効性で、10分ほどで血中濃度がピークとなり、その後減少する。このため、投与から電撃刺激までの時間が長かった2班、3班では痙攣が抑制されていない。


参考文献
 生理学テキスト 第4版  大地陸男著  文光堂(2003)
 NEW薬理学 改訂第4版  田中千賀子・加藤隆一編集  南江堂(2002)

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