薬理学実習レポート 第2回
(循環器作用薬)

実施日 平成15年6月10日(火)

92点。減点対象は課題1の(1)Cで3点、(2)のベラパミルで5点。
ベラパミルに関しては20mg/kgを最大反応と見なすのではなく、もっと高い濃度も測定しなければならなかったらしい。

1. 目的・方法
 シミレーションソフトを利用し、循環器作用薬が個体レベルに及ぼす薬効を解析する。

2. 課題T(Virtual Cat(Anaesthetized Cat ver.2.5.1)による)
(1) 下記の薬物を括弧内の量投与した時にどのような反応が生じるかを観察し、その機序を考察しなさい。(各5点×4=20点)
@ Carbachol(5μg/kg)
 血圧および心拍の急落が見られた。
 カルバコールはコリンエステル類の物質で、アセチルコリンの誘導体であるため、直接アセチルコリン受容体に結合して作用する。コリンエステラーゼで分解されず、作用時間が長いカルバコールは、現在も緑内障に使用されている。
 これが投与されると、血管運動神経からノルエピネフリンの遊離を抑制するほかに、血管内皮細胞に作用して、NOを遊離させ、血管平滑筋を弛緩させる。その結果、末梢血管が拡張、血圧が下降するのである。
 また、心臓においてはGタンパクと連関するムスカリン受容体に作用する。アセチルコリン感受性K電流によってもたらされる陰性変時作用が強く、洞房結節の自動能が抑制され、徐脈となる。

A Tubocurarine(0.5mg/kg)
 血圧が低下し、前脛骨筋(骨格筋)の収縮が大きく減少した。また、瞬膜(平滑筋)収縮もわずかに減少した。
 ツボクラリンは矢毒のクラーレから単離されたアルカロイドで、ニコチン受容体を競合性に遮断する。現在臨床にはほとんど用いられない。
 ツボクラリンの神経筋接合部遮断作用によって、骨格筋が弛緩する。ただし、作用時間は短い。(比較的短時間で収縮力の回復が見られた。)
 また、ツボクラリンは自律神経節や副腎髄質の遮断作用を持つため、血圧が下降し、平滑筋収縮も減少するが、神経筋接合部における作用よりも特異性が弱い。

B Noradenaline(50μg/kg)
 血圧が激しく上昇し、心拍・瞬膜収縮も大きく増した。
 ノルアドレナリンはカテコールアミンの1つで、アドレナリン受容体に直接作用する代表的な薬である。作用する受容体によってα作用とβ作用に分けられるが、ノルアドレナリンはα1、α2受容体に同程度に作用し、β1受容体にも作用するが、β2受容体への作用は弱い。
 血管平滑筋には主にα1受容体が存在し、これにノルアドレナリンが作用するとGタンパクを介し、ホスホリパーゼCがイノシトール3リン酸を生成する。イノシトール3リン酸は筋小胞体などのカルシウム貯蔵部位からカルシウムを放出させ、血管平滑筋を収縮へと導く。これにより、血圧は上昇する。
 心臓にはβ1受容体がある。アドレナリンはこれに結合し、Gタンパクを介してアデニル酸シクラーゼを活性化、cAMP産生を促す。するとこれによって陽性変時作用が起こり、心拍数が上昇する。
 瞬膜にもα受容体が存在するため、血管平滑筋について述べたのと同様の機序にてその収縮が増大する。

C Morphine(10mg/kg)
 血圧が減少し、瞬膜の収縮が大きく落ち込んだ。
 モルヒネはオピオイド性鎮痛薬の代表的なものである。急性の強い痛み、激しい咳の治療などに短期的に用いられる他、癌性疼痛の治療に長期的に使用される。
 モルヒネがμ受容体に結合すると、Gタンパクを介してKチャネルが開口する。すると、過分極が起こって細胞の活動が抑制される。これが、μ受容体を持つ瞬膜で起こった結果、その収縮が大きく落ち込んだものと考えられる。また、血圧の減少は、モルヒネの持つ末梢血管抵抗の減少作用によるものである。末梢血管拡張作用は、モルヒネなどのオピオイドがヒスタミンH1受容体拮抗作用を持つことによる。また、血液の二酸化炭素分圧の増加による反射性血管収縮作用の抑制などの、血管運動中枢への直接作用によっても末梢血管を拡張させる。

(2) Verapamilの血圧への作用とAtropineの迷走神経反射への作用について用量反応曲線を作成し、最大反応の50%の反応を生じる用量(ED50)を求めなさい。(各10点×2=20点)

Verapamil(mg/kg) 0 0.1 0.2 0.5 1 2 5 10 20 最大反応
BP(mmHg) 91.1 91.1 86.3 79.7 69.9 54.8 30.9 17 8.5 82.6
反応率(%)   0 5.8 13.8 25.7 43.9 72.9 89.7 100  

以上の結果をもとにしてグラフを作成した。ED50値は2.5mg/kgとなった。

Atropine(mg/kg) 0 0.1 0.2 0.5 1 2 5 10 20 50 最大反応
反応幅 35 35 34 34 30 22 12 7 3 0 35
反応率(%)   0 2.9 2.9 14.3 37.1 65.7 80 91.4 100  

以上の結果をもとにしてグラフを作成した。ED50値は3.1mg/kgとなった。

(3) Histamineによる血圧低下に対するMepyramineの阻害作用について以下の手順でSchildプロットを作成し、pA2値を求めなさい。ただし、pA2値の計算には濃度が必要であるため、この課題に限りMepyramineの投与量表示(mg/kg)を便宜上μmol/lと読み替えることとする。(20点)
(@) Mepyramineの0.5、1、5、10、50、100μmol/lの存在下および非存在下で各々Histamineの用量反応曲線を作成し、ED50を求める。
表中の値は上段が血圧(mmHg)、下段が反応率(%)である。Histamine、Mepyramineの投与量の単位は、いずれもmg/kgである。また、最大反応は92.2-30.3=61.9である。

Mep投与量 His投与前 0.1 0.2 0.5 1 2 5 10 20 50 100
0 92.2 88.3 84.5 76.2 66.1 55 42.8 36.9 33.4 31 30.3
  6.3 12.4 25.8 42.2 60.1 79.8 89.3 95 98.9 100
0.5 92.2 89.4 86.6 80.3 72 61.2 47.3 39.7 34.8 31.7 30.6
  4.5 9 19.2 32.6 50.1 72.5 84.8 92.7 97.7 99.5
1 92.2 89.7 88 82.4 75.5 65.4 50.8 42.1 36.2 32.3 31
  4 6.8 15.8 27 43.3 66.9 80.9 90.5 96.8 98.9
5 92.2 91.5 90.4 88.3 84.9 79 66.4 55.7 45.6 36.9 33.4
  1.1 2.9 6.3 11.8 21.3 41.7 59 75.3 89.3 95
10 92.2 91.5 91.1 89.7 87.7 83.8 75.1 64.7 53.6 41.4 36.2
  1.1 1.8 4 7.3 13.6 27.6 44.4 62.4 82.1 90.5
50 92.2 92.2 91.8 91.5 91.1 90.1 87.3 83.5 76.5 62.6 51.8
  0 0.6 1.1 1.8 3.4 7.9 14.1 25.4 47.8 65.3
100 92.2 92.2 92.2 91.8 91.5 91.1 89.7 87.3 83.1 73 62.6
  0 0 0.6 1.1 1.8 4 7.9 14.7 31 47.8

 前ページの結果をもとにして用量・反応曲線を作成し(別紙グラフ参照)、それぞれのED50値を求めると以下のようになる。

Mepyramine(μmol/l) 0 0.5 1 5 10 50 100
ED50値(mg/kg) 1.35 1.98 2.58 6.4 12.5 55 105
log(A’/A-1)   -0.331 -0.04 0.573 0.917 1.599 1.885

(A)各濃度のMepyramine 存在下で求めたHistamineのED50値をA'とし、Mepyramine非存在下での値をAとする。X軸にlog[Mepyramine]を、Y軸にlog(A'/A-1)をとってプロットすると(Schildプロット)、直線とX軸との切片にマイナスを付した値がpA2値となる。

以上をもとに、Schildプロットを行い(以下のグラフ参照)、近似式の方程式をy=ax+bとして最小二乗法によりa,bを算出した。
a=0.966±0.013  b=5.741±0. 069
近似式はy=0.966x+5.741、x切片は-5.76であるから、 値は5.76となる。
なお平均誤差率は、aにおいて1.4%、bにおいて1.2%であり、十分に信用できると判断した。また、Schildプロットにおいては傾きが1でないとその物質(Mepyramine)が競合的アンタゴニストであるとはみなされない(補記参照)が、今回の近似直線の傾き(0.966)は十分に1に近い値であると判断できる。

(4) プログラム中の17種類の「Unknown Drugs」のうち、各自に指定する2つの薬物について、作用機序を推定しなさい。(各10点×2=20点)
@ L
骨格筋の収縮が激減し、ほとんど収縮しなくなったが、他の3つの要素には全く影響が見られなかった。つまり、非常に強力、かつ特異的な骨格筋弛緩薬であると言える。
支配神経を刺激しても筋肉が収縮しなくなるのであるから、この薬は神経筋接合部、もしくはそれ以降の筋収縮過程を遮断するはずである。
神経筋接合部を遮断する薬には、競合性遮断薬、脱分極性遮断薬があるが、アセチルコリン受容体を阻害するなど、これほど骨格筋特異的な作用は起こしにくい。より特異的に骨格筋収縮のみを阻害する末梢性骨格筋弛緩薬ではないかと考えられる。末梢性骨格筋弛緩薬は、ダントロレンが代表的で、主に骨格筋に作用し、筋小胞体からのカルシウムイオン遊離を減少させることにより、骨格筋の収縮を妨げる。

A M
骨格筋収縮が最も著明に減少し、血圧も低下した。また、わずかであるが平滑筋の収縮も見られた。これは、課題(1)のTubocurarineの結果と酷似しており、Unknown Drug MはTubocurarine、またはそれに類似の作用を持つ、競合性神経筋接合部遮断薬であると考えられる。(作用機序は課題(1)のAを参照)

3. 課題U(Virtual Rat(Rat Cardiovascular System ver.3.2.5)による)
(1) Pithed Ratに下記の薬物を投与し、次の点を考察しなさい。(各5点×2=10点)
@ Isoprenaline(10μg/kg)とPhenylephrine(50μg/kg)の作用を比較し、心血管系におけるα-adrenocepterとβ-adrenocepterの作用を比較考察しなさい。
イソプロテレノール、フェニレフリンとも、アドレナリン作用薬であるが、イソプロテレノールはβ作用薬(β1、β2に対する作用はほぼ等しい)、フェニレフリンはα1作用薬である。
まずイソプレナリンを投与した場合について。大動脈圧は低下し、脈拍数、心収縮力は大きく上昇した。左心室圧には大きな変化がなく、中心静脈圧はやや上昇した。
β1受容体は心臓、脂肪細胞に存在し、Gタンパク経由でアデニル酸シクラーゼを活性化、cAMPを増やす。これによって、心臓では心拍数、心拍出量(心収縮力)が増大する。心拍出量の増加に伴い、静脈血が増えるため、中心静脈圧の上昇がもたらされたと考えられる。
また、β2受容体は肺、肝臓、平滑筋に存在し、同様にcAMPを介して平滑筋では弛緩をもたらす。大動脈圧が低下したのはこのためと考えられる。
続いてフェニレフリンを投与した場合について。大動脈圧、左心室圧が大きく上昇、中心静脈圧も上昇した。しかし、心拍数や心収縮力に変化は認められなかった。
α1受容体は刺激を受けるとイノシトールリン脂質代謝回転の亢進、カルシウムイオン動員系と共役し、細胞膜にある受容体の情報を細胞内へ伝達する。これは平滑筋において収縮をもたらすが、心臓刺激作用は弱い。そのため、心収縮力、心拍数は変わらず、大動脈圧、中心静脈圧が上昇したものと考えられる。また、血管の圧力が上昇した結果、心臓にもどる血流が増加し、左心室圧が上昇したのであろう。

A Digoxineを10mg/kgに続いて100mg/kg投与し、その作用の相違を考察しなさい。
ジゴキシンは代表的な強心配糖体である。細胞内遊離カルシウムイオンを増大させ、心収縮力が著明に増加するが、安全域が狭いため、中毒症状も起きやすい。
10mg/kgの投与では、他の要素にはほとんど変化を与えず、心収縮力のみが顕著に増大した。これは適正量のジゴキシンが用いられた場合に期待される成果であろう。しかし、100mg/kgの投与では、動脈圧が著しく減少し、他の要素も極端に不安定化した後、死亡した。これはあらゆる種類の不整脈を伴うジゴキシンによる中毒症状に他ならない。

(2) 本プログラムで投与可能な薬物のうち、Normal RatとPithed Ratで反応に違いがあるものを2つ探し、相違の理由を考察しなさい。(各5点×2=10点)
@ AngiotensinU
 アンジオテンシンUは強い血管収縮性のオクタペプチドである。これは、アンジオテンシンUが血管平滑筋にあるアンジオテンシンU受容体( )に結合、Gタンパクを介してPLCを活性化し、 を生じて細胞内カルシウム濃度を上昇、血管が収縮するという機序に基づく。
特に動脈への効果が強く、いずれのRatでも大動脈圧が大きく上昇した。しかしNormal Ratで観察された心拍数の減少が、圧受容体反射をなくしたPithed Ratには起こらない、という反応の相違が見られた。
 これは、圧受容器が血管内圧上昇を感じとると、反射により心拍数を低下させる、という圧受容体反射の有無が典型的に見られる例であろう。

A L-NOARG
 L-アルギニンの類似物質である。L-アルギニンは、活性化されたNO合成酵素(NOS)によってNOになる。このため、NOSの基質であるL-アルギニンはNO産生を促進し、血管平滑筋弛緩をもたらす。L-NOARGは、これと拮抗的にNOSに結合するが、NOSの基質とならない。このため、NO産生は抑制され、血管平滑筋弛緩は阻害される。
 以上の機序により、L-NOARGは大動脈圧を上昇させ、それに伴って左心室圧も上昇させる。すると、圧受容体反射により、Normal Ratでは心拍数の減少が見られるが、Pithed Ratでは見られない。相違の理由はAngiotensinUの場合と同様である。

※ 補記
ベラパミル…強い抗不整脈効果を示すカルシウムイオンチャネル拮抗薬である。血圧降下作用の機序についてはよく分からなかったが、血管平滑筋のカルシウムイオンチャネルを阻害する結果、血管の拡張がもたらされ、血圧が低下するのではないだろうか。

アトロピン…ナス科の植物に含まれるアルカロイドで、その使用の歴史は大変古い。ムスカリン受容体サブタイプの全てに結合し、ムスカリン様作用を遮断する。心臓に対する迷走神経刺激は主に拍動の減少を示すが、アトロピンのような抗コリン作用薬はこれに拮抗的に作用、心拍数を上げるように働く。このため、迷走神経刺激による心拍の減少幅が縮小する。

ヒスタミン…様々な作用を持つ生体アミンである。血管内皮細胞に存在するH1受容体に結合すると、ホスホリパーゼCが活性化されてイノシトール三リン酸ができ、それによって血管弛緩因子であるNOが放出される。また血管平滑筋に存在するH2受容体を介してcAMPが産生され、これも血管平滑筋弛緩を導く。以上の機序から、ヒスタミンの投与により血圧が減少する。

メピラミン…古典的 拮抗薬で、ヒスタミンと同じ側鎖を持つヒスタミンの競合的アンタゴニストである。

pA2…競合的アンタゴニストの強さを表す指標。「アゴニスト単独時の用量反応曲線を2倍だけ高濃度側に平行移動させるのに必要な競合的アンタゴニストのモル濃度のnegative logarithm」と定義される。この値を求めるための方法がSchildプロットであり、この横軸切片がpA2を与える。ただし、プロットの直線の傾きが1でない場合には、たとえ用量反応曲線が平行移動していても、その物質は競合的アンタゴニストであるとはいえない。

参考文献
 生理学テキスト 第4版  大地陸男著  文光堂(2003)
 NEW薬理学 改訂第4版  田中千賀子・加藤隆一編集  南江堂(2002)

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