薬理学実習レポート 第4回
(自律神経薬)

実施日 平成15年5月14日(水)

評価はB。人並み程度。

1. 目的
 自律神経の拮抗支配には、2つの神経伝達物質(交感神経のノルアドレナリンと副交感神経のアセチルコリン)が深く関わっている。これらの作用を、血管平滑筋を用いて比較検討し、その分子機序の理解に努める。


2. 結果
 手順は省略した。記録は別紙参照。以下は記録を整理したもの。

  内皮なし 内皮あり
投与薬物 収縮高 投与薬物 収縮高
(1) NA ↑↑↑ NA ↑↑↑
Isop ↓↓ ACh ↓↓↓
(洗浄後)NA ↑↑ アトロピン
(2) NA ↑↑ L-NArg
ACh NA ↑↑↑
アトロピン ACh ↓(後)↑
    L-Arg
(3) NA MB
Ca free ↑↑ NA ↑↑↑
    ACh ↓(後)↑
(4) NA ↓(後)↑↑  
ニフェジピン ↓↓
プラゾシン


3. 考察
 今回用いた薬品の薬理作用を整理する。

薬品名 作用
ノルアドレナリン
(NA)
血管平滑筋の受容体に結合し、ホスホリパーゼC(PLC)を活性化し、イノシトール三リン酸(IP3)を生じる。IP3は受容体チャネルを開口して細胞内Ca濃度を増大させる。Ca濃度が上昇すると、筋収縮が起こる。
イソプロテレノール
(Isop)
α作用はほとんどなく、アドレナリンβ受容体に作用する。β2作用により、cAMPが増加し、A-キナーゼが活性化する。すると機能タンパクリン酸化が起こり、細胞内Ca濃度減少や収縮タンパクCa感受性の低下により、内臓血管は拡張する。
アセチルコリン
(ACh)
血管内皮細胞の受容体(M3?)に結合、PLC活性化によりイノシトール三リン酸が生じる。これにより内皮細胞のCa濃度を増し、内皮細胞からNOやPGI2を生成、放出させる。これらは血管平滑筋に作用し、NOは細胞内のcGMP濃度を上昇させ、PGI2はcAMP濃度を上昇させる。cGMPによってG-キナーゼが、cAMPによってA-キナーゼが活性化され、機能タンパクがリン酸化される。これにより、細胞内Ca濃度が減少したり、収縮タンパク質のCa感受性が低下したりして弛緩が生じる。
内皮のない血管の場合、血管平滑筋にはM3受容体がある。これにアセチルコリンが結合すると、上記と同様の機序でCa濃度が上昇するので、平滑筋は収縮する。
アトロピン 全てのサブタイプのムスカリン受容体を競合阻害する。内皮のある血管ではアセチルコリンの血管弛緩作用を、内皮のない血管ではその血管収縮作用をそれぞれ阻害することが期待される。
ニフェジピン L型Caチャネルは静止電位の脱分極に応じて次第に開き、持続的なCa流入をもたらし、これにより血管の持続的収縮をもたらす。ニフェジピンはCa拮抗薬であり、Caチャネルに結合してCa電流を抑制、血管平滑筋を弛緩する。
プラゾシン シナプス後膜のα1受容体を比較的選択的に遮断する。α1受容体は血管平滑筋に分布するアドレナリン受容体であるため、α1遮断により抵抗血管および容量血管が拡張する。
L-ニトロアルギニン
(L-NArg)
後述のL-アルギニンの類似物質で、これと拮抗的にNOSに結合するが、NOSの基質とならない。このため、NO産生は抑制され、血管平滑筋弛緩は阻害される。
L-アルギニン
(L-Arg)
内皮細胞の受容体にアセチルコリンなどが結合すると、Gタンパク、IP3を介して細胞内Ca濃度が上昇する。Caはカルモジュリン(CM)に結合し、CaとCMの複合体がNO合成酵素(NOS)を活性化してL-アルギニンからNOが生成される。このため、NOSの基質であるL-アルギニンはNO産生を促進し、血管平滑筋弛緩をもたらす。
メチレンブルー
(MB)
NOは平滑筋細胞内の溶解性グアニル酸シクラーゼ(GC)とヘムのFe2+に結合し活性化する。オキシHbはNOをヘムに吸着して除去する。GCの阻害薬の酸化還元色素であるメチレンブルーもNOの作用を抑制する。GCはcGMPの生成反応を促進する。cGMPはG-キナーゼを活性化し、機能タンパクをリン酸化する。これは、Caの筋小胞体への取り込み、細胞外への排出、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)の不活性化などにより弛緩をもたらす。


 以上をふまえて、今回の実験結果との整合性について検討したい。
・ 内皮なし
(1) ノルアドレナリンで大幅に収縮し、イソプロテレノールで弛緩、と理論通りの結果となった。
(2) アセチルコリンは内皮細胞がないため、血管平滑筋に作用し、血管をより収縮させる働きをしている。このアセチルコリンを阻害するアトロピンが、血管の弛緩に働いたのも予想されたとおりである。
(3) ナトリウムで収縮、カルシウムを除去して弛緩が起こることが予想されたが、予想通りの結果とはならなかった。
細胞外部のカルシウム濃度が下がり、イオンバランスが崩れたことにより細胞内で脱分極が生じ、その影響でイノシトール三リン酸が活性化されたために筋小胞体からカルシウムが放出され、筋収縮に至った、と考えることもできるが、カルシウムイオンがイオンバランスに与える影響はそう大きくないため、この実験に関しては、手技上のミス(薬品の投与ミスなど、実際、この直前のノルアドレナリン投与では、しばらくの間チューブが液面から出てしまっていた。)がなかったかを精査した上で、再度実験を行った方がよいと思われる。
(4) ノルアドレナリンを投与した直後に弛緩が起こった理由が不明であるが、同時にCa free液から、通常のKrebs液に変えたことが効果発現までの時間を延長した可能性がある。その後収縮した血管をニフェジピン、プラゾシンがそれぞれ弛緩させているのは理論通りである。


・ 内皮あり
(1) ノルアドレナリンで大幅に収縮している。また、アセチルコリンは内皮に作用し、血管の弛緩を促している。アトロピンでこの作用が阻害され、収縮が起こったのも予想通りの結果であった。
(2) L−ニトロアルギニンはそれだけでは変化をもたらさない。しかし、ノルアドレナリンで収縮後のアセチルコリン投与において、いったん弛緩した後で収縮している。これは、L−ニトロアルギニンがNO産生作用を阻害し、アセチルコリンが平滑筋へ働き、その収縮に働いたためであろうと考えられる。また、NOSがL−ニトロアルギニンによって阻害されているため、L−アルギニンも本来の弛緩作用を発揮できない。
(3) メチレンブルーも単独では変化をもたらさない。しかし、これもL−ニトロアルギニンと同様、NO産生を阻害するので、アセチルコリンが収縮に働くようになる。「内皮なし」血管に比べると、アセチルコリンを投与してから、血管が収縮するまでに多少の時間差が見られるが、これは内皮細胞があるために、平滑筋細胞にアセチルコリンが到達するまでに時間を多く要したためではないか、と考えられる。


参考文献
 生理学テキスト 第4版  大地陸男著  文光堂(2003)
 NEW薬理学 改訂第4版  田中千賀子・加藤隆一編集  南江堂(2002)

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