公衆衛生学 平成14年度本試験

平成14年度公衆衛生学T 試験問題(4学年)

A出題者:古野
問題1.問1)〜4)に簡潔に答えよ。[各5点]
問1)Body mass indexの定義と有用性を説明せよ。
問2)伝播型流行曲線を図示し、それが何を意味するか説明せよ。
問3)費用便益分析とは何か。
問4)図の矢印で示した死産率の異様な高まりの理由を説明せよ。

<解答・解説>
問1) テキストP64
BMIは肥満の一般的な指標で、kg/uであらわされる。国際的には18.5未満を痩せ、18.5〜24.9を標準域、25.0〜29.9を過体重、それ以上を肥満と分類している。高血圧、高脂血症、2型糖尿病などは肥満に起因する病態・疾病として重要であるが、BMIはこのような疾患の有病率とよい相関があり、さらに算出も簡便なので、BMIを肥満の指標として体調管理を行うことはこれらの病気の予防という面から有効である。
問2) テキストP86
伝播型流行曲線:一次患者以降の患者の発生が潜伏期に対応して多峰性を示す曲線。原因不明の疾患がこの種の流行曲線を示す場合は感染性疾患であることが疑われる。
http://hica.jp/surveillance/jounal998.html←グラフはここで。
問3) テキストP132 今年も出すそうです。類題:平成15年概説A-2-A
費用便益分析:費用便益分析では、すべての結果を金銭の形で表示しようとする。従って一つの医療サービスが、死亡率の低下や罹患率の低下などことなった結果をもたらす場合も、金銭の尺度で結果をまとめることができる。また、医療以外の事業間の比較も可能である。
ちなみに…
費用効果分析:効果とは、生存年の延長、死亡率の低下、入院率の低下、生活の質の向上などを指しています。ある効果を得るのにどんくらいカネがかかるか、複数のやり方を比較し、分析するってことですかね…
費用効用分析:効用とは、健康状態の特定の水準に関する価値です。なんじゃそりゃ。
これでは違いがわからないですね。つまり、単に生存率の延長であるとか、死亡率の低下とかを比較し分析するのが費用効果分析だけど、生存年がのびたからって、ピンピンしてる場合もあれば寝たきりの場合もあるわけです。これをいっしょにしちゃ駄目でしょっていう発想なのが、費用効用分析です。生存年だけを考えたのが「効果」のほうで、生存年をさらに質で調整したのが「効用」ってわけです。じゃあテキストの費用効果分析にある「生活の質の向上」はどうすんのさって思いますが、気にしないほうがいいのかな。
問4) 古野教授が、グラフを紛失したそうです。話を聞く限りですが、ひのえうまの時の死産率の異様な高まりについてのグラフだったそうです。理由は丙午(丙午に女の子を生むのはよくない、という俗説がある)だから出産を控えようとしたからです。
http://www.pref.shiga.jp/public/hoken-kekka/z1-2-3.html←グラフはここで。


問題2.緑茶飲用と胃がんの疫学的知見に関して問1〜3)に回答せよ。
問1)表1の内容を簡潔に説明せよ(5点)。
表1:我が国における緑茶飲用と胃がんの症例対照研究のまとめ

場所 調査年 比較摂取量 ※注1) オッズ比(95%信頼区間) ※注2)
佐賀 1979−82 10+杯/日(<10杯/日) 0.3(0.1-0.7)
愛知 1981−83 4+回/日(<4回/日) 0.6(p>0.05)
埼玉 1984−90 8+杯/日(<5杯/日) 0.8(0.5-1.3)
愛知 1990−95 7+杯/日(まれ) 0.7(0.5-1.0)

注1)( )内は比較の基準群
注2)いずれも、性・年齢のほかに野菜・果物などを調整している。

問2)表2の内容を簡潔に説明せよ(5点)
表2:緑茶飲用と胃がんのコーホート研究のまとめ

場所 調査年 比較摂取量 相対危険(95%CI)
宮城 1984 5+杯/日(0杯/日) 1.4(1.0-1.9)
広島・長崎 1979−81 5+回/日(0−1回/日) 1.0(0.8-1.2)
日本多地域 1988−90 10+杯/日(0杯/日) 男:1.0(0.5-2.0)
女:0.7(0.3-2.0)
上海 1986−89 尿カテキン(なし) 0.5(0.3-1.0)

注1)( )内は比較の基準群
注2)いずれも、性・年齢のほかに野菜・果物などを調整している。

問3)緑茶飲用が胃がんに予防的であるか否かについて、考察せよ(10点)。

<解答・解説>
問1)緑茶飲用が胃ガンに効いている、という結果をだしているのは佐賀での研究だけである。愛知の研究(1981-1983)では、p>0.05で有意差がみられない。残り二つの研究は少し効いているようだが、95%信頼区間でみると1.0をまたいでいるので、緑茶の効果ははっきり見られないようだ。
問2)宮城における研究では、緑茶を飲んでいる人の方が胃ガンになりやすい、という結果が出ている。広島・長崎、日本多地域では緑茶を飲む人と飲まない人の間にあまり差がみられない。また、上海では尿にカテキンが含まれている人は胃ガンに2倍なりにくい、という結果が出ている。
問3)上の二つの研究からは、緑茶飲用が胃ガンに予防的であるか否かははっきりしない。表1ではすこし予防的なようだが、表2では緑茶の効果は確実ではないし、むしろ危険度が上がることもあるようだ。胃ガンの発症には、野菜や果物だけでなく、塩分や脂質の摂取量(食生活)、生活習慣、運動量も関与してくると思われる。性・年齢、野菜・果物、などを調節しても、胃ガンの発症にはその他の因子がからみうるので、この二つの研究では緑茶が胃ガンに予防的であるか否かはわからないだろう。
解説:わかりにくくてすみません。問1、2は単純に表を読むだけでいいと思います。古野教授はと言えば「お茶」だそうです。世界に先駆けて「お茶はがんに効く」と言い出した人だから、試験では「効く」と書いたら受かるよ、と溝上先生は言ってましたが定かではありません。ちなみに、表1の佐賀の研究は古野教授によるものらしいです。「この研究しか効果ないよねぇ」て溝上先生は言っていました。


B出題者:溝上
設問A
肥満が大腸がん発生の危険因子であるかどうかを明らかにするため症例対照研究を実施した。症例は手術のため市内の病院に入院した新規患者とし、対照は病院所在地の自治体住民より無作為に選んだ(性・年齢分布は症例に合わせた)。症例については入院時の身長・体重をカルテより転記し、2年前の体重も本人から聞き取った。対照住民については、身長は自己申告値、体重は簡易体重計による計測値を用いた(過去2年間の体重変化はごくわずかである)。肥満度の指標として身長・体重よりBody Mass Index(以下、BMI)を計算した。症例・対照を30例ずつ調査したところで予備的な解析を行うことにした。データは別紙のとおりである。

問1肥満の定義を「BMI25.0以上」とする。データを集計し2×2表を完成させよ(各セルに該当人数を記入)。オッズ比(小数第2位を四捨五入)を計算し、その結果は「肥満が大腸がん発症のリスクを高める」という仮説を支持する方向であるかどうかについて選択肢から選んで答えよ(ただし統計的な有意性は考慮しない)。
1)入院時BMI

2)2年前

問2仮説検証の立場から入院時と2年前のデータのどちらを採用すべきかについて、理由とともに述べよ。
注.本来、データ収集の初期段階でこのような解析は望ましくない。

別紙データ

症例(入院時) 対照 症例(2年前) 症例(入院時) 対照 症例(2年前)
1 25.1 21.9 25.8 16 19.8 20.1 20
2 20.9 23.3 23.9 17 24 23.6 25.7
3 24.8 19.4 27.2 18 18.2 23.1 19.3
4 25.2 23.8 28.6 19 23 21.7 23.8
5 20.2 20.5 21.1 20 23.8 22.7 25.1
6 25 18.2 24.8 21 22 21 22.7
7 22.5 25.5 22 22 22.6 21.7 25.8
8 23 21.2 24.1 23 26.8 21.5 29.5
9 19.2 20.8 22.2 24 24.7 23.7 28
10 24 23.1 23.5 25 24.3 23.1 26.8
11 23.6 22.1 23.4 26 19.4 24.9 18.5
12 22.1 24.8 20.8 27 24.6 26 26.6
13 23.2 26.3 26.1 28 18.3 19.3 18.5
14 26.6 22.4 27.6 29 18.2 21.6 21.1
15 25.2 18.9 29 30 22.3 25.8 24.5

<解答・解説>
問1(講義資料集p26あたり参照)
1)

症例 対照
BMI25以上 6 4
BMI25未満 24 26

オッズ比:(6×26)/(24×4)=1.625→1.6
解釈:肥満が大腸がんのリスクを高めるという仮説を支持する。
2)

症例 対照
BMI25以上 13 4
BMI25未満 17 26

オッズ比:(13×26)/(17×4)=5.0
解釈:肥満が大腸がんのリスクを高めるという仮説を支持する。

問2
2年前のデータを採用すべきである。がん、特に大腸がんは多段階の遺伝子変異を経てがんとして発症するので、すでにがんが発症している入院時のデータよりも、いくつかの遺伝子変異が生じる過程である入院前(この場合では2年前)のデータの方が、肥満と大腸がんのリスクを考える場合には適当であると考えられる。


設問B
禁煙希望者に対してニコチンパッチを利用した援助プログラムの有効性を評価するため、ある事業所で介入研究を実施することになった。介入群にはニコチンパッチを利用した禁煙カウンセリングを定期的におこない、対照群には禁煙カウセリングのみを実施し、3ヶ月後に両群間で禁煙率を比較する。事前の簡易調査で研究への参加を希望する喫煙者(116名)と、各人のタバコ依存度(高依存26名、中依存48名、低依存42名)を把握した。なおタバコ依存度により禁煙成功率が大きく異なることがわかっている。
問1.研究実施にあたりインフォームドコンセントのための文書を作成することになった。対象者が理解できる平易な言葉を用いて、2つの側面についての説明文案を作成せよ。
問2.禁煙希望者116名全員が研究参加を承諾したと仮定して、介入群と対照群とに半数ずつ分ける手順を、図及び疫学用語を用い説明せよ。

<解答・解説>
問1) テキストP13〜15
ニコチンパッチを使ったからといって必ず禁煙できるというわけではありません。ニコチンパッチを使用したことによって肌荒れなどの副作用が現れるおそれがあります。この場合必ず報告してください。この実験に参加するのは自由意志であり、実験を辞退することもまた自由です。など。
解説:「二つの側面」という言葉が気になりますが、直接先生に伺ったところ、いろいろ書かなければならないことはあるがその中から大切だと思うことを二つ書いてくださいとのことでした。インフォームド・コンセントの文書が大きく二つの側面から成り立っているというわけではないようです。
問2) テキスト該当なし
参加者を依存度ごとに層化し、層別に無作為に介入群と対照群に割り付ける。(無作為割り付け)
解説:今年は軽くしか触れてないのでたぶん出ませんが、一般的な無作為対照試験の手技にたばこの依存度も加味してグループ分けすれば満点だそうです。
授業ノートより<RCTの実施手順>
 選定基準
  研究対照該当者
     ↓・・・IC
    承諾者
   ↓   ↓・・・無作為割り付け
   ↓   ↓ 介入
   ↓   ↓
   ↓   ↓ 評価


C出題者:清原
問1.胃がん、子宮頸がん、乳がん、肺癌、大腸がん検診の有効性について記せ。[8点]
問2.がん検診の信頼性を測る尺度について説明せよ。[4点]
問3.性差医療について記せ。[4点]
問4.がんの一次予防と二次予防について記せ。[4点]

<解答・解説>
問1) テキストP59
胃がん:X線による逐年の検査を勧める根拠がかなりある。しかし、検査に限界もあるので検査の前に十分な説明が必要。
子宮頚癌:30歳以上を対象にした細胞診による検診の有効性は十分証拠がある。
子宮体癌:現在の有効性は十分に証明されていない。
乳がん:現在の触視診による検診の有効性は十分でない。マンモグラフィーは欧米で有効とされているので、我が国でも導入を検討。
肺がん:現在の検診の効果は小さい。集団検診へのCTの導入など、早期発見の研究が必要。
大腸癌:便潜血反応による検診を勧める十分な証拠があるヘモカルトテスト(化学法の一つで、ヘモグロビンが有しているペルオキシダーゼ活性を応用した非特異的反応)
問2) テキストP59下段〜60
がん検診の水準を高く保つためには、その信頼性を検証し、問題を見つけそれを改善するシステムが必要である。これを総称して精度管理と呼ぶ。精度管理のしっかりした体制を持つ検診機関は信頼性が高いといえる。
要精検率:前受診者中精密検査が必要とされる人の割合。
精検受診率:精密検査が必要とされ、実際に精密検査を受けた人の割合。
がん発見率:全受診者中で発見されたがん患者の割合。
早期がんの割合:全発見がん中の早期がんの割合。
 これらの指標が全体として良好な検診が、精度の高いがん検診といえる。
問3) テキストP143〜
性差医療とは、男女の生物学的性差、社会的な男女の位置付けと相互の関係性、男女それぞれにみられる特有の疾患や病態などの医学的な実証に基づいて行う医療のことである。
解説:アメリカでは1990年頃から活発になってきて、日本ではここ数年急速に発達している考え方。そもそもは、胎児への影響を危惧し、臨床研究の被験者を一時男性のみに限定しました。その結果、男性をモデルにした臨床研究が、体格もホルモン状態も違う女性にそのままあてはめられてきたというわけです。
問4) テキストP58 簡単にまとめました。詳しくはテキスト参照
一次予防とは、がんの原因の究明、原因の除去・是正によるがん罹患の予防のことである。長所としてはがんに罹らなくてすむ、検診・治療の費用が不要であり、短所としては、原因が不明または除去・是正が困難な場合は実施が困難であることがあげられる。
二次予防とは、がんの早期発見・早期治療によるがんの進展・死亡の予防のことである。長所としては、原因が不明な場合でも実施が可能で、短所としては、早期発見の方法と効果的な治療法が確立していなければならない、救命がん患者の一人あたりのコストが高い、がん検診の効果が明確でないものもあることなどがあげられる。


D出題者:徳永
以下の問に簡潔に回答せよ。
問1.次の表のA,B,Cの値を求め、完成した表からこの集団における溶血性連鎖球菌性咽頭炎の有病率と、臨床診断について以下の指標を求める。式と値を記せ。(小数点以下四捨五入)(各行1点,計5点)

溶血性連鎖球菌性咽頭炎の臨床診断結果合計 合計
陽性 陰性
溶血性連鎖球菌の培養結果 菌あり 20 100
菌なし 90 900
合計 830 1000

有病率
鋭敏度
特異度
陽性反応的中率

問2.(1)「現状生命表」とはどのような生命表か。(2点)
(2)生命表の生存率を計算する上で重要な「中途打ち切り例」とは何か。
「中途打ち切り例」にはどのようなものがあるか。(計3点)
(3)生命表の生存率を計算する際に、なぜ「中途打ち切り例」が重要となるのか。(3点)

問3.次の表は日本人男性の結腸がん粗死亡率と、1985年のモデル人口を基準集団として直接法により求められた年齢調整死亡率である。

指標 1950年 1970年 1995年
粗死亡率(人口10万対) 1.5 3.5 17.1
年齢調整死亡率(人口10万対) 2.9 5.2 14.8

(1)上記の表で年齢調整死亡率を計算する際、観察集団について何が分かっている必要があるか。(2点)
(2)粗死亡率と年齢調整死亡率の年次推移について記述し、両者の間で年次推移に違いが起こる理由を考察せよ。(5点)

<解答・解説>
問1(講義資料集p32参照)
 A. 80 B. 810 C. 170
 有病率 (100/1000)×100=10
 鋭敏率 (80/100)×100=80
 特異度 (810/900)×100=90
 陽性反応的中率 (80/170)×100=47
問2
(1)(講義資料集p36参照)特定集団の現在の死亡状況が将来も変わらないと仮定して作成する生命表
(2)(講義資料集p39参照)生存率計算上の問題であり、観察期間内に死亡以外の理由で観察が中断された例のことをいう。中途打ち切り例には、消息不明(観察期間中に行方不明:lost to follow-up)、観察中途生存(生存中に観察終了:withdrawal)の2種類がある。
(3)(講義資料集p39参照)例えば、消息不明例には、疾病の予後と関連する理由で消息不明となる場合がある。この割合が多い場合には生存率の解釈に注意が必要であり、消息不明の割合は5%未満であることが望ましい。また、生存率の計算では、「観察が中断されるまでは生存していた」という情報を生かす必要がある。
問3(似たような問題が9/17の演習で出題されました)
(1)(講義資料集p21〜参照)年齢階級別死亡割合
(2)粗死亡率は、1950年に比べ1970年には2.3倍に、1995年には11.4倍に上がっている。年齢調整死亡率はそれぞれ、1.8倍、5.1倍である。どちらも、1950〜1970年の増加より、1970〜1995年の増加が著しい。年齢調整死亡率は、粗死亡率の場合より増加の度合いは小さい。がん年齢の人口(高齢者)の割合が増加しているためであろう。

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