歯科口腔外科 平成16年度概説試験

平成16年7月7日実施 120分
問題冊子は解答用紙と共通、A4で5枚。1枚目に全ての問題が書いてあり、2〜5枚目にそれぞれ大問1つずつ解答。冊子は分解不可。以下は復元したもの。
102人受験、全員合格。

問題1
顎口腔領域に発生する嚢胞を分類・列挙し、それぞれについて病態を述べよ。
解答
白砂先生担当分です。
1. 顎骨の嚢胞
1) 歯原性嚢胞:歯に由来する。
(歯原性の上皮の一部が分泌してcystの形成と拡大を起こすものがあり濾胞性歯嚢胞というが、そのうち歯牙を含むものを含歯性嚢胞、含まないものを原始性嚢胞という。)
原始性嚢胞…硬組織(歯冠)の形成が始まる以前の歯胚に嚢胞が形成されたもので、歯胚形成初期の上皮を原基とした嚢胞。よって、歯の硬組織が、まったく見られない。
      X線所見は、嚢胞に一致した類円形の境界明瞭な透亮像がみられるだけである。
含歯性嚢胞…歯冠を含む。埋伏歯の歯冠を含む形で形成される嚢胞で歯のみが抜歯されて後に嚢胞が残留したもの。授業では、歯嚢が何らかの刺激で嚢胞化した物と言っていました。
歯根嚢胞…慢性根尖性歯周炎(歯根上皮に感染、炎症!!)の経過中に歯根肉芽腫を形成し、その中の迷入上皮により歯根嚢胞へと移行する。肉芽組織の中央部に上皮組織に縁取られた歯尖孔と連絡する空洞が成立する。最多。
2) 非歯原性嚢胞:歯に由来しない。
   術後性上顎嚢胞(久保氏嚢胞)…慢性上顎洞炎の術後数年ないし十数年後に上顎
洞など手術部位を中心に瘢痕中に発生。
   鼻歯槽嚢胞…鼻涙管と歯槽の間に出来る。胎生期の鼻涙管の遺残上皮、または鼻涙管の前下端の上皮から発生すると考えられる。(以前は、胎生期の顔面の突起の癒合部の遺残上皮から形成されるとされていた。)
   鼻口蓋管嚢胞…胎生期に存在する鼻口蓋管(後の切歯管)の上皮の残存によって形成される嚢胞。
3) 類嚢胞性疾患:X線上では嚢胞様に見えるが実際は嚢胞ではない。
   単純性顎嚢胞…外傷性の骨嚢胞。
   脈瘤性顎嚢胞…動脈瘤による。
   静止性顎嚢胞(Stafne)…舌下腺に顎骨内側が圧迫、吸収されたもの。顎角部の下顎骨より下方に嚢胞に似た境界明瞭なX線透亮像。
2. 軟組織に発生する嚢胞
1) 粘液嚢胞(唾液腺)…怪我などにより、小唾液腺(口唇腺、口蓋腺、頬腺etc)の導管が傷ついて、唾液                      
の流出障害が起こり、粘膜下に粘液が貯留する(粘液瘤)。また、大唾液腺(舌下腺、顎下腺etc)の排出管に関係するガマ腫もある。
2) 類表皮嚢胞…正中にできる。融合の際に上皮が迷入する。その結果、嚢胞壁が上皮構造をなす。チー  ズ様内容物を含む。                                                                         
(皮脂腺、爪、毛髪などが見られるものを類皮嚢胞と呼び、角化した上皮層のみのものを類表皮嚢胞と呼ぶ。)
3) リンパ上皮性嚢胞…側頚嚢胞とも呼ばれる。胸鎖乳突筋前縁に生じる。
4) 甲状舌管嚢胞…正中嚢胞とも呼ばれる。甲状舌管の遺残上皮から生じる。
           治療としては、Sistrunk手術が行われる。(舌骨合併切除)
 
(参考)平成9年度卒業試験解答
解説
名前の羅列だけでも、点数はもらえるかもしれません。(でも先生が授業中に行っていたことくらいは書いておいたほうがいいかも)
16年度は、白砂先生がこられず、代わりの先生がこられました。その先生が授業で言ったことを中心にまとめました。

問題2
口唇口蓋裂患者の臨床的な問題点について記せ。
解答
白土先生担当分です。以下に挙げる。
1. 鼻咽腔閉鎖機能障害…鼻咽腔閉鎖機能不全(VIP)
2. 言語障害…発音は大人になってから手術したのでは治らない。
3. 耳鼻咽喉科的疾患…滲出性中耳炎など
4. 顔面形態異常…軟組織形態異常、上顎劣成長
5. 歯科的問題…う蝕、歯咬合の異常
6. 哺乳・食物摂取の問題…ミルクを飲むと鼻から出たりする。
7. 合併症…先天性心疾患、小顎症、精神遅滞、染色体異常、内反足など
8. 心理的・社会的問題
解説
先生が授業中大切だとおっしゃっていたところから出ました。特に、1番は重要!

問題3
成人男性で、歯牙に欠損のない片側性顎関節突起頸部脱臼転移骨折(新鮮例)について、(1)主な症状、(2)主な治療法、(3)続発症とそれに対する対応、について知るところを番号ごとに記せ。
解答
(1)
関節突起の骨折では、顎運動の制限が起こる。骨折による骨片は、外側翼突筋によって、変位する。その結果、患側の下顎骨が短くなり、上にあがるため、物を噛む時に患側の顎が先にあたり、健側は噛みにくくなり、咬合不全となる。(授業中先生がおっしゃっていたのはこれくらいですが、プリントに書いてあることを書いてもいいかもしれません。)
(2)
関節突起の骨折では、基本的に、外科的整復・固定は行わなくてよい。よって、保存的治療でよいとおもわれる。しかし、出来るだけ顎間固定の期間を短くしたい時、骨癒合を確実にしたい時、また機能障害(咬合不全、開口障害、額強直症など)や審美障害を後遺しそうな時は、外科的治療を考慮してもよいだろう。
外科的治療の手順は、術前管理の後、手術を行う。
手術の流れとしては、
切開→骨折線確認→抜歯(この症例では必要ない)→整復→術中顎間固定→プレート適合→穴あけ→スクリュー固定→顎間固定解除→縫合
上下顎間を牽引・整復する前に、上下歯列に副木をつけ、歯列間にギャップがあるときは整復もする。
手術により噛み合わせが定まると術後、保存的に顎間固定を行うのですが、この症例は成人なのでその期間
は4〜6週間です(術後顎間固定)。術後には他にも機能訓練、開口練習、そしてプレート除去、歯科治療を
行うようです。
プレートは今は、チタンミニプレートが主流です。チタンは生体適合性がいいそうです。また、最近は吸収性
プレートも使われるそうです。仮骨が形成されるまで(3ヶ月〜半年)は固定し、自然と吸収されるそうです。
(3)
術後の経過不良、後遺症のことを聞いているのでしょうか?それとも骨折による続発症の事でしょうか?
前者なら、プリント3ページ目の12、後者ならプリント2ページ目の5を参考にして下さい。

解説
症例問題は毎年出ていて、下顎骨骨折が多いようです。授業が、プリントにそわず行われるので、解答を考えるのに苦労します。
下顎骨骨折では(傍)正中部、体部角部、関節突起、の3箇所がほぼ1/3ずつの確率で起こり、角部にはおやしらず(智歯)が存在します。過去問では智歯が埋伏したという症例が多いですが、そのときは、どうせおやしらずなので、術中に抜歯を行っていいと思います。
また関節突起の症例では、基本的には保存的治療と言うのも覚えておいてください!施設によっては、全く手術を行わないところもあるそうです。

問題4
齲蝕と歯周病各々の原因、発生機序、疾患の本態について述べよ。
解答
相田先生担当分
(1) う蝕
 病因:ストレプトコッカス・ミュータンス感染+スクロースの存在
 発症機序
S.mutans(連鎖球菌)がスクロースをグルコシルトランスフェラーゼによって非水溶性グ
ルカンとフルクトースに、また、インベルターゼによってグルコースとフルクトースに分
解する。非水溶性グルカンは菌の歯面の付着に寄与し、プラークを形成し硬組織の脱灰を
引き起こす。また分解されて生じた糖(フルクトース、グルコース)やそこから生じた菌体
内のグリコゲンが発酵することで生じた酸も、歯の硬組織の脱灰を引き起こす。 一度脱
灰が起こると、小さなものは再石灰化するが、マクロのレベルでは再生しない。
 疾患の本体(?)
このようにして、う蝕が起こり、脱灰が硬組織の外へ進むと歯髄炎、根尖性歯周炎など
が起こる。
治療は、う蝕、脱灰した部分を切除し、合成樹脂(コンポジットレジン)または金属で充填。

(2)歯周病
病因:歯周病関連細菌(P.gingivalisなど)と毒性因子特にLPS
 発症機序:
歯周病とは大まかに歯周炎、歯肉炎がある。歯肉炎は歯周組織の破壊を伴わない歯肉の炎症で若い人に多い。歯周炎は、結合組織、骨の破壊が見られ、40代に人に多い。
歯牙と歯肉の間に歯周病関連細菌を含むデンタルプラークが形成される。この細菌はグラム陰性菌で外膜にLPSを有しこのLPSが歯周組織内のマクロファージに作用することでMMP−1がマクロファージ、線維芽細胞から産生・分泌される。また歯肉の炎症で生じたサイトカイン(IL-8)が好中球を刺激し、MMP-8,9を分泌する。しかし、これらのMMPは活性を持たないラテントフォームである。MMP−1はプラスミンにより刺激を受け、またMMP−8,9は好中球内で産生される酸素代謝産物(ROI)であるО2−やHClOなどによって活性化され、歯周組織を破壊する。
一方、LPS刺激を受けた炎症性細胞(マクロファージ、繊維芽細胞)の産生する様々なサイトカイン(PGE2など)は破骨細胞の前駆細胞に作用しその分化を促すとともに骨吸収活性を増強する。また、これらの因子は骨芽細胞の形成には抑制的に作用する。このようにして歯槽骨の破壊が起こる。
*大切なのは、組織を破壊するのは、バクテリア自身ではなくホストの細胞であるということ!
疾患の本体:結合組織の破壊により、attachment loss(付着の喪失)がおきて歯周組織が後退し、また歯槽骨の破壊も起きて、歯牙の支持が不十分となり歯牙の動揺、脱落が起こる。

解説
毎年出ています。
〈歯の解剖について…〉
歯は大まかに二つの部分、歯冠と歯根に分けられる。
歯冠は口腔内に突出する部分であり、その全表面を鉱質化したエナメル質の層により覆われ保護されている。歯の大部分は象牙質という、骨と同様の化学組成を持つ無機質組織により構成されている。象牙質はその中心に歯髄腔を持ち、歯髄は多くの感覚系線維を含む特殊な結合組織を含んでいる。
歯根は顎骨中の歯槽稜と呼ばれる骨性稜中に埋め込まれている。歯を容れている部分を歯槽という。歯根は薄いセメント質に覆われ、セメント質は歯槽骨に歯根膜と呼ばれる薄い線維層により接着する。
歯槽稜上部を覆う口腔粘膜は歯肉と呼ばれ歯冠と歯根の境界部(歯の頚部)では歯肉は歯の周囲に緊密な保護帯を作る。歯肉の保護帯と歯冠のエナメル質の間にある潜在的隙間は歯肉溝である。歯を取り巻き支持する組織を総称的に、歯周組織という。

歯牙硬組織での代表的疾患は、う蝕であり、これは歯髄炎、根尖性歯周炎へと移行する。
一方、歯周組織の疾患としては、歯肉炎、辺縁性歯周炎が見られる。
一般的に、病変がエナメル質に限局する時は症状が見られないが、象牙質まで達すると症状が出てくるそうである。また歯髄の炎症により、浮腫が起こると、周囲が硬組織なので硬くすぐに歯髄腔の内圧が上るため痛みが生じる。

〈歯周病について〉
1. 歯周炎において歯周組織に何が起こっているか。
歯周炎の病因
歯周病関連細菌(4つ、ただし菌を持っていても100%発症するわけではない)はホスト細胞とそのシステムの活性化により、酵素やその他の分子を産生・放出し、それらが歯周組織を破壊する。これらの活性は炎症性メディエーター(本来は生体防御に使われる)により誘導・調節される。
2. 歯周炎の原因:歯周病関連細菌と病原因子特にLPS
歯周病に関連する細菌
成人性歯周炎:porphyromonas gingivalis , Prevotella intermedia
Bacteroides forsythus , Campylobacter rectus
いずれもグラム陰性細菌、外膜にLPSをもつ
限局型若年性歯周炎:Actinobacillus actinomycemcomitans

LPS(リポポリサッカライド、エンドトキシン、内毒素)
@病原因子としての役割
  A歯周病関連細菌、P.gingivalisのLPSの特徴
    …LPSは本来は生体防御能の賦活化を引き起こす。LPS活性が弱い。
(BLPSの細胞への作用機序)
   …シグナリングカスケード(Mφ上のCD14、Tlr4)
LPS以外の菌体成分:絨毛…Mφに働いてサイトカイン産生誘導

3. 歯周組織破壊の機序:組織破壊活性の発現とその調節
 すなわち、結合組織の破壊と、骨組織の破壊のこと。
 歯肉炎ではこれが起こらない。(attachment loss−)可逆的な変化。全てが歯周炎に移行するわけではない。
(1)組織破壊におけるeffecter molecules:
MMP-1:Mφ、線維芽細胞が産生←菌体性分(LPS)により産生促進。
     サイトカインによる産生の制御、蛋白分解酵素(Plasmin等)による活性化。
     非活性型として産生(ラテントフォーム)→プラスミンによる限局分解→活性化。   
    細胞外基質を破壊。
  MMP-8,9:好中球が産生。
刺激により顆粒から放出するので放出までが早い。(Mφは刺激を受けてから産生するので放出まで時間がかかる)
好中球には、食作用(細胞内殺菌)と組織破壊的機能(蛋白分解酵素群による)があるが、これらにはいずれも酵素代謝物質(ROI)が関与する。すなわち好中球には、健康的側面と、破壊的側面があるのだ。
好中球蛋白分解酵素の酵素代謝産物(ROI:O2−、HOCl)による調節
@ ROIが蛋白分解酵素阻害物質を不活性化する。
A 不活性型の蛋白分解酵素、MMP;matrix metalloproteinase(collagenase,gelatinase)を活性型にする。
 
 (2)骨吸収における破骨細胞
破骨細胞の分化誘導、活性の調節(歯槽骨の破壊) 
  細菌由来の菌体成分(LPSなど)が炎症性細胞(線維芽細胞、Mφ)に作用して、サイトカイン(IL-1、TNF、PGE2)などの産生を引き起こす。菌体成分とそれらの因子は前駆細胞の破骨細胞への分化を促すとともに、骨吸収活性も増強する。それらの因子は骨芽細胞の形成には抑制的に作用する。結果として骨代謝のバランスは破壊のほうへ傾く。
  最近、活性化T細胞が破骨細胞活性化因子、RANK-L/OPG-Lを産生することが明らかになった。

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