精神医学 平成13年度概説試験

2001.6.26実施
1.1)精神分裂病の陰性症状またはBleuler Eの4A(基本症状)について知ることを示せ。
「5/28、6/2 統合失調症」プリント、ノート参照
 精神分裂病の陰性症状とは、感情鈍麻、意欲低下、自閉、引きこもりなど、通常見られる感情や意欲などが見られなくなる症状のことで、普通では見られないが精神分裂病で見られる妄想、幻覚、奇異な行動などと対比される。Bleuler Eの4Aとは、精神分裂病の基本とされた連想弛緩、感情障害、自閉、両価性の4つの症状のことで、陰性症状との相関が大きい。

2)慢性分裂病の治療と社会復帰施設について知ることを示せ。
 慢性の分裂病に対しては、維持的薬物療法(症状の悪化を抑える最低量)と、支持的精神療法、家族療法、作業療法などの精神科リハビリテーションを並行して行う。精神科リハビリテーションを行う施設として、援護寮や福祉ホームなどが増えつつあるが、まだまだ不十分であり、今後いっそうの拡充が求められる。

3)情動と気分の違いについて述べよ。
 情動が一過性の激しい喜怒哀楽であり、身体・表情の動きを伴うことが多いのに対し、気分は比較的長く持続し、動きは伴わないことが多い。

2.1)次の問題のうち、2問を選択して、解答せよ。
(1)うつ病に関連する病前性格を3つあげて、その特徴を記せ。
循環気質、執着気質、メランコリー親和型。説明は「6/4、14 気分障害」ノート参照。

(2)うつ病の代表的な身体症状を少なくとも3つあげて、その特徴を記せ。
意欲減退、睡眠障害、倦怠感。
睡眠障害では、入眠障害よりも中途覚醒や早朝覚醒がよくみられる。

(3)気分安定化薬リチウムの適応とその使用上の留意点を述べよ。
双極性障害に用いられ、躁期、うつ期ともに効果がある。また、間欠期に用いれば再発を抑制する効果もあるとされるが、中毒域と治療域が近接しており、常にリチウムの血中濃度に気を配ることが必要である。

(4)アルコール離脱症状のうち、幻覚や意識障害を伴うものを何と呼ぶか。名称を答えて、その特徴を記せ。
振戦せん妄…特徴的な幻視(小動物幻視、情景的幻視)が見られ、不安・焦燥の要素が強い。詳細はプリントとノート参照。(「6/15、アルコール・薬物関連障害」プリント2枚目。)

2)次の各組み合わせのうち、正しいものには○、誤っているものには×を記せ。
1.( )うつ病に特徴的な妄想として、貧困妄想、罪業妄想、心気妄想がある*。
2.( )躁病では睡眠障害は少ない*。
3.( )三環系抗うつ薬の副作用として、下痢、吐き気、食欲低下が多い。
4.( )複雑酩酊で認められる行動異常は了解不能である*。
5.( )アルコール幻覚症では意識障害を認めない*。
6.( )覚醒剤精神病は、薬物の使用直後にしか発症することはない。
7.( )ロールシャッハテストは、投影法の人格検査である。
*医師国家試験既出問題
1.○…「6/4、14 気分障害」あわせて微小妄想、と呼ばれる。
2.×…「6/4、14 気分障害」不眠になる。
3.×…「6/3、精神障害の治療−薬物療法」下痢はなく、便秘やめまいがある。
4.×…「6/15、アルコール・薬物関連障害」病的酩酊では了解不能。
5.○…「6/15、アルコール・薬物関連障害」意識は清明であり、しばしば被害妄想を伴う。
6.×…「6/15、アルコール・薬物関連障害」離脱後も長期にわたって現れる。
7.○…「6/16、精神保健・法と精神医学」投影法としては他にP−Fスタディなど。

3.境界例について、講義内容を中心に知るところを記せ。
境界型人格障害とは、神経症と精神病の境界線ととらえられた。この障害は女性に多く、不安定な感情を特徴とし、特定の人物に対して強い依存心を抱く。しかし行動も予想がつかないために対人関係は不安定で、失望と怒りに駆られた自傷行為もよくみられる。高率に大うつ病を併発するのも特徴である。

4.下記の文章の空欄にもっとも適切な言葉を下の語群から選び、その記号を解答欄に記入せよ。
1)現在のDSMによる診断基準には神経症という用語はなく、(1)という用語に変わっており、その中には(2)、(3)などがある。
2)神経症治療の目標は、症状の改善、(4)の改善と(5)を高めることにある。
3)抗不安薬の代表的なものに(6)の化合物がある。
4)神経症の治療は、症状が長期になり、(7)の問題が大きく関わり、環境因が(8)程困難になる。
5)精神分析療法の基本方法は(9)で、森田療法では、(10)と作業である。
語群
(a)ブチロフェノン系 (b)家族 (c)自由連鎖法 (d)作業療法 (e)知的能力 (f)身体感覚 (g)適応不全 (h)強迫性障害 (i)絶対臥褥 (j)神経症性障害 (k)気分 (l)自由連想法 (m)大きい (n)転換性障害 (o)ベンゾジアゼピン系 (p)適応力 (q)あるがまま (r)性格 (p)学習療法 (t)小さい (u)素質 (v)不安性障害

「6/7、8 神経症性障害」
1:j  2:h  3:v  4:g  5:p
6:o  7:r  8:t  9:l  10:i

5.1)てんかん(てんかん症候群)の国際分類及び,てんかん発作の国際分類(発作型分類)について各々別々に説明せよ。
「5/21、睡眠障害・器質性精神障害」プリント・ノート参照。
てんかん症候群の分類(プリント6枚目):部分てんかん、全般てんかん、どちらか決定できないてんかん、特殊症候群に大別される。このうち部分・全般てんかんはそれぞれ特発性、症候性、潜因性がある。
てんかん発作の分類(プリント7枚目):部分発作、全般発作に大別される。部分発作には単純部分発作、複雑部分発作、二次性全般化部分発作があり、全般発作には欠神発作、ミオクロニー発作、強直発作、間代発作などがある。

2)次について各々述べよ。(各3点)
(1)てんかん発作重積状態(status epilepticus)及びその治療について
 30分以上に渡って持続するてんかん発作のこと。脳浮腫、低酸素血症、高乳酸血症などにより中枢神経系にダメージを受けるおそれがある。痙攣発作重積状態、非痙攣発作重積状態、単純部分発作重積状態の3つに分けられる。治療には即効性のジアゼパムと、やや後から効いてくるフェニトインを静注する。

(2)ナルコレプシー
 遺伝性の疾患で、覚醒、NREM睡眠、REM睡眠を統合する脳の機能異常。詳細はノート参照。

(3)せん妄(delirium)
 ノート参照。

6.アルツハイマー病、ピック病、脳血管性痴呆に関して,
1)以下の症状はいずれの疾患に特徴的か,分類せよ。
1.視空間失認  2.感情失禁  3.健忘失語  4.まだら痴呆  5.構成失行  6.錯語
7.滞続言語   8.健忘失語  9.人格変化
(類)15年度概説大問5、14年度概説大問7、13年度概説大問6 解説は15年度参照。
アルツハイマー病…1、5
ピック病…3、6、7、8、9
脳血管性痴呆…2、4

2)頭部CT又はMRI所見の特徴を記せ。
アルツハイマー病…大脳の全般的萎縮、シルビウス裂や脳室の拡大所見。
ピック病…前頭葉または側頭葉の萎縮。
脳血管性痴呆…病型により様々な変化をきたす。前頭葉皮質下、側脳室周囲白質など。

3)SPECT(脳血流)又はPET(脳代謝)所見の特徴を記せ。
アルツハイマー病…初期には頭頂・側頭葉の血流や代謝が低下し、やがて前頭葉に広がる。
ピック病…前頭葉または側頭葉の血流・代謝の低下。
脳血管性痴呆…?

7.下記について正しいものには○、誤っているものには×を記せ。(10点)
1)( )言葉の遅れを示す子どもは、まず自閉症の診断を考える。
2)( )小学校に入学した6歳児が幻覚妄想の症状を訴えたときはまず精神分裂病を考える。
3)( )チック障害の薬物療法にはメチルフェニデートを使う。
4)( )乳児は8ヵ月になると1つは有意語がみられる。
5)( )注意欠陥多動性障害の治療の第一選択薬はハロペリドールである。
解答 「6/11、少年期・青年期精神障害」
1)×…本当に遅れているのか、をまず考えましょう。
2)×…分裂病、うつ病は年齢が下がるほど頻度が低い。
3)×…ハロペリドールを用いる。
4)×…12〜18ヶ月。
5)×…メチルフェニデートを用いる。

8.以下の症例は、フロイト(Sigmund Freud)が1911年に出版した「自伝的に記述されたパラノイアの一症例に関する精神分析学的考察」からの引用であり、一般に「シュレーバー(Schreber)症例」として有名なものである。以下の文章を読み、設問に答えよ。
Reference:
1)Psychoanalytical Notes on an Autobiographical Account of a Case of Pranoia: S.Freud,1911.

2)DSM-III Case Book.A Learning Composition to the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(3rd ed.)American Psychiatric Association.1981.

シュレーバー(Daniel Paul Schreber)は、ライブチッヒ市において地方の名土であり、かつ高名な医師を父として、1842年に生まれた。その後、法学博士となって州の裁判長となり、結婚もしている。1884年(42歳)の時に帝国議会への立候補と落選、および未熟な妻への不満と失望を契機に「重度の心気症の発作(an attack of a severe hypochondria)」に陥り、ライプチッヒ市のフレッヒズィッヒ教授(Professor Flechsig)のクリニックでの約6ヶ月間の治療の後、1885年の終わりまでには完全に全快した。
1893年、彼が51歳の6月にドレスデンの控訴院議長への就任を知らされ、同年10月1日より議長としての仕事を開始した。その間、彼は数回、以前のエピソードと同様の体験が戻ってきたような奇妙な夢を見たことを後に報告している。二回目のエピソードは、その年の10月に頑固な不眠で始まり、再びフレッヒズィッヒ教授(Professor Flechsig)のクリニックに戻ることを余儀なくされた。しかし、彼の状態は急速に悪化し、ゾンネンシュタインサナトリウム(Sonnenstein Asylum)へ入院しなければならなかった。
ゾンネンシュタインサナトリウム(Sonnenstein Asylum)での彼の主治医であったウェーバー博士(Dr.Weber)は彼のことを以下のように記述している。
"At the commencement of his residence there he expressed more hypochondriacal ideas, complained that he hadsoftening of the brain, that he would soon be dead, etc. But ideas of prosecution were already finding their way into the clinical picture, based upon sensory illusions which, however, seemed only to appear sporadically at first; while simultaneously a high degree of hyperaesthesia was observable -great sensitiveness to light and noise -Later,the visual and auditory illusions become much more frequent, and, in conjunction with coenaesthetic disturbances, dominated the whole of his feeling and thought. He believed that he was dead and decomposing, that he was suffering from the plague; he asserted that his body was being handled in all kinds of revolting ways; and, as he himse1f declares to this day, he went through worse horrors than any one could have imagined, and all on beha1f of a holy purpose. The patient was so much preoccupied with these pathological experiences that he was inaccessible to any other impression and would sit perfectry rigid and motionless for hours. On the other hand, they tortured him to such a degree that he longed for death. He made repeated attempts at drowning himself in his bath, and asked to be given the "cyanide that was intended for him". His delusional ideas gradually assumed a mystical and religious character; he was in direct communication with God, he was the plaything ofdevils, he saw"miraculous apparitions", he heard 'holy music', and in the end he even came to believe that he was living in another world.
It may be added that there were certain people by whom he thought he was being persecuted and injured, and upon whom he poured abuse. The most prominent of these was his former physician, Flechsig, whom he called a "soul-murderer"; and he used to call out over and over again:'Little Flechsig!' putting a sharp stress upon the first word."
注)revolting=disgusting; plaything=toy; apparition:ghost.

続く2,3年の間に、彼の人格、精神状態に緩徐な変化が起こっていった。ウェーバー博士(Dr.Weber)は次のように述べている。
"He believed that he had a mission to redeem the world and to restore it to its lost state of bliss. He was called to this task by direct inspiration from God. This, however, he could only bring about if he were first transformed from a man into a woman. It is not to be supposed that he wishes to be tgransformed into a woman; it is rather a question of a "must"based upon the Order of Things."

シュレーバー(Schreber)は、この病気のために市民権を失ったが、彼は自分の自由を回復するために非常に多くの上訴を行った。彼は自分の考えを隠そうとしなかったし、また否認しようともしなかった。逆に彼は自分の考えの正当性と重要性を主張し、それらは近代科学の攻撃によっても論破されないことを詳細に説いた。また彼は自らの病的状態についての回顧録出版の意図をも強調した(実際にそれは出版された)。これらの精神的な状態にもかかわらず、彼は常に礼儀正しくユーモアもあり、如才なく、また愛想がよかった。またどのような話題についても、生き生きとした興味を示し、博識であり、よい記億力や判断力を示していたので、ついに1902年、シュレーバー(Schreber)は市民権を回復した。しかしその後、母の死と妻の病気を契機として状態は悪化し、1907年に再入院を余儀なくされた。以後は次第に悪化して荒廃状態を示すにいたって、1911年に死亡した。

 1)シュレーバー(Schreber)の精神医学的な状態像について以下に述べよ。また、その根拠について記せ。
 2)左記1)の答えを参考にし、この症例の診断及びその根拠について述べよ。
省略します。すいません。

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