精神医学 授業ノート

 このノートは授業を聞いて、あくまで僕が個人的に咀嚼したものを記したものなので間違いや不適切な表現があることが予想されます。(精神を扱う分野なのでご理解頂けると思いますが…。)そのことを充分頭に置いた上で読んでください。また間違いや不愉快な表現があれば教えてください。
 なお授業プリントは手元にあることを前提に補足のつもりで書いていますので、持ってない人は適宜手に入れてください。それから、講義は順序に統一性がないので、総論を先に、各論を後にという原則に則って編成しています(授業の行われた順ではありません。)

目次
 日付順にしなかった関係で目次を作るべきかと…。印刷後に自分でページ数をつけると使いやすいかな?

6月1日 精神障害の診断と分類(神庭教授)
  <精神疾患の分類>
  <診断の要点>
5月31日 精神障害の症候学(川嵜先生)
  <性格・人格・知能・睡眠・意識>
  <知覚>
  <記憶>
  <思考>
  <感情・意欲・病識>
6月3日 精神障害の治療−薬物療法(神庭教授)
  <抗精神病薬(神経遮断薬、メジャートランキライザー)>
  <抗うつ薬>
  <気分安定薬>
  <抗不安薬(マイナートランキライザー)・睡眠薬>
  <精神刺激薬>
6月10日 精神障害の治療−精神療法(神田橋先生)
5月20日 リエゾン精神医学(川嵜先生)
6月16日 精神保健・法と精神医学(黒木先生)
  <心理検査>
  <メンタルヘルスケアの展望>
6月11日 少年期・青年期精神障害(吉田先生)
  <精神科診断>
  <小児期・青年期の精神障害>
6月9日 老年期精神障害(一宮先生)
5月21日 睡眠障害・器質性精神障害(門司先生)
  <器質性精神障害総論>
  <せん妄>
  <睡眠障害>
5月28日、6月2日 統合失調症(二宮先生)
6月4日、14日 気分障害(神庭教授)
  <大うつ病 Major depression>
  <気分変調症>
  <双極性障害>
  <気分循環症(循環気質)>
  <病態像の特徴(特殊な病態)>
  <原因と治療>
6月7日、8日 神経症性障害(中川先生)
6月15日 アルコール・薬物関連障害(黒木先生)
  <アルコール関連障害>
  <覚醒剤>

6月1日 精神障害の診断と分類(神庭教授)
 精神医学総論、的な講義です。
 精神医学は脳と心の医学であり、関連する領域が極めて広いのが特徴といえます。先生は哲学を筆頭に、社会学、心理学、(生物学的な)脳、と連なる四段のピラミッドを書いて示され、その下段から説明されました(プリント参照)。
生物学的次元では、外因の影響をまともに受けます。外因とは、具体的には膠原病、内分泌疾患や感染症などがあり、これらによって起こる精神障害は症状精神病と呼ばれます。社会的次元には児童相談、精神保健政策などがありますが、要するに最近よく言われるメンタルヘルスはこの次元といえます。倫理・哲学的次元というと難しいですが、尊厳・人権などを包括するこの次元は後述するリエゾン精神医学との相関も大きい次元です。
<精神疾患の分類>
精神疾患の分類にはいろいろありますが、原因から分類すると内因性、外因性、心因性に分かれます。外因性とは主に器質的な原因が認められるもので、上述の膠原病、内分泌疾患によるものや痴呆、てんかんが代表的です。また外因性には中毒などによってもたらされるものも含まれます。精神科の診断では、外因性の病因がないかを検索することがその第一歩といえます。続いて内因性と心因性です。内因性はいわば原因不明の疾患群で(統合失調症や気分障害が含まれます)、心因性は心にかかるストレス、すなわち不安や恐怖が原因である(神経症が含まれる)、とされてきましたが、これらの境界はあいまいなので、最近は区別されなくなってきました。
精神科の扱う疾患には原因の明確でないものが多く、原因分類ではおおざっぱな分類しかできません。これでは役に立たないので、症状や経過から分類が行われています。有名なものはアメリカ精神医学会の作成するDSM(Diagnostic and statistical manual of mental disorders、最新版は4版)と世界保健機構(WHO)の作成するICD(International classification of disease、最新版は第10版)で、精神疾患を語るときには極めてよく登場します。そのカテゴリーについてはプリントを参照してください。
<診断の要点>
精神科に限らないと思いますが、患者から症状を正しく聞き出す、というのは医者の腕の見せ所です。病識の有無、信頼関係の形成状態などによっても相手の訴えは変化することがある、ということをよく認識して、患者とよりよい関係を築くことが重要です。また言うことには随意的な修飾をすることができますので、自分の意志では変えづらい自律神経や身振り、表情、話の調子・トーンなどにも気を配るように、というようなことも話されていました。
精神医学の疾患分類は症状と経過によって行われる、と記しましたが、それはつまり、患者から自覚症状を正確に聞き取り、他覚症状を観察し、これらを症候に置き換えれば自動的に診断名が確定する、ということを意味します。さらに精神医学では発生学的診断(どんな人とどんな付き合いをしていて、どんなことがあって…という細々したこと。)も重要で、これにより治療も変わってくることがあります。

5月31日 精神障害の症候学(川嵜先生)
 精神科の症状はおおむね以下のように分類できます。1)性格・人格、2)知能、3)睡眠、4)意識、5)知覚、6)記憶、7)思考、8)感情、9)意欲、10)病識
授業では、「膨大になる」ということで5)知覚、7)思考に限定して講義が行われました。ノートでも他は軽い説明にとどめます。
<性格・人格>
人格障害は妄想性人格障害、分裂病型人格障害、境界性人格障害、自己愛性人格障害、依存性人格障害などに分類されますが、詳細は教科書に譲ります。
<知能>
正常な人が獲得できる知能を獲得できない(知能の発育が障害された)精神遅滞と一旦獲得した知能を何らかの理由で失ってしまう痴呆に分類できます。痴呆については老年期精神障害の項で詳述。
<睡眠>
当然過眠と不眠があります。
<意識>
意識の清明度評価にはJCM(Japan coma scale)による三三九度方式(意識レベルのはっきりした順に1,2,3,10,20,30,100,200,300の9段階で評価)がよく用いられます。
※軽い意識混濁に精神的な興奮を合併した状態をせん妄といいます。軽い意識混濁で見られる見当識障害(見当識とは自分の置かれた日時、場所、周りの人物などの認知のこと)は頻出単語なので覚えましょう。
<知覚>
 単純な知覚異常は正常でもよく見られます。(例:つまらない授業が長い=時間知覚の異常)よって、精神病の症候としては妄覚(錯覚+幻覚)が重要です。実際の対象を誤って知覚する錯覚(これは正常でもよくあります。)と、対象なき知覚である幻覚の区別には注意しましょう。
 幻覚は視点によっていろいろな分類ができます。いくつか挙げると、
・ 本人がその感覚を(実態がないにもかかわらず)あると信じて疑わない真性幻覚と、実在感に乏しい偽(仮性)幻覚(例:頭の中で人の声がする)に分ける分類。
・ 単純な感覚の要素を持つ要素幻覚と言葉のように複雑な要素が混じている複合幻覚に分ける分類。
・ 感覚の種類に従った分類。(幻視、幻聴、幻嗅、幻味、幻触、体感幻覚)
 感覚の種類に従った分類をもう少し説明します。
 幻視は疾患によって特徴を持っています。アルコール依存からの離脱期に生じるせん妄では小動物幻視が見られるそうです。また覚醒剤の使用では幻聴より幻視の方が頻繁に現れるとされています。
幻聴は統合失調症で現れるものが特徴的です。誰か分からない第三者からの批判や非難、命令が聞こえ、患者はその内容が不条理であっても逆らうことができません。(「お前はどうにもならない人間だからこのビルの屋上に上がって飛び降りろ。」という声が聞こえたら、実際に飛び降り自殺してしまう。と先生は言われていました。)域外幻聴、というのは可聴範囲の外(火星、ブラジル…)から声が聞こえる幻聴だそうです。
幻嗅、幻味、幻触は知覚過敏との区別がつきにくく診断的な価値が低い、とされますが、例えば自我漏洩(ろうえい)症候群では、幻嗅により「自分は口臭がひどくてそのせいで人が近寄らない、話すときに顔をしかめる。」などと訴えます。また水や食べ物の味に異常を訴える幻味は被毒妄想(誰かに毒を盛られて殺されそうだ。)につながります。
体感幻覚とは体性感覚の異常のことで、「脊髄に腫瘍がいっぱいできています。」などと訴えるそうです。
<記憶>
記憶は記銘、保持、追想という段階に分解され、それぞれの障害によって健忘(前向性と逆向性)、記銘障害などが起こりますが詳細は省略します。
<思考>
思考の障害は思考過程の障害、思考体験様式の障害、思考内容の障害に分けられます。
思考過程の障害には以下のようなものがあります。
・ 同じ所を思考が堂々巡りする保続(「私は医学部の学生です。」と何度でも言い続ける。)
・ とにかく回りくどい迂遠(でも結論に至ることはできます。)
・ 思考が緩やかになる思考制止(努力しても考えが浮かばない、うつ病など。)
・ 逆にどんどん考えが浮かび、話が脱線し放題になる観念奔逸(ほんいつ)(まとまりがない、躁病など。)
・ 思考がつながっていない思考途絶(「今日は雨が降っているので私は看護婦になりたい。」)
・ 話がまとまらない連合弛緩(観念と観念、言葉と意味との連合が解離してきます。)
・ それがひどくなる滅裂思考(新しい言葉を作ったりもします。)
・ ただの言葉の羅列で何を話しているのかさっぱり分からない言葉のサラダ(統合失調症など)
 続いて思考体験様式の障害ですが、これには支配観念(なにか一つのことばかりを考えている状態。)、強迫観念(その考えが不合理だと分かっていながら、振り払おうとすればするほどまとわりつく状態で、行動に移せば強迫行為。)、させられ思考があります。させられ思考は、他人に考えを吹き込まれているように感じる思考吸入(すいにゅう)、逆に自分の考えが抜き取られると感じる考想奪取、自分の考えを誰かに邪魔(支配)されるような思考干渉、自分の考えが相手に伝わっていると感じる考想伝播、相手が自分の考えを見通していると感じる考想察知に分けられ、いずれも統合失調症に特異的な症状です。
 思考内容の障害はその異常性に気付いて訂正できる過誤と、訂正できない妄想に分けられ、精神科で問題にするのは妄想です。妄想は一次妄想と二次妄想に分かれます。
 一次妄想はどうしてそんなことを考えるに至ったのか理解できません。3つに分類されます。世界が没落するのではないかなどと、何となく大事件が起こりそうな予感を持つ妄想気分、全く無関係な知覚に主観的な意味づけをする妄想知覚(例:顔に風を感じて、自分の命を狙うスパイが狙撃してきた、と確信する。)、思いつきの観念を勝手に確信する妄想着想(例:私はイエス・キリストの生まれ変わりだ。そうに違いない。)の3つです。
 二次妄想はその妄想に至る心理を了解できます。躁病に典型的な誇大妄想、うつ病に典型的な微小妄想被害妄想などです。細かく言えば、誇大妄想にはなんでも自分の発明だと考える発明妄想や、あの人は自分のことが好きに違いないと確信する恋愛妄想などがあります。また微小妄想には自分は罪深い、重大な失敗をした、と思いこむ罪業妄想や、悪性の病気にかかっていると確信する心気妄想、今にも破産しそうだと信じ込む貧困妄想などがあります。
 上にもいくつか例が出てきましたが、妄想の種類と疾患の種類に相関が見られるものもあります。アルコール依存症では嫉妬妄想(妻が浮気している。)がよくみられ、慢性覚醒剤中毒、統合失調症では被害妄想が見られます。(ただし、慢性覚醒剤中毒の被害妄想が攻撃性を高め、高じて人を殺したりするのに対し、統合失調症の場合は攻撃性が表に出ることは稀です。)
<感情>
 感情の異常には躁病によく見られる爽快気分、うつ病などの抑うつ気分、痴呆や薬物中毒で起こる多幸などがあります。もちろん悪いことがあってふさぎ込むのは当たり前で、あくまでこれらの気分がそれにそぐわない状況で出現するもののみが感情の障害とされます。
 また、状況に対して不自然に興奮性が低下する情動麻痺や感情鈍麻、情動の抑制がきかなくなる情動失禁なども感情の障害です。
<意欲>
 うつ病で意欲の減退が、躁病で意欲の亢進が見られる、という程度でよいのではないでしょうか。細かく言うと意欲の亢進には行為心迫と運動心迫があり、意欲の減退には制止と途絶があるそうです。
<病識>
 自分が病気である、という意識です。

6月3日 精神障害の治療−薬物療法(神庭教授)
<総論>
 まず向精神薬抗精神病薬の違いに気をつけましょう。向精神薬は精神に作用する薬全般を指す言葉で、抗精神病薬は精神病(主に統合失調症を指します)の治療薬です。つまり、たくさんある向精神薬の中の一つが抗精神病薬です。また、向精神薬は人の精神に作用する薬、というだけなので、治療薬ではないもの(具体的にはアヘンや覚醒剤です)も含まれます。
 精神疾患で薬剤を用いる時の一般的な注意点としては、服薬管理が重要であることが挙げられます。病識のない疾患も多いため、患者自身が「飲む必要がない」といって服薬コンプライアンスが低下しがちです。(高血圧や糖尿病と共通します。)また被毒妄想(「この中には毒が入っている。」)により服薬しないこともあり得ます。しかしこれが再発の大きな原因になるので対策が重要なのです。
 以下、薬物の分類に従って進めていきます。なお、講義では「薬は副作用から覚える」ということで副作用を強調され、作用機序などについてはそれほど重点が置かれていなかったと思います。
抗精神病薬(神経遮断薬、メジャートランキライザー)>
 統合失調症に対する対症療法薬、と覚えましょう。これが開発されるまでは興奮を抑えるには寝かせる(意識を奪う)しかなかったのですが、抗精神病薬は比較的大量に投与しても意識障害を起こさない、という点が画期的でした。統合失調症以外にも躁症状や妄想を伴ううつ病にも有効です。
 1954年に開発されたクロルプロマジンが抗精神病薬の第1号で、もともとヒスタミンH1ブロッカーとして開発されました。ところがH1受容体の遮断作用は弱く、また統合失調症に有効なことが示され、調べてみるとドパミン受容体の遮断作用が症状の抑制に働いているということがわかったそうです。薬の名前としては鎮静作用の強いクロルプロマジン抗幻覚妄想作用の強いハロペリドールくらいを覚えておけばよいのでは…。
 副作用をまとめます。まずドパミン系の遮断薬ですから当然錐体外路症状がおこります。パーキンソン症候群遅発性ジスキネジア(口や舌に起こりやすい、不規則な不随意運動。)、ジストニア(胸鎖乳突筋によく見られるトーヌス(=筋緊張)の亢進。)、アカシジア(静座不能症=筋肉がむずむずしてじっとしていられないこと。)などです。
 抗コリン作用を持つものもあるので、自律神経症状がみられます。具体的には排尿・射精障害、緑内障、発汗などです。内分泌・代謝系にも影響し、肥満高プロラクチン血症(乳汁分泌・無月経)が起こることもあります。抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)と多飲が起これば相乗的に作用して水中毒を起こします。
 まれながら重篤な副作用もあります。まず突然の発熱、筋強直、自律神経不安定、意識障害を特徴とする悪性症候群が重要です。放置すると筋融解が起こり、血中にミオグロビンが増加するために腎不全に陥ります。(腎障害は最大の死因です。)この悪性症候群は麻酔を施した際に生じる悪性高熱と類似しており、治療にも悪性高熱と同じダントロレンが有効とのことです。(これはむしろ侵襲医学に必要な知識ですが…。)
他には不整脈があることも覚えておきましょう。QT延長など心伝導障害をおこすことがあり、突然死を起こすことがあるという意味で重要です。
抗うつ薬
うつ病に限らず、神経症性のうつ状態など、広くうつ状態の治療に用いられますが、効果発現に時間がかかること、副作用はそれより前に出現することに注意する必要があります。理屈はよくわかっていないものの、過食症やパニック発作にも効果があるそうです。
抗うつ薬の始まりも偶然の産物で、クロルプロマジンを改良して統合失調症に用いようとイミプラミンを作ったところこれが統合失調症ではなくうつ病に効果があった、というのが発見の契機だそうです。イミプラミンは化学構造から三環系抗うつ薬と呼ばれており、後に作られた四環系抗うつ薬は副作用が少ないのが特徴です。これらの薬剤はいずれもセロトニンの作用を増強することが抗うつ作用をもたらすとされ、さらにこの作用に特化した選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)も作られました。SSRIは三環系や四環系抗うつ薬に見られた抗コリン作用やα1受容体遮断作用などがほとんどないため、使用が増えているようです。
副作用では薬効の現れすぎ、と思われる躁転、抗コリン作用やα1受容体遮断作用による自律神経系副作用(血圧低下、便秘、緑内障などなど)をよく覚えておきましょう。
気分安定薬
気分障害のうつ病期、躁病期ともに効果があり、間欠期にも投与することにより再発予防効果が認められます。具体的にはリチウム(炭酸リチウム)と、抗てんかん薬であるカルバマゼピン、バルプロ酸があります。機序は不明です。もちろん双極性障害の治療薬ですが、まずリチウムを投与し、反応がないもしくは副作用が生じる場合にカルバマゼピン、バルプロ酸が用いられます。
リチウムは作用域(0.4〜1.2mEq/l)と副作用域(1.5mEq/l〜)が非常に近接しているので血中濃度を細かく監視することが望まれます。中毒症状は嘔気食欲不振、粗大振戦、けいれん意識障害、錯乱など多様で、重いものも多くあります。
抗不安薬(マイナートランキライザー)・睡眠薬>
抗不安作用抗痙攣作用筋弛緩作用催眠作用をあわせもち、それぞれの薬の作用によって抗不安作用が強いものは抗不安薬、抗痙攣作用が強いものは抗痙攣薬などと言われます。薬効はGABA作用増強によってもたらされます。多くはベンゾジアゼピン系化合物です。
副作用では奇異反応と薬物依存、離脱症状が重要です。奇異反応は不安、不眠やせん妄といった症状で、アルコール依存の症状に似ています。また精神刺激薬、抗不安薬には依存を生じさせる作用があるので注意が必要です。離脱症状は、アルコールの離脱症状に類似しています。連用後にやめると出現する症状で、不安や不眠、集中困難、知覚異常など様々です。
精神刺激薬
覚醒剤とほぼ同義です。脳の上行性網様体賦活系が刺激され、多幸感などが生じます。抗うつ薬が無効のうつ状態、ナルコレプシー(後述)、小児期の注意欠陥/多動性障害ADHD、後述)が主な適応疾患です。覚醒剤取締法によって使用が制限されている日本では唯一使用できる薬剤がメチルフェニデートです。
副作用では依存性が最重要でしょう。

6月10日 精神障害の治療−精神療法(神田橋先生)
 授業を聞かれた方は分かると思いますが、「精神療法」についてはおそらく1分たりとも時間を割いておられないと思うので、この項目はどうしたものか困惑していますが、精神障害の治療で薬物以外のものについて、ステップを僕なりにごく簡単にまとめてみます。
なお授業は「機器に頼らず感性を磨く『徒手空拳』の医療」の重要性や、多剤を併用し、漫然と使い続ける治療の危うさについて強調されていたように思います。(薬をたくさん列挙する結果、処方箋が短冊のように縦長になるのはよくない、と言われていました。)精神症状だと思いこんでいたものが薬の副作用であることも多い、ということです。またその症状が病気の経過なのか、薬剤の副作用なのかを判断するのもまた感性だ、といったこともおっしゃっていたように思います。
では薬物以外の精神疾患治療のまとめ。
電気痙攣療法…麻酔下に通電を行い、痙攣を起こさせる、という方法で薬剤の効果が不十分な統合失調症、うつ病がよい適応です。脳の器質的疾患、心疾患を持つ患者には禁忌です。
・ 精神療法
 1)支持的精神療法…患者を受容し、励まし、症状改善のためにすべきことを指示することにより、症状に耐え、生活していけるだけの能力を身につけさせます。
 2)表現的精神療法…とにかく自由に患者にとっての問題点を話してもらい、それをただひたすら受容します。「話してしまえばすっきりする。」ということでしょうか。
 3)洞察的精神療法…患者の弱い部分(問題となっている部分)を探り、理解させることによりその弱さを乗り越えようとします。フロイトの精神分析療法などですが深くは立ち入りません。
 4)訓練療法…症状をあるがままに受け入れる訓練をする森田療法、自らの緊張を解きほぐし、リラックス状態を得る訓練をする自律訓練法、望ましい行動に報酬を与えるなどの方法により、誤った条件付けを正しいものに修正する行動療法などがあります。
 5)集団精神療法…1対1でなく、複数の患者を集めることにより、ここの問題点をより深く洞察することを狙った療法です。
 6)家族療法…個人を取り巻く家族環境は患者の精神状態に大きな影響を与えます。患者の症状に家族環境が関与していると考えられる場合には家族全体を精神療法の対象とします。
作業療法…作業(レクリエーション、芸術も含む)を行わせることにより精神症状の改善をはかり、対人の再建や職業訓練としての側面も持ちえます。長期入院患者など多くに適応があります。

5月20日 リエゾン精神医学(川嵜先生)
 「リエゾン」とは「連携(連係?)」を表すフランス語です。精神科と身体科をつなぐような概念で内容は多岐にわたります。具体的には精神的に不安定になった患者さんについて身体科から相談を受けて…、といった他科との連係を司る部門といえます。医療現場における精神医学的問題を全般的に扱い、中立的な立場で全体を見渡すことが求められます。
 以下に対象となる具体例を挙げます。
ICU症候群…ICUという刺激の少ない環境にいることによってせん妄をきたす例がよく見られます。
・ 器質性精神病…痴呆、てんかん、脳腫瘍など。夜間徘徊するなどのケースが対象になります。
・ 他科で用いる薬剤によって精神に変調をきたす場合…ステロイド、免疫抑制剤、インターフェロンなど。
自殺企図、自殺未遂、希死念慮…精神科に入院させるべきケースもあります。ただ精神科は指定病床なので、入院させるには一定の条件が必要です(精神保健福祉法の定めるところによる)。本人の同意が得られれば任意入院となりますが、本人が意志決定できないとき、保護責任者(未成年ならその親、配偶者、家庭裁判所の指定を受けた人)の決定と指定医1名の立ち会いにより医療保護入院とすることができます。緊急を要すけれど保護者の同意を得ることができない場合には指定精神病院に限って72時間以内の応急入院させることも可能です。また、自傷他害のおそれのある患者の場合、指定医2名の判断により措置入院とします。
・ 移植医療…本当に本人の意志で移植を希望しているか(移植適応)、医師が全て説明を行い、患者がそれを全て理解しているか(インフォームド・コンセント)などを判定します。移植では特にドナーの精神面に配慮が必要です。臓器を提供したもののレシピエントが亡くなってしまう、という事態も起こることがあり、そのようなときに急性悲哀反応などが見られることがあるためです。また、少しずれますがアルコール依存の有無を判断するのも精神科医の役目です。
・ 医師・患者関係…人格障害患者や、それほどでなくても変わった人、覚醒剤常用者などと医師の間で問題が起きたときに精神科医が呼ばれることもあります。ただし、患者本人の了承を得ないと診察をすることはできないことになっているそうです。
・ 医療関係者のメンタルヘルスにも関わります。特にうつ病ですね。
・ 周産期母子メンタルヘルス…マタニティー・ブルー、産後うつ病など。また精神障害者が妊娠した場合にも、産婦人科に入院させるか、精神科に入院させるか迷う場合があります。産婦人科では周りの妊婦に悪影響を及ぼすことを心配せねばならないし、精神科には胎児モニタリングをする機能がないからです。
・ 終末期医療・緩和ケア…患者は死を拒絶し、やがて受容します。この受容を助ける役目を負います。
・ 医療訴訟・カルテ開示…問題を起こさないようにするためには治療関係の安定が不可欠ですが、最近増加中です。将来的には関係が不安定な場合にあらかじめ精神科医を呼び、第三者の立場で関わってもらう、ということも必要になるかもしれません。

6月16日 精神保健・法と精神医学(黒木先生)
<心理検査>
 まず「他の授業では扱わないから」ということで心理検査について説明がありました。プリント1枚目にあるように、知能を検査するもの(症候学の知能の項にあるように、知能の異常は精神遅滞と痴呆なので、それぞれについての検査があります。)、人格を検査するものなどに分類され、それぞれ多様な検査があります。たくさんあるので覚える必要はないと思いますが。
 人格検査についてもう少し踏み込むことにします。これには質問紙法投影法があります。質問紙法はある質問に「はい」、「いいえ」(「どちらでもない」などが加わることもある)で答えてもらうことにより、検査を行います。簡易なのが長所ですが、「望ましい解答をしよう」など、被験者の意志(思惑)が入り込みやすい不利点があります。
 一方投影法は、漠然とした刺激を与え、それに対する反応をもとに評価します。例えばP−F(ピクチャー・フラストレーション)スタディでは、ちょっと困るような場面(上司に叱責を受ける、とか。)を描いた漫画を見せ、自分の吹き出しに入る台詞を考えてもらいます。投影法ではロールシャッハテスト(左右対称のインクの染みを見せて、何を連想するか、など質問する。)が有名ですが、動物占い(好きな動物を尋ねて性格判断をする)も投影法の1種といえます。投影法は質問紙法とは逆に、被験者の思惑が入り込みにくく、深い情報が得られる反面、判断は難しく、客観性・信頼性を証明するのも困難です。また、深部を探れる検査ほど、被験者に対するストレスも大きくなる(侵襲性がある)ことをしっかり認識しておく必要があります。なお心身医学の第3回(6月9日)講義でも心理テストを扱っていましたので、そちらのプリントも参考になるかと思います。
<メンタルヘルスケアの展望>
 2枚目、3つめ以降の図は眺めておけばよかろうと思います。ポイントは1950年代になって精神薬理学が登場し、一気に発展したということと、1960年代に社会・地域によるケアが展開されたことでしょうか。「病院に閉じこめることが精神病を作っているのではないか?」という考えから、病院から社会の中へ、という流れが生まれ、諸外国では軒並み精神科病床数が減少した、ということです。
 では日本ではどうかというと、1950年、私宅監禁を容認していた旧制度がようやく改められ、精神衛生法が生まれました。しかし1965年に統合失調症の青年がライシャワー駐日大使を刺す、という事件が起こると、精神障害者に対する風当たりが強まり、同法は一部改正されました。続いて1988年、宇都宮病院で精神障害者に対する非人間的処遇が行われていたことが明るみに出て、これが社会問題化したため、新たに精神保健法が作られました。このような紆余曲折を経て、1995年、精神保健法を改めた精神保健福祉法が成立し、今に至っています。
 日本の精神科にかかる患者の現状ですが、まず、欧米では減少している病床数がほぼ横ばいとなっていることが特徴です。(新規入院患者は減少傾向)ただ、援護寮のような生活訓練施設など、地域における生活支援の体制が整えば退院できる、という人は7万5千人にものぼるとされ、福祉ホームなどの施設は急激に増加しています。また、減少傾向にあるものの、精神科入院患者の平均在院日数は欧米と比べ著しく長く、ここにも受け入れ条件の問題があるといえます。グループホームなどの支援体制は再発予防、外来治療の維持(入院の防止)にも大きな効果があることが示されており、このことも「入院医療中心から地域社会中心へ」との声を後押ししています。
 一方、最近精神科医療は一般化し(敷居が低くなり)、外来を受診する人が急激に増えています。それに対応するように、都市部を中心に精神科診療所が著しく増えています。これら診療所では、入院患者の6割を占める統合失調症患者の割合が4分の1ほどであり、気分障害、神経症性障害も約4分の1ずつと、入院患者との分布の相違が見られます。
 最後から2枚目のスライドを見ると、メンタルヘルスの喪失が社会にとって極めて大きな損失となっていることが分かります。このような現代社会においては、精神科医だけではとてもそれに処し切れません。そのため、プライマリケアの場で精神科医療を提供できる環境作りが極めて重要です。
※ 入院形態はプリントとリエゾン精神医学の「自殺念慮…」の項をご覧ください。

6月11日 少年期・青年期精神障害(吉田先生)
<精神科診断>
 まず精神科診断について出題される、とのことなのでそれについて。前にも出てきたとおり、精神疾患分類の診断手続きにはDSM−WICD−10が広く用いられていますが、ここでは授業で詳しく扱われたDSM−Wの説明をします。
 「DSM−Wについて、構造を説明し、その利点を述べよ。」という問題が出るそうです。
 DSM−Wの特徴には多軸診断操作的診断があります。多軸診断とは多くの面から、総合的に患者をとらえる、ということです。また、操作的診断とは、診断を誰が行うかにかかわらず、あらかじめ設定された項目のチェックを行えば、同じ診断にたどりつける、ということです。
 具体的にはDSM−Wは5つの軸からなります。具体的には、1.臨床症状に基づく主要診断、2.精神遅滞と人格障害、3.基礎身体疾患の有無、4.心理社会的・環境的要因の有無、5.機能の全体的評定、の5つです。そして、これらが操作的にチェックできるよう、例えば列挙された○個の症状のうち、△個が該当し、(1軸に該当)、精神遅滞がなく(2軸)、同様の症状をもたらす身体疾患が否定され(3軸)、その病気を起こす心理社会的要因が認められ(4軸)、社会的機能が低下して(5軸)いれば、その人はこの病気である。などと診断が下されることになります。後述の統合失調症の診断基準が(第4軸が抜けていますが)、この順になっていますので参照してください。
<小児期・青年期の精神障害>
 まずこれらの精神障害を診断・治療する場合、暦年齢と精神年齢を考慮する必要があります。(1歳6ヶ月で言葉が出ない、という幼児と11歳6ヶ月で言葉が出ないという小児はまるで違いますね。当たり前の話です。)そして家庭・学校の環境などを十分に考え合わせることも重要です。
 また、受診した子供が必ずしも精神科診断に該当する障害があるとは限りません。例えば「言葉の発達が他の子供や平均より遅い。」と親が訴えて受診しても、それが健常の範囲内である、ということもあるということです。
 各論ですが、先生が強調された3つの疾患、ADHD、アスペルガー障害、チック(とトゥレット障害)以外はごく簡単に触れます。
精神遅滞…知能の発育が障害され、社会的な適応困難を呈するもの。
コミュニケーション障害…言葉に関する機能の発達が障害された病態。表出性言語障害、音韻障害など。
学習障害…読字障害、書字表出障害、算数障害など。
運動能力障害…不器用な子供、発達性協調性運動障害。
広汎性発達障害自閉症、レット障害、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害。アスペルガー障害は、対人的相互反応における質的な障害(抱かれるのを好まない、人見知りしない、他者の感情を理解しないなど)、限定された反復的で情動的な興味や活動(異質な好奇心)を特徴とし、言語発達は遅れません。(遅れると診断は自閉症となります。)つまり、知能は高いが、うまくコミュニケーションできない子供ということになります。
・ 注意欠陥および崩壊性行動障害…注意欠陥/多動性障害(ADHD)、反抗挑発性障害、行為障害があります。ADHDは不注意、多動性、衝動性を主徴とする障害です。有病率は5〜10%とされ、男女比は約3:1です。学校または家庭でのストレスによって発症したものは除かねばならないので、学校のみ、あるいは家庭のみで見られる場合はADHDとは診断しません。また6歳未満にはADHDという障害名は使わないことになっているそうです。小児の精神障害としては珍しく、薬物(中枢神経刺激薬のメチルフェニデート)に効果があるのも特徴です。メチルフェニデートは即効性で、24時間以内には完全に代謝されてしまうため、ここぞという時に服用させます。(学校のある月曜から金曜日、夏休みはやめる、とか。)原因には諸説ありますが、同胞、双生児で一致率が高いので遺伝子の関与があるとされています。またドーパミンにも関係があるようです。前頭前野が小さい傾向が見られるため、この機能が弱く、大脳辺縁系を抑制しきれないのではないか、とも言われています。もともと機能が弱いのですから、鎮静剤は禁忌です。治療には薬物の他に、親の教育や、刺激統制(注意を喚起するものが多ければそれだけ集中力が乱されやすいので、なるべく刺激になるようなものをまわりから減らします。)も重要です。
チック…反復する常同的な運動または発声(突然口をゆがめたり、奇声を上げたり)で、一過性のものが多いものの、多彩な運動性チックと音声チックが頻繁に生じ、1年以上続くものもあります。これをトゥレット障害といいます。これも薬物が適用となる小児精神疾患で、ごく少量のメジャー・トランキライザー(ハロペリドール)によって大半が症状を抑えられます。(ただし、服薬中止で再発することが多いことが問題です。)
・ 小児精神疾患とは異なりますが、周産期精神障害にも触れておられたのでそれについても少々。この中で最重要は出産後に起こるうつ病(産後うつ病)です。軽症例が多いため見逃しやすいものの、発症率は10〜15%にものぼります。また早期発見すれば治癒は容易ですが、見逃すと数ヶ月に渡って続くことから、スクリーニングも開発されました。

6月9日 老年期精神障害(一宮先生)
<概念>
 老年期精神障害のポイントは痴呆と死の受容です(理想は「死そのものに向き合う中での、生そのものに対する聡明な関心を持つ」老人、だとか…)。性格の変化としては一般的に尖鋭化(もともと持っていた性格の強調。)、平板化(元来の性格の減弱。)、反動化、変容がおこるとされます。
<老年期精神障害における一般的注意点>
老年期は生理的な衰えを示すため、ある症状が生理的老化なのか、病的老化なのかを判断するのは容易ではありません。また多くの場合身体に疾患を持つため、それが直接精神に影響を及ぼすことや、その治療に用いられる薬剤が精神障害を起こしていることも考えに入れねばなりません。さらに、老年期になると多くの喪失を体験しています。配偶者など人の死に限らず、社会的役割・地位や自立性、健康の喪失も、社会からの疎外感や孤独感を与えていることがあります。(あくまで支持的に、尊敬と親密をもって接することが必要です。)もちろん生理的な機能も衰えが見られますので、薬剤を投与すれば副作用が出やすく、また同じ副作用も遅れて出る傾向にあります。つまり、薬の処方にあたっても、投与量は少なめにし、副作用の少ない薬を用い、漫然と投与し続けないなどの配慮が必要になります。
<各論>
なんといっても主役は痴呆です。これは「一旦獲得した知的・心的機能の全体的障害で、不可逆性のものが多く、高齢者に多発するもの」です。また意識障害に伴うものは除きます。日本では痴呆症を持つ人は300万人に及ぶとも言われます。そして、アルツハイマー病血管性痴呆に大別されるのは神経で勉強したとおりです。診断基準はプリントを参照してください。
 アルツハイマー病は改善せず、緩やかに進行する痴呆です。そのため多くの場合、いつ発症した、というはっきりしたことはわからず、受診は平均して発症後1〜2年です。(病初期に神経学的異常や人格障害をきたさないことも発見の遅れにつながります。)画像所見ではびまん性の脳萎縮を認めますが、確定診断は病理所見でのみ可能なので、厳密には臨床診断に「アルツハイマー病」はあり得ないそうです。(だからアルツハイマー型痴呆といいます。)
 血管性痴呆については授業中ほとんど言及がありませんでした。特徴を簡単にまとめると、アルツハイマー病とは違って急に発症し、階段状に悪化します。これは梗塞巣が増えることに対応しています。また全般性に脳が萎縮するアルツハイマー病に対し、局所に病変が形成される血管性痴呆では、ある機能は残っているのにある機能は失われる、といったまだらな症状が見られます。
 そのほかには、老年期にはうつ病や睡眠障害が起こりやすい、といわれます。調査をすると割合自体は他の年齢層と大差ありませんが、うつ病では典型的症状を呈さない、睡眠障害では持続性の不眠が多い、など特徴が見られます。

5月21日 睡眠障害・器質性精神障害(門司先生)
<器質性精神障害総論>
 器質性精神障害とは検査で確認しうる器質的基礎障害を原因とする精神障害で、器質的な障害が存在しない(わかっていない)精神障害(=機能性精神障害)と区別します。脳腫瘍、頭部外傷など直接脳に影響する疾患に伴って起こるほか、甲状腺疾患膠原病薬物などでも起こりえます。器質性精神障害の代表はてんかんです。
 器質性精神障害の検査では脳波が重要です。まずは授業プリント3枚目の正常脳波をよく目に焼き付けてから、様々な脳波を見てみましょう。4枚目上のクロイツフェルト・ヤコブ病の特徴的脳波は周期性同期性放電PSD、スパイクが脳全体に、同期してしかも対称性に出現。)です。4枚目下の肝性脳症でみられる三相波は前頭部優位、という特徴があります。5枚目上のウェルニッケ脳症では活動が低下し、全般に徐波化しています。活動の低下がさらに進んだ脳死状態が5枚目下の脳波で、周期的な波は心拍を感知したものです。
<てんかん>
 てんかん(てんかん症候群)はてんかん発作を主症状とする慢性の脳疾患です。分類としては、部分発作と全般発作があることをまず確認してください。改めて説明するまでもないかもしれませんが、発作が脳の一部であれば部分発作(側頭葉が多い)、全体なら全般発作です。それから、部分発作の亜分類である単純部分発作(意識障害なし)、複雑部分発作(意識障害あり)、二次性全般化部分発作(部分発作が全般発作に発展)と、全般発作の亜分類である欠神発作(突然で短時間の意識消失)、ミオクロニー発作(一瞬の手足の素早い不随意運動)、強直間代発作(全身に及ぶ痙攣)を覚えましょう。
 治療には原則単剤の抗てんかん薬を用います。(薬物の相互作用が有害な場合が多いため併用はしない。)最も基本的な薬剤、部分発作に対するカルバマゼピンと、全般発作に対するバルプロ酸を覚えてください。あとは脳波の特徴を8枚目のプリントで見ておけばいいかと…。特徴は棘徐波結合です。
<せん妄>
 せん妄もこの授業で登場したので再度取り上げておきます。これは意識障害の1つで、これに認知障害(自分のいる場所、日時などが分からなくなる。)を伴います。錯乱状態になることもあります。身体科でも問題になりやすいため重要です。原因には手術・薬物などがあり、拘束や感覚過剰・感覚遮断が誘因となります。(ICUで起こりやすいのは手術後の患者が多く、拘束され、環境が常に一定で刺激がないためです。)せん妄の対策としては、誘発因子の軽減・除去が重要です。向精神薬の少量投与を行うこともあります。
<睡眠障害>
 最後に睡眠障害ですが、ナルコレプシーと睡眠時無呼吸症候群が重要です。
 ナルコレプシー睡眠発作(突然眠ってしまう、non-REMを経ずにいきなりREM睡眠に。)、脱力発作睡眠麻痺(金縛りです)、入眠時幻覚が四徴です。思春期に睡眠発作で発病し、やがて他の症状も現れるケースが多く見られます。ナルコレプシーは極めてまれですが、この患者全員がHLA抗原のDR2陽性であるため、遺伝的な側面があるとされています。(ただし、DR2陽性の人のごく一部がナルコレプシーになるので、環境因もあるとされています。)
 予後は比較的よい病気で、睡眠発作に対してメチルフェニデート(覚醒剤の仲間で中枢神経興奮薬です。)を、脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚には三環系抗うつ薬(REM睡眠を抑制します。)を用います。
 睡眠時無呼吸症候群は睡眠時に無呼吸発作が多発し、昼間の過眠や夜間の不眠が自覚症状です。肥満体型の中年以降の男性に多く、もともと狭い上気道が睡眠による緊張の低下でふさがってしまうことに原因があります。呼吸器科での治療対象になります。

5月28日、6月2日 統合失調症(二宮先生)
<概念>
 ご存知の通り統合失調症は精神医学領域の代表的疾患です。1000人に3人ほどの頻度で見られ、思春期から30歳くらいまでの発症が多いとされています。
<診断基準>
妄想(被害妄想、誇大妄想、血統妄想、嫉妬妄想など、言って聞かせても訂正がききません。)、幻覚(幻聴が多い。)、解体した会話(支離滅裂でまとまりがない)、ひどく解体した行動陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如など)のうち2つが1ヶ月以上存在。(ただし、妄想が「宇宙人が攻めてきた」といった奇妙なものであったり、幻聴が「トイレにいくんやね。」のように患者の行動や思考を逐一説明するものであったり、2つ以上の声が会話する幻聴である場合には1つでもよい。)
・ 広汎性発達障害との関係…自閉症性障害などの既往歴がある場合は、著明な妄想、幻覚があって初めて「統合失調症」の診断を追加します。
・ 物質や一般身体疾患の除外…薬物の影響でこのような症状が出ることもあります。
・ 社会的・職業的機能の低下…病前の機能より著しく低下しています。
 基礎疾患や意識障害がある場合には診断を特に慎重に行う必要があります。
<病状の変化と予後>
疎外感を感じる、などの前駆期を経て発症、幻覚、妄想を伴う急性期に移行し、回復期を経て寛解するか、慢性期となります。予後は、プリント1枚目の右上の図、3番のように波状の経過を経て治癒に至るもの=22%、4番のように波状の経過を経て軽度または中等度の終末像を示すもの=27%、慢性に経過して中等度ないし軽度の終末像をとるもの=23%とされています。重症の転帰をとるものは全体の2割程度で、人格荒廃に至る不治の病ではなくなりました。しかし、どのような転帰をとるか、は診断の時点ではわかりません。
<症状>
プリントの「症例」、「急性期に見られる主要症状」を参照してください。この中のシュナイダーの一級症状は特殊な幻覚、妄想で、統合失調症に特異的とされ重要です。
<治療>
急性期に非定型抗精神病薬が用いられます。また、家族に対する教育も重要で(家族ががみがみ言うとよくありません。)、家族も含めて生活療法を行うと再発率が有意に低下した、という話を強調されていましたので心にとどめておいてください。

6月4日、14日 気分障害(神庭教授)
<概念>
 かつて、早発痴呆(今で言う統合失調症)の患者の中から、様々な状態を経て無為無動に至る、という典型的な経過をとらず、興奮しやすくハイな時期と、無関心で抑うつ的な時期とを繰り返す、という病態が(広義の)躁うつ病として分離されたのが気分障害の出発点です。
 その後、(広義の)躁うつ病は、その言葉に対する悪いイメージを払拭するために名称を気分障害(または感情障害)と変更しました。ここで「広義の」とことわったのは「躁うつ病」という概念には2つあるからです。広義のほうは、いわゆるうつ病やうつ病より軽い症状が長く続く気分変調症(かつての抑うつ神経症)などを包括する概念、狭義のほうは、周期的にうつ状態と躁状態を繰り返す病気の概念です。それで、広義の躁うつ病を気分障害と言い換えるのに伴って、狭義の躁うつ病は双極性障害と言い換えることになりました。
 この気分障害には4つのカテゴリーがあります。いわゆるうつ病である大うつ病、前述の気分変調症双極性障害、そして双極性障害の軽いもの、とされる気分循環症(かつての循環気質)です。
<大うつ病 Major depression>
 重い(様々な症状が出現する)うつ病で、抑うつ気分と興味・関心の低下が診断に必須です。他の症状としては意欲の低下集中力・判断力の低下(いつも何気なくしているような決断もできなくなる。)、睡眠障害(中途覚醒または早朝覚醒が典型的で入眠障害は少ない。比較的軽いタイプでは過眠となることもある。)、食欲・性欲の障害(減退することが多いが亢進することも。)、倦怠感自律神経症状(便秘や唾液分泌の不良)などがあります。妄想も見られ、貧困、罪業、心気(病気でないのに病気ではないとかと気が気ではなくなること。)がうつ病の三大妄想と言われます。しびれや痛みといった感覚異常を起こすこともあります。また、1日の中では午前中調子の悪いことが多いのも特徴的です。
 精神運動が制止したり、興奮することも多く、興奮は焦燥感として現れるのが典型的です(こんなことをしてはいられない、帰って働かなければ…)。これに自責の念が伴うことが多いため(自分さえしっかりしていればあの企画は成功したのに…)、しばしば自殺念慮、企図、遂行がみられるのです。
 また、うつ病にはなりやすい典型的な性格があり、「メランコリー型、執着気質(かつては内因性うつ病といわれた)」などと言われます。これは責任感が強く、几帳面で何事にも手を抜けず、何でも自分で理解していないと不安になる、といった性格のことで、環境の変化や大きなストレスによって疲弊しきってしまい、発病する傾向があります。
 疫学について。障害有病率は5%とされ、軽症も含めると15%に達するとも言われます。男女比では女性に多く、比率は1:2といわれます。また患者の自殺率は7〜15%、寛解後の再発率は50%です。
 最後に治療ですが、抗うつ薬による薬物療法と精神療法に比較的よく反応します(平均して6ヶ月で寛解、ただし1/3は遷延化するとされる)。精神療法は、具体的には認知療法という手法で、自責的な患者の思考・認知を修正します。自責感から自分を追いつめているので、さらに追いつめるような叱咤は禁忌です(もっと頑張らなきゃ、などと言わないように!)。あくまで支持的に、「ちょっと頑張りすぎだから休みましょう。」という調子で接します。(休養も治療には重要です。)また薬物についてですが、最近は効果の高い薬剤が開発されています。しかし、即効性がないので、効果が現れるまでに3〜4週間かかることをよく認識しておく必要があります。主作用が現れる前に副作用が出現するのでなおさらです。
<気分変調症>
 軽いながら長く続くうつ病で、多くはめまいなど身体症状を伴い、また長引かせる原因があります(回復するとうつ状態になったその職場に復帰せねばならない、など)。患者には抗うつ薬は反応性が悪く、根気のよい精神療法が必要とされます。(目標を持ち直す、などの対処が求められます。)病前性格としては、比較的未熟で葛藤を持ちやすい、という特徴があります。
<双極性障害>
 躁状態とうつ状態が周期的に現れます。なお、単極性のうつ病はありますが、単極性の躁病はほぼない、とされています。はじめて躁状態が現れた人に対しては、双極性障害の躁状態が現れた、と考えて「双極性障害」と診断します。
 うつ病よりもずっと有病率が低く、遺伝性が強いことが特徴です。精神科疾患の中で遺伝的要素は最も高いと言われ、一卵性双生児の一致率70〜100%、二卵性双生児の一致率30〜40%です。(ちなみに、アスペルガー障害も遺伝性の強い疾患で、大うつ病や統合失調症にも遺伝性があるとされます。)
うつ状態の説明は大うつ病の項で十分だと思うので、躁状態の説明をします。躁状態では異常な気分爽快があり、意欲・活動性は極めて亢進します。(プリントに「創造性との関係」とありますが、先生は「芸術家と気分障害・統合失調症は切っても切れない関係で、躁状態の時期に名作といわれる作品が…。」とおっしゃっていました。)このあたりまでならよさそうにも思えますが、観念奔逸によって思いつくことを思いつくまましゃべりだすので、そのつながりは聞いている人にはなかなか分からず、極期には支離滅裂(統合失調症に特徴的です。)との区別が困難です。(このような時はほかの症状から双極性障害・統合失調症を鑑別し、観念奔逸か支離滅裂かを判断するのだとか。多少ごまかした診断になります…。)また誇大妄想から大きなことを、前後の見境なくどんどんしようとし、周りが抑制しようとするとすぐに怒り出します(易怒性)。さらに、睡眠時間が減少しますが、うつ状態の場合「寝たくても眠れない」のに対し、躁状態では「やりたいことが多くて寝てはいられない」、「寝なくてもきつくない」と、対照的です。
<気分循環症(循環気質)>
数ヶ月単位で軽いうつ状態と躁状態が繰り返される状態で、双極性障害の病前性格とも考えられます。
<病態像の特徴(特殊な病態)>
まず、幻覚はない、と思いこむのは危険です。まれながら幻覚や、誇大・微小妄想以外の妄想もみられます。
季節性のうつ病もあります。冬季に現れるものが代表的で、この場合過食・過眠を呈します。
産後うつ病はよく登場しますが、頻度が高く、子育てどころではないので子供の発達にも影響が出る、ということで最近は取り上げられる機会が多くなっているようです。
急速交替型は年に4回以上躁転、うつ転がみられるものをいいます。リチウムへの反応が悪く難治性です。
混合状態は大うつ病エピソードと躁病エピソードを1週間ほとんど毎日満たすものをいいます。躁病の極期や、急速なうつ転、躁転の際に見られ、これも難治性です。なお、双極性障害における躁病期とうつ病期の間(そのどちらでもない間欠期)に起こるのは稀で、あくまで急速な変化の途中で見られることが多いそうです。
<原因と治療>
原因のでは双極性障害で遺伝性が強いのは前述の通りです。また特徴的な病前性格が見られます。さらに、多くの場合は環境的な要因と、発症の契機となるような出来事があります。なお、薬物や身体疾患、脳器質的疾患によってうつ状態になったものは気分障害とは言わないことになっています。(原因のはっきりしないものが気分障害、ということになります。)
治療ですが、うつ状態には抗うつ薬、躁状態の極期に見られる激しい興奮などには抗精神病薬が用いられます。しかし、抗うつ薬には躁転のおそれが、抗精神病薬にはうつ転のおそれがありますので、双極性障害の治療の中心はリチウムをはじめとする気分安定薬です。

6月7日、8日 神経症性障害(中川先生)
<概念>
 神経症は雑多な疾患の総称として生まれた言葉です。そこから、身体的な基盤が明らかにされた疾患や、統合失調症などの内因性精神疾患が独立していき、心因(特に「不安」と「恐怖」が重要な位置を占めます)によって精神症状を引き起こす病態を指すようになっていきました。ただし、もともとの出発点があいまいなので、DSM−WやICD−10の分類に用いるのは不都合とされ、今では正式な分類としての「神経症」という大枠はなくなりました。(といっても、一括りにするには便利、ということで「神経症性障害」としてその概念は生き残っているようです。)
 では神経症がどんなものか、という部分から見ていきます。
 特徴は大きく4つあります。まず1つめは機能的精神障害だということ。脳に器質的な障害があるわけではなく、可逆的な(治る)障害です。そして2つめ、心因性の障害である、ということ。不安や恐怖、心理的外傷が病因となります。3つめに正常との連続性があることが挙げられます。つまり、不安・恐怖は誰でも持つ感情であり、それ自体は異常ではないが、それが極度に高じたために障害をもたらす、ということです。(逆に言えば幻覚のように、普通の人にはあり得ないような症状を起こすことはありません。)最後に性格・素質があります。ある疾患になりやすい性格・素質がある、というのはどの病気にもいえることかもしれません。神経症性障害は比較的よく保たれた人格を持つ人が多い、という特徴があります。
<各論>
 まずパニック発作から。ある時突然、急激な不安に襲われ、動悸、心悸亢進、発汗、窒息感、胸腹部不快感、現実消失感などの症状が生じます。症状はこのまま死んでしまうのではないか、と思うほどですが、器質的異常があるわけではないのでまもなく(数分で)治ります。これが反復すると、やがていつ発作が起こるか、という予期不安にさいなまれることになります。するといざ発作が起きたときにすぐに助けが求められないような状況(家の外に一人でいる、混雑の中にいるなど)を恐れるようになり、そのような状況を回避するか、同伴者を伴わないと非常に強い苦痛・不安を感じるようになります。これを広場恐怖といいます。
 続いて強迫症状です。強迫観念と強迫行為に分けられます。強迫観念は考える意味がない、とわかっていながらある1つのことを反復して考え、「気にすまい」、「やめよう」と思ってもますますその考えにとりつかれてやめられない、という状態をいいます。この観念を気にするあまり行動を起こすのが強迫行為です。この行為はある恐ろしい状況を予防するために企てられるのですが(例:火を消し忘れたかもしれないから、確認しに家に帰る)、明らかに過剰であり、本人は自分の行動が過度で不合理である、という認識があります。
 最後に狭義の神経症からは外れますが心的外傷後ストレス障害(PTSD)について扱います。これは自分に重大は危険が迫る、人が深く障害されたり殺されるのを目撃、などの経験(心的外傷)の後で起こります。この心的外傷体験が持続的に再体験され(夢や、あたかもその外傷体験が再び起こったかのような錯覚、外傷体験を象徴するような状況で著しい心理的苦痛を受ける、など)、睡眠障害や集中困難などをきたします。あたかも自分を上から眺めているような感覚に陥る離人症状や神経衰弱も起こりやすいとされます。
<治療>
 その第一は休養、安静と環境の調整です。第二は抗うつ薬、抗不安薬をはじめとする薬物療法です。第三に、支持療法も有効です。専門的には(長期に続く、症状が重いケース)系統的精神療法を行います。
 休養、安静に説明は必要ないと思いますので薬物療法から説明します。まず不安が重要な要素である神経症では、服薬に対しても不安を抱く患者が多いことをよく認識し、その不安を取り除くことが大切です。逆に、患者との信頼関係を築けば、神経症治療にはプラセボ効果が特に高い、ともされています。(信頼関係が不安を取り除く、ということだろうと僕は解釈しましたが…。)個別の薬に関してですが、セロトニンと神経症との関係が取りざたされて、抗うつ薬、特に副作用も少ないSSRI(選択的セトロニン取り込み阻害薬、selective serotonin reuptake inhibitor)がよく使われるようです。また抗不安薬(ベンゾジアゼピン)もよく用いられますが、耐性を形成しやすいこと、相互作用を起こしやすいことに注意が必要です。
 精神療法について。前述の通り、支持療法は適応が広く、かつ有効です。悩みを聞いてあげるだけでも患者の負担を軽くする支持療法となります。系統的精神療法は支持療法に加える形で用います。具体的には精神分析療法(問題点を洞察し乗り越える方法を探る。)、森田療法(不安・恐怖をあるがままに受け入れる。)、行動療法(小さな刺激から少しずつ慣れていく系統的脱感作法など。)が挙げられます。また、根治を目指す上では精神療法をメインに、薬物療法を補助に使います。これは、「薬で回復した。」と思うと再発した際に乗り越える自信がつかないからです。

6月15日 アルコール・薬物関連障害(黒木先生)
<総論>
 まず用語の整理をしておきましょう。依存にはそれをやめると離脱症状(=禁断症状)が生じるためにやめられない、という身体依存と、その薬物が欲しくてたまらず、悪いと分かっていてもやめられない、という精神依存があります。また、乱用はルールに反して使用する、ということです。耐性とは、使用を繰り返すうちに同じ効果を得るために使用される薬物の量が増えることで、受容体のdown regulationがその機序とされています。
 麻薬という言葉の定義にも微妙な問題があるそうです。通常(一般的に)麻薬、というと「少量で著しい鎮静、麻酔作用を持つもの」の総称です。アヘンやその成分であるモルヒネを指します。しかし、麻薬取締法(1990年、改正により麻薬および向精神薬取締法となった)の定めるところによると、コカインやLSDなども含む、より大きな概念となっています。(広義の依存性物質=法律用語としての麻薬)
 依存性の障害を引き起こす可能性のある物質がプリントの最初に列挙されています。これらの物質の多くは報酬系と呼ばれる部位のドパミン系を刺激し、快感をもたらします。
<アルコール関連障害>
 血中濃度と酩酊の程度が比較されていますが、ここでは泥酔状態では呼吸抑制により呼吸困難になり、窒息する危険がある、ということを覚えておいてください。
 酩酊にも種類があり、普通の酔っぱらいは単純酩酊です。これに対する異常酩酊には複雑酩酊(いわゆる酒乱)と病的酩酊があります。通常の酔いでは興奮しても、寝て起きればその興奮性は失われていますが、激しい興奮が長時間持続する複雑酩酊では起きてもなお興奮が続きます。また、質的な異常が見られ、言動が周りの状況から見て了解不能になる病的酩酊の有無は、刑事責任を問えるか、に影響します。
 アルコール依存は、飲酒をやめねば、という抑制を強迫的な飲酒に対する欲求が凌駕した状態、ともいえます。「会社に行けなくなる」、「周囲にも悪い」など負の面を認識してもやめることができません。(=「負の強化」への抵抗)こうなると連続飲酒発作がおき、飲んでは寝て、起きては飲んで、を延々と繰り返す山型飲酒サイクルに入ってしまいます。またこのような人には、しばしば他の依存傾向(浪費など)も見られます。
 このような状態から断酒をすると離脱症状が現れます。痙攣や振戦などですが、振戦せん妄と呼ばれる意識障害が有名です。プリントの用語を説明しておくと、小動物幻視は虫などがたくさん見える、という幻視で、しばしば自分の体を這いまわるように感じるため払いのけるような動作が見られます。情景的幻視は、実際にはあり得ない情景がありありと浮かぶ、というものだそうです。(例:自分のいる狭い部屋の中に黒い鳥が何万羽も…)Liepmann現象は、まぶたを閉じて暗示をかけると、その通りの幻視が容易に出現する現象、職業せん妄は職業上慣れ親しんだ動作を繰り返すことです。対処法はプリントにあるとおりなので省略します。
 アルコールによる精神障害は他にも様々ですが、ビタミンB1が欠乏しやすいことから、Wernicke脳症、Korsakoff症候群が起こることがあります。これらは同一疾患が異なる症状を呈したものと考えられており、合併も多く見られます。なおKorsakoff症候群では記銘以外の知的能力は正常なのでまことしやかな作話が聞かれます。
 アルコール依存の治療ですが、これもプリントを見てください。嫌酒薬はアセトアルデヒドの分解酵素を阻害するので、飲酒するとアセトアルデヒドがたまり、すぐに悪酔い状態になる、というものです。抗不安薬とともに薬物療法に用いられますが、薬物だけで治ることは稀だそうです。集団精神療法は同じ境遇の人たちが集まって自分のことを語る、というものです。先生は、「底つき体験」がないうち(「自分でやめられる」と思っているうち)はまだ甘く、「全て失ってしまって自分自身の力では立ち直れない」と思うようになって初めて立ち直れる。ともおっしゃっていました。
 アルコール依存は社会問題としての性格も持ちます。アメリカではアルコール依存の親を見て、「私は決してあんなにはならない。」と誓って育った子供の多くが、大人になってアルコールに苦しんでいる。という報告がなされているためです。(遺伝性の指摘もこのような背景によります。)このように世代に渡って問題を残すため、Sociopathy(社会病)とも呼ばれるそうです。
<覚醒剤>
 終戦直後、陸軍が戦意高揚目的に備蓄していた覚醒剤が流出して第一次乱用期となりました。その後外国からの密輸入(北朝鮮は外貨獲得のため国家的に行っている?)の増加などを背景に第二次乱用期となり、現在の第三期では低年齢化も問題にされています。
 覚醒剤の代表はアンフェタミンです。これはドーパミン、エピネフリンを放出させることによって交感神経を刺激します。これを常用すると幻覚、妄想を呈するようになり、妄想型統合失調症との鑑別が困難になります。(対人関係が比較的保たれていることが症状からみた鑑別点です。)さらに症状が進むと無気力で荒廃した人格を示すようになり(=動因喪失症候群)、ここに至るともうどうにもなりません。

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