組織学総論 平成14年度

平成14年5月25日実施。試験時間は120分。
解答用紙は問題と同じ用紙、B4が1枚。

80点満点
10〜19点 2名
20〜29名 4名
30〜39点 6名
40〜49点 26名
50〜59点 23名
60〜69点 26名
70〜76点 13名

1. 大型のNeuronには、Nissl小体と言われる構造が発達しているが、Neuronの構造の視点からNissl小体について論ぜよ。
Nissl小体とはNeuronの細胞質中に見られる、顆粒状や短桿状の好塩基性構造であり、粗面小胞体の集合体である。粗面小胞体はタンパク合成の場であるから、Nissl小体は神経細胞内で使われるタンパク合成に特化した構造であるといえる。
大型のNeuronでは軸索が発達し、長大になるが、軸索突起の起始部は起始円錐と呼ばれ、Nissl小体が存在しない。これは軸索とその起始部ではタンパク合成が盛んでないことを意味している。しかし、軸索には軸索流(axonal flow)と呼ばれる、神経伝達物質などが輸送される流れが存在し、kinesin(順行性軸索流)やdynein(逆行性軸索流)といったタンパク質がモータータンパクとして働く。以上のように考えると、kinesinやdyneinといったモータータンパクや、その他のタンパク質を大量に合成しなければならないために、大型のNeuronにNissl小体が発達するのであろうと考えられる。

2. 上記のNissl小体に類似する構造が見られる血球由来の細胞を一つあげ、@その異同と、Aこの細胞の由来、機能について述べよ。
@この血球由来の細胞とはNeuronと同じように豊富な粗面小胞体を持つ形質細胞(plasma cell)である。いずれの細胞質にも粗面小胞体が充満しており、そのために細胞質が好塩基性を示すことや、粗面小胞体でタンパク合成が盛んに行われている、といった共通点がある。
しかし、Neuronは神経組織、plasma cellは結合組織を構成する細胞であるので相違点は多い。まず、粗面小胞体で産生されるタンパク質であるが、免疫を司るplasma cellが抗体グロブリンを中心とするのに対し、Neuronは1.で述べたようにkinesinやdyneinなどが中心である。また形態的にも、Neuronの核はplasma cellのように車軸状を呈さないし、plasma cellが丸みのある細胞であるのに対し、Neuronは多数の突起(樹状突起、軸索突起)を持っている。さらに、組織が異なるために、当然存在する場所にも大きな違いが見られる。
A形質細胞の起源は多能性骨髄幹細胞であり、リンパ芽球、Bリンパ球を経て、抗原刺激によって形質細胞に変化する。この細胞は抗体を産生し、体液性免疫を行うことを主な機能としている。

3. Proteoglycanの機能について、構造的な観点から述べよ。
Proteoglycanは細胞間物質の構成成分の1つであり、多数のグリコサミノグリカン(GAGs)が一本のコアタンパクに結合したものをさす。プロテオグリカンはさらに、ヒアルロン酸に付着し、さらに大きな複合体を形成する。
グリコサミノグリカンは顕著な硫酸化のために強い親水性を示し、溶液中では広がった構造をとる。このグリコサミノグリカンの性質のために、プロテオグリカンは溶液中で巨大な容積を占め、分子中に多くの水分子を保持する。この水分のために、グリコサミノグリカンを多く含む軟骨などには独特の質感があり、クッションの役割を果たす。
(付)また、グリコサミノグリカン(とりわけヘパラン硫酸、ヘパリン)はいくつもの成長因子や重要な機能タンパクとの相互作用を示すことが最近注目されている。この相互作用はこれらのタンパクの機能調節にとって重要である。

4. 上皮細胞の特徴を記し、それと密接な関わりを持つ細胞外構造を挙げてその機能について述べよ。
上皮細胞は極性を持ち、中間径フィラメントをサイトケラチンで形成する細胞で、細胞間の結合が発達している。
細胞間質に極めて乏しく、そのため細胞外の構造もあまり見られないのが上皮組織の特徴でもあるが、この組織の細胞は必ずヘミデスモソームによって基底膜に付着し、これを介して結合組織と接する。そのため、基底膜は上皮細胞にとって、密接な関わりを持つ細胞外構造体といえるであろう。基底膜は上皮細胞の基底の細胞膜に沿って、これとわずかな間隔を隔てて広がるほぼ均質な層である。
基底膜は、@上皮組織の裏打ち、A上皮と上皮下の結合組織との遮断、B上皮と結合組織の間の物質交流フィルターとしての役目、C損傷した上皮の再生や、胎生期における上皮細胞の分化を誘導する役目、D細胞移動の道路としての役目などを果たしている。
細胞間結合を細胞外構造と考えるならその説明も。これについては省略。

5. 組織は4つに大別されるが、そのことの妥当性について述べよ。
4つの組織の機能・特徴について考えてみたい。
上皮組織は体表、管腔、体腔などの表面を   覆う組織であり、細胞間質がごくわずかしか存在しない、血管がない、基底膜を介して結合組織と接する、などの特徴を持つ。
結合組織は全て間葉組織に由来し、全身の多くの組織や器官を構造、代謝の点で支持している。また、線維に富む細胞間質が非常に豊富である。
筋組織は収縮運動を目的とする細胞が集まった組織で運動に関わる。
神経組織は感覚器と効果器を機能的に連結する役目を持つ組織であり、大部分は外胚葉に由来する。
このように見ていくと、以上の4つの組織はそれぞれに特化した組織であり、その分類は妥当なものであると考えられる。また、細胞内の中間径フィラメントの主成分であるタンパク質にも、4大組織間の差異が表れている。血管平滑筋にヴィメンチンが多く含まれる、などの例外は見られるものの、上皮組織ではケラチンが、筋組織ではデスミンが、神経細胞ではニューロフィラメント、神経膠細胞の多くではグリア線維性酸性タンパクが、多くの間葉由来の組織(すなわち結合組織の多く)ではヴィメンチンがそれぞれ主成分となっているからである。
一方で、同じ結合組織には血球も、骨組織、軟骨組織も含まれているが、血球は体内を循環して組織の栄養に役割を果たすのに対し、骨組織、軟骨組織は構造的な支持がその役目の中心である。このように機能的に非常に多岐にわたる結合組織、という分類は、再考の余地を残していると言えるであろう。

6. 顕微鏡の性能を表す指標について述べ、その限界について最近の機器の例を挙げて記せ。
顕微鏡の性能を表すためには分解能という値が用いられる。分解能とは2点を2点として識別しうる限界の距離のことである。顕微鏡の分解能をR、波長をλ、開口数をNAとすると、R=0.61λ/NAと表せる。(Abbeの式)開口数とは光学系の明るさ及び分解能を表す量で、媒質の屈折率をμとすると、NA=μsin(θ/2)である。
顕微鏡の分解能を向上させるためには、NAを大きくするか、λを小さくすればよい。光学顕微鏡においては、NAを大きくするため、油浸レンズを用いることでμを上げたり、対物レンズの入射光を大きくしてθを上げたりするといった方法がとられた。またλを小さくするため、波長の短い紫外線が用いられた。しかし、それでもせいぜい200nmが限界である。(光学顕微鏡の限界)
分解能をさらに高めるために、波長が可視光の約1万分の1の電子線を用いる電子顕微鏡が開発された。電子線の波長は12,2/√V(Å)なので、加速電圧を上げれば上げるほど波長は短くでき、分解能を高められる。これを用いれば、分解能は約2.8nmとなる。
最近では、500〜3000キロボルトの超高圧電子顕微鏡が完成し、生きた細菌をそのままで観察したり、1μm以上の厚い切片を観察したりすることができるようになっている。

7. 骨格の発達、伸長の過程について記せ。
長管骨の長さの成長は骨端軟骨において、軟骨細胞及び基質の新生、変性、吸収、骨組織による置換という一連の現象によって起こる。(この骨端軟骨は思春期を迎えて下垂体前葉ホルモン(成長ホルモン)の分泌が低下すると骨組織で完全に置き換えられてしまう。)
骨の太さの成長は骨膜によってなされる。骨膜の形成層の骨芽細胞が骨質を付加していく。一方、骨の内側(髄腔側)では破骨細胞が働いて髄腔を広げ、緻密層が厚くなりすぎないように、形の取り直しを行う。
短骨、不規則形骨、頭蓋冠の扁平骨には骨端軟骨はないため、以上に述べた長管骨の成長の後半と同様の成長のみが起こる。

8. 血球の塗末標本において、標本中に見られる構造を図示し、見られる頻度を記せ。
  cf:H.12の3

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