少人数ゼミナール

「数理社会学」について。何度かのレポートで評価。以下はそのうち「マルコフ連鎖」についてのもの。

 まずマルコフ連鎖の定義から調べてみました。マルコフ連鎖は、「単位時間ごとに状態が変わっていく現象のうちで、時刻nのときに例えばE-kという状態をとる確立は、すぐ前の時刻n−1のときどの状態にあったかわかれば決定されて、n−1時刻より以前の時刻にどんな状態にあったかには関係しないような確率現象。」とあります。(『世界大百科事典』平凡社より)

 教科書にあげられているものと似通っていますが、例をあげて具体的にみていきましょう。今、ある国に2つの政党しかないとします。「民自党」と「革新連合」です。この国では毎月世論調査が行われ、両党の支持率が調査されます。そして、この国の政党支持率の変動にはある規則があることが発見されました。すなわち、「民自党」支持者のうちの3パーセントは翌月「革新連合」の支持に転じ、「革新連合」の支持者のうち2パーセントは翌月「民自党」の支持に転ずるのです。これを行列の形に整理すると、この例における推移確率行列が出来上がります。推移確率行列とは、ある状態の次の状態を予測する行列ということになります。            

  次回の支持政党
民自 革新
今回支持した政党 民自党 0.97 0.03
革新連合 0.02 0.98

 この正方行列にある月の各党の支持率を示すベクトルをかけ合わせれば、その翌月の各党の支持率を予想できるのです。

(例) 民自 革新     0.97 0.03     民自 革新
    0.60 0.40  ×  0.02 0.98  =  0.58 0.42

 ここでは、来月の各党の支持率を決定するのは、今月の各党の支持率および推移確率行列だけであるということが重要です。すなわち、先月の支持率がわかっている必要はないし、それが来月の支持率に直接影響を与えるということもないのです。

 では、今月の支持率が明らかになったとして、2ヶ月先や3ヶ月先、さらには1年先の支持率を予想することはできるのでしょうか。今月の支持率がわかれば来月の支持率は予想できるので、当然予想された来月の支持率を用いれば2ヶ月先、3ヶ月先の予想も立つはずです。

 来月の支持率を予想するためには、今月の支持率ベクトルと推移確率行列をかけ合わせればよく、2ヶ月先の支持率予想にはそれにさらにもう一度推移確率行列をかけ合わせればよい…。と続いていきます。すなわち、ある基準となる月の支持率がわかったとき、

(ある月の支持率ベクトル)×(推移確率行列のn乗)=(nヶ月後の予想支持率)

 となるのです。

  ここで、推移確率行列のn乗を、nを大きくしながら計算していってみましょう。

 n=64のとき

0.4217 0.5783
0.3844 0.6156

 n=256のとき

0.3993 0.6007
0.3993 0.6007

 以上の計算は少数第4位で丸めてありますので、多少正確さに欠けますが、徐々に上下の数値が近づいていくことがよくわかるかと思います。このことがどういうことを意味するのか、一般的な支持率ベクトルをかけ合わせることによって見てみましょう。

(例) 民自 革新    0.3993 0.6007     民自       革新
     a   b   ×  0.3993 0.6007 = 0.3993(a+b) 0.6007(a+b)

 ここで、a+b=1ですから、これは、最初の支持率ベクトルがどんなものであるかにかかわらず、長い期間がたつと民自等の支持率が約40パーセント、革新連合の支持率が約60パーセントになるということを示しているのです。

 しかし、長い期間が過ぎたあとに各政党の支持率がどのような水準に落ち着くか調べたいとき、以上のようにnの値を大きくして、行列計算をする必要はありません。推移確率行列をもう一度かけても変化が起こらない行列を調べたいのだから、以下のような立式を行って、x、yを求めればよいのです。
          0.97 0.03 
  x y  ×  0.02 0.98  =  x y  (ただしx+y=1)

 またこれとは多少異なる考え方でも求められます。「支持率が落ち着く」とはいっても、誰もが支持政党を変えなくなるというわけではなく、民自党支持者が革新連合支持に転じる人数と、革新連合支持者が民自党支持に転じる人数とが一致することを意味しているということに着目するのです。式で表すと以下のようになります。

 (民自党支持者の割合 x) × (革新連合支持に転じる割合 0.03)
  = (革新連合支持者の割合 y) × (民自党支持に転じる割合 0.02)

 ただし、上の計算と同じくx+y=1です。以上2つの方法を用いて計算すると、(x,y)=(0.40,0.60)という結果が得られます。

 さて、少し本題からはそれるかもしれませんが、一定の値に近づいていくまでに要する期間の長短がどのようにして決まるのかも考えてみたいと思います。直観的には、ある期間と次の期間との間で移動する人の数が多ければ、早く均衡状態に達するのではないかと考えられます。そこで、それが本当かどうか確かめてみます。

民自
革新
民自党
0.70
0.30
革新連合
0.20
0.80

 以上の推移確率行列を、これまでの例と比較するために考えてみましょう。

 n=8のとき  0.4023 0.5977   n=16  0.4000 0.6000
          0.3984 0.6016         0.4000 0.6000

 このように、これまでの例と比べるとずっと短い期間で均衡状態に向かうことがわかります。これによって、移動する人の(移動しない人に対する)割合が均衡状態に達するまでの期間を左右しているということがわかると思います。

 以上のようなモデルでは、すべての支持者が支持政党を変更する可能性があるものとして予想が行われます。しかしながら、現実には決して支持政党を変えない人(民自党員であったり、革新連合党員であったりいろいろでしょうが)もいます。そのような人が各党にどの程度いるかを調べることによって、より現実に近いモデルを作ることができます。

 ここでは、はじめ民自党を支持していた人の30パーセントと,はじめ革新連合を支持していた人の10パーセントがそのような人々に該当するとしましょう。すると、推移確率行列を適用し,掛け合わせる対象は,当然それらの人数を除いた残りの人々、式によれば以下のような割合の人々になります。

支持を変えない人     民自 革新      0.30    0       民自 革新
                0.60 0.40  ×    0    0.10   =  0.18 0.04

支持変更の可能性がある人 民自 革新     1−0.30   0       民自 革新
                  0.60 0.40  ×    0   1−0.10  =  0.42 0.36

 下段で求めたベクトルに,推移確率行列のn乗を掛け合わせ,それに上段で求めたベクトルを加えることによって,nか月後の両党の支持率予想が立てられます。ちなみにこの場合、最終的な支持率は,民自党49.2パーセント、革新連合50.8パーセントに落ち着くであろうと予想されます。

 これまで、ひとつの例をもとにしてマルコフ連鎖と推移確率行率についてみてきましたが、これにはさまざまな応用可能性があると思われます。(第6章に登場する名物教授の試験問題予想や第7章の階級間移動予想などのように)しかし、問題点も考えられます。例えば、予測を行う期間中に状況の変化が起こると、推移確率行列が変わってしまう恐れがあります。(例:支持率低下に歯止めをかけたい民自党が総裁選を実施し、M総裁に代わってK新総裁を選出したところ、民自党から革新連合に支持を変える人はわずかとなり、革新連合を支持していた人が民自党に支持を変える割合は上昇した、など。)

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