細菌学 平成13年度本試験

戸田新細菌学のページ数は第32版より

1. 次の用語を簡単に説明せよ

1) H、O、K、M抗原 戸田新p545〜 (M抗原はおまけです)

H抗原:鞭毛の抗原である。タンパク質flagellinの重合体である。
O抗原:菌体に由来する抗原である。細胞壁外膜のリポ多糖(LPS)の多糖部分が抗原になっている。コロニーにはR型とS型がある。
K抗原:莢膜の抗原で、O抗原をおおっている。酸性の多糖で陰性に荷電しており、親水性である。
M抗原:ムコイド株の有する表現抗原で酸性多糖からなる。

2) 条件致死変異 戸田新p127

ある一定の条件下では、分裂・増殖が可能であるが、異なる条件下では致死的になるという変異をいう。
温度感受性変異とサプレッサー感受性変異(ナンセンス変異)がある。


3) Hfr 戸田新p128

High frequency of recombination 高頻度組換え型のこと。Fプラスミドには他のDNAとの組換えを起こしやすい特別の領域があり、この部分で宿主染色体に組み込まれる場合がある。このような大腸菌は染色体遺伝子を高率に伝達することが可能であり、Hfrと呼ばれる。


4) DNAの制限と切断  −問題の意味が分かりませんね!−

多くの細菌は侵入してきた自己と異なるDNAを切断するエンドヌクレアーゼを有しており、異なる菌や菌株からのDNAはこの酵素(制限酵素)により分解を受けることを制限という。

2. 1) グラム染色の際に使用する液を、6つの中から使う順番に4つに選んで並べよ 戸田新p34

A. ルゴール液  B. アルコール  C. メチレン青  D. Pfeiffer液  E. ハッカー液  F. 5%フェノール


答え: E. ハッカー液 → A. ルゴール液 → B. アルコール → D. Pfeiffer液

2) グラム陽性に染まる菌を全て選べ

1. Corynebacterium diphtheriae 
2. Staphylococcus aureus
3. Pseudomonas aeruginosa 
4. Streptococcus pneumoniae
5. Klebsiella pneumoniae 
6. Neisseria gonorrhoeae


答え: 1. ジフテリア菌        2. 黄色ブドウ球菌        4. 肺炎レンサ球菌


3.コレラ毒素及びコレラの臨床症状と治療方法について簡単に述べよ 戸田新p575
1) コレラ毒素

毒素は1分子のA1フラグメントと5分子のBサブユニットがA2フラグメントを介して結合している。粘膜上皮細胞のレセプターにサブユニットBで結合すると、A1フラグメントが膜に侵入し、アデニル酸シクラーゼを活性化する。これによりcAMP濃度が上昇し、膜イオン透過性が変化し、細胞内より水が大量に流出して下痢となる。(Gs蛋白質をADPリボシル化)

2) 臨床症状

水溶性下痢(米のとぎ汁様)、嘔吐など。

(以下は参考までに : 通常1日以内の潜伏期の後、下痢を主症状として発症する。一般に軽症の場合には軟便の場合が多く、下痢が起こっても回数が1日数回程度で、下痢便の量も1日1リットル以下である。しかし重症の場合には、腹部の不快感と不安感に続いて、突然下痢と嘔吐が始まり、ショックに陥る。下痢便の性状は"米のとぎ汁様(rice water stool)"と形容され、白色ないし灰白色の水様便で、多少の粘液が混じり、特有の甘くて生臭い臭いがある。下痢便の量は1日10リットルないし数十リットルに及ぶことがあり、病期中の下痢便の総量が体重の2 倍になることも珍しくない。
 大量の下痢便の排泄に伴い高度の脱水状態となり、収縮期血圧の下降、皮膚の乾燥と弾力の消失、意識消失、嗄声あるいは失声、乏尿または無尿などの症状が現れる。低カリウム血症による痙攣が認められることもある。この時期の特徴として、眼が落ち込み頬がくぼむいわゆる"コレラ顔貌"を呈し、指先の皮膚にしわが寄る"洗濯婦の手(washwoman's hand)"、腹壁の皮膚をつまみ上げると元にもどらない"スキン・テンティング(skin tenting)"などが認められる。通常発熱と腹痛は伴わない。)

3) 治療方法

対症療法が中心で、経静脈補液とともに経口補液を行えば、いずれコレラ菌が体外に排出される。

(以下は参考までに:大量に喪失した水分と電解質の補給が中心で、GES (glucose‐electrolytes‐ solution)の経口投与や静脈内点滴注入を行う。WHOは塩化ナトリウム3.5g 、塩化カリウム1.5g 、グルコース20g 、重炭酸ナトリウム2.5 g を1 リットルの水に溶かした経口輸液(Oral Rehydration Solution, ORS)の投与を推奨している。ORS の投与は特に開発途上国の現場では、滅菌不要、大量に運搬可能、安価などの利点が多く、しかも治療効果も良く極めて有効な治療法である。
 重症患者の場合には抗生物質の使用が推奨されている。その利点として、下痢の期間の短縮や菌の排泄期間が短くなることがあげられる。第一選択薬としては、ニューキノロン系薬剤、テトラサイクリンやドキシサイクリンがある。もし菌がこれらの薬剤に耐性の場合には、エリスロマイシン、トリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤やノルフロキサシンなどが有効である。
 予防としては、流行地で生水、生食品を喫食しないことが肝要である。経口ワクチンの開発が試みられているが、現在のところ実用化されていない。)


4.小児科に、爆発性・連続性の咳と吹笛様吸気を見せる子供が母親と来院していた。 痰を吐くと咳がおさまり症状が回復した。 戸田新p521

1) この症状から考えられる病名と病原菌を述べよ

百日咳、百日咳菌(Bordetella pertussis)

2) この菌の形態・性状および病原因子について知っていることを述べよ

グラム陰性好気性桿菌で、糖を発酵しない細胞内のGi蛋白質をADPリボシル化することによりアデニル酸シクラーゼを活性化し続け、cAMP量を増加させる。また、ヒスタミンに対する感受性を亢進させる。

3) 投与すべき抗生剤を述べよ

第1次選択剤としてエリスロマイシン(マクロライド系)、第2次選択剤としてST合剤が使われる。(ST合剤については戸田新p162を参照)

4) この菌の予防方法について述べよ

百日咳は1−5歳の乳幼児での羅患率が非常に高いために,生後3〜48ヶ月までに百日咳ワクチンを接種することにより予防できる。ワクチンは、百日咳毒素(PT)と菌体表面にある繊維状赤血球凝集素(FHA)によってできている百日咳成分ワクチン(コンポーネントワクチン)が使用されている。このワクチンは通常ジフテリアトキソイド,破傷風トキソイドとともに3種混合ワクチンとして使用され,間隔をあけて3回行う。


5.腸管出血性大腸菌について 戸田新p552
1) 腸管上皮細胞への定着方式を説明せよ

attaching and effacing lesion を形成して定着する。まず、束形成線毛によるゆるい接着をしたのち、type3 secretion systemによりエフェクター分子を送り込み上皮の微繊毛を消失させ、台座を形成して、菌体表面に発現するintiminにより強い接着を起こす。(戸田新p550)

2) ベロ毒素の細胞レベルでのメカニズムを説明せよ (戸田新にはあまり載っていませんね)

ベロ毒素は志賀赤痢菌の産生する毒素とほぼ同一もしくは類似している。毒素の略称もVTおよびStxがある。(以下Stxを使用する。)
StxにはStx 1 (VT 1)及びStx 2 (VT 2)の2種がある。Stx 1は志賀毒素とほぼ同一であるが、Stx 2はかなり異なっており、共通抗原性はほぼない。ただし、両方の毒素の蛋白立体構造・作用機序はほとんど同じである。Stxの毒素本体(ホロ毒素)は1個のAサブユニットと5個のBサブユニットから構成されており、Aが毒性を、Bが細胞付着機能を持つ。
Stxの作用機序は蛋白合成阻害作用である。まず、Bサブユニットが細胞表面のスフィンゴ糖脂質であるGb3 (globotriaosylceramide) に結合し、毒素全体が細胞内に取り込まれる。その後、種々の過程を経て、Aサブユニットが遊離し、リボソームに結合し、RNA N-グルコシダーゼ活性により28S リボソームRNAの特定のアデニンを加水分解し、遊離させる。これによりアミノアシル tRNAがリボソームに結合できなくなり、蛋白合成が阻害されて細胞は死に至る。

3) 臨床症状

一定の潜伏期の後、下痢、吐き気、嘔吐、 腹痛などの症状で始まる。(悪寒、発熱さらに上気道感染症状を伴うなどの症状で始まることもある。)やがて鮮血様の血便が出て、少し遅れて溶血性尿毒症症候群 (HUS)や血栓性血小板減少性紫斑病、さらに痙攣や意識障害など、脳症を呈する例も、死に至ることもある。


6.レジオネラについて答えよ 03年5月12日の授業より 戸田新p508 
1) 自然状態での生息場所

湿った土壌や水系の環境中(河川、沼、真水、湖など、ただし海水にはいない)、シャワー水中、空調冷却塔水、給水給湯設備内などに生息する。

2) ヒトに対する感染経路と病原性

散布されたエアロゾル、加湿器、温泉、24時間風呂、渦流浴などが感染源となる。レジオネラ肺炎、ポンチアック病などを生じさせる。

3) 治療で注意する点

細胞内寄生菌であるため、細胞内移行の良い薬剤のみが有効である。その条件を満たすマクロライド系アジスロマシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシンやニューキノロン系の薬剤を使用する。


7. 以下について簡単に述べよ
1) 化学療法剤の選択毒性 戸田新p138

ある薬剤の微細物に対する障害作用が、宿主に対するそれに比較して大きいことをいい、化学療法の中心をなす概念である。

2) バイオフィルム 戸田新p167

水中に生息する細菌は、水中を泳ぎ回っている状態と、固体表面や水面に自分たちの棲み家として、多糖体の膜を作って生活している状態がある。菌体と菌体外多糖体からなるこの膜をバイオフィルムという。補体による殺菌や食細胞の貪食からのエスケープのみならず、菌の定着にも役立っている。

3) Quorum sensing 戸田新p169

細菌が、周囲の仲間がどれくらいの密度で存在しているかを知ること。簡単には細胞密度依存的遺伝子発現制御系と言い換えられる。

4) 真菌の二形性 戸田新p308

真菌が特定の環境条件の下で、酵母形と菌糸形の間で形態変換を行うこと。(感染組織内では酵母形、培養では菌糸形となる。)


8. ツツガムシ病の病原体とその生態について述べよ 03年6月17日の授業より 戸田新p703

リケッチア Orientia tsutsugamushi

ツツガムシはリザーバーとベクターを兼ねている。リケッチアは経卵垂直伝播によって次の世代へ伝えられ、卵→幼虫(アシ3対)→若虫(アシ4対)→成虫(アシ4対)というサイクルを通して保有される。ツツガムシは卵からかえった幼虫の時期に1度だけ地上に出て、哺乳類である宿主を刺し、自らの唾液を注入しては宿主の体液を吸引する。この時、宿主体内にリケッチアが入る。ツツガムシはその後再び地中に戻り2回の脱皮ののち、晴れて成虫となる。ツツガムシは一生の大半を地中で過ごす。


9.Clostridium属の中でヒトに対して病原性の強いものを4つ挙げ(学名、和名でもよい)、その病原性について説明せよ 戸田新p612

破傷風菌 Clostridium tetani
破傷風毒による破傷風を起こす。自然感染ではヒトとウマに病原性を示す。運動神経系の活動を亢進させることにより、骨格筋の強直性痙攣を引き起こす。

ボツリヌス菌 Clostridium botulinum
ボツリヌス毒素によるボツリヌス中毒は生命に危険のある食中毒である。神経筋接合部に作用し、アセチルコリンの遊離を抑制することによって筋肉の麻痺が表れる。重症では呼吸麻痺で死にいたる。まれではあるが、創傷性ボツリヌス症もある。(生理学テキスト第3版p64)

ウェルシュ菌 Clostridium welchii
菌からの毒素により、健常筋組織壊死巣が広がりガス壊疽がおこる。また、ウェルシュ菌食中毒も起こる。

ディフィシレ菌 Clostridium difficile
抗生物質投与により大腸細菌叢が乱されることにより、大腸粘膜の潰瘍や、偽膜性大腸炎を起こす。

10.稲田龍吉先生の業績について述べよ

ワイル病病原体を発見・培養に成功し、黄疸出血性レプトスピラとした。(ちなみに九州大学第一内科初代教授で、東大出身。馬出キャンパス内に稲田通りがある。)

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