細菌学実習レポート 第2回
(化学療法剤の作用と薬剤感受性テスト)

実施日 平成15年4月21日(月)、25(金)

1. 目的
 化学療法剤と菌種の違いによる感受性の相違を理解する。

2. 方法(ディスク拡散法による感受性試験)
(1) 一晩培養した4種類の未希釈菌液(Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)のMRSA株、MSSA株、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、Escherichia coli(大腸菌)の臨床分離株)をパスツールピペットで数滴普通寒天培地上に滴下し、コンラジ棒で均一に塗り広げた。
(2) 培地表面が乾燥するのを待ち、3種類の薬剤のディスク(GM(ゲンタミシン)10μg、MPI(オキサシリン)1μg、TC(テトラサイクリン)30g)を等間隔で、薬剤を含ませてある濾紙の部分が寒天表面に接するように、ピンセットを用いて菌液を塗布した普通寒天培地上に置き、ピンセットで軽く上から押さえた。
(3) 37℃で培養後、ディスクの周りの発育阻止斑の有無、大きさ(直径)により、感受性を判定した。

3. 結果

  MRSA MSSA Pseudomonas aeruginosa Escherichia coli
GM ++(20mm) ++(29mm) ++(34mm) ++(27mm)
MPI −( 0mm) ++(30mm) −( 0mm) −( 0mm)
TC −( 0mm) ++(33mm) ++(28mm) −(13mm)

※ 判定基準については以下の通り。耐性を−、中間を+、感受性を++と表記した。

  耐性 中間 感受性
GM ≦12 13〜14 ≧15
MPI ≦10 11〜12 ≧13
TC ≦14 15〜16 ≧17

4. 考察
 今回用いた菌、薬剤の組み合わせでは、ゲンタミシンが最も顕著な効果をあげた、といえる。また、オキサシリンに対しては、MSSAを除く全ての菌が耐性を持っていた。

5. 設問
(1) 病原菌の薬剤に対する感受性を今回のような方法で試験することの意義を考えよ。
(菌を分離、培養し、感受性のテストをするのにある程度時間がかかるため、実行可能かどうかはわからないが)事前に細菌感染者から細菌を分離できれば、その菌の薬剤感受性を調べることにより、最も効果的な薬剤を用いることが可能である。抗生物質の乱用(使用過多)がMRSAなどの薬剤耐性菌の出現を助長したことを考えても、これは非常に大きな意義を持つと思われる。

(2) 使用した抗生物質の作用機序とそれに対する細菌の耐性獲得の機序を述べよ。
ゲンタミシン…アミノグリコシド系抗生物質。tRNAのA位よりP位への転移を阻止する、タンパク合成阻害薬である。耐性の機構としては、Rプラスミドによって産生される酵素による薬剤の修飾が重要である。この不活性化反応は、アミノ酸配糖体側鎖の酵素感受性OH基のリン酸化、アデニリル化または、側鎖 基のアセチル化による。また、突然変異により、作用点や薬剤透過性が変化することもある。
オキサシリン…メチシリンと類似効果を持つ、ペニシリナーゼ抵抗性ペニシリンの一種である。細胞壁でグリカン鎖の重合とペプチド相互間の結合が行われるのを阻害する。(細胞壁合成阻害剤)
 耐性の機構にはグラム陰性菌の外膜の変化による薬剤の通過性の障害がある。また、PBPの構造の変化により、薬剤への結合親和性が低下する、という耐性獲得機構も知られている。
テトラサイクリン…30Sサブユニットに結合し、ペプチド鎖伸長反応の際、リボソームのA位に次のtRNAが結合するのを阻害する(タンパク質合成阻害)静菌剤である。耐性獲得機構はゲンタミシンの項でも述べたRプラスミドによるものが多いが、突然変異による場合は、薬剤が菌体内に取り込まれ、作用点に達する前にくみ出されてしまうことによる。

(3) MRSAの臨床的意義を述べよ。
MRSAは、methicillin-resistant Staphylococcus aureus(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の略である。これは、β-ラクタム系抗生物質に対する親和性の低い、新しいPBP2'を獲得したことにより、広範囲のβ-ラクタム系抗生物質に対する耐性を持つ菌である。ブドウ球菌のPBPには4種類が知られているが、MRSAのPBPはPBP2よりもやや分子量が大きいため、PBP2'と呼ばれる。これは、メチシリンなどとの結合力が弱いため、これらが効かないのである。
ブドウ球菌はもともと薬剤耐性菌の生じやすい菌で、MRSAもメチシリンが投与され始めた翌年の1961年には出現した。1980年頃からこの菌による院内感染が急増し、問題となった。
現在、MRSAの治療にはバンコマイシンが使用されているが、バンコマイシンへの耐性も出現している。


参考文献
戸田新細菌学 改訂32版  南山堂(2002)

もどる

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送