細菌学実習レポート 第5回
(墨汁染色、抗酸性染色)

実施日 平成15年15年6月6日(金)、9日(月)

(墨汁染色)
1. 目的
 墨汁染色はnegative stainとも呼ばれ、背景を墨汁で黒く染めることによって、染色されない微生物その他を透かして観察する方法である。

2. 方法
(1) スライドグラスの端にパスツールピペットで少量のニグロシンをおいた。
(2) 楊枝で各自歯垢をとり、十分にニグロシンと混和した。
(3) スライドグラスを用いてストリッヒを引き、薄層の塗抹標本を作った。
(4) 自然乾燥後、油浸で検鏡した。

3. 結果
 自分の標本では見つけられなかったが、螺旋状のスピロヘータが観察された。

4. 考察
 今回観察されたスピロヘータについて。
スピロヘータはSpirochaetes(スピロヘータ網)、Spirochaetales(スピロヘータ目)に属し、細長い螺旋状で活発に運動するグラム陰性細菌群である。これはSporochataceae(スピロヘータ科、Genus Treponema(トレポネーマ属)やGenus Borrelia(ボレリア属)など9属)、Serpulinaceae(セルプリナ科、Genus Brachyspira(ブラキスピラ属)とGenus Serpulina(セルプリナ属)の2属)、Leptospiraceae(レプトスピラ科、Genus LeptonemaとGenus Leptospira(レプトスピラ属)の2属)の3つの科に分類される。
 口腔内で観察されるスピロヘータは、スピロヘータ科のトレポネーマ属やボレリア属に属する菌であると考えられる。
 スピロヘータは各属により特有な細長い螺旋状を呈し、両端は鈍円または尖鋭である。最外側のエンベロープと細胞体、鞭毛の3基本構造からなる。スピロヘータの運動器官はエンベロープの中に存在する鞭毛で、液体環境中で変位、回転、屈曲など活発な固有運動を行う。一般の細菌よりもずっと高い運動性を持ち、かなり高粘度の液体中でも運動性を失わない。
 スピロヘータによる代表的な疾患として、トレポネーマ属の梅毒トレポネーマによる梅毒、ボレリア属の回帰熱ボレリアによる回帰熱、ライム病ボレリアによるライム病がある。

(抗酸性染色)
1. 目的
 抗酸菌は普通の染色方法では染色されにくいが、加温染色、または長時間の染色によって一旦染色されると、酸によって脱色されにくい。この性質(抗酸性)を利用して抗酸菌とそれ以外の菌や細胞とを染め分ける方法が抗酸性染色である。

2. 方法(キニヨン法)
(1) MSSA(methicillin-sensitive Staphylococcus aureus、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)とBCGの混合液を塗抹、乾燥、固定されたスライドグラスを受け取った。
(2) キニヨンの石灰酸フクシン液を、濾紙を載せたスライドガラス上に数滴たらした。
(3) 5分間乾かないように適当に追加し、その後濾紙を除き、水洗した。
(4) 塩酸アルコールで1回洗い、再び塩酸アルコールをのせて1分30秒置いた。
(5) メチレンブルーで1回洗い、再びメチレンブルーをのせて1分置いた。
(6) 水洗、乾燥後検鏡した。

3. 結果
 青色に染まった球菌(MSSA)に混じって、赤色の桿菌(BCG)が観察された。

4. 考察
 抗酸性染色について。
 目的でも述べたとおりで、まず全体を染め、一度脱色することで、脱色されにくい抗酸性菌のみを染色するねらいがある。ほかにもNocardiaなどが陽性に染色される。また、抗酸性染色が陽性でも、結核菌とそれ以外の抗酸菌とは鑑別できないため、さらに遺伝子増幅法などによる菌種決定が必要となる。今回行ったキニヨン法は、最も広く行われているZiehl-Neelsen法と異なり、加温操作がないため、cold fuchsin法とも呼ばれる。
 今回用いたBCGについて。
 Bacille de Calmette et Guerinの略で、CalmetteとGuerinが230代の累代を重ねて確立した、病原性を持たない菌株である。これがワクチンとしての有効性を持つことがわかると、世界的に用いられるようになった。日本でも、結核予防法による経皮接種が行われている。
 結核菌と結核について。
 結核菌は結核菌群と呼ばれる一連の菌群の1つで、結核の病原体である。コッホにより発見され、コッホの3原則を満たした最初の菌である。また、現在でも地球上の全人口の3分の1が感染し、毎年800〜1000万人が発病、300万人が死亡している、という最重要感染症である。形態は細長い桿菌であり、脂質に富む厚い細胞壁を持つため色素が通過しにくく、染色されにくい。抵抗性も大変に強く、乾燥、高温、消毒剤にも耐えるが、日光にはかなり弱い。さらに、食細胞に貪食されても細胞の持つ殺菌作用に抵抗し、増殖できる通性細胞内寄生菌である。
 結核は飛沫感染によって感染が成立することが多い。感染すると食細胞の中で増殖し、周囲の細胞にも感染する。(細胞免疫の成立が十分なヒトであれば、ここまでに一部の結核菌がマクロファージによって処理され、抗原が提示されてTリンパ球が活性化され、抗菌免疫が成立する。)細胞免疫の成立が不十分なヒトでは、慢性の肺結核になったり、種々の臓器に病巣を作ったりする。また、感染を受けた直後には発病しなくても、10年以上後に免疫が低下すると、発病することがある。治療には化学療法剤が主に用いられているが、最近では多剤耐性菌の増加が問題化している。

参考文献
戸田新細菌学 改訂32版  南山堂(2002)

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