実施日 平成15年6月13日(金)、20日(金)
(食細胞による食菌)
1. 目的
マクロファージや好中球によるphagocytosisを観察する。
2. 方法
(1) Candida albicansを腹腔内に接種されたモルモットより、腹腔浸出細胞を採取したものを受け取った。
(2) スライドグラスに細胞を塗抹し、ストリッヒを引き、自然乾燥後すぐにシャーレに移した。
(3) ライトギムザ染色液をのせ、ふたをして1分染色後、buffer(PBS pH6.4)を加え、10分放置した。
(4) 水洗、乾燥後油浸レンズにて観察を行った。
3. 結果
好中球や好酸球、リンパ球や単球が見られた。また、好中球がカンジダを貪食している様子も見られた。
4. 考察
血球(ヒトの)について。
赤血球…肺から体組織への酸素運搬と体組織から肺への炭酸ガスの運搬を主な役割とする。
直径約8μmで普通は中央がへこんだ円盤状をしているが、柔軟性に富む。寿命は約120日。
白血球…生体防御に関与する。顆粒白血球(好中球、好酸球、好塩基球)、単球、リンパ球に分けられる。
好中球…ピンク色に染まるごく小さな顆粒(特殊顆粒)を多く持ち、少数ながらアズール顆粒も持つ。
白血球の中で最も数が多く、70%を占める。核は桿状のものや、いくつかにくびれたもの(分葉核)があり、活発な運動能と貪食能がある。
好酸球…酸性色素に赤色に染まる顆粒をたくさん持っている。通常二分葉核を持つ。アレルギー性の病気や寄生虫の存在により血中に増える。(病変部位にも増えるが)
好塩基球…塩基性色素に紫色に染まる顆粒を多く持つ。核は分葉せず馬蹄形をしていることが多い。
リンパ球…球形の核を持ち、リボソームを多量に持つために細胞質が塩基性色素で青く染まる。形態的には判別しがたいが、体液性免疫に関係したB細胞と、細胞性免疫およびB細胞の機能調節に関与するT細胞がある。
単球…顆粒球と同じもしくはやや大きい球形細胞で、卵円形ないしU字型の核を持つ。血管から滲出し、様々な組織で大食細胞に転化する。
血液成分には、他に血小板(巨核球の細胞質片、止血に関与)、血漿(有形成分を除いたもので、アルブミン、免疫グロブリンなどのタンパク質を含む。)がある。
5. 課題
(1) 好中球やマクロファージが血管から炎症部位へ浸出してくる機構は?
細菌由来のLPS(lipopolysaccharide)や微生物の刺激によって局所で産生された炎症性サイトカインであるIL-1、TNFαなどでまず血管内皮が活性化され接着因子の一つE-セクレチンが発現されると、流血中の好中球糖鎖と接着、同時に好中球表面の接着分子であるL-セクレチンは内皮の糖鎖と結合する。
白血球の滲出の第一段階は、細胞が血管内皮と接触しながら緩やかに転がるrollingと呼ばれる現象であるが、これにセクレチンによる接着が関与している。rollingは白血球を活性化し、白血球側のL-セクレチンの遊離が起こり、セクレチンによる接着は急速な抑制を受ける。セクレチンが関与する接着がピークを過ぎると、同じLPSや炎症性サイトカインの刺激により遅れて発現される接着因子であるインテグリンを介した強固な接着が起こる。好中球の強い接着には内皮細胞由来のサイトカインIL-8も関与する。白血球表面のインテグリン、VLA-4、LFA-1、Mac-1などの発現が高まる一方、内皮細胞側にはリガンドであるVCAM-1、ICAM-1などが発現され相互の接着は強固なものになる。
やがて白血球は内皮細胞の間隙から血管外に滲出するが、感染部位へ食細胞が遊走集合する上で種々の走化因子が作用する。細菌の増殖に伴い様々なペプチド成分が遊離するが、食細胞には細菌が産生する低分子ペプチドに対するレセプターがあり、細菌の増殖部位を察知することができる。また補体の活性化に伴って生成するC5aは強力な走化因子となり、感染部位を中心に形成されたC5aの濃度勾配に従って食細胞は走化集合する。以上のような食細胞の走化は防御の第一段階であると同時に、病理学的には炎症の始まりでもある。ケモカインとも呼ばれるグループのサイトカインは、走化因子活性と同時に食細胞を活性化する作用も示す。マクロファージは、好中球に対する走化因子IL-8やマクロファージ自身にも作用するMCP(macrophage
chemoattractant protein) 、MIP(macrophage inflammatory protein)を産生する。RANTESはT細胞由来の走化因子である。
食細胞が走化因子の存在する部位へ方向性をもって遊走するのは、細胞前方と後方のレセプターの走化因子による占有度の違いによって濃度勾配の方向を感知するからと考えられている。走化因子の高濃度側では、占有されたレセプターのturnoverが刺激となり、細胞質にアクチンやミオシンなどの収縮タンパクから成るミクロフィラメントの網目状構造ができ偽足を突出させて前進する。ミクロフィラメントの阻害剤であるサイトカラシンBを作用させると、食細胞の走化能も方向性のない随意運動も見られなくなる。またコルヒチンやビンブラスチンで微小管の重合を阻害すると走化能が低下するので、ケモタクシスにおける直進性には微小管も関与していると考えられる。一般に好中球の走化集合は速やかで、マクロファージは遅れて遊走する。感染性炎症の急性期には、細菌由来及び補体性の走化因子に対応した好中球の浸潤が主体となるが、慢性化すると浸潤細胞の主体はマクロファージやT細胞となる。
(2) 貪食の機序にはどのようなものがあるか?
貪食の第一段階は異物としての識別とそれに引き続く接着である。食細胞は正常自己成分を貪食することはなく、異物のみを識別する。しかしリンパ系細胞に見られる抗原特異的クローンは存在せず、異物の抗原性を認識するものではない。血清成分などが存在しない状況では、異物表面の荷電や疎水性が識別の対象となる。油滴、墨粒、ポリスチレン樹脂など全く抗原性を欠き免疫系が反応しない異物や、自己成分でも老廃細胞をマクロファージが貪食するのは、このような異物識別に基づくものである。
一方、病原微生物には、自己表層の異物性を莢膜によっておおい隠すことにより、食細胞の異物識別からエスケープするものが多い。厚い莢膜は表面の疎水性を低下させ本来の菌体表面の異物性を修飾すると考えられる。このような異物識別の対象となりにくい病原体は、集合した食細胞による殺菌を受けることなく増殖することが可能である。この種の貪食エスケープに対しては、オプソニンによる貪食促進が有効である。食細胞の表面には、補体レセプターCR1(CD35)、CR3(CD11b/CD18)に加え、IgGのFc部に特異的なFc
receptor(FcγR)が存在する。FcγRにはIgG各サブクラスへの親和性が異なる3種類のレセプターが知られている。異物表面の抗原に対する特異的IgG抗体が存在する場合や、補体が活性化され異物表層でC3bやiC3bが形成されると、食細胞はこれらのレセプターを介してIgGや補体成分をリガンドとして異物を識別することができる。異物認識接着に続いて細胞質への取り込みが開始される。食細胞の偽足状突起が連続的に接着面を広がり、ファスナーを閉じるように徐々に異物表面を覆い尽くす。最終的に辺縁部の細胞膜は融合し、異物は表裏が逆になった細胞膜におおわれた状態で食細胞の細胞質内に存在することになる。これを食胞と呼ぶ。異物を細胞膜内に閉じこめることにより、異物の毒性を食細胞の中に限局させるだけでなく、次に述べる殺菌機構を自己細胞質には傷害を与えず、標的に対してのみ発揮させることが可能になる。異物への識別接着から食胞形成に至る一連の過程が貪食作用であり、解糖系によるエネルギーに依存している。細胞膜が異物を覆い、取り込むためにはミクロフィラメントが重要で、大型の細胞性異物の取り込みには微小管も関与している。
(3) 食細胞が持つ殺菌機構にはどのようなものがあるか?
食細胞の細胞質はリソソームに富み、形態的に2種類の顆粒が見られる。1つはアズール顆粒と呼ばれ、アズール色素に染まるやや大型、球形の顆粒でペルオキシダーゼ反応が陽性である。もう一つは特殊顆粒で、やや小型で桿状ないし亜鈴状を呈し、ペルオキシダーゼ反応は陰性である。細胞質内に形成された食胞にはまず特殊顆粒が、続いてアズール顆粒が融合してファゴリソソームが形成されると、リソソーム内容物が放出される脱顆粒が見られる。貪食された微生物の大半はこの過程で発動する食細胞特有の殺菌機構(以下の表を参照)により死滅し、さらに消化処理を受け、最終的には再度ファゴリソソーム膜が食細胞膜と融合してエキソサイトーシスにより細胞外へ排出される。莢膜の存在などによって貪食されにくい菌も、オプソニンが作用して貪食されると細胞内殺菌には抵抗できない。しかし、一部の細菌や原虫には細胞内殺菌をエスケープするものがあり、通性細胞内寄生体と呼ばれ、防御には特異的T細胞応答が必要となる。
食細胞の細胞内殺菌系
酸素要求性の殺菌機構 | MPO(myeloperoxidase)に依存するもの | (superoxide anion)、(hydrogen peroxide) (hydroxyl radical)、(singlet oxygen) |
MPOに依存しないもの | MPO-H2O2-halide system | |
酸素非要求性の殺菌機構 | defensin、lysozyme cathepsin G, azurocidin, proteinase 3 BPI (bactericidal/ permeability increasing protein) |
|
活性化で誘導されるもの | iNOSによるNO (nitoric oxide) |
(マイコプラズマ)
1. 目的
口腔内に存在するMycoplasmaを分離し、弱拡大の光学顕微鏡にて培地上のコロニーの形態を観察する。
2. 方法(キニヨン法)
(1) 綿棒で歯肉をぬぐい、PPLO培地(ウマ血清、yeast extract、ペニシリンG、酢酸タリウム添加)に塗布した。
(2) 嫌気的に数日間37℃で培養した後、口腔内常在Mycoplasmaのコロニーの観察を行った。(×100)
3. 結果
中央の厚くなった目玉焼き様のコロニーが観察された。
4. 考察
PPLO培地について。
マイコプラズマのための培地である。ペニシリンGは選択性を持たせるために添加される。(ペニシリンが細胞壁を持つ細菌属を殺す。マイコプラズマは細胞壁を持たない。)
5. 課題
(1) Mycoplasma属が他の細菌属と異なるところを考察せよ。
・ 無細胞培地に生える自己増殖能のある最も小さい微生物である。G+C含有量が一般細菌よりも少なく、原生生物に近い。また、染色体は環状二本鎖DNAである。
・ 300nmの濾過性微生物で、鞭毛、線毛を欠如するが運動性のものもある。
・ 細胞壁を欠如する。(=多形性、ペニシリン非感受性)
・ 発育にコレステロールやリポタンパクを必要とする。
・ 集落が目玉焼き状である。
・ ウイルスと同様に、中和抗体でin vitroでは不活化され、発育が阻止される。
(2) Mycoplasma属の病原性について考察せよ。
・ M. pneumoniae肺炎
病原性の明確な唯一のMycoplasma属がM. pneumoniaeである。マイコプラズマ肺炎を起こす。9歳以下で好発し、高齢者はまれである。症状は発熱、咳が主であるが、病像は気管支炎、咽頭炎、鼓膜炎など多彩である。感染は水平感染で、比較的密接な接触が必要である。
・ M. pneumoniae肺炎の合併症
中枢神経障害が知られる。髄膜炎、脳炎、神経根炎、ギランバレー症候群、横断性髄膜炎、小脳失調などがある。マイコプラズマの脂質成分により抗体が産生され、それが神経組織の脂質と反応する、という自己免疫説がある。
・ 非淋菌性尿道炎など
U. urealyticumが非淋菌性尿道炎の一因であると考えられているが証拠はない。
・ エイズとの関連性
最近エイズ患者の尿から特殊なマイコプラズマが発見され、M. penetransと命名された。これは今までのマイコプラズマでは見られなかった細胞侵入性を持ち、エイズを増悪するといわれる。HIV放出、産生の引き金になっているのではないかと考えられている。
参考文献
戸田新細菌学 改訂32版 南山堂(2002)
入門組織学 南江堂(1989)
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