ウイルス学 平成11年度本試験

第1問
正誤問題。正しいものは番号を○で囲み、間違っているものは正しく直せ。
1) Influenzavirusuはreassortmentによるantigenic driftによってpanedmicな流行を起こす。→× drift→shift

2) 2本鎖RNAゲノムを持つB19の感染によって赤芽球が破壊され高度な貧血を起こす。→× B19とはパルボウイルスの株。1本鎖DNA(−)を持つ。

3) 蚊などの節足動物を媒介として伝播されるarbovirusのなかで、日本にはデングウイルスがいる。→日本には日本脳炎ウイルスがいる。

4) 妊婦がHBVのcarrierである場合、その子供がcarrierとなるのを防ぐためには産まれてすぐに抗体を投与するだけでよい。→× 抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)の投与を行い、その後HBワクチンの接種を行う

5) Herpesvirusが神経節に潜伏感染するとき、一部の遺伝子は複製や転写が活性化されている。→× ウイルスは神経細胞内では無活動で、ウイルスタンパクをほとんど産生していない→複製や転写は活性化されていない。

6) Ganciclovirはウイルス特異的なチミジンキナーゼ(TK)によって活性化されるプロドラッグであるが、TKをコードしないCMVには無効である。→× ガンシクロビルではなくアシクロビル ガンシクロビルはCMV感染に用いられ、CMVのリン酸転移酵素によって一リン酸化されるプロドラッグである。

7) プリオンの話、PrPscとPrPcではアミノ酸配列に違いがある。

8) ウイルス粒子が出芽によって形成されるのは細胞膜のみからである。

第2問
Nipah virusについて
1) このウイルスはmeasles virusやmumps virusと同じ科に属する。
このウイルスの科名を答えよ。
パラミクソウイルス科

2) この科のウイルスvirionの構造を図示せよ。(含まれるタンパクも記すこと)。
HN,H,G:赤血球凝集能、ノイラミニダーゼ活性を持つor持たない
F:膜融合活性
M:エンベロープの裏打ち
NP,L,P:RNAポリメラーゼ活性

3) この科のウイルスが細胞に侵入する様式を述べよ。
レセプターに結合し、膜融合によってRNAが侵入する。
レセプターはシアル酸(レスピロウイルス、ルブラウイルス)、CD150(モルビリウイルス)などである。(ニューモウイルスは不明)。

4) Nipah virusのように新しく出現したウイルスによってもたらされる病気のことをなんと言うか。
新興感染症

5) このように新しく出現したウイルスの例を一つ挙げよ。
シンノンブレウイルス

6) そのウイルスは何科に属するか
ブニヤウイルス

7) そのゲノムの特徴を記せ
1本鎖マイナス鎖RNA3分節

8) 実験動物(ネズミやサル)からヒトに感染するウイルスの例を一つ挙げよ。
Bウイルス

9) 野生の動物から感染するウイルスの例を一つ挙げよ。
ハンタウイルス(ねずみから感染。)

第3問
次の問いに答えよ。
1) plaque titrationの方法を述べよ。
測定しようと思うウイルス液を10倍ずつ倍数希釈し、その液をウイルスに関して感染性がある細胞にかける。1時間くらいしてウイルスが細胞の中に侵入した後、寒天を含む培養液を加え、数日間インキュベーターの中で培養する。最初にウイルスが感染した細胞の周りはCPEによって破壊され、細胞がプレートから剥がれ落ちてプラークとなり、この数を数えることによりウイルスの感染価を求めることができる。

2) ウイルスの原液を10^4倍に希釈した液を、培養細胞に10μl加えて実験したところ67個plaqueが認められた。このウイルスの感染価を求めよ。
(計算式および単位も示すこと)
67×104×102=6.7×107(pfu/ml)

3) 上の実験に用いたウイルス液を電子顕微鏡で観察し、顕微鏡下に認められたウイルス粒子の数を単位体積あたりで計算すると、plaque titrationで得られた値に比べて約20倍であった。これは何を意味するか。
最初にウイルスが感染した細胞の数がプラークの数であるから、ウイルス粒子は20個に1個の割合で細胞に感染したことを意味している。

4) ウイルス量を定量する方法として他にどのような方法が考えられるか。一つ挙げよ。
フォーカス法:腫瘍ウイルスを単層培養細胞へ感染させると、フォーカスと呼ばれる増殖した形質転換細胞の塊を形成する。フォーカスの数が感染したウイルスの数を反映する。
ポック法:発育鶏卵の漿尿膜に、ワクチニアウイルスや単純ヘルペスウイルスを接種すると、ポックと呼ばれる斑点を形成する。ポック数はウイルスの感染価に依存する。
赤血球凝集反応:赤血球を凝集するウイルスでは、凝集能からウイルス粒子数を相対的に表現できる。

5) CPEとは何か。簡潔に述べよ。
細胞変性効果。ウイルス感染細胞に観察される退行性の変化のこと。細胞の円形化や細胞融合がある。

第4問
異種の動物から臓器を移植することについて、ウイルス学的な見地から論ぜよ。
異種の動物から臓器を移植することによって、ヒトの身体に本来ヒトが宿主ではないウイルスが持ち込まれる危険性がある。このことにより、ウイルスがヒトへの感染性を獲得すると、新たなウイルス感染症が生まれる。感染性を獲得して間もないウイルスは強力な病原性を持つことが多いため、注意を要する。

第5問
次に挙げるウイルスの免疫からの逃避機構を述べよ。
5題ほどあったそうです。
では代表的なものを。
HCV:超可変部領域が存在し、抗原性を容易に次々と変化させることによって宿主の免疫応答を回避する。
HSV:TAPと結合し、ペプチドのERへの輸送を阻害する
CMV:MHCVクラスIと結合し、ERへ停滞させる
HIV:escape mutantが起こる
HBV:S遺伝子領域の点突然変異によるescape mutantが起こる

第6問
HCVやHHV-8などは分子生物学的手法によって病原因子が見つかった例である。その具体的な手法を述べよ。
遺伝子操作による。HHCは1989年カイロン社によって、HHV-8は1994年Changらによってなされた。

第7問
発癌に関与されているとされているウイルスを知られている限り列挙し、それぞれの発癌の機構を簡潔に述べよ。
DNA腫瘍ウイルス
ヒトパピローマウイルス:E6タンパクがp53と、E7タンパクがpRBと結合して複合体を作ることにより細胞増殖の抑制を解除する。またE6はAPC(癌抑制遺伝子産物)とDLG(癌抑制遺伝子産物)との結合を阻害したり、テロメアーゼ活性を持っていたり、アポトーシス誘導タンパクBakの機能抑制も行っていると考えられている。このような遺伝子の働きにより、突然変異が起こった細胞が除去されず、増殖するので癌化が起こる。
EBウイルス:バーキットリンパ腫を引き起こす。EBウイルスは約12種のウイルス遺伝子を発現しており、それらにより不死化が起こる。バーキットリンパ腫ではEBNA-1やEBERが検出される。EBウイルス感染細胞の分裂機会増大により、細胞性癌遺伝子であるc-mycが転座すると、c-Mycタンパクが恒常的に産生される状態になる。c-Mycの発現過剰はアポトーシスを引き起こすのだが、EBERがアポトーシス抑制遺伝子bcl-2を活性化して細胞死を抑制している。これにより腫瘍ができると考えられている。
HHV-8:宿主細胞の増殖促進や生存につながる多くの種類の遺伝子と類似の塩基配列(遺伝子ホモログ)を持っており、これらの遺伝子の発現により感染細胞自身の細胞増殖の誘導や細胞死の抑制が起こり、また感染細胞の存在する微小環境を感染細胞の増殖や生存に有利な環境にすることによって、カポジ肉腫(血管やリンパ管の内皮細胞が腫瘍化する)を形成する。
B型肝炎ウイルス:HBVの持続感染による肝細胞の破壊と増殖の反復が、細胞癌化に通じる染色体異常につながると考えられている。(X遺伝子の一部が含まれているが、このタンパクの発癌における役割はわかっていない)。
SV40:ウイルスが非許容細胞に感染し、ウイルスDNAが細胞DNAに組み込まれる。そこで初期遺伝子のみが発現され、癌タンパクが発現することによって、細胞がトランスフォーミングし、またトランスフォーミング状態を維持する。これによって癌化が引き起こされる。
レトロウイルス:細胞のもつc-oncの上流にプロウイルスとして組み込まれるとLTRによりその発現が亢進して癌化を引き起こす。もしくは、レトロウイルスが癌原遺伝子を持っており、その発現により癌化を引き起こす。

第8問
HIV-1について
1) 感染に関与しているレセプターを答えよ。
細胞レセプター:CD4
ケモカインレセプター:CCR5(マクロファージ向性)、CXCR4(T細胞株向性)

2) このウイルスの生活環life cycleを述べよ。
1. 吸着(SUタンパクによる)
2. 膜融合による侵入(TMタンパクによる)
3. 逆転写(逆転写酵素による)
4. 核へ移行
5. 宿主DNAへの取り込み(インテグラーゼによる)
6. 転写
7. スプライシング→エンベロープタンパクの翻訳→プロセシング→ゴルジ装置での修飾
8. gag、pro、polの翻訳
9. ウイルスゲノムの生成
10. 7~8が合わさって出芽
11. プロテアーゼによるGag、Polのプロセシング

3) HIVが感染してから実際にAIDSが発症するまでに時間がかかる。このことについてウイルスの複製、免疫系などに触れながら述べよ。
HIVに感染すると3〜6週の間にHIV RNA量の増加、血液中CD4+T細胞数の減少が見られるが、CTLによるウイルス感染細胞への攻撃が始まると、ウイルスコントロールが行われるようになる。これによってウイルスの増殖が抑えられるようになるわけだが、毎日109個以上のHIVが産生され、109個以上のCD4+T細胞が破壊されている。このため、CD4+T細胞量は確実に少しずつ減っている。この間は症状が見られず、ARCと呼ばれる。
CD4+T細胞が200/μlを切ってくると免疫系が破綻して日和見感染が起こるようになる。この状態がAIDSであり、発症までに時間がかかるのは、CD4+T細胞量が減り、免疫系の破綻が起こるまでに時間がかかるからである。

4) 抗HIV薬の名称と作用機序を述べよ。
ジドブジン(レトロビル):核酸系逆転写酵素阻害
ラミブジン(エピビル):核酸系逆転写酵素阻害
→細胞のリン酸化酵素により3リン酸化され、逆転写酵素がプロウイルス合成時に取り込むとchain termination(DNA鎖延長阻止)が起こる。
インジナビル(クリキシバン):プロテアーゼ阻害
→プロテアーゼを構造的に阻害し、タンパクを機能させないようにする。

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