第１問
次の文章の空欄に適切な語を入れよ。
(1)最も構造の簡単なウイルスの粒子は、ゲノムとそれを保護しているcapsidタンパクから構成される(nucleocapsid)のみからできている。が、複雑なものには宿主細胞の(脂質二重膜)に由来するenvelopeで覆われていたり、ウイルス粒子内に(転写酵素)を持っていたりするものがある。
(2)カやダニのような節足動物によって媒介されるウイルスを(Arbovirus)と呼び、媒介する動物を(Vector)という。このようなウイルスとして、(日本脳炎ウイルス)(デングウイルス)(黄熱ウイルス)がある。
(3)ウイルスが細胞に感染してから一時的にウイルスが検出されなくなる時期を(Eclipse：暗黒期)という。
(4)感染性のあるウイルスを定量するには、倍数希釈したウイルス液を細胞にかけて感染させた後、アガロースのようなゲル状の液を加えて、ウイルスが最初に感染した細胞の周りでのみ増えて遠くへ広がらないようにし、数日間培養した後にできる(プラーク)の数を数える方法がある。10の5乗倍に希釈したウイルス液を0.1ml、細胞に接種したところ、それが85個認められたとすると、ウイルスの感染価(infectious titer)は( 85×10^5×10[pfu/ml])である。
(5)ヒトに癌を起こすレトロウイルスは宿主細胞のゲノム上の(c-onc)を、自分の中に(V-onc)として取り込んだり、その近くにある・・・を利用して、強いプロモーター、エンハンサ活性を持つ(LTR) により発現を増強させたりして癌を起こす。宿主のゲノムを自分の中に取り込む際に、自分の増殖に必要な遺伝子を失うこともあり、完全なゲノムを持つウイルスを(介助ウイルス)として共存させる必要がある。
(6)(SV40)と(HPV)のような小型DNAウイルスはその遺伝子が宿主細胞の(癌抑制遺伝子)産物の働きを阻害することにより、ヒト及び動物に癌を起こす。
(7)Estein-Barr virusは(バーキットリンパ腫)、(上咽頭癌)などのヒトの悪性腫瘍と関連がある。
(8)SSE(亜急性海綿状脳症)の原因となる病原体として（プリオン）がある。これは核酸をもたない蛋白のみのPrPである。PrPは正常の脳にも存在し、プルキンエ細胞の維持などを果たしている｡このPrPが（高次構造）の変化により異常PrPとなり脳に蓄積するとSSEを引き起こす｡
(9)ヘルペスウイルス科のウイルスは、免疫回避機構を発達させており、それによりこれらのウイルスが宿主の免疫系から逃れて、持続感染を起こす原因の1つとなっている。例としては、単純ヒトヘルペスウイルスによる( 宿主細胞のサイトカイン認識 )の阻害や、サイトメガロウイルスによる( T細胞傷害性、IFN応答性、増殖性 )の阻害があげられる。これはいずれもウイルス感染細胞が(中和抗体)から認識されにくくしている。
(10)アシクロビルは単純ヘルペス1型及び2型、(水痘・帯状疱疹ウイルス)にきわめて有効な抗ウイルス剤であるが、(デオキシグアノシン)アナログ（類似体）として(DNA鎖の伸長)を阻害するためには、ウイルス遺伝子にコードされた(ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼ(TK))によって1リン酸化される必要がある。
(11)髄膜炎を起こすウイルスとして、ピコルナウイルス科では(エンテロウイルス)、(ポリオウイルス)、パラミクソウイルス科では(ムンプスウイルス)が挙げられる。
(12)血液によって感染するウイルスには(B型肝炎ウイルス)(ヒト免疫不全ウイルス)(ヒトTリンパ球向性ウイルス1)(サイトメガロウイルス)があり、その感染様式（感染経路）を大きく3つに分類すると、(輸血)(移植)(注射)となる。
(13)まだ発見されていないウイルスによる感染症を(新興感染症)という。たとえば、最近マレーシアで初めはブタ、次いでヒトに脳炎を発症させた(Nipah virus)がある。これは、世界レベルでの人や動物の移動、ライフスタイルの変化などによる。
(14)ヒトに人獣共通感染症zoonosis(注：人畜共通感染症)を起こすウイルスのうち、サルにかまれ感染するものにが、ネズミの糞に汚染されたものを吸い込むことで感染するものに(ハンタウイルス)がある。
(15)インフルエンザの流行には毎年起こる(Epidemic)と、1918年の(スペインかぜ)のような突然世界的に大流行する(Pandemic)がある。前者は(エンベロープ抗原(HA, NA))をコードする遺伝子の(point mutation)が起こり、中和抗体からの(Escape)が起こることによる。後者は(ブタ)のような動物の中で、ヒトのウイルスと(トリ) のウイルスの (reassortment) が起こることによる。このようなことが起こるのは、インフルエンザウイルスのゲノムが(分節化)しているからである。
(16) ヘルペスウイルスは一度感染した皮膚などでの炎症が終わったあと感染していた（ 神経 ）細胞で再び活性化される。このような（潜伏）感染によりヘルペスウイルスはしばしば再起感染を起こす
第２問
19歳の妊婦さんが妊娠22週目に妊娠中毒が疑われた。超音波診断により胎児水腫を起こしており、子宮内胎児死亡が疑われた。分娩を誘導すると、死産胎児であった。組織病理学的に見ると、骨髄・肝の赤血球前駆細胞に特異的な封入体が発見された。急性感染が疑われ、血清学的検査をしたところ、ウイルス感染が明らかになった。
(1)原因ウイルスを述べよ
(2)このウイルスによる症候群が4つあるが、そのうち少なくとも2つを述べよ。
(3)このウイルスはDNAウイルスだが、life cycleを踏まえて、どこに封入体ができるかを述べよ。
(4)下線部では、どのような診断結果からそう言えるのか？
(5)このウイルス以外に先天性感染を2つ挙げよ。
こたえ：(1)Ｂ１９ 戸田新764参照
(2)急性赤芽球癆、慢性骨髄不全、伝染性紅斑、多発性関節炎
(3）核
(4) 下線部は原文中になかったのですがおそらく上の部分ではないでしょうか？： 血清学的検査ならば、ペア血清において、感染による抗体価の有意な上昇が見られた、あるいは酵素免疫測定法(EIA：戸田新959参照)によってIgM抗体があった、などの方法が考えられる。
(5）サイトメガロウイルス、風疹ウイルス
第３問
ある病気を発症した患者の血清をサルに接種すると、ヒトと同じような症状を示し発病した。そのサルの血清をとり、別のサルに接種したところ、同様に発病した。このことから、この病原体による感染症であることが分かった。
(1)この病原体がウイルスであるかを調べるためには、どのようなことをすれば良いか？
⇒ろ過して感染性が保持されるかどうかを見たり、実験的に動物細胞に感染させていわゆる細胞変性効果：CPEを観察する。
(2)この病原体がウイルスであると分かった。このウイルスがenvelopeを持つかどうか、どうやって調べれば良いか？
⇒エーテルで不活性化されるかどうかを見る。
(3)このウイルスがenvelopeを持つので分離したい。培養細胞に、このウイルスを含む血液をまくとどのようなことが期待されるか。所見を述べよ。
⇒細胞変性効果：CPEが観察される。
(4)遺伝子レベルで既知のウイルスと関連があるかどうかを調べるためには、どのような方法があるか？
⇒PCRで特定の領域を増幅する、など。
(5)患者の血清から、このウイルスが既知のウイルスと関係あるかどうかを調べるために、どのような方法があるか？
⇒酵素免疫測定法(EIA：戸田新959参照)、蛍光抗体法(同)、免疫ブロット法(同)、赤血球凝集反応(同)など
(6)上記の方法のいずれでも陽性所見は得られなかったので、この病原体は既知のウイルスではないし、細胞での培養も悪いことが考えられた。そこでC型肝炎ウイルスの場合にならって、ウイルスを含むサンプルから核酸を抽出し、遺伝子ライブラリーを作製して、細菌の中でタンパク質として発現させ、患者の血清と反応するかどうか調べた。その結果、患者の血清とは反応するが、健常人の血清とは反応しないcDNA
cloneが得られたので、新しいウイルスのものと期待された。このcDNAを放射性同位元素標識してハイブリダイズすると、病気にかかった多くの患者の血液中の核酸とはハイブリダイズしたが、健常人の血液中の核酸とはハイブリダイズしなかった。このウイルスゲノムの性状を調べるためには、どのような実験をすればよいか。
(7)マイナス鎖RNAウイルスであることが分かった。これはどのような実験結果によるものか？
⇒DNA分解酵素、RNA分解酵素をそれぞれ加え、ゲノムが分解されるかどうか調べる。DNA分解酵素で分解されれば２本鎖DNAゲノムを持つと考えられる。
RNA分解酵素で分解された場合には、トランスフェクションを行い（ゲノムのみを培養細胞に注入し）、ウイルスの増殖が確認されればプラス鎖、確認されなければマイナス鎖の可能性が高い。
（これだとあまり多くないけど、1本鎖DNA、分節RNA、大型プラス鎖RNAゲノムだったら困りますね。他によい方法を思いついた方は教えてください。）
(8)プラス鎖RNAウイルスとマイナス鎖RNAウイルスは、mRNAと配列が同じであるか相補的であるかによって区別されている。このことによって生じる両者の違いを述べよ。
⇒プラス鎖RNAウイルスがそのままで感染性を持つのに対し、マイナス鎖RNAウイルスはそのままでは感染性を持たず、転写酵素を必要とする。
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