ウイルス学実習レポート 第2回
(ファージの増殖と定量)

実施日 平成15年4月22日(火)、25日(金)

1. 目的
 細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージを例にとり、宿主細胞内におけるウイルスの増殖を調べる。

2. 結果
(1)

サンプル 培養時間 プラーク数 titer(※) 原液換算のtiter
GT2 0-2 0’00” 0 0/ml 0/ml
5-2 5’50” 0 0/ml 0/ml
20-2 20’35” 608 6.1×10^6/ml 1.2×10^9/ml
40-2 40’43” 測定不可 測定不可
60-2 62’08” 測定不可 測定不可
80-2 80’40” 測定不可 測定不可
100-2 100’15” 測定不可 測定不可
GT1 0-1 0’00” 0 0/ml 0/ml
5-1 5’25” 0 0/ml 0/ml
20-1 20’05” 9 9.0×10^4/ml 1.8×10^9/ml
40-1 40’00” 155 1.6×10^6/ml 3.2×10^10/ml
60-1 61’45” 478 4.8×10^6/ml 9.6×10^10/ml
80-1 80’21” 359 3.6×10^6/ml 7.2×10^10/ml
100-1 99’35” 547 5.5×10^6/ml 1.1×10^11/ml

※ =プラーク数×10^4/ml

(2)グラフは省略

(3)100分経ったときの菌1個あたりのファージ量は?
 GT1から求める。(GT2は数え切れないほどのプラークができたため)
 100分後、原液のファージ量は、上の表より、1.1×10^11/mlである。はじめの菌数(ファージ遺伝子の数に等しい)は2×10^8/mlであるから、ファージ遺伝子ははじめ2×10^8/mlあったことになる。よって、1つのファージ遺伝子から、
1.1×10^11÷(2×10^8)=550個の子孫ファージができる。

(4)初めてファージ粒子が出現するのはいつか。
上記の表より、約5分以降20分以内である。

3. 考察
 バクテリオファージには、細菌に感染すると菌内で増殖し、溶菌を起こすものと、細菌の染色体にファージのゲノムが組み込まれ、細菌の分裂と共に細菌の染色体の一部として子孫の細菌に伝えられるものがある。(溶原化)
 溶原化を起こす代表的なファージには、大腸菌に感染するバクテリオファージλが挙げられる。野生型のλを大腸菌に感染させると多くは大腸菌の中で増殖して溶菌を起こすが、一部は溶原化を起こす。

 プラークとは、ファージの感染により細菌が溶菌し、プレート上で透明に抜けて見えるところを言う。1個の細菌ではプラークとして観察されないが、最初に感染した菌から放出されたファージは周りの細菌に感染し、それを繰り返すことにより肉眼でも認められるような抜けを形成する。このひとつひとつをプラークと呼ぶ。すなわち、1つのプラークは1つのファージに由来する。プラークの数を数えることにより、感染性を持つファージの量を決めることができる。

 今回の実習では、原液を2×10^6倍に希釈したGT2と、2×10^8倍に希釈したGT1を用いた。これは、濃度の異なる2つのサンプルを用いることで、より正確なデータを得るためであると考えられる。つまり、経過時間が短いうちは、(20-1の9個のように)GT1は数が少なく誤差が大きい。これに対しGT2は経過時間が長くなると、プラークの数が増えすぎ、数えられなくなる。これを2つのサンプルで補うのだと思われる。

 グラフを見ると、初めにファージ粒子が出現してから60分ほどまでは、ファージが直線的に(つまり指数関数的に)増加していくのがわかる。それ以降も増加はしているものの、その速度がずっと緩やかになっている。これはファージの数が増えることにより、環境が悪化(栄養の不足、溶原菌の不足など)することによるのではないかと考えられる。また、60分後のデータが80分後のデータを上回っているのは、100分後のデータから見ても不自然である。これは、サンプルを採取する際の混和が不十分であった、などの操作ミスによるものと考えられる。

4. 設問
(1) 熱処理後初めてファージ粒子が出現するまでの間(暗黒期、eclipse period)に、細胞内では何が起こっているか。
  ファージ粒子の合成が進行している。
  ファージの頭部、尾部、尾線維はあるところまでは別個の系列としてつくられ、最後にそれがまとまって感染性を持つ粒子、すなわちビリオンになる。まとまって粒子が形成される段階を成熟期というが、この時期までは菌体内に感染性を持つファージは全く認められない。(暗黒期)

(2) この実験は、プロファージとして細菌に感染しているλファージを熱処理で誘発して、その細胞内増殖を見ている。一般には、細胞ないしは細菌に外からウイルスを感染させて、ウイルスの増殖を調べたものを一段増殖曲線という。これについてのべよ。
 一段階増殖実験…ウイルスの増殖機構を解析する方法の一つ。ウイルスを培養細胞へ、5〜40感染性ウイルス/1細胞の割合で感染させ、(すべての細胞が感染するために、感染の多重度を高くする。)未吸着ウイルスを洗浄、その後の経時的ウイルス産生量を測定する。
 一般に、細胞に感染したウイルスは細胞内で脱殻を受け、ウイルス粒子は消失した状態となり、感染性ウイルスが証明されるまでの間の期間を暗黒期という。一方、感染後細胞外にウイルス粒子が証明されるまでの期間を潜伏期と呼ぶ。また、急速なウイルス増殖が起こる時期を増殖期という。
 ウイルスの一段増殖に要する時間はウイルスによって異なるが、およそ0.5〜1日と言える。
 バクテリオファージの増殖の解析に開発された方法であるが、動物ウイルスの系においても、同じような解析が可能である。

(3) LE392のgonotypeは、supF58,λ-である。指示菌として、LE392が適している理由を考察せよ。
 まず、λファージの増殖を見るのであるから、最初にλファージの遺伝子を持っていてはならない。(λ−でないとならない。)また、実験に用いたλファージはS遺伝子のナンセンス変異(Sam7)のため、溶菌を引き起こせない。指示菌については、プラーク形成のため、溶菌を引き起こさねばならない。そこで、SupF変異を持つ大腸菌を用いて、S遺伝子のAmber mutationにTyrを運んでくることにより、S遺伝子タンパクと類似のタンパクを合成させ、溶菌を引き起こすことができる。
 以上から、指示菌にはLE392(SupF58,λ-)が適していると言える。

(4) Tyr-tRNAのanticodonが変異してstop codon(UAG)に対応するようになったのなら、本来のTyrのcodonの方は、対応するtRNAがなくなって困るように思われるが、そうならないのはなぜか。
 TryのtRNAをコードしている遺伝子には3種類がある。そのうちの1つが主要な分子種をコードし、ほかの2つはこれよりもはるかに少量しか存在しないTryのtRNAをコードしている重複遺伝子なのである。
 この2つの重複遺伝子は、大腸菌染色体上でたった200bpしか離れておらず、今回のようなサプレッサー変異が起こる部位は常にこの2カ所である。
 つまり、3つあるtRNAのうちのより少ない2つのTyr-tRNAのanticodonが変異してstop codon(UAG)に対応するようになったものの、主要な1つは変異していないため、問題は生じないのである。

参考文献
戸田新細菌学 改訂32版  南山堂(2002)
ワトソン 遺伝子の分子生物学 第4版(1988)

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