聴・嗅・味覚器 平成15年度卒業試験

2003年度卒業試験
1 図は上咽頭癌および中咽頭癌の腫瘍原発巣の大きさ(T)別の生存曲線を示している。上咽頭癌は中咽頭癌と比べ一般に成績が不良であり、また治療開始後5年(60ヶ月)を過ぎても生存率が次第に低下している。このことに対し、外来で経過観察する上でどのような診断方法を用いると適切か50字程度で述べなさい。

  
   上咽頭癌は低分化型の扁平上皮癌が多い為、他の頭頚部癌に比べ肺・骨・肝などへの遠隔転移が多く、転移による死亡例が多い。そのため、外来で経過観察する際は原発巣での再発だけでなく、血痰/咳(肺転移)・強い痛み(骨転移)・腹部腫瘤/疲れやすい(肝転移)といった症状にも注意し、精査することが適切と思われる。
   《頭頚部癌の放射線化学療法とその効果増強に関する研究、小宮山荘太郎著;http://effect-japan.com/cancer/part/pharyngeal.html参照》
<もっと知りたい方は、小宮山先生の「頭頚部癌の放射線化学療法とその効果増強に関する研究」を見て下さい。問題文と同じ図がありました。本書の「上咽頭癌の治療成績」という項をまとめると、FAR療法のみの群と、FAR療法に補助化学療法を追加したものでは5年、10年生存率ではむしろFAR療法のみが優れていた。また、N(+)例における頚部郭清の有無でも、5年、10年生存率では有意差なし、とありました。つまり、「現時点ではFAR療法が最良の治療である」ということだと思います。とすると、次の問題の正解は、「FAR療法単独で大丈夫」ってことになるのでしょうか・・・・>

2 図は上咽頭癌において、リンパ節転移がある場合とない場合について5年生存率を示したものである。これらの図からリンパ節転移がある症例において長期間の治療成績を向上させるにはどのような治療を追加すればよいか50字程度で述べなさい。

  治療成績向上には、(上咽頭癌に対する放射線治療だけでなく)化学療法の追加、放射線照射の工夫、頚部郭清手術などが提案されている。

3 外頚動脈の分枝を図示せよ。
   外頚動脈・・・上甲状腺動脈、舌動脈、顔面動脈、後頭動脈、上顎動脈、後耳介動脈、浅側頭動脈 の順に分枝
    《授業ノート参照》

4 アレルギー性鼻炎の診断について下記の設問に答えよ。
1) 問診の要点 
     かぜとの鑑別のため、炎症所見の有無(熱→風邪)、罹患期間(長→アレルギー)を訊く。他には、症状の出る季節/場所・鼻汁の性状・住宅環境・ペットの有無・家族歴・内服薬・他のアレルギー症状(アトピー・喘息等)の有無
2) 鼻内所見の特徴
   ヒスタミン増加により白く腫れている(水ぶくれ様)、鼻汁はさらさら
3) 診断のための検査
   鼻汁好酸球検査:鼻汁の塗抹標本を染色、IL-5などのサイトカインに惹きつけられ集まってきた好酸球を確認
   鼻腔誘発テスト:抗原のエキスを滲み込ませた濾紙片を鼻腔内に挿入し、反応をみる
   皮内テスト:抗原と思われるものの皮内注射により、15分後の皮膚の発赤や膨疹の有無により抗原の同定を行う。特異的減感作療法の初回投与量の決定にも用いられる。同様の原理でスクラッチテスト(prick法)にて行われることもある。信頼性は皮内テストが優り、安全性はスクラッチテストが優る。
   RAST検査(radioallergosorbent test):採血した血液からラジオイムノアッセイ法で特異抗原に対するIgE量を測定する。また、RIST検査は体内総IgE量を測定する検査。
《STEP耳鼻咽喉科 p116~》

5 63歳男性が鼻出血のため救急車で搬送された。
1) まず最初に何をチェックするか。
   Vital signsと出血部位
2) 止血の手順について述べよ。
   体位:座位で下向きの姿勢をとらせ、滴下する鼻血は膿盆に落とすように指示する。口は開いたまま静かに呼吸させ、咽頭に流下した血液は嚥下せずに吐き出すように指示する。(この際、咽頭に血液が流入し、誤嚥の可能性を高めるので上を向かせてはならない)
   圧迫:外から抑える/冷やすことにより血管を収縮させる。また、鼻腔内にアドレナリンと表面麻酔剤(4%リドカイン)を浸したガーゼを挿入し圧迫止血する。
特殊止血法:動脈性鼻出血→電気凝固、鼻腔上/後方出血→Bellocqタンポン、重篤・反復する鼻出血→外頚動脈結紮術・顎動脈結紮術
《STEP耳鼻咽喉科 p112~115》

6 上顎癌の進展方向別に症状を述べよ
1) 下方進展
   軟口蓋腫脹・歯肉部腫脹・歯痛・歯抜ける
2) 前方進展
   V2枝圧迫→頬部痛/腫脹・知覚障害
3) 後方進展
   内・外側翼突筋障害→開口障害
4) 上方進展
   眼球偏位・複視・頬部/上口唇の知覚障害
《STEP耳鼻咽喉科p134~》

7 下記の記載の中で正しいものを選べ。
   A 口蓋裂の場合、口蓋帆挙筋の形態学的異常は認めない。
   B 口唇裂は組織の欠損であるが、口輪筋の走行異常はない。
   C 複視の症状がある骨折は眼窩吹き抜け骨折である。
   D 胸三角皮弁はrandom pattern flapの代表的なものである。
   E 再建外科においては形態を優先し機能はあまり考慮しない。
  《答え》C
  A×口蓋裂では口蓋帆挙筋(軟口蓋を動かす)の走行異常があり、push-back法により正常な走行である輪状配列に直す。これにより鼻咽腔閉鎖が可能となり、正常なspeechの獲得可能となる
B×口唇裂では、@口輪筋の走行異常 A組織不足 がある
  C○顔面骨折では主訴から診断する
     複視→眼窩壁骨折→下壁(blow out fracture)、内壁
 斜鼻→鼻骨、上顎骨前頭突起
     鞍鼻→鼻中隔
     開口障害→頬骨、頬骨弓、下顎関節突起
     咬合不全→上顎骨(Lefort I, II, III)、下顎骨
  D?皮弁(flap)を血行により分類すると、random pattern flapとは血行が皮弁茎の部分で本流からつながっているもの。
  E×形態と機能を考慮
     《授業ノート、http://www.fujita-hu.ac.jp/~syosioka/keisei42.html参照》

8 遊離植皮(free skin graft)と皮弁(flap)の血行形態の相違点を述べよ。
   遊離植皮とは身体より遊離した移植片を、再び同一または他の固体に移植する方法である。皮弁は皮膚および皮膚を含めた複合組織。周囲との血行を温存する。皮弁の方が血行あり、組織の修復にはよいが、手技が難しく、侵襲が大きい。
     《http://www.fujita-hu.ac.jp/~syosioka/keisei42.html参照》

9 球麻痺および偽性球麻痺における嚥下障害のビデオ透視検査所見の特徴について、喉頭挙上の遅延、咽頭クリアランス、咽頭収縮の左右差などについて説明せよ。

仮性球麻痺 球麻痺
病変部 延髄上位ニューロン 延髄
LEDT(咽頭挙上遅延時間) 遅延 正常
咽頭クリアランス 不良
左右差 なし あり
誤嚥のタイプ 挙上期型 下降期型
苦手なもの 液体 固形物
外科的治療 喉頭挙上術 輪状咽頭筋切断

   《授業ノートより》

10 次の説明文の( )内に適当な語彙を入れて文章を完成せよ。
1)誤嚥とは嚥下物が( )をこえて下気道に侵入することをいい、下気道侵入による肺炎を( )肺炎という。 →声門、嚥下性
2)パーキンソン病でみられる嚥下障害では、咽喉頭粘膜支配知覚神経の神経伝達物質のひとつである( )が低下しているといわれている。  →サブスタンスP
3)気道防御反射や咽頭期嚥下の惹起において迷走神経の枝である( )神経は重要な役割を担っている。 →咽頭枝
4)食道入口部に存在する絞扼筋は( )筋である。 →咽頭輪状収縮筋(upper pinch cock)
《補足》最近の研究で脳内のサブスタンスPの不足が核反射低下の原因となり、嚥下性肺炎をきたすことが解明された。サブスタンスPの不足はやはり脳内物質のドーパミンの不足に由来することがわかっている。唐辛子に含まれるカプサイシンがサブスタンスPを増やすことがわかっており、治療薬として期待されている。また空咳の副作用があるACE阻害薬も嚥下性肺炎の治療薬として注目されている。《過去問解答より》

11 平衡神経の働きについて入力系と出力系を中心に説明せよ。
   入力系としては視覚系、前庭系、深部知覚系があり、出力系は主として脳幹と小脳によって提供される。平衡機能を発揮する為には、自分の位置や加速度を入力情報として把握し、その状況に最もふさわしい姿勢をとるために骨格筋や外眼筋に出力情報を提供する。また、送り出された出力情報はそれが適切であるかどうかを常に入力情報としてfeed backしている。
      《STEP耳鼻咽喉科参照 詳しい経路を知りたいならリープマン神経解剖を》

12 病的眼振とその部位診断について。病的眼振を三つあげ、その部位について述べよ。
   方向固定性眼振・水平性眼振→末梢性めまい
   方向変化性眼振・垂直性眼振→中枢性めまい
〔自発眼振の鑑別〕

中枢性 末梢性(=内耳性=迷路性)
閉眼で 不変、不定 閉眼時増強
方向 不定 (必ず)定方向性
頭位眼振 不規則 定方向性、眼労現象
頭位変換眼振 垂直性 (ほとんど)水平性、回旋性
めまいとの関係 ふらふらめまい(dizziness) ぐるぐるめまい(vertigo)(真のめまい)

注)末梢性の自発眼振は眼振の方向は一定であるが、急速相方向を向いたときの方が、緩徐相を向いたときより眼振の大きさは大きくなる。《100% p35》

13 音電気変換に関わる蝸牛の働きを三つあげ、その機序について講義で説明したことを簡単に記せ。
@ 感覚器:音エネルギーを神経信号に変換。内有毛細胞が担っている。
Davis' battery theory:血管条による蝸牛内電位の産生。コルチ器のコンダクタンスが機械刺激により変化すると蝸牛内電位と有毛細胞の細胞内電位をdriving forceとして、内リンパから外リンパに向かって蝸牛内電流が流れる。
A 周波数分析装置:それぞれの聴神経に特定の周波数情報を伝達。
Bekesy's traveling wave:基底板定常波による受動的周波数弁別。高周波数は基底部で、低周波数は頂部で基底板が最も振動する。
B 増幅器:低い閾値と広いdynamic range。
Cochlear amplifier:外有毛細胞の能動的収縮弛緩によって基底板振動が増強。
   《授業ノートより》

14 中耳の伝音系の働きを挙げよ。
   空気と内耳液との音響インピーダンスの差を、効率よく整合する働きをもつ。
   @面積比  鼓膜:前庭窓=17:1で25dB↑
   Aてこ比  つち骨:きぬた骨=1.3:1で2.5dB↑
   B蝸牛窓遮蔽効果 鼓膜に孔が開いていないことにより、外耳道からの音が正円窓(蝸牛窓)に直接入らない。
     《授業ノートより》

15 大部分の慢性中耳炎(真珠腫を含む)の成因について述べよ。
   慢性化膿性中耳炎は急性中耳炎の炎症が完全に治まらず、排膿が不十分であったために、慢性の化膿巣が残存した病態。慢性化する原因としては、細菌の薬剤抵抗性と宿主の免疫力が重要。前者としては、多剤耐性の肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などの感染が要注意。後者としては、糖尿病や白血球減少症などの基礎疾患、副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤の使用。
   *真珠腫の原因は未だ解明されていないが、耳管機能との関連が指摘されている
        《STEP耳鼻咽喉科p60~》

16 顔面神経麻痺の予後判定および治療について述べよ。
   予後判定
@ 電気神経検査(ENoG):茎乳突孔から出たばかりの顔面神経を電気刺激し、表情筋の収縮を見る。筋電計を用いて、収縮した表情筋の筋電位の振幅を測定し、健側と患側の値を比較する。一般的に、健側に比べて10%以上の低下が認められると、予後不良と評価される。
A 神経興奮性検査(NET):EnoG同様、顔面神経を電気刺激し、表情筋の収縮を起こすのに必要な最小の電圧レベル(閾値)を測定する。一般的に健側に比べて患側の閾値が3.5mA以上高いと、予後不良と推測される。
治療
@ 薬物療法:副腎皮質ステロイド、ATP製剤、ビタミンB12、血管拡張薬(プロスタグランジン・デキストラン)
A 星状神経節ブロック
B 顔面マッサージ、低周波通電マッサージ
C 減荷手術
    《STEP耳鼻咽喉科p93~》

17 このオージオグラムをよめ。難聴の種類を挙げた上で、考えられる疾患を二つ挙げよ。

AB gapが存在するので、難聴の種類は伝音性難聴。Carhartの凹み(2000Hz付近の骨伝導力の低下)らしきものから、耳硬化症が最も疑われる。伝音性難聴には他には急性中耳炎、滲出性中耳炎、慢性化膿性中耳炎など。(二つ目の疾患として、深読みした場合は、2000Hz付近の骨伝導の低下から混合難聴として、真珠腫性中耳炎を挙げることもできるが、多分考えすぎでしょう)
           《STEP耳鼻咽喉科P67~》

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